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―五輪開催に向け動き出す世界、先駆する電通の戻り相場が関連株の見直し機運を暗示―
東京五輪開催に向けての動きが、ここにきて活発化している。菅義偉首相は日本時間26日、ニューヨークで開催された国連総会にビデオで一般討論演説を行い、そのなか「来年の夏、人類が疫病に打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する」と決意を述べたことで、改めて関連株に注目が集まっている。新型コロナウイルス感染拡大により延期を余儀なくされた東京五輪だが、開催に向けて前向きな発言がここにきて相次いでおり、スポーツやイベントなど関連株への動向に影響を与えそうだ。
●五輪開催に向け慌ただしい動き
来年の東京五輪開催に向けての動きが慌ただしくなったのは、国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ調整委員長の、「新型コロナウイルスの有無にかかわらず大会を開催する」という主旨の発言が飛び交ったあたりからだ。今月初旬のフランスの通信社によるインタビューに答えたものだが、「中止もやむなし」というムードが漂っていただけに、そのインパクトは大きかった。更に23日、菅首相は就任後初となるIOCのバッハ会長との電話会談でも、東京五輪開催に向けて緊密に協力することを確認したと伝わっている。
再び走り出した出した東京五輪への道だが、関連銘柄の業績は総じて冴えないものとなっている。特に イベント関連株は、3月の東京五輪延期決定に加え、新型コロナウイルスの影響による多くのイベント中止や延期が響き業績も悪化、株価も大きく値を崩すことになった。ただ、8月に入り値を戻す銘柄も散見されるなか、五輪開催に向けた動きが株価を後押しすることも考えられる。
●イベント関連株など再浮上機運も
株式市場関係者は「バッハIOC会長などのコメントをみると、新型コロナウイルスのワクチン開発がなくても安全な大会を開催できるとの見方を示しており、日本国内の世論がどうなるか微妙なところはあるが、現時点では(東京五輪は)開催の方向にあるとみておいてよいのではないか。その場合は、イベント関連株などが改めて盛り上がる可能性がある。ここ最近の電通グループ <4324> の株価の値動きをみても上値指向で、この流れを織り込んでいるような値運びだ」(中堅証券ストラテジスト)と話す。
一方、あるイベント業界の関係者は「もちろん五輪開催は歓迎だ。ただ、欧州では再び新型コロナの感染が拡大しており、不透明な要因が多すぎて正式な(東京五輪開催についての)コメントは出しにくい」という。世界的な新型コロナウイルスの収束が見えないなか、IOCや国の開催へ向けた意気込みとは裏腹に、まだまだ先のことを語れる状況ではないというのが本音のようだ。
●電通グループ、最終利益が黒字転換
電通グループは昨年12月には4200円近辺にあった株価が、4月には1800円割れ寸前まで急落。新型コロナウイルスの影響だけではなく、さまざまな悪材料の噴出が株価を押し下げた格好だが、今月16日には3375円まで買われ上値指向。同社は、8月13日に発表した20年12月期上期の連結決算で、最終利益が157億9500万円の黒字(前年同期は12億7500万円の赤字)となったと発表。新型コロナウイルス感染拡大の影響で国内、海外ともに広告需要が減少し、売上高は前年同期比7.6%減の4590億8200万円だった。一方、海外事業におけるリストラなど構造改革効果に加え、景気の悪化に対応したコストコントロールを進めたことで最終損益は黒字浮上を果たした。まさに、東京五輪関連株のシンボルストックともいえるだけに、今後の展開に注目したい。
●乃村工芸、丹青社の動き注視
展示・商業施設向けディスプレー最大手の乃村工藝社 <9716> は、東京五輪に向けて大きく株価を変貌させた一社だが、10日に非開示だった21年2月期の業績予想について連結営業利益が前期比54.9%減の50億円に落ち込む見通しと発表した。新型コロナウイルス感染症拡大の影響や、東京五輪関連案件の延期などが大きく影響した。株価は、7月31日につけた直近安値669円を底に切り返しを見せ、現在は800円を挟みもみ合う状況にある。同社は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と、「内部空間・展示空間のデザイン、設計、施工」カテゴリーでオフィシャルサポーター契約を締結しているだけに、急速に吹き始めた五輪の風が株価に今後どう影響を与えるかに関心が高まっている。
丹青社 <9743> も展示ディスプレー企画・施工大手で、東京五輪関連の一角として投資家の視線が熱い。11日に決算を発表。21年1月期第2四半期累計の連結営業利益は前年同期比38.2%増の34億6400万円となったものの、非開示だった通期の業績予想は連結同利益が前期比34.8%減の37億円に落ち込む見通しを示している。株価は7月31日の直近安値584円を底に反転し現在は700円半ばにあるが、東京五輪に加え大規模イベント再開の動きも、同社を含む関連株に見直し買いを促す契機となりそうだ。
●サニーサイドは最終損益予想で大幅改善へ
