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アンジェスのニュース
■今後の成長戦略
3. 新規事業領域への展開
「次の10年」を見据えた新規事業の展開にも取り組んでいく方針で、以下の領域において資本提携先との協業も進めながら事業化を目指している。
(1) ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療薬の開発
アンジェス<4563>はイスラエルに開発拠点を置く米国のEmendoに出資し※、Emendoが保有する先進のゲノム編集技術「OMNI(オムニ)」と、同社がこれまで遺伝子治療薬の開発で培ってきたノウハウを融合することで、新たな遺伝子治療薬の開発を目指している。
※Emendoは最先端のゲノム編集技術を用いて重症疾患の遺伝子薬と細胞療法を開発するバイオベンチャーで2015年に設立。同社は2019年3月に最初の出資を行い、その後の追加出資で2020年3月には約27%の出資比率となる持分法適用関連会社としている。
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(標的配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、思い通りに遺伝子を改変する技術を指し、農作物の開発などで普及が進んでいる。医療分野では、高効率に編集できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャス9)と呼ばれる技術を用いたゲノム編集の研究が主流となっているが、未だ実用化には至っていない。クリスパーキャス9では、標的配列とは異なる類似箇所を切断してしまう「オフターゲット効果」があるためで、こうした「オフターゲット効果」を回避する技術が「OMNI」となる。「OMNI」では塩基配列が100%相補的でなければ切断しない高精度なヌクレアーゼを、標的配列ごとに迅速に作出する技術であり、DNA切断酵素としての汎用性は損なわれるものの、高度な特異性により安全性が向上する。また、確実に標的配列の切断が可能となるため、編集する標的配列の選択の自由度が増すといったメリットもあり、ゲノム創薬の開発効率向上につながる技術として同社では高く評価している。
遺伝子治療薬の製法には、「コラテジェン」のように遺伝子導入のベクターとしてプラスミドを用いたもの、人に対して無害なウイルス(アデノウイルス、センダイウイルスなど)をベクターとして用いたもの、ゲノム編集技術を用いたものと大きく3つの方式があり、このうちゲノム編集技術を用いた遺伝子治療薬に関してはまだ世界でも上市実績がないが、「OMNI」技術の活用により大きく前進することが期待される。新型コロナウイルス感染症の影響で協業のスケジュールはやや遅れたものの、今後、Emendoが取り組んでいる複数の開発パイプラインのうち、遺伝子疾患を対象とした品目について共同開発を進めるべく、今後両社で計画を策定していく予定となっている。
(2) がん診断事業
2019年8月に資本出資したイスラエルのBarcode Diagnostics(以下、Barcode)が持つ遺伝子診断技術※を用いて、がん患者一人ひとりに最も有効な抗がん剤を選択する診断技術の早期実用化に取り組んでいく。現在は複数の抗がん剤の中から患者に合うと思われる抗がん剤を臨床データや患者の状態などから医師が判断して投与するが、第一選択薬で効果が見られず別の抗がん剤を投与するケースもある。遺伝子解析を行うことでより最適な抗がん剤の選択が可能となれば、患者負担が軽減するだけでなく医療費の削減にも寄与することになる。
※Barcodeの診断技術は、患者に有効性が期待できる抗がん剤とDNAバーコードを封入したリポソームを複数製造し、多種類の抗がん剤をごく少量ずつ一度に患者に投与したのち、DNAバーコード量を測定することで、個々の患者に有効な抗がん剤を特定するというもの。マウスを使った実験で特定できることが確認されており、将来的に乳がん患者を対象とした臨床試験の実施を目指している。
同社は2020年2月に公益財団法人がん研究会と共同研究契約を締結し、早期の実用化に向けて共同開発を開始している。がん研究会は、がんの新しい診断・治療法の開発において国際的にも評価の高い研究機関であり、がん細胞に対する抗がん剤の有効性データも数多く蓄積している。既に、実用化に向けBarcodeの診断技術を用いた実証データも出始めているようで、今後の動向が注目される。また、遺伝子診断では、がん疾患以外にも新生児の難病や希少疾患の早期診断でも需要があると見られ、将来的に取り組んでいく予定にしている。
