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日本化薬のニュース
■要約
ナノキャリア<4571>は、1996年にミセル化ナノ粒子発明者ら2名とともに設立されたバイオベンチャーである。社名はナノ粒子技術(ミセル化ナノ粒子技術)とキャリア(薬物の運び屋)の造語である。日本では自社のプラットフォーム技術(DDS※)で創薬を行う数少ない企業で、抗がん剤(既存・休眠・新規)を自社技術「ミセル化ナノ粒子」に封入し、患部に直接運ぶことにより、薬物の効率的な生体内利用が可能となる。副作用を少なくして薬効を高める創薬の裾野拡大に貢献する。
※DDS:ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system)とは、体内での薬物分布を制御することで、薬物の効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑えることを目的とした技術を指す。
アキュルナ(株)は、同社と同一の技術バックボーン(ミセル化ナノ粒子技術をベースにDDSなどの応用開発)を持つ核酸創薬ベンチャーである。同社は、アキュルナの2015年設立時の出資者で、同社の特許技術を一部ライセンス供与している”兄弟会社”であるが、2020年9月にアキュルナを吸収合併した。アキュルナは核酸創薬領域の知見・技術が豊富であることに対し、同社は治験、薬事および医薬品製造(GMP管理含む)を得意としており、経営統合することによって創薬ベンチャーとしての新しいモダリティに対して研究開発から治験(臨床研究・臨床試験)、製造・品質管理まで一貫したビジネスシステムが確立できる。また、卓越した経営手腕を発揮する松山哲人(まつやまてつひと)CEOと抗がん剤開発/核酸創薬領域の国内有数のエキスパートである秋永士朗(あきながしろう)研究開発本部長の2名による経営体制は、大いに期待が持てる。
1. 「後期臨床開発3製品」に重点特化
同社のパイプラインは数年前と比較すると様変わりしている。臨床試験第III相段階のVB-111(卵巣がん)とENT103(中耳炎)、同第II相段階のNC-6004(頭頸部がん)の後期臨床開発3製品に重点特化し、これらはいずれもパートナーとの共同開発であることが特徴である。つまり、自前技術や自社開発に拘らず、共同開発や外部技術導入にも積極的に取り組み、スピード重視の開発に大きく舵を切ったと言える。後期臨床開発3製品はライセンスアウトや承認申請の加速により、2024年3月期までに収益化を目指す考えである。
2. 新しいモダリティ技術の取り込みで核酸医薬領域のパイプラインを拡充
同社には、核酸医薬に関する問い合わせや相談が急増しているようだ。核酸医薬領域(2030年世界市場規模予測2.1兆円)は、低分子医薬品、抗体医薬品に続く第3の医薬品と言われており、従来の医薬品では治療が難しかった疾患を対象とした治療薬開発の可能性を秘めた、次代の医療を支える医薬品として注目が集まっている。また、国内ではワクチンで注目されたmRNA医薬について研究している企業がほとんどなく、同社の核酸医薬開発は先行していたことから国内の創薬メーカーやアカデミアの研究開発と比較しても格段の知識と情報量を保有していることが要因であると考えられる。核酸医薬のパイプラインとしては、「NC-6100 siRNA(乳がん)」「RUNX1 mRNA(変形膝関節症)」「TUG1 ASO(膠芽腫)」の3製品がラインナップされているが、核酸医薬が主力製品になる5~10年後に向けて有望製品開発に期待がかかる。短期的には既存パイプラインの後期臨床開発3製品に重点特化するが、中長期的には研究開発リソースを核酸医薬へシフトする事業ポートフォリオを再構築し、早期収益化と次世代製品(核酸医薬)の育成を両立させた成長戦略と言える。
3. M&Aや提携の積極的推進