また、イベントやテレビCM向けを中心に企画及びデジタル映像制作を行うレイ <4317> [JQ]、イベントの企画・運営に加えスポーツイベントに強みを持つセレスポ <9625> [JQ]にも目を配っておきたい。両銘柄とも多分に漏れず業績は芳しくないものの、開催に向けての動きが更に鮮明になれば、株価に浮揚力を与える可能性も少なくない。一方、PRや広報代理業を展開しスポーツ選手のマネジメントを手掛けるサニーサイドアップグループ <2180> は、21年6月期最終損益予想で大幅改善となる見通しだ。8月13日に発表した連結業績予想で、最終損益は収支均衡~1億5000万円の黒字(前期は2億1000万円の赤字)と見込んでいる。スポーツマーケティングビジネスを軸に展開するスポーツ事業は、一部案件が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたが、活動領域を広げながら多種多様な案件を獲得することで堅調に推移している。
来年の東京五輪では簡素化が求められており収益性の低下が予想されるが、それでもイベント関連各社へ与える開催インパクトは大きいといえそうだ。
●アシックス、ブランド価値向上に期待
スポーツ関連株も東京五輪延期で大きく売り込まれたセクターだが、最近では一部で上値指向を強める銘柄も出ている。アシックス <7936> も株価が年初から値を崩したが、3月19日につけた年初来安値706円を底に上昇に転じ、8月25日には1566円まで買われている。現在も1500円水準で頑強展開となっており、五輪開催への期待感も株価を下支えしているようだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け業績は厳しいが、同社は東京五輪のスポーツ用品カテゴリーで唯一のゴールドパートナーでもあり、開催ムードの醸成は株価にとっては追い風だ。東京五輪開催について会社側では、「ゴールドパートナーとして、安心安全な大会運営のもと、大会の成功に向けサポートしていきたい」とし、事業への影響については「関連商品の販売などによる売り上げだけでなく、大会やアスリートの活躍を通じてブランド価値の向上が期待できると考えている」と話す。
●復活「ゴールデン・スポーツイヤーズ」
そもそもスポーツ関連株は、昨年9月のラグビーワールドカップ日本大会を皮切りに、20年の「東京五輪」、そして21年の「ワールドマスターズゲームズ2021関西(計画通り21年5月14日から開催予定)」といった3年連続で行われるスポーツのビッグイベントの開催で「ゴールデン・スポーツイヤーズ」に突入し、我が世の春を謳歌するはずだった。そこに突如出現した新型コロナウイルスの猛威で状況は一変する。しかし、来年に五輪が開催されれば、ワールドマスターズゲームズと合わせて日本列島はスポーツ一色に染まることになり、関連株への見直し機運が急速に高まる可能性がある。
●ゴールドウインは業績健闘
こうしたなか、ゴールドウイン <8111> の業績は健闘している。昨年のラグビーW杯日本大会で快進撃を見せた日本代表のユニフォームを同社が担当したことでレプリカ需要に期待した買いが入り、株価を変貌させたことは記憶に新しい。同社は8月6日、21年3月期の連結業績予想について、売上高を750億円から840億円(前期比14.2%減)へ、営業利益を35億円から81億円(同53.7%減)へ上方修正している。卸販売が堅調に推移したことに加え、直営店も6月には全店再開することができ、再開後の販売も好調に推移していることが要因だ。自宅内でのトレーニングやランニング、また近隣でのキャンプなど、「新しい生活様式」による需要増加を取り込んだことも功を奏したようだ。株価も上昇波動に乗り、きょうは年初来高値を更新している。
●ミズノ、「ワールドマスターズゲームズ関西」で注目
ミズノ <8022> の株価は、6月23日に直近高値2304円をつけたあと調整し2000円近辺で推移している。8月7日に発表した21年3月期第1四半期の連結営業損益は18億4200万円の赤字に転落した。ただ、「ワールドマスターズゲームズ2021関西」で、スポーツメーカーとしては唯一のメジャーパートナー契約を結んでいるだけに注目は怠れない。ワールドマスターズゲームズは、4年に一度開催され、おおむね30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰もが参加できる世界最大級の生涯スポーツの総合競技大会。第10回大会となる「2021年関西」はアジアで初めての開催となる。そのほかでは、スポンサー契約を結んでいる大坂なおみ選手の東京五輪での活躍期待が高まるヨネックス <7906> [東証2]や、デサント <8114> 、ゼット <8135> [東証2]の動向からも目が離せない。
前出のストラテジストは「スポーツ用品を製造販売する企業や、業績が急激に悪化してしまった化粧品や百貨店といったインバウンド関連株なども売り物が枯れているだけに見直される公算は小さくない」と話す。特にイベント関連株は、25年開催予定の大阪万博関連の一角でもあり、五輪後を見据えた動きにも注視しおきたいところだ。欧州の新型コロナウイルスの感染再拡大で不透明感は漂うものの、五輪開催に向けて具体的な動きが今後加速化しそうだ。来年、世界復興の象徴として五輪の灯がともるか、いま世界の注目が東京に集まっている。
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