◆エヌビディアの半導体を使わずに開発された「ジェミニ3」
年末相場を迎えているが、まずはAI(人工知能)関連企業の動向を中心に、この1年間の流れを簡単に総括してみたい。米ハイテク大手企業の株価は、トランプ政権を巡る不透明感もあって春までは低迷していたが、4月のトランプ関税発動による一時的な急落局面を経て、その後は順調に回復した。特に9月から10月にかけての株価上昇もあって、エヌビディア
だが、ここに来て大きな転換点を示す兆候がいくつか現れている。一つは言うまでもなく、オープンAIを中心とした巨額投資の問題だ。同社は8年間で約1兆4000億ドルをAIインフラに投資するとのことだが、現時点での売上高が年間130億ドル程度を見込んでいるに過ぎない同社が、はたして将来、巨額の投資を回収できるほどの売り上げを達成することができるのか、という疑念をマーケットが抱き始めている。
そんな中、11月18日にアルファベット
もちろん、アルファベットも彼らとしては大きな投資をしている。だが、同社の投資額は他のクラウド大手、アマゾン・ドット・コム
オープンAIにはエヌビディアが最大1000億ドルの投資計画を発表している。その資金がエヌビディア製のAI半導体の購入にも充てられるのではと言われており、循環取引ではないかとの疑念を呼んでいるが、「ジェミニ3」の誕生によって、高価なエヌビディア製AI半導体を前提にした投資計画が、そもそも必要なものだったのかという指摘が出てきている。
アルファベットはすでに「TPU」の外販も始めており、オープンAIのライバル、アンソロピックに最大100万個、数百億ドル分を提供する計画が進み、メタ・プラットフォームズとも商談中と伝えられている。しかも「TPU」の価格はエヌビディアの最新AI半導体、「Blackwell(ブラックウェル)」の半額以下だという。
9月以降の株高は、オープンAIを中心に、エヌビディア、オラクル
◆メモリー価格高騰はAIブームにも大きく影響
もう一つの大きな変化は、メモリー価格の高騰だ。前回のコラムでも述べたが、7月以降、DRAMは2倍以上の価格に上昇している。最新規格のDDR5に至っては店頭価格がこの2カ月間で3倍になっているという。これによって影響が及ぶのは、スマートフォン(スマホ)やパソコン、そしてAI半導体やAIサーバーの価格だ。AI半導体に組み込まれるHBM(広帯域メモリー)はDRAM(DDR5)のウェハーを8枚から12枚積層してつくられるため、スマホやパソコン以上に大量のDRAMウェハーが必要になる。AIサーバーのメインメモリーも数テラバイトという大きな容量になるためDRAM市況上昇の影響は大きい。AI開発に必要な原価の上昇が避けられない事態に陥っているのだ。
いまのAIブームを考察する際、どうしてもデータセンター向けの巨額投資に目が向きがちだが、実はこのメモリー市況の変化は、AIブームの継続性を占ううえで無視することはできない大きな問題だ。AIブームによって生じたメモリー需給のひっ迫が、結果としてAI製品の価格にも跳ね返ると予想されるのだ。中国発の生成AI「ディープシーク」ではないが、今後はAIに関わる企業がいかにコストを下げて"節約"をすることができるかがポイントになるだろう。
節約と言えば、エヌビディアの現在の主力製品「ブラックウェル」の価格設定にも、メディアや市場関係者がまだあまり指摘していない異変が表れ始めている。24年の春、製品発表時に同社のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は、「ブラックウェル」GPU(画像処理半導体)の価格は1個3万ドルから4万ドルと答えていた。ベースモデルの「B200」は「ブラックウェル」を2枚組み込んでパッケージングされているためその2倍以上、日本円に換算すれば1000万円を超える価格設定になっているはずだ。
ところがいま、国内のサーバー・メーカーが見積もりとしてウェブサイトで提示している価格は約700万円である。これが何を意味しているのか。エヌビディアの最新AI半導体と言えども、当初計画していた価格では販売が難しく、値下げ圧力がかかっているのではないかということだ。
いくら「ブラックウェル」の性能が高いからと言って、顧客企業にとってあまりに高すぎると感じる商品は買うことができない。そんな状況下でこのままメモリー価格が上昇していけば、さらに利益が削られてしまう。あるいはAI半導体の値上げをしなければならなくなるだろう。同社の来期27年1月期は、粗利益率の変化に注視すべきだろう。
