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スクウェア・エニックス・ホールディングスのニュース
●ゲームショウで大幅に上昇したゲーム業界関連銘柄
9月26日から29日までの4日間、幕張メッセで東京ゲームショウ2024が開催された。開催前日の9月25日にはソニーグループ <6758> のゲーム事業子会社、ソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)によって、「プレイステーション(PS)」で発売される新作ソフトについてのプレゼンテーション番組、「STATE OF PLAY(ステート・オブ・プレイ)」が配信された。
その中でカプコン <9697>が「モンスターハンター ワイルズ」の発売日を2025年2月28日に決定したと発表したが、発表当日の同社の株価には大きな動きはなかった。同社IRは事前に「25年3月期の計画に大型タイトルを予定している」と説明していたのだが、「モンスターハンター ワイルズ」であることを明言していなかっため、突然の発表で投資家サイドには戸惑いが見られたようだ。
ただ、翌26日に東京ゲームショウが開催されると、その熱気が伝わったのか、ゲーム各社の株価は大幅に上昇した。中でも特に上昇幅が大きかったのがカプコンや任天堂 <7974>だった。一時的な混乱はあったものの、待望の人気シリーズ最新作の発売が正式に決まったことで、業績拡大の確度が高まったとみた投資家たちがカプコン株に買いを入れたということであろう。
●「モンスターハンター ワイルズ」の販売本数は今期800万本を想定
筆者も東京ゲームショウで「モンスターハンター ワイルズ」を試遊してきたが、一部で懸念されていたゲーム内のマップ広大化による移動の大変さも、乗り物を使えばそれほど感じることもなく、従来の「モンスターハンター」のゲーム体験と変わらない印象を受けた。
となると販売数はハードの普及数で決まるだろう。筆者は、「ゲームソフトの販売はハード販売の勢いで決まる」という説を提唱してきた。これは任天堂の故・山内溥氏が提唱した「ハードは、ソフトのために嫌々買うものだ」という考えを否定することになるが、これまでの長年のアナリストの経験から、確信を持って言っていることだ。
ところが、肝心のハード、ソニーの「プレイステーション5(PS5)」は「PS4」を下回る販売推移になっている。日本国内の販売価格が1万円以上値上げされて8万円近くに設定されたため海外転売需要がなくなり、週間販売台数は1万台以下にまで落ち込んでしまったのだ。
これまで、「PS」新製品の世界市場での初動は、20%程度が日本の売り上げだったと推測しているので、日本で「PS5」の勢いがないのは気がかりである。筆者は25年3月末までの「モンスターハンター ワイルズ」の販売数を800万本程度と想定しているが、海外中心とならざるを得ないだろう。
「PS5」の販売不振は、大型タイトルの趨勢に大きな影響を与えているが、肝心のSIEは日本を注力すべき市場ではないと判断しているように見える。この見方が正しければ、日本のSIEのシェアが低いのは当然の結果だ。残念ながら筆者はSIEに対して批判ばかりしていて無意味だと思われているようだが、日本での販売不振は、何よりも同社がワールドワイドで売れる商品を開発できなかったことが要因ではないだろうか。ゲーム・セクターのアナリストとして、同社には奮起を願いたい。
●「PS5」上級機に登場した新機能、PSSRとは?
今回のゲームショウでも展示されていたのだが、SIEは11月に「PS5 pro」(11万9980円)を発売し、プレイステーション30周年記念モデル(16万8980円)も用意している。9月30日から始まった「PS5 Pro」の予約は「PS5」の時ほど注目はされなかったが、一応、売り切れという結果が出た。約12万円という高額商品だが、値段が高いから売れないというわけではないのだ。
ここ数年、電子部品、冷却用の金属素材の価格上昇によって半導体の製造コストはうなぎ上りとなっており、販売価格も跳ね上がっている。筆者はいいものは高いのが当たり前であるとの考え方なので、高性能が売りの「PS5 Pro」の価格設定に異論はない。ただ45%の性能向上に1.5倍の価格は、性能向上にかかるコストが大きすぎるとも筆者は思う。このまま「PS6」の開発に向かうとコストはさらに大幅に上昇してしまうだろう。
また「PS5 Pro」には実効性能の向上以外に、PSSR(プレイステーション スペクトル スーパー レゾリューション)という機能が搭載されている。筆者は50代なのでUSSR(旧ソビエト連邦の略称)を思い出してしまった。どうしてこのような略称にしたのかは分からないがユーモアからなのだろうか。
それはさておき、この機能は従来のアップコンバート(解像度向上)とは一線を画するテクノロジーになっていて、深層学習を通じて低い解像度の映像をもとに推論し、高い解像度へと転換する技術である。これを利用すれば少ないリソースで高い解像度の映像をつくることができる。現在は対応していないようだが、将来はフレーム生成にも対応しよう。ゲーム機はもともとアーケード・ゲームやパソコン・ゲームを疑似的に安価に楽しめることで発達してきたものである。将来のゲームビジネスは、原点に立ち返ることをPSSRは暗示しているとも考えられる。
●任天堂ミュージアム開館に思うこと
