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飯野海運 Research Memo(3):海運業(外航海運業、内航・近海海運業)と不動産業が両輪

配信元:フィスコ
投稿:2022/06/17 15:33
■事業概要と特徴・強み

1. 事業の概要
飯野海運<9119>の事業は、海運業(外航海運業、内航・近海海運業)と不動産業を収益の両輪としていることが特徴だ。2022年3月期のセグメント別売上高構成比(調整前)は外航海運業が79.1%、内航・近海海運業が9.1%、不動産業が11.7%、セグメント別営業利益構成比は外航海運業が38.0%、内航・近海海運業が6.8%、不動産業が55.2%だった。売上高営業利益率は外航海運業が3.5%、内航・近海海運業が5.4%、不動産業が33.9%だった。

過去5期間で見ると、売上高構成比に大きな変動はないが、営業利益構成比と売上高営業利益率に変動が見られる。これは、海運業の営業利益が市況や入渠費用などの影響で変動しやすいためである。不動産業は2020年3月期の売上高営業利益率が設備更新費用増加で低下したが、この一時的な要因を除けば30%台で推移し、高利益率の安定収益源となっている。


海運業はケミカルタンカーや大型ガス船が主力
2. 海運業
海運業のうち、外航海運業は全世界にわたる水域において、原油を輸送する大型原油タンカー、石油化学製品を輸送するケミカルタンカー、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)を輸送する大型ガス船、石炭・木材チップを輸送する専用船および穀物・鋼材・肥料などを輸送する小型~中型ドライバルク船(ばら積み貨物船)を運航している。内航・近海海運業は国内および近海を中心とした水域において、LNG・LPG・石油化学系ガスなどを輸送する小型ガス船を運航している。また、国内外における船舶管理業や船用品販売業なども行っている。

2022年3月期末時点のグループ運航船舶数は合計92隻(社船47隻、用船45隻、共有相手持分および短期用船を含む)である。船種別の内訳は、外航海運業の大型原油タンカー5隻、ケミカルタンカー36隻、大型ガス船7隻(LNG船1隻、LPG船6隻、注:LNG船は社船1隻以外に出資先会社で24隻を共同保有または用船)、ドライバルク船18隻(ドライバルク船16隻、木材チップ専用船2隻)、内航・近海海運業の小型ガス船26隻(LNG船1隻、LPG船24隻、溶融硫黄船1隻)である。

主要取引先には、アストモスエネルギー(株)(出光興産<5019>グループと三菱商事<8058>グループのLPG部門が統合したLPG商社)、出光興産、王子ホールディングス<3861>、ENEOS(株)(ENEOSホールディングス<5020>グループ会社)、JA全農(全国農業協同組合連合会)、J-POWER(電源開発)<9513>東ソー<4042>日本ゼオン<4205>、北海道瓦斯<9534>、Equinor ASA、SABICなどがある。なお2022年4月には、世界的な総合化学品メーカーであるSABICから、同社への貢献度が特に高く、優れた実績のあった企業として「SABIC Suppliers Recognition Program 2022」を受賞した。

資源・エネルギー関連輸送を主力として、グローバル・ネットワークを駆使した効率的な輸送で、遠洋から近海にわたる幅広い水域で海上輸送サービスを提供している。業界最大級の船隊規模を誇るケミカルタンカーや、安定収益源として中長期契約を積み上げる大型ガス船などを特徴・強みとしている。特に中東積み石油化学製品の輸送量はトップクラスのシェアを誇っている。またLPG・石油化学系ガスの国内輸送シェアは業界トップクラスで、国内では数少ない内航LNG船も運航している。

同社が運航するケミカルタンカーの多くはステンレス製タンクを有していることも特徴だ。ステンレス製タンクは通常の鉄製タンクに比べて耐腐食性が強いため、硫酸なども輸送できるメリットがあり、石油化学製品だけでなくパーム油などの輸送も行うことで効率的な運航を図っている。ステンレス製タンクに加えて、タンク洗浄など石油化学製品輸送に要求される高度な船舶管理ノウハウ、さらには効率的な輸送ノウハウを有していることが、同社の競争優位性につながっている。