◆FRBの金融政策もハイテク株にはマイナス材料
もう一つは米国の金融政策の行方だ。12月10日のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)は事前の予想通り、3回連続となる0.25%の利下げを決定したものの、来年の利下げ見通しは明言しなかった。米国内のインフレは依然として収まらず、FRBとしては利下げがしにくい環境になっているからだ。
その後のマーケットの反応は、ダウ工業株30種平均が若干、上昇した半面、ナスダック総合指数やフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は下落した。各社の株価を見ても、エヌビディアやGAFAMなど、時価総額の大きな企業の値動きは鈍い。今回のFRBの決定内容は、ハイテク株を対象とする投資家にとっては物足りない内容だったからだ。
バリュエーション面でも、AI関連の大型株はいずれも30倍を超えるPER(株価収益率)で割安感はない。年初時点では唯一割安だったアルファベットも、年初来60%以上株価が上昇しており、すでに割安感はなくなっている。ファンダメンタルズ面でも金融政策などのマクロの環境面でも、ハイテク大型株にとっては懸念材料が多い。25年いっぱいはAIブームが続いたが、来年は今年の延長線上で投資戦略を考えるのは難しいのではないかというのが実感だ。
◆個人投資家にとって最も避けるべきは"付和雷同"のAI投資
では具体的に、26年に向けて個人投資家としてどのようなスタンスが必要なのだろうか。基本となるのは「あまり入れあげない」ということだろう。個人投資家が機関投資家と異なる点は、投資をやめることができることだ。AIブームを客観的に捉え、相場が過熱したら距離を取る、というスタンスも必要なのではないだろうか。
背景にあるのは、AI投資の環境が複雑で分かりにくくなっていることだ。やはりオープンAIを中心とした、ひたすら投資金額を積み上げ、しかもその資金を外部に頼るというやり方は、冷静に考えれば異常な状況と言わざるを得ない。この流れが今後も続くと考えるのは無理があるのではないか。
したがって、来年1月から発表が本格化する25年12月期決算では、こうしたリスクに対してハイテク各社がどのような対応をしているのかを見極めることが重要な観点となるだろう。特にメモリー需給のひっ迫は、各社に相当深刻な影響を与える可能性がある。DRAMメモリーは、AI関連はもとよりスマホ、パソコン、ゲーム、自動車など世の中のあらゆる電子製品に組み込まれているからだ。したがって、各社の決算を見る際には、コストダウンと効率化の進展こそが最も重要な評価ポイントとなる。
最後に一つだけ確かなのは、当たり前のことだが個人投資家が資産を増やすためには、分散投資が重要になるということだ。この1年間、日経平均は20%以上、 SOX指数は30%以上のパフォーマンスを上げた。これは何より生成AI関連銘柄の株価上昇がけん引したものだ。つまりこの1年間は、エヌビディアを始めとしたAI主力銘柄への一極集中で結果が出た。だがこうした一極集中の相場は長くは続かないかもしれない。
覚悟を決めていまの上昇相場に乗っているセミプロのトレーダーはいい。だが最も怖いのは、深く考えもせずに"付和雷同"でAIブームに乗ってしまうことだ。あまりに不透明な要素が多い現在の相場環境を考えれば、少なくとも株式投資にすべての資金を投入するようなことは避けたほうがいい。本気で資産を増やそうと考えるなら、しばらくはキャッシュポジションを厚めにするのが得策ではないかというのが、私からのアドバイスだ。
(本連載は今回が最終回となります。これまでご愛読、ありがとうございました。今後の今中能夫氏のレポートは下記の楽天証券サイトでご覧ください)
【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト
1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。
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