続く10月2日には、京都府宇治市に任天堂ミュージアムが開館された。ゲームショウの前日、9月25日の夜にミュージアムの詳細が発表され、翌日は任天堂の株価が大きく上昇したのだが、背景がよくわからない。このミュージアム自体の、同社業績に対する寄与は、わずかだと思われるからだ。おそらく、任天堂による故・岩田聡氏への認知度向上施策が効いていると思うのだが不思議な話である。
不思議と言えば筆者も体験させていただいたのだが、任天堂ミュージアム自体も不思議な構成なのである。博物館といえば一般的に何らかのガイドがあるものなのだが、何もないのだ。任天堂に興味があるならぜひ、訪れていただきたいが、前提として任天堂の歴史や商品に対する深い造詣が必要だろう。
これは、任天堂を取材しても感じるのだが、任天堂という会社は投資家にも来場者にも実力を試しているところがあって、勉強していないとついていけないのである。任天堂ミュージアムは来場者の任天堂に対する知識を試す施設、と言ったら言い過ぎだろうか。
また、ミュージアム開館に合わせて任天堂の宮本茂専務の記者会見が開催された。いくつか面白い話があったので紹介したい。一つは近鉄グループホールディングス <9041> との連携である。
任天堂の関連会社、株式会社ポケモンは、9月まで近鉄が運営する志摩スペイン村でイベントを開催していた。夏休みや休日はアトラクションに待ち時間ができるほどだったようだ。志摩スペイン村はANYCOLOR(エニーカラー) <5032> 所属のVチューバーの周央サンゴ氏によって、"忘れ去られたテーマパーク"から復活した。その結果、世界的IP(知的財産)、「ポケットモンスター」とのコラボが実現したのである。
任天堂ミュージアムは、最寄り駅、近鉄小倉駅周辺地域の再活性化にも寄与するだろう。同駅を通る近鉄京都線は奈良電気鉄道(京阪電鉄と近鉄の前身、大阪電気軌道が大株主であった)が建設した路線なのだが、こうした歴史的経緯から近鉄小倉駅は上下ホームが分離していた。ミュージアム開館を機に現在、両ホームの往来を妨げている地下通路の改良工事の話が進んでいるという。鉄道会社は旅客輸送に寺社仏閣や球団・遊園地などのイベントを活用してきた歴史がある。近鉄、任天堂双方にメリットが大きい連携だ。
●アナリストに対する苦言に透けて見える任天堂の考え
もう一つはアナリストに対する苦言である。引用させていただくと「色々なアナリストさんから『どうしてネットワークをやらないのか』とか、『モバイルはどうなんだ』とか、『先端のチップをどうして使わないのか』など、色々なことを言われてきました。ですが当然、当社でも必要な技術研究はしています」とのこと。端的に言えば、宮本氏としては、アナリストの言っていることなどは当てにならないと言いたいのであろう。
ゲーム業界では、一般的なアナリストの常識的な意見による予測はまず当たらないので、ごもっともな話でもある。筆者は一般的なアナリストとは異なり、「先端的な技術はゲームソフト開発ではそれほど必要ない」などと主張してきたので、宮本専務の苦言は「当てはまらない」と言いたいところではある。だが、なぜアナリストたちが同社に対してこうした指摘するのかを考えると、それは他社の派手な言説に説得力があるからなのである。
上記の"ネットワーク云々"はかつて某社がゲームセンターに光ファイバーを敷設する計画を発表したことが背景にあるし、先端のチップやモバイルはSIEが以前から継続して発言してきたことである。したがって宮本専務のコメントは、アナリストだけではなく、同業他社にも皮肉を言っていることになるのだが、そうなると気になるのは、巷の噂を呼んでいる同社の次世代ゲーム機である。
任天堂の古川俊太郎社長は、「Switchの後継機という表現が相応しい」として、この次世代ゲーム機に、「Switch」後継機という表現を使っている。これでは単なる「Switch」の高性能版に思えるのだが、世間はこのような製品を期待しているのだろうか。古川社長のコメントは一見すると、任天堂の「枯れた技術の水平思考」といった話をしているように見えてしまう。しかもその実、技術研究はやってきたと宮本氏は言っているのである。
●「Switch」後継機で期待される来年のゲーム関連銘柄
とは言え、ひょっとすると「Switch」後継機は、前評判ほど低性能なゲーム機ではないのかもしれない。「Switch」にはエヌビディア
そして、カプコンやスクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> 、コーエーテクモホールディングス <3635>、バンダイナムコホールディングス <7832> 、セガサミーホールディングス <6460>などゲームソフトを供給するサードパーティー(外部業者)にも俄然、注目が集まるはずである。
一見すると全方位に苦言を呈したかのような任天堂の記者会見だったが、とても興味深い内容と思った次第である。投資は安い時に買って、高くなったら売るのが基本戦術である。「PS5」の不調で全体的に今ひとつのゲーム株投資の一助になればと思う。
【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト
1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。24年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。
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