ユリウスさんのブログ

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梅棹忠夫先生逝く


 世界の文明と民族文化を独自の視点で解明し、戦後わが国の指針を示されてきた人類学者・比較文明学者の梅棹忠夫先生が3日になくなられていたことが、今日の夕刊で報じられた。死因は老衰、90歳だった。

 先生の弁によれば、「トラウム(夢)とタート(行為)」の人生人だった。新聞記事によれば、人生の師は今西錦司(人類学者)と桑原武夫(仏文学者)だったという。悼む声は各界からあがっている。中でも小松左京(SF作家)、加藤英俊(社会学者)、河合雅雄(兵庫県立人と自然の博物館名誉館長)、山崎正和(劇作家)など、それぞれの分野で超一級の人物の名前が見えるところが凄い。知の幅広い分野から先生が認められていたのは間違いない。

 先生の多くの著作のうち、翔年は「文明の生態史観」、「人間にとって科学とはなにか」(湯川秀樹との共著)、「知的生産の技術』(1969年)、「情報論ノート」、「夜はまだあけぬか」、「行為と妄想-私の履歴書」を読んでいると思う(もう1,2冊あるかも)。その中ではなんといっても「知的生産の技術」、この本には大変お世話になった。京大式カードという情報カードを買って、先生のやり方を真似してみたこともあった。幸い、後年パソコンが発達して書斎の道具になってきたため、いちいち紙のカードを繰らなくても、データさえキチンとしておれば、検索に困らない環境を手に入れることができた。そして翔年のようなごく普通のサラリーマンにとっても、先生の知的生産の技術は大変有益な方法論となった。パソコン時代になっても、情報データは「同じサイズの紙に」、「一項目主義」などは役立つ方法論だと感心する。翔年は初期の頃からパソコンの文字データはアスキー文字で統一的に扱ってきたので、どんな形の文章であっても、やれ「一太郎」、それ「ワード」だと大騒ぎしたり、ヴァージョンで悩むこともなかった。すべてエディターソフトで扱うので、入力したデータは何時まででも再利用可能なのが大きいメリットだ。

 「文明の生態史観」はなるほどと思ったものの、当時「日本を西欧と並ぶ文明」と位置づけられているのには、ちょっと日本びいきが過ぎるのではないかと思っていた。ところが、1998年にハンチントン著「文明の衝突」の中で現代の主要文明として次の八つを挙げているのを知って、梅棹先生の独創的な慧眼に改めて感心した。
1 中華文明
2 日本文明(従来、中国と日本を一くくりにして極東文明としていたが、最近の学者はそうせず、日本を固有の文明として認識している)
3 ヒンドゥー文明
4 イスラム文明
5 西欧文明
6 ロシア正教文明
7 ラテンアメリカ文明
8 アフリカ文明(存在すると考えた場合)
 翔年は日本の教育の中に、このような視点の記述が歴史や社会の科目に十分書き込まれることを願っている。わが国の歴史や文化を学問的にキチンと評価して、教科書に反映することは国家として必要なことだと信じる。このような教育は日教組系の先生を叩き出さないと、教室で実際的な効果は残念ながら期待できないけれど。

 梅棹先生の説で賛成できないものはローマ字表記のすすめだ。先生は「不合理で不可解な文字体系、漢字を捨て、ローマ字表記に改めなければ、日本は世界の情報戦争に勝てない。このままでは21世紀半ばにぽしゃる」という意見だ。
 コンピュータやパソコンが大発展を遂げた今日、この意見に賛成する人はいないのではないか。表意文字の漢字を含む「漢字かなまじり文」は速読できるが、表音文字の「ローマ字文」では、いくら訓練しても明らかに漢字に劣る。この間、韓国の知識人と話したとき、韓国は漢字を捨てたため(ハングルは表意文字)、古い文献が読めないなど、世代間の知的断層など、相当不都合なことが起こっているという話を聞いた。さもありなん。

 謹んで梅棹忠夫先生のご冥福をお祈りいたします。(合掌)
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1件のコメントがあります
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    syu syu ichiさん
    2012/5/3 09:13
    文明の生態史観
    1 中華文明
    2 日本文明(従来、中国と日本を一くくりにして極東文明としていたが、最近の学者はそうせず、日本を固有の文明として認識している)
    3 ヒンドゥー文明
    4 イスラム文明
    5 西欧文明
    6 ロシア正教文明
    7 ラテンアメリカ文明
    8 アフリカ文明(存在すると考えた場合)
    わが国の歴史や文化を学問的にキチンと評価して、教科書に反映することは国家として必要なことだと信じる。
    このような教育は日教組系の先生を叩き出さないと、教室で実際的な効果は残念ながら期待できないけれど。