歴史的な緩和・三極揃い踏みで変動高まる

著者:菊川弘之
投稿:2014/06/06 16:27

強気の雇用統計+地政学リスク後退でリスクオン加速も

 欧州マイナス金利導入で、いよいよ欧州中央銀行(ECB)・日銀・米連邦準備理事会(FRB)と、三極揃い踏みの歴史的な緩和状況に入った。

 昨晩は、ECB理事会の決定を受けて、まずはユーロ売りで反応したものの、すかさず押し目は買われ、「知ったら終い」的な値動きで、2012年7月安値を起点とした上昇チャネル下限で下支えられた。日米のバズーガー砲に対して、ドラギ総裁は記者会見で、「これで最後ではない」と明言したが、量的緩和縮小過程にある米国や、国債大量購入の日本との相対的な比較感が、材料視された格好だ。一方、NY株式市場は史上最高値更新で反応している。

 足もとの市場の関心は、今晩の雇用統計。

 過去の月ごとの雇用統計発表日のドル円の変動率・変動幅を調べてみると、6月は、8月・12月に続いてボラティリティが高い傾向が確認でき、発表直後からNYがクローズするまでの間は、雇用統計の内容次第では、アップダウンの激しい動きも想定される。特に、市場の注目が、「非農業部門新規雇用者数」と「失業率」だけでなくなっており、それぞれ注目指標の内容が、後付け的に大きな変動の理由づけされるだろう。

 バーナンキ時代には「非農業部門新規雇用者数」と「失業率」の二本柱が、出口戦略、引き締め時期を見極める上で注目されてきたが、イエレンFRB議長は、「賃金の伸び」「正社員になりたくてもパートタイマーに甘んじている人」「長期失業者」などに注目している事を講演会等で示唆している。

 今週は、ADP雇用統計が弱気の目が出た事で、市場の期待のハードルが低下している可能性はあり、弱気よりも強気の内容の方が、市場の反応は大きくなるかもしれない。NYダウは、三角保合い上放れから上げ加速の形状になりつつあり、フランスで行われるノルマンディー上陸作戦70年式典での、プーチン大統領との各国首脳会談の行方次第では、金融面+地政学リスクの両面から、リスクオンが高まる可能性もあるだろう。この場合は、株高・ドル高が想定以上に大きくなり、日本株にとってもポジティブなものとなるだろう。反対の場合は、米長期金利も上がらず、ドル円の上値余地は限られ、株価も上値が抑えられやすいと見る。来週は雇用統計+地政学リスクの動向を織り込みながら、今後の日米の金融政策にも関心は移行していくだろう。

 昨晩は、株やドルとの逆相関のNY金も買われて、1250ドル台を回復している。三極緩和揃い踏みからの資金流入を期待した動きだが、中期的には、こられらのジャブ付きマネーが、どの市場に流れ込むかの見極めが重要になってくる。

 公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用見直しに加えて、7月にかけてTPP交渉にまとまる方向性が見えてくるなら日本株も、資金流入の対象となるかもしれない。ジム・ロジャーズは、「量的緩和は日本にとっていいことではないが、日本株市場にとってはいいことだ。だから、日本株のインデックス・ファンドを保有している。あと1、2年は保有するかもしれないが、5-10年後には保有していないだろう。」と述べている。ちなみに、「ドルも保有している。 ドルは安全資産ではないが、人々はそう思い込んでいる。それが分かっているから、ドル高となれば売り抜ける。5-10年後にはドルを持っていたくない。」と5月中旬に発言している。中期的には株高・ドル高の後に、こられらの急落(山高ければ谷深し)、それに合わせて売られているNY金の急伸(谷深ければ山高し)が控えている、とのこれまでの氏の見方を維持している。参考にしたい。
菊川弘之
日産証券調査部 主席アナリスト
配信元: 達人の予想