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ダイセルのニュース
―米ファイザーやモデルナなど先行、日本企業も開発に向けた動き活発化―
2020年は、新型コロナウイルス感染症に翻弄された1年だった。同感染症は、19年12月に中国湖北省武漢で原因不明の肺炎が発生していることが伝えられ、武漢市を中心に感染が広がった後、世界中に拡散した。日本でも厚生労働省が20年1月6日に注意喚起を発表。2月に乗客の感染が確認されたクルーズ船が横浜港に入港したことで、一気に人々の危機感が強まった。その後、感染者増加の波はあったものの、現時点で収束の兆しは見えてない。
こうしたなか、 新型コロナウイルスワクチンを巡る動きが活発化している。12月8日に英国で米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンの接種が始まったのに続き、米国でもファイザー製ワクチンの接種が14日にスタートした。EUでは27日に域内一斉接種開始を予定していたが、準備の整った国から前倒しで接種が始まった。
ワクチンの接種開始で長いトンネルの先に光が見えたが、ワクチン接種は世界的に緒に就いたばかりで、「終わりの始まり」にはほど遠い。株式市場でも、ワクチンを巡る関心は引き続き高く、関連銘柄からは当面、目が離せないだろう。
●米国は2つのワクチンが接種を開始
米国食品医薬品局(FDA)は12月18日、米モデルナ社が開発する新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認したと発表した。モデルナのワクチンが承認されるのは世界初のことで、ファイザーとビオンテックのワクチンに続いて米国では2例目の承認となる。
先行承認されたファイザーワクチンがセ氏マイナス70度程度での保管が求められるのと異なり、モデルナ製はマイナス20度での保管が可能であることが特徴とされ、マイナス20度では半年間、2~8度と通常の冷蔵庫の温度でも30日間の保存が可能という。専用の冷凍設備がない診療所などへの配布も可能で今後、接種の対象者が拡大する際、こうした点が普及に寄与しそうだ。
ワクチンは医療従事者や高齢者施設の入所者に優先して接種されることになっており、一般への接種は早ければ21年3月になる見通しだ。アザー米厚生長官は12月14日の会見で、21年6月末までには、希望する米国民全員にワクチンの接種ができるようにするという目標を明らかにしている。
●欧州その他地域のワクチンを巡る動き
欧州では、EUで医薬品を審査する欧州医薬品庁(EMA)が12月21日、ファイザーワクチンを承認した。既に準備が整った国から接種が開始されており、英米には遅れたものの、年内に接種を始めたことで対策を急いでいることを強調したことになる。EUでは今回許可したファイザーワクチンを含めて6種類のワクチンについて、合わせて最大20億回分確保しており、モデルナワクチンに関しても、21年1月の承認に向けて手続きが進められている。
12月25日の時点で、ファイザーワクチンは英国、米国、バーレーン、カナダ、サウジアラビア、メキシコ、シンガポール、チリ、スイス、イスラエル及びEUなどで承認や緊急使用が認められている。一方、モデルナワクチンは、米国で緊急使用が認められたほか、前述のようにEUでも21年1月に承認される見通しとなっている。
更に、英アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発したワクチンは、英当局が審査を進めており、承認が待たれている。このほか中国、ロシアでも自国製ワクチンの接種が始まったが、いずれも開発プロセスの透明性に関する国際基準を逸脱しており、信頼性で劣るのが現状だ。
●日本は早ければ2月にも接種を開始か
日本に関しては、ファイザーが12月18日、日本での使用に向けて、製造販売の承認を厚生労働省に申請した。日本で新型コロナウイルスワクチンが申請されるのは初めてで、早ければ2月中にも承認するかどうかの結論が出て、接種が開始される見通しとなっている。
政府は、同ワクチンに関して、21年6月末までに6000万人分(1億2000万回分)の供給を受けることでファイザーと基本合意しているが、このほかにもモデルナが開発したワクチンを5000万回分、アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したワクチンについて1億2000万回分供給を受ける契約などを結んでいる。合計2億9000万回分の供給を受けることで、21年前半までに国民全員に提供できる数のワクチンを確保することを目指している。
●ファイザー、モデルナワクチンでは物流が問題に
