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―予備選連勝で高まる大統領再選思惑、戦々恐々のなか見守る日本企業―
「もしトラ」に身構える市場関係者が増加している。「もしもトランプ氏が、再び米大統領に返り咲いたら」といった言葉を縮めたものだ。最近では、同氏が共和党の予備選挙で連勝したことで「もし」が現実味を帯びてきたことから、「ほぼトラ」などという言葉さえも囁(ささや)かれるようになった。少なくとも、共和党の候補はトランプ氏でほぼ決まったとの見方が大勢だ。更に、バイデン大統領の支持率が低迷するなか、ここにきての人気の高まりも追い風に、大統領選においてもトランプ氏優勢との見方が強まっている。選挙は蓋を開けてみるまでは分からないとはいえ、仮にトランプ氏の大統領再選が決定した場合、東京株式市場はどう動くのか。ここは、過去の経験則に基づいた銘柄選別も一法だ。「もしトラ」関連株を検証した。
●早くも「トランプ砲」の“口撃”開始
「もしトラ」が話題になるなか、既にトランプ劇場は開幕している。日本企業に対しても、早くも“口撃”開始。日本製鉄 <5401> [東証P]による買収額141億ドル(約2兆円)に上る米USスチール
「11月の大統領選には時間的猶予があるため、当然のことながら米国株式市場ではまだトランプ再選を積極的に織り込みに行く段階には至っていない」(市場関係者)。ただ、直近では、トランプ氏が大統領となった際に中国からの輸入品に60%の高関税を課すことを検討していることが報じられており、これは米中摩擦の激化と中国景気の減速を想起させることで、マーケットには懸念材料となり得る。また、トランプ氏は対中国にとどまらず、中国以外のすべての国を対象とした全輸入品への一律10%関税にも言及していることで、今後トランプ氏の強硬姿勢が嫌気される可能性はそれなりに高いかもしれない。
●マーケットにはフレンドリー
ネット証券大手アナリストに意見を求めると「2016年のヒラリー氏との大統領選でトランプ氏が勝利した時もそうであったように、実際にトランプ大統領が誕生してしまえば、米株市場が悲観的なムードに支配されることはなく、むしろ前向きに新しい政治を評価する形で株高効果が見込まれる。トランプ氏が大統領に就任することをマーケットがリスクとしてとらえるのは、変な言い方をすればトランプ氏が大統領に就任するまでの期間にとどまるだろう。アメリカ第一主義を唱え実行することは、他の国はともかく本音を言えば米国にとっては心地良い。米株市場も当然ながら国民の支持によって誕生したホットな政権を、樹立当初から拒絶するようなことはないだろう」と話す。
一方の東京株式市場だが、トランプ発言に振り回された当時を思い起こせば、歓迎ムードと言うわけにはいかない。ただ、当時の株価動向をみれば、「波乱はあるが、トランプ大統領はマーケットにはフレンドリーだ」とみる市場関係者も少なくはない。ここからスーパーチューズデーを経て、11月の本選挙の行方とトランプ氏の発言に関心が高まることになる。
●政策大転換に備えるムード
仮にトランプ氏の大統領復帰となれば、バイデン大統領が推進してきた環境・エネルギー政策も大転換を強いられることになる。太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー、そして、電気自動車(EV)関連銘柄などにも影響が出そうだ。とはいえ、地球温暖化が進むなか脱炭素の流れはそうたやすく逆戻りできるものではないと考えるのが普通だが、そこはやはりトランプ流で、こちらもそういった理屈は通用しそうにもない。
前出のアナリストも「米国の保護主義路線が浮き彫りとなるだけでなく、脱炭素という世界的なテーマに関してもこれまでとは逆方向に圧力が働くことが必至である。米株市場ではテスラ
当然ながら、トランプ氏の再選が決まったわけではないが、果たして“トランプノミクス”は日米両株式市場に福音をもたらすのか否か、過去を振り返りながら探った。
●「恐怖指数」とともに登場
かつて株探が配信してきた記事で、証券会社などのリポート内容の紹介や為替関係を除けば、最初に個別銘柄の見出しでトランプ氏の名前が登場したのが大統領選挙の直前で、16年11月2日の「VIX短期先物が大幅に6日続伸、トランプリスク再燃で買い優勢に」だ。当時、世論調査で共和党のトランプ氏の支持率が民主党のクリントン氏をわずかに上回ったことが判明。これを受け、トランプ氏が大統領になることへの懸念が台頭した。最初の登場が「恐怖指数」絡みとは、まさに同氏ならではといえる。また同月9日には、米報道で「トランプ氏当選確実」と伝えられたことで、日経平均が1000円を超える下落幅を見せる場面もあった。
●トランプ相場の象徴だったソフトバンクG