環境負荷軽減や競争力強化に向けた環境配慮型船舶
3. 環境配慮型の最新鋭・次世代燃料船
2020年1月から国際海事機関(IMO)の船舶燃料硫黄分濃度の規制(SOx規制)強化が適用開始となった。船舶燃料に含まれる硫黄分濃度を従来の「3.5%以下」から「0.5%以下」とする国際規制の強化である。対応選択肢としては、低硫黄燃料油(規制適合燃料油)の使用、またはSOxスクラバー(船舶の排出ガス中のSOxを除去する脱硫装置)の設置がある。

この規制強化のマイナス影響としては、規制適合燃料油の対応仕様に変更するための船用品・修繕費の増加や、従来の船舶用燃料油と規制適合燃料油との価格差などがコストアップの要因となる。一方のプラス影響としては、規制適合燃料油の輸送需要の発生や、規制強化に対応できない船が淘汰されることによる需給バランスの改善などで、プロダクトタンカーやケミカルタンカーの市況上昇につながる効果が期待される。

同社の対応としては、規制適合燃料油使用の際にコストアップ分の負担を荷主に求め、COA(数量輸送契約)等の契約に反映すべく交渉を行っている。さらに規制適合燃料油の使用にとどまらず、海運業における地球環境負荷軽減や競争力強化に向けた取り組みとして、環境配慮型の最新鋭・次世代燃料船へのシフトも推進している。

2019年12月には同社初の二元燃料主機関搭載メタノール船(規制適合燃料油だけでなく、従来の重油と比較して硫黄酸化物SOxや窒素酸化物NOxの大幅削減も期待されるメタノールを推進燃料とすることが可能)が竣工した。2020年3月には同社初のSOxスクラバー搭載船(VLCC)が竣工した。その後の新造船においてもSOxスクラバー、海洋生態系保護のためのバラスト水処理装置、船尾フィンおよびフィン付き舵(Rudder Fin)などを装備した最新鋭の船へのシフトを推進し、2021年1月には同社として5隻目となるSOxスクラバー搭載船(VLCC)が竣工した。

さらに2022年2月には、同社として初の二元燃料主機関搭載VLGCが竣工した。上甲板にLPGタンクを搭載し、貨物とは別に燃料用LPGを積載することで、規制適合燃料油だけでなくLPGを燃料として使用することが可能になる。2020年1月に全海域で強化されたSOx排出規制に対応していることに加えて、新造船のCO2排出規制であるEEDI(Energy Efficiency Design Index)規制についても、2022年以降の建造契約船から適用されるフェーズ3に先行対応している。

また2021年10月には三井物産<8031>と、2023年12月に竣工予定のアンモニア運搬船の定期用船契約を締結した。本船は世界的な船級教会である米国ABS(American Bureau of Shipping)によるアンモニア燃料船化の基礎認証を受けて設計・建造される世界初のアンモニア運搬船で、LPGも輸送可能な次世代型船舶である。CO2排出量が削減できるLPG燃料や、ゼロエミッション燃料として注目されるアンモニア燃料への切り替えにも対応できる環境負荷低減型の船舶として、本邦船社初の建造となる。

2023年1月からはA-Eの5段階で毎年の燃費実績を評価・格付けし、一定の評価を下回った船に改善計画の提出と主管庁による認証を義務付けることで、継続的な省エネ運航を促進させることを目的としたCII 規制(燃費実績の格付け)が施行される。同社はこれら環境規制に対応するべく、次世代燃料船の竣工に加え、海外スタートアップとの協働や技術部、サステナビリティ推進部の新設により環境への対応を加速させる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)


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配信元: フィスコ
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