同社が初期段階でライセンスアウトしたNK-105(日本化薬<4272>)の第III相臨床試験において結果的に承認が得られず、ステークホルダーからの期待を損なった。背景には、バイオベンチャーにありがちなリスクの高い一本足打法的なパイプラインと捉えられることになり、万が一主力開発品が失敗した時の対策が十分でないとされたことにある。しかしながら、同社は、数年前より集中リスクを回避する目的で成長戦略を変更し、複数の有望開発品から構成される「集中と分散」型パイプラインに改めている。そのために、積極的に外部技術の導入やM&A(“開発時間を買う”)を推進している。また、パイプラインが次ステージになかなか移行できない上場バイオベンチャーであっても、中に隠れている素性の良い技術や優れた人材を保有しているケースがある。上場バイオベンチャーは、一つひとつは小粒でも、相互補完・融合すれば大手・中堅創薬メーカーに対抗できる技術集団を形成し、新たな価値創出と成長・発展するポテンシャルを有すると松山CEOは考えており、“バイオベンチャー連合”構想の一端が伺える。
4. SDGsへの全社的取り組みとサステナビリティ社会への貢献
同社では、従来のメッセージ「ナノテクで新しい医薬品を提供します」から、新たなメッセージとして「新たな価値を創造し、人々の健康と幸福に貢献します」を掲げている。同社は現在、SDGs(持続可能な開発目標)企業活動や社会貢献に全社一丸となり取り組んでいる。SDGsの17目標について、「社会貢献」「人材育成」「環境保全」の切り口で整理・定義し、社内浸透を図っている。実際に、同社の開発品には卵巣がん治療薬(VB-111)や乳がん治療薬(NC-6100)、難治性不妊治療(PRP療法)などがラインナップされており、治療薬を探す患者へ新たな治療法や治療薬を提供する社会的意義がある。
■Key Points
・「後期臨床開発3製品」に重点特化
・新しいモダリティ技術で核酸創薬領域のパイプラインを拡充
・事業ポートフォリオを再構築し、早期収益化と次世代製品(核酸医薬)育成を両立する成長戦略
・M&Aや提携を積極的推進
・SDGsへの全社的取り組みとサステナビリティ社会への貢献
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
<YM>
ナノキャリア<4571>は、1996年にミセル化ナノ粒子発明者ら2名とともに設立されたバイオベンチャーである。社名はナノ粒子技術(ミセル化ナノ粒子技術)とキャリア(薬物の運び屋)の造語である。日本では自社のプラットフォーム技術(DDS※)で創薬を行う数少ない企業で、抗がん剤(既存・休眠・新規)を自社技術「ミセル化ナノ粒子」に封入し、患部に直接運ぶことにより、薬物の効率的な生体内利用が可能となる。副作用を少なくして薬効を高める創薬の裾野拡大に貢献する。
※DDS:ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system)とは、体内での薬物分布を制御することで、薬物の効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑えることを目的とした技術を指す。
アキュルナ(株)は、同社と同一の技術バックボーン(ミセル化ナノ粒子技術をベースにDDSなどの応用開発)を持つ核酸創薬ベンチャーである。同社は、アキュルナの2015年設立時の出資者で、同社の特許技術を一部ライセンス供与している”兄弟会社”であるが、2020年9月にアキュルナを吸収合併した。アキュルナは核酸創薬領域の知見・技術が豊富であることに対し、同社は治験、薬事および医薬品製造(GMP管理含む)を得意としており、経営統合することによって創薬ベンチャーとしての新しいモダリティに対して研究開発から治験(臨床研究・臨床試験)、製造・品質管理まで一貫したビジネスシステムが確立できる。また、卓越した経営手腕を発揮する松山哲人(まつやまてつひと)CEOと抗がん剤開発/核酸創薬領域の国内有数のエキスパートである秋永士朗(あきながしろう)研究開発本部長の2名による経営体制は、大いに期待が持てる。
1. 「後期臨床開発3製品」に重点特化