(3)マイクロバイオーム事業
マイクロバイオーム※1を用いた医薬品の研究開発が世界的に注目を集めており、同社も同領域のパイオニア企業であるMyBioticsと2018年7月に資本提携を締結し、事業化の可能性を探索している。MyBioticsは現在、婦人科系の治療薬について欧州の大手製薬企業とライセンス契約を締結し、製剤化に向けた開発を進めているほか、感染症等の治療薬についての開発も進めている。また、2020年1月にはMyBioticsのプロジェクト※2が、専門家の厳正な審査を経て評価され、EIC Accelerator Pilot※3の資金援助先として選抜され、約200万ユーロの資金援助を受けることになったことを発表している。
※1 マイクロバイオーム(微生物叢)とは、ヒト微生物叢のゲノムとそれが発現する遺伝子群及び微生物叢とヒトの相互作用を含む広い概念を指す。この微生物叢とヒトとは共生しており、ヒトの身体は微生物叢の集合体とも言える。近年では生活習慣の変化がマイクロバイオームの生理状態の変化を誘導し、それが各疾患の増加に関係しているとの報告もあり、菌を活用して医療やヘルスケアに役立てる研究が活発化している。
※2 あらゆる民族、年齢、性別に関係なく、病気や慢性疾患の治癒、健康サプリ、薬品としての目的など、世界初となる1人1人にパーソナライズされた腸内細菌の生成を可能とする「MB Select」というプロジェクト。
※3 European Innovation Council(EIC)が、市場創出の可能性を秘めた画期的なイノベーションを強力に後押しすることを目的として、高リスクだが潜在的な力を秘めた製品・サービスを開発する企業に対して資金支援を行うプログラム。資金提供対象となるのは、EU加盟国又はHorizon2020の関連国に設立された営利目的の中小企業のみ(イスラエルはHorizon2020の関連国)。
マイクロバイオームの働きは精神疾患に関係しているとの研究報告があるほか、健康食品やサプリメントとして開発が進む可能性があるなど潜在的な成長性は大きい。同社も将来的にセルフメディケーションにつながる可能性のある事業として注目しており、今後の具体的な開発の方向性について検討を進めている段階にある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<NB>
3. 新規事業領域への展開
「次の10年」を見据えた新規事業の展開にも取り組んでいく方針で、以下の領域において資本提携先との協業も進めながら事業化を目指している。
(1) ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療薬の開発
アンジェス<4563>はイスラエルに開発拠点を置く米国のEmendoに出資し※、Emendoが保有する先進のゲノム編集技術「OMNI(オムニ)」と、同社がこれまで遺伝子治療薬の開発で培ってきたノウハウを融合することで、新たな遺伝子治療薬の開発を目指している。
※Emendoは最先端のゲノム編集技術を用いて重症疾患の遺伝子薬と細胞療法を開発するバイオベンチャーで2015年に設立。同社は2019年3月に最初の出資を行い、その後の追加出資で2020年3月には約27%の出資比率となる持分法適用関連会社としている。
ゲノム編集とは、特定の塩基配列(標的配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、思い通りに遺伝子を改変する技術を指し、農作物の開発などで普及が進んでいる。医療分野では、高効率に編集できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャス9)と呼ばれる技術を用いたゲノム編集の研究が主流となっているが、未だ実用化には至っていない。クリスパーキャス9では、標的配列とは異なる類似箇所を切断してしまう「オフターゲット効果」があるためで、こうした「オフターゲット効果」を回避する技術が「OMNI」となる。「OMNI」では塩基配列が100%相補的でなければ切断しない高精度なヌクレアーゼを、標的配列ごとに迅速に作出する技術であり、DNA切断酵素としての汎用性は損なわれるものの、高度な特異性により安全性が向上する。また、確実に標的配列の切断が可能となるため、編集する標的配列の選択の自由度が増すといったメリットもあり、ゲノム創薬の開発効率向上につながる技術として同社では高く評価している。