日本を含め、各国でワクチンを巡る動きが活発化するなか、問題として浮き彫りになったのが、物流だ。
ファイザー、モデルナのワクチンはいずれもm(メッセンジャー)RNAワクチンという新しいタイプのワクチン。RNAは壊れやすく、常温では短期で効果がなくなることから、厳密な温度管理が必要となり、ファイザーのワクチンではセ氏2~8度下ならば有効性は5日間程度しか保たれないが、マイナス60~マイナス80度でなら約半年間有効性が保たれるという。
そのため、政府はワクチン保管用に、セ氏マイナス75度のディープフリーザー(超低温冷凍庫)を3000台、マイナス20度のディープフリーザーを7500台確保するほか、ワクチン保冷ボックス用のドライアイスを国で一括調達し、医療機関に供給する予定という。既にディープフリーザーに関しては、国内メーカーが夏から増産に入っているという。
そのため株式市場では、超低温の精密な温度制御に広く使用可能なフリーザーボックスを手掛けるツインバード工業 <6897> [東証2]への関心が急速に高まったほか、医薬品用アンプルやバイアル(管瓶)などを手掛ける不二硝子 <5212> [JQ]、注射器など医療機器向けの精密金型を製造販売する不二精機 <6400> [JQ]などに思惑的な買いが向かった。また、医療用注射針を手掛ける日本金属 <5491> や医療廃棄物専用容器を手掛ける天昇電気工業 <6776> [東証2]なども値を上げた。
これらは主に思惑的な動きだが、なかには既に実需につなげている企業もあり、今後も注目が必要だろう。
●日本におけるワクチン開発も臨床試験段階に
一方、ファイザーやモデルナ、アストラゼネカには出遅れたものの、日本国内におけるワクチン開発の動きも活発化している。国内企業では、12月25日の時点で新型コロナウイルスワクチンの臨床試験に進んでいるものは2例ある。
1例目であるアンジェス <4563> [東証M]は12月8日、大阪大学と開発を進めているDNAワクチンの第2/3相臨床試験の接種を開始したと発表した。21年3月ごろまでをメドに、関西及び関東の8施設で500症例の被験者への接種を行い、ワクチンの用法・用量における安全性と免疫原性の評価を行うとしており、その後、海外を含む感染が流行している地域も視野に入れた1万~数万人規模を対象とした、発症予防効果を検証するための第3相臨床試験を実施する予定としている。同ワクチンは、製造をタカラバイオ <4974> が行うほか、開発にダイセル <4202> やヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ <6090> [東証M]、医薬品開発支援機関としてEPSホールディングス <4282> 、安全性検証業務を新日本科学 <2395> などが参加し開発を進めている。
2例目である塩野義製薬 <4507> は12月16日、国立感染症研究所や京都大学などと開発を進めている遺伝子組み換えタンパクワクチンについて、第1/2相臨床試験を開始したと発表した。非臨床試験では安全性と有効性を示唆する結果が得られており、冷蔵条件下での製剤中の安定性が一定期間確認されているという。また、臨床試験と並行して、21年末までに3000万人分以上のワクチン生産体制を整備することを目標に生産設備の構築や増強、大量生産に向けた製造方法の最適化に取り組んでいるという。
●このほかの国内におけるワクチン開発の動き
アイロムグループ <2372> は、子会社IDファーマが安全性と効率性が高いとされるウイルスベクターワクチンの開発を進めており、早ければ21年3月から臨床試験を開始する。
三菱ケミカルホールディングス <4188> 傘下の田辺三菱製薬もカナダ子会社メディカゴがワクチン開発の第1相臨床試験で良好な結果が得られたとし、11月に第2/3相臨床試験を開始したと発表した。
第一三共 <4568> は東京大学との共同研究をもとにmRNAを使ったワクチン開発を進めており、21年3月以降、臨床試験を開始するとみられている。
リプロセル <4978> [JQG]はワクチンの開発を目指す国際的研究コンソーシアムへ参加しているほか、研究用生体試料サンプルの供給を行っている。
国がファイザーなど海外勢からのワクチンを確保する一方、国内企業がワクチン開発を進める背景には、コロナウイルスが変異しても効果が発揮できるワクチン開発を進める必要があるためでもある。モデルナワクチンの日本国内における治験や流通を担当する武田薬品工業 <4502> や、米ノババックス社が開発を進めるワクチン候補の原薬製造をグループ会社が受託した富士フイルムホールディングス <4901> などとあわせて、今後も国内企業のワクチンを巡る動向に注目したい。
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