同社のパイプラインは数年前と比較すると様変わりしている。臨床試験第III相段階のVB-111(卵巣がん)とENT103(中耳炎)、同第II相段階のNC-6004(頭頸部がん)の後期臨床開発3製品に重点特化し、これらはいずれもパートナーとの共同開発であることが特徴である。つまり、自前技術や自社開発に拘らず、共同開発や外部技術導入にも積極的に取り組み、スピード重視の開発に大きく舵を切ったと言える。後期臨床開発3製品はライセンスアウトや承認申請の加速により、2024年3月期までに収益化を目指す考えである。
2. 新しいモダリティ技術の取り込みで核酸医薬領域のパイプラインを拡充
同社には、核酸医薬に関する問い合わせや相談が急増しているようだ。核酸医薬領域(2030年世界市場規模予測2.1兆円)は、低分子医薬品、抗体医薬品に続く第3の医薬品と言われており、従来の医薬品では治療が難しかった疾患を対象とした治療薬開発の可能性を秘めた、次代の医療を支える医薬品として注目が集まっている。また、国内ではワクチンで注目されたmRNA医薬について研究している企業がほとんどなく、同社の核酸医薬開発は先行していたことから国内の創薬メーカーやアカデミアの研究開発と比較しても格段の知識と情報量を保有していることが要因であると考えられる。核酸医薬のパイプラインとしては、「NC-6100 siRNA(乳がん)」「RUNX1 mRNA(変形膝関節症)」「TUG1 ASO(膠芽腫)」の3製品がラインナップされているが、核酸医薬が主力製品になる5~10年後に向けて有望製品開発に期待がかかる。短期的には既存パイプラインの後期臨床開発3製品に重点特化するが、中長期的には研究開発リソースを核酸医薬へシフトする事業ポートフォリオを再構築し、早期収益化と次世代製品(核酸医薬)の育成を両立させた成長戦略と言える。
3. M&Aや提携の積極的推進
同社が初期段階でライセンスアウトしたNK-105(日本化薬<4272>)の第III相臨床試験において結果的に承認が得られず、ステークホルダーからの期待を損なった。背景には、バイオベンチャーにありがちなリスクの高い一本足打法的なパイプラインと捉えられることになり、万が一主力開発品が失敗した時の対策が十分でないとされたことにある。しかしながら、同社は、数年前より集中リスクを回避する目的で成長戦略を変更し、複数の有望開発品から構成される「集中と分散」型パイプラインに改めている。そのために、積極的に外部技術の導入やM&A(“開発時間を買う”)を推進している。また、パイプラインが次ステージになかなか移行できない上場バイオベンチャーであっても、中に隠れている素性の良い技術や優れた人材を保有しているケースがある。上場バイオベンチャーは、一つひとつは小粒でも、相互補完・融合すれば大手・中堅創薬メーカーに対抗できる技術集団を形成し、新たな価値創出と成長・発展するポテンシャルを有すると松山CEOは考えており、“バイオベンチャー連合”構想の一端が伺える。
4. SDGsへの全社的取り組みとサステナビリティ社会への貢献
同社では、従来のメッセージ「ナノテクで新しい医薬品を提供します」から、新たなメッセージとして「新たな価値を創造し、人々の健康と幸福に貢献します」を掲げている。同社は現在、SDGs(持続可能な開発目標)企業活動や社会貢献に全社一丸となり取り組んでいる。SDGsの17目標について、「社会貢献」「人材育成」「環境保全」の切り口で整理・定義し、社内浸透を図っている。実際に、同社の開発品には卵巣がん治療薬(VB-111)や乳がん治療薬(NC-6100)、難治性不妊治療(PRP療法)などがラインナップされており、治療薬を探す患者へ新たな治療法や治療薬を提供する社会的意義がある。
■Key Points
・「後期臨床開発3製品」に重点特化
・新しいモダリティ技術で核酸創薬領域のパイプラインを拡充
・事業ポートフォリオを再構築し、早期収益化と次世代製品(核酸医薬)育成を両立する成長戦略
・M&Aや提携を積極的推進
・SDGsへの全社的取り組みとサステナビリティ社会への貢献
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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