そして、同年11月9日には、「トランプ氏優勢で防衛関連に短期資金向かう」が配信されている。日本などの同盟国に対して、独自に軍備を拡大するよう主張するトランプ氏の優勢が伝わったことから、防衛関連企業には思惑買いが向かった。石川製作所 <6208> [東証S]をはじめ、東京計器 <7721> [東証P]、豊和工業 <6203> [東証S]、日本アビオニクス <6946> [東証S]などが軒並み高に。世界情勢が混迷を深め、“台湾有事”も取り沙汰されるなか、防衛関連には折に触れて物色の矛先が向かいそうだ。「戦争をしなかった大統領」といわれるトランプ氏だが、少なくとも口先介入は炸裂しそうなだけに注視が必要といえる。
トランプ氏が大統領に当選し、注目を集めたのが孫正義氏率いるソフトバンクグループ <9984> [東証P]だった。17年1月26日には、「ソフトバンクの上値追い本格化、トランプ相場の象徴銘柄で3年ぶりの高値圏突入」という記事が配信されている。当時、トランプ大統領は米国第一主義を前面に押し出す動きをみせ、海外企業もそれに振り回される展開を余儀なくされていた。孫氏は大統領選でトランプ氏が勝利した後、いちはやくトランプタワーで会談して米国企業のスタートアップに500億ドル規模の投資を行うことを約束。これにより、大統領と友好関係を構築している企業として海外投資家など機関投資家の買いが継続流入した。今月8日に決算発表を控えるが、トランプ相場の象徴銘柄だったともいえる同社株の行方には注目したい。
●トランプ政策で浮上する株
トランプ氏が大統領に復帰した場合、地球温暖化対策の世界的枠組みである「パリ協定」から再び離脱することも考えられる。気候変動対策の転換は、もちろん株式市場における銘柄の物色動向にも大きな変化を与える可能性がある。
環境政策の大転換は、自動車のEVシフトの減速につながりそうだ。欧州では、35年までに内燃機関(エンジン)の販売を全面的に禁止する方針が撤回された。また、米国では猛烈な寒波のためバッテリー切れを起こしたEVが続出したことで、内燃機関型の自動車の見直しにつながっている。一方日本は、EV一辺倒ではなく内燃機関を使用するハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)でも世界に攻勢をかけており、関連銘柄には思惑買いが流入する可能性もある。
トランプ氏は保護主義を鮮明にすることが予想されるだけに、日米経済摩擦の再燃には注意が必要だが、トヨタ自動車 <7203> [東証P]をはじめ、ホンダ <7267> [東証P]など自動車メーカーにとっては、収益機会が広がることも考えられる。
トヨタ系自動車部品メーカーで燃料噴射装置やポンプなど主力の愛三工業 <7283> [東証P]、自動車エンジン部品でピストンリング大手のTPR <6463> [東証P]をはじめ、ティラド <7236> [東証P]、東京ラヂエーター製造 <7235> [東証S]、ユタカ技研 <7229> [東証S]などには目を配っておく必要がありそうだ。もちろん内燃機関に絡む銘柄も、EV推進に向けた動きを強めていることは言うまでもない。愛三工は業績も好調だ。1日取引終了後に発表した、24年3月期第3四半期累計(4~12月)の連結営業利益は、前年同期比56.2%増の146億6100万円に拡大し、通期計画160億円に対する進捗率は91%に達している。
また、環境政策に加えて、エネルギー政策の転換から石炭関連株を刺激する可能性もあり、住石ホールディングス <1514> [東証S]、三井松島ホールディングス <1518> [東証P]、日本コークス工業 <3315> [東証P]など注目しておきたい。また、火力発電所にも関心が向かえば、火力発電設備、発電プラントの周辺設備を手掛ける西華産業 <8061> [東証P]にも妙味が出るかもしれない。同社は火力発電の低・脱炭素化にも取り組んでおり、環境への配慮も怠らない技術力の高さは大きなポイントだ。
変わったところでは、17年2月10日に「日車両が急伸、トランプ大統領が日本の新幹線を評価と報じられる」という記事があった。トランプ大統領が日米首脳会談を前に、日本の新幹線を評価したと伝わったことで、鉄道車両関連が買われた。報道によると、中国や日本に高速鉄道があるのに対して、米国にはないことに触れ、交通インフラの整備に強い意欲を示したという。これを受けて日本車両製造 <7102> [東証P]が急伸し、近畿車両 <7122> [東証S]、川崎重工業 <7012> [東証P]など鉄道車両関連が物色された。これに関しては、首脳会談を前に思い付きで言った可能性もあるが、記憶にとどめておくのも悪くはない。
トランプ氏の大統領就任当時の17年、同氏の政策を「無茶振りと矛盾が含まれている」と評した外資系証券のリポートがあったが、リスク資産市場は懸念を強めていないとしていた。その理由として、大統領や閣僚がビジネスマン出身であることを挙げ、最後はビジネスファーストになるとの期待が根強いから、と分析。果たして、結果はどうだったのか……。
「もしトラ」の行方を、世界が固唾をのんで見守っている。
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