遺伝子治療薬の製法には、「コラテジェン」のように遺伝子導入のベクターとしてプラスミドを用いたもの、人に対して無害なウイルス(アデノウイルス、センダイウイルスなど)をベクターとして用いたもの、ゲノム編集技術を用いたものと大きく3つの方式があり、このうちゲノム編集技術を用いた遺伝子治療薬に関してはまだ世界でも上市実績がないが、「OMNI」技術の活用により大きく前進することが期待される。新型コロナウイルス感染症の影響で協業のスケジュールはやや遅れたものの、今後、Emendoが取り組んでいる複数の開発パイプラインのうち、遺伝子疾患を対象とした品目について共同開発を進めるべく、今後両社で計画を策定していく予定となっている。
(2) がん診断事業
2019年8月に資本出資したイスラエルのBarcode Diagnostics(以下、Barcode)が持つ遺伝子診断技術※を用いて、がん患者一人ひとりに最も有効な抗がん剤を選択する診断技術の早期実用化に取り組んでいく。現在は複数の抗がん剤の中から患者に合うと思われる抗がん剤を臨床データや患者の状態などから医師が判断して投与するが、第一選択薬で効果が見られず別の抗がん剤を投与するケースもある。遺伝子解析を行うことでより最適な抗がん剤の選択が可能となれば、患者負担が軽減するだけでなく医療費の削減にも寄与することになる。
※Barcodeの診断技術は、患者に有効性が期待できる抗がん剤とDNAバーコードを封入したリポソームを複数製造し、多種類の抗がん剤をごく少量ずつ一度に患者に投与したのち、DNAバーコード量を測定することで、個々の患者に有効な抗がん剤を特定するというもの。マウスを使った実験で特定できることが確認されており、将来的に乳がん患者を対象とした臨床試験の実施を目指している。
同社は2020年2月に公益財団法人がん研究会と共同研究契約を締結し、早期の実用化に向けて共同開発を開始している。がん研究会は、がんの新しい診断・治療法の開発において国際的にも評価の高い研究機関であり、がん細胞に対する抗がん剤の有効性データも数多く蓄積している。既に、実用化に向けBarcodeの診断技術を用いた実証データも出始めているようで、今後の動向が注目される。また、遺伝子診断では、がん疾患以外にも新生児の難病や希少疾患の早期診断でも需要があると見られ、将来的に取り組んでいく予定にしている。
(3)マイクロバイオーム事業
マイクロバイオーム※1を用いた医薬品の研究開発が世界的に注目を集めており、同社も同領域のパイオニア企業であるMyBioticsと2018年7月に資本提携を締結し、事業化の可能性を探索している。MyBioticsは現在、婦人科系の治療薬について欧州の大手製薬企業とライセンス契約を締結し、製剤化に向けた開発を進めているほか、感染症等の治療薬についての開発も進めている。また、2020年1月にはMyBioticsのプロジェクト※2が、専門家の厳正な審査を経て評価され、EIC Accelerator Pilot※3の資金援助先として選抜され、約200万ユーロの資金援助を受けることになったことを発表している。
※1 マイクロバイオーム(微生物叢)とは、ヒト微生物叢のゲノムとそれが発現する遺伝子群及び微生物叢とヒトの相互作用を含む広い概念を指す。この微生物叢とヒトとは共生しており、ヒトの身体は微生物叢の集合体とも言える。近年では生活習慣の変化がマイクロバイオームの生理状態の変化を誘導し、それが各疾患の増加に関係しているとの報告もあり、菌を活用して医療やヘルスケアに役立てる研究が活発化している。
※2 あらゆる民族、年齢、性別に関係なく、病気や慢性疾患の治癒、健康サプリ、薬品としての目的など、世界初となる1人1人にパーソナライズされた腸内細菌の生成を可能とする「MB Select」というプロジェクト。
※3 European Innovation Council(EIC)が、市場創出の可能性を秘めた画期的なイノベーションを強力に後押しすることを目的として、高リスクだが潜在的な力を秘めた製品・サービスを開発する企業に対して資金支援を行うプログラム。資金提供対象となるのは、EU加盟国又はHorizon2020の関連国に設立された営利目的の中小企業のみ(イスラエルはHorizon2020の関連国)。
マイクロバイオームの働きは精神疾患に関係しているとの研究報告があるほか、健康食品やサプリメントとして開発が進む可能性があるなど潜在的な成長性は大きい。同社も将来的にセルフメディケーションにつながる可能性のある事業として注目しており、今後の具体的な開発の方向性について検討を進めている段階にある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<NB>
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