日立金属の株価が決算直後以降冴えない。今週のマーケット調整で1900円を割れるところまで調整し、決算後の上昇をほとんど消した格好だ。PBRは1.8倍（今期末予想に基づけばBPSはおそらく1200円はいくので1.6倍以下）と過去平均値2.1倍と比較しても安い。PEは今期はIFRSへの移行により利益が一時的にかさ上げされているとはいえ（前期と同じ会計基準での営業利益は920億円だが、発表している営業利益予想は1070億円）、11.1倍（従来基準で13倍程度）と高くない。

これまで同社株は売買単位が1000株だったので１単位買うのに200万円もかかり、個人投資家にはかなりの勇気のいる投資だった。しかし７月１日からは100株単位の売買が可能になり、個人投資家がエントリーするよい機会である。

明日以降のマーケット動向によって（日経平均が２万円をさらに大きく割れて下落する）まだ少し下値はあるかもしれない。しかしこれは優良な会社の長期成長ストーリーを買うよいチャンスであると思う。

国内成熟産業への依存が高かった同社はここ数年、長期的に成長するために国内外でのM＆Aの布石を打つなど大胆な経営変革を遂げてきた。昨年は米国の自動車鋳物を手がけるワウパカファウンドリー社を1300億円で買収する一方、国内のノンコア事業であった日立ツールや、日立機材を売却するなど攻めの事業ポートフォリオを固めつつある。

2011-2012年にかけては中国のレアアース輸出制限による原料の乱高下で収益は大きく影響を受けたが、現在ではそうした制御・予測不可能な大きな外部リスクは見当たらない。

ワウパカのフル連結や会計基準の変更で前年同期比は難しいが、売上高は１兆１千億円、営業利益は1070億円と売上高で４年前の倍、営業利益は倍以上だ。前年と同じ基準でみた（のれん償却の影響を考慮しない）調整営業利益も920億円と9.5％の増益見込みである。今年度見込みから前年実績を引いた増収1000億円弱と、営業増益140億円（920-782）のうち、ワウパカが売上高で1300億円、営業利益で120億円寄与する見込みなので、既存事業は殆ど成長しない（工具鋼を中心とした合理化によるマージンの改善のみ）という前提に立っている。

今期は国内自動車関連の売上高が去年の消費税引き上げ駆け込み需要の反動減や、スマホ向け情報デバイスなどの売り上げ減少を見込むためだ。マグネット関連も今期は足踏み状態と見込んでいる（売上微減、１割減益）。短期の業績改善は期待薄であるが、生産効率を高めるために、コスト競争力を高めるべく、中国で希土類磁石の合弁事業を設立した。量産は2016年後半からだが中期成長に貢献できるだろう。

ワウパカは現在米欧州のブレーキ関連鋳物でシェア７割を有する。これを今後、南米や、インド、韓国へと市場拡大を狙っていく。ワウパカ効果で日立金属の海外売上高比率は２年前の41％から今期は55％へ、海外生産高比率も25％から41％へと上昇する見込み。それに伴い営業利益率も２年前の7.4％から8.4％（920億円を１兆１千億円で割ったもの）と上昇する見込み。

3/17期の最終利益は子会社株式売却益がなくなるので増益は難しいかもしれないが、純資産は順調な利益の積み上げと海外子会社資産の為替換算評価差益もあいまって、5700億円−6000億円くらい（前期末より24％〜30％増）になる可能性がある。つまりBPSで1300円から1370円程度であり、現在の株価で割り戻すとPBRは1.5倍以下。ちなみに目標株価2200円は今期末予想BPSの1.83倍でリーズナブルな水準であると考える（２倍の2400円でもよかったがマクロ経済リスク要因を加味して）。