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―ウィズコロナ環境で製造業の働き方を大きく変える技術分野、「ポケモンGO」で実績―
世界を揺るがしている 新型コロナウイルスだが、ウィズコロナの環境では産業の枠組みが従来とは違う形で発展を遂げる可能性がある。そのなか、産業用AR(拡張現実)が今後の製造業の働き方を大きく変えてくる技術分野として注目されている。
政府は新型コロナウイルス感染症にかかわる移動自粛を全面解除。感染第2波に備えながら、制限的でない手法で感染リスクをコントロールする「ウィズコロナ(共存)」の方向に舵を切った。社員のテレワークの継続や出社制限などを打ち出す企業が増加しているが、そもそも在宅勤務が難しい業種も当然ある。特に製造業において技術者など工場での作業は必須となる。こういった現状において、ARが注目され始めた。
●「ウィズコロナ」に舵を切る政府と変わる企業
政府は6月19日、新型コロナウイルス感染症にかかわる5都道県との不要不急の往来を慎重に検討するよう求めていた移動自粛を全面解除した。5月の緊急事態宣言解除後も東京都では連日20~40人ほどの感染者が出ているが、経済活動をこれ以上止めることによる経済の悪化を避けたいとの思惑からウィズコロナの方向に舵を切った。早速、都心では人の流れが復活してきており、感染リスクを抑えながら社会経済活動を再開する動きが広がりをみせることになる。
しかしながら、ワクチンが開発されていない状況においては、いったん感染が収まっても、第2波、第3波という新たな感染の波となって襲ってくることが警戒されている。世界保健機関(WHO)は、一日に報告された新たな感染者が世界全体で15万人を超えたと発表しており、ソーシャル・ディスタンシングを解除したブラジルでは、一日の感染者数が5万人を超え、累計の感染者数は100万人を超えている。また、ロックダウン措置が部分的に解除されている米国においても、早い段階で解除を行った州において感染者数が増加傾向にあるほか、中国・北京でも感染者数が増加傾向にあり、感染第2波への警戒が高まっている。
移動の自粛や休業要請の解除などで企業の業務も正常化に向かう一方で、新型コロナウイルスをきっかけに見直した働き方を継続する企業も多い。NTT <9432> は先月、国内のグループ約280社の間接部門を対象に在宅勤務を継続すると発表。オフィス勤務者を中心に在宅率を5割以上にするとしている。また、その他の企業においても、オフィスで働くことが多かった管理部門の社員の出社を週2日までに制限するなどの対応をとっている企業もある。株式市場における投資テーマとなったテレワークの活用により、対面の会議は原則禁止とする企業も増えている。
●在宅勤務困難な製造業の現場を救うAR
在宅勤務が難しい業種も当然ある。こういった業種としては製造業が挙げられるが、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省が共同で発表している「2020年版 ものづくり白書」によると、GDPにしめる製造業の構成比は2割ほどで推移している。製造業の技術者などは工場での作業が必要であり、当然ながら在宅勤務は難しいのが現状だ。
こういった現状において、ARが今後の製造業の働き方を大きく変えてくる可能性が大きい。ARは現実の景色にバーチャルの世界を重ねて表示することで、現実世界を拡張したように見せる技術である。ARを活用したサービスが一気に話題となったのが、2016年にサービスを開始した「ポケモンGO」である。高精度の位置情報技術を用いたゲームであり、世界中で人気が高まり、社会現象となった。その後、「ドラゴンクエストウォーク」なども話題を呼んだ。
また、政府は「観光立国推進基本法」を定めており、地方創生の切り札、成長戦略の大きな柱としてもARを重要視している。国土交通省では観光地を国際競争力のある魅力的なものとするため、ARによる案内情報の提供方法などの取り組みも進められている。
こういった流れからARはこれまでゲームやエンターテインメント、観光業における分野での需要が中心と見られがちだったが、最近の新型コロナウイルス感染拡大によるワークスタイルの変化によって、製造業において需要が高まる可能性がありそうだ。出社に制限がある環境下、ARゴーグルを使うことで、技術者は工場で対応する他の人に作業指示を行ったり、技術者レベルが高くなくても上級スキルを持つ技術者から指示を受けられる。特に海外への渡航制限によって現地に行けない状況が長期化しており、AR活用が日本の製造業を支える技術の一つになりうるだろう。
●グレイス、Kudanなど有望株が目白押し
グレイステクノロジー <6541> では、マニュアルの作成・管理が行えるクラウドサービスのほか、完全誘導型AIマニュアル「GRACE VISION(R)」を展開する。これは、搭載されたカメラとマイクでAIが作業者の動作を認識し、ARや音声で指示するものであり、ゴーグルからは実在する設備に作業指示などが表示される。サイバネットシステム <4312> は製造業の研究開発部門や設計関係部門などへCAEソリューションを提供しているが、観光振興ARのほか、タブレットのカメラで映した現実の映像に、メンテナンス作業内容を表示させる産業向け作業支援ARを手掛けている。
Kudan <4425> [東証M]は位置推定と環境地図作成を同時に行う技術である人工知覚アルゴリズムによる技術において、本格的なAR体験を可能にしており、製造業のほか医療業界などへのARメガネを開発。そしてIoTサービスを主力とするJIG-SAW <3914> [東証M]は、15年にKudanとARエンジンの世界的需要の拡大に合わせ、パートナー契約を締結している。サン電子 <6736> [JQ]は、犯罪捜査機関向けのモバイルデータ事業やIoT/M2M事業のほか、AceReal(エースリアル)事業において、AR業務支援ソリューションを手掛けている。スマートグラスとソフトウエアを活用したソリューションで、遠隔作業を可能としている。
ピクセラ <6731> [東証2]が手掛けているAR/VR事業では、3Dデータの作成および販売、3Dネットショッピングモール開発や運営、販売店向けツールを開発している。横河電機 <6841> は計測・制御機器を中核としているが、AR技術を組み込んだプラントの現場作業を支援するモバイル・ソリューション・システムを開発。NEC <6701> は、目の前に映し出した仮想画面を指のジェスチャーで操作できる、AR技術を応用したシステムを手掛けている。ITソリューションを展開する日本システムウエア <9739> は、米RealWear社と販売代理店契約を締結しており、RealWear社産業用スマートグラスを提供する。オプティム <3694> は、スマートグラスやタブレットを用いて遠隔から作業指示ができる「Optimal Second Sight」を展開。シーイーシー <9692> は、スマートグラスを活用し、製造業のものづくり現場においてワークライフバランスの向上などに努めている。
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