予防医療の新たな成長市場「遺伝子解析サービス」

著者:冨田康夫
投稿:2014/08/08 18:13

「遺伝子解析サービス」に注目

 新たな成長分野として遺伝子解析サービスへの注目度が高まっている。増加の一途をたどる医療費の抑制が喫緊の課題となるなか、医療の目的が病気になってケアする「Sickケア」から健康を維持する「Healthケア」に変化。予防・健康ビジネスの市場が確立されつつある。ディー・エヌ・エー<2432>が12日から一般消費者向け遺伝子解析サービスの提供を開始するなど、大手企業の相次ぐ参入で認知度は急速に広がっている。

 厚生労働省の統計によると、国民医療費は1995年の27兆円から2012年には38.4兆円に達し、国民所得に占める割合は7.3%から10.9%に拡大。高齢化の進展でさらなる負担増が懸念されているが、その解決策のひとつとして病気の早期発見や予防につながる遺伝子解析サービスへの期待が高まっている。

 このサービスはDNAの検査を通じて、がんや糖尿病など生活習慣病のかかりやすさのほか、太りやすさやアルコール代謝などの体質を知ることが可能。これまでの遺伝子解析は創薬や医療研究目的がほとんどだったが、最近はサービス料金が1万円を下回るコースが登場するなど個人でも手の届く水準にまで低下したことで今後は利用者が急速に増えることが予想されている。

 いまや遺伝子検査は医療への活用からダイエットといった美容の分野まで幅広いビジネスが展開されており、遺伝子情報というビッグデータを扱う企業から目が離せない状況だ。

IT・ネット関連企業の新規参画が相次ぐ

 今年に入って参入を表明した企業で目立つのがITやネット関連企業だ。ディーエヌエー<2432>は6月3日に、遺伝子解析サービスを手掛ける新会社「DeNAライフサイエンス」を設立したことを発表。一般消費者への提供開始に先立ち、7月30日からネット通販のアマゾンで予約受け付けをスタートさせた。

 同社は携帯電話向けゲーム・交流サイト「モバゲー」を主力事業としているが、将来の成長が見込める事業のひとつとしてヘルスケア・医療領域に着目。「遺伝子解析サービスはコアビジネスになる可能性があるほか、社会的意義も大きい。ビッグデータを取り扱うため、これまでさまざまな事業で培ってきたノウハウを生かすことができる」(広報部)ことが強みになるとみている。

 ディーエヌエーの会見からわずか2日後には、ネット関連大手のヤフー<4689>が新プロジェクト「HealthData Lab(ヘルスデータラボ)」を始めることを表明。同社は「健康に関する情報提供に力を入れていきたいと考え、遺伝子解析サービス参入もその一環」(広報室)としており、6月5日から25日にかけて行った5000人のモニター募集への反応も「具体的な数字は言えないが、しっかりとした反応をいただいている」(同)と手ごたえを感じ取っている。

 このほかでは、携帯向けコンテンツ配信を手掛けるエムティーアイ<9438>が4月から子会社を通じてサービスの提供を開始しているほか、ソニー<6758>エムスリー<2413>などと共同でゲノム解析サービス会社を設立済み。

 また、ソフィアホールディングス<6942>は既存のITや通信事業とのシナジーを狙い、すでに事業展開しているジーンクエスト(東京都文京区)を子会社化。同社株は発表した7月1日終値98円から7月23日には年初来高値となる438円まで急騰しており、今後も各社の動向に投資家の関心が集まりそうだ。
冨田康夫
株経ONLINE:編集長
配信元: 達人の予想