「鎮火した火事は、消防士が戻ってから猛威をふるう」

著者:黒岩泰
投稿:2012/07/02 08:42

「鎮火した火事は、消防士が戻ってから猛威をふるう」

 先週末の米国株式相場は大幅高。ダウ工業株30種平均は277.83ドル高の12880.09、ナスダック総合指数は85.56ポイント高の2935.05となった。欧州首脳会議の成果が好感され、幅広い銘柄に買いが優勢。主要株価指数はジリジリと上昇幅を拡大させ、高値圏で取引を終了した。また、シカゴ日経平均先物(円建て)は9105円。大証終値と比べて95円高の水準で取引を終了している。したがって本日の東京株式相場は米株高を受けて堅調なスタートを想定。引き続き上値を試すものと思われる。
 寄り付き前に日銀短観が発表されるが、ここで特にサプライズがなければ、日経平均は順当に9100円付近で寄り付くだろう。足下では対ユーロでの円安が進んでおり、市場には輸出関連株中心に買い安心感が漂いそう。売り方の買い戻しも優勢となり、上値追いの動きとなりそうだ。
 ただ、日経平均の日足チャートでは、上方の窓(9115.94円―9159.46円)が空いている。これに到達することで、一時的な達成感が台頭。窓の株価を引き寄せる力は減退し、上昇の勢いは衰えるだろう。
 その一方でさらに上方には、大きな窓(9207.56円―9344.53円)が空いている。これが強烈に株価を引き寄せることも予想されるのだ。
 つまり、現在の株価は上下に振れやすい状況となっており、乱高下には注意をしなければならない。仮に軸が上向きであり、上方に窓が空いていれば、株価は結局、上方の大きな窓に引き寄せられてしまう。短期的には窓上限(9344.53円)までの上値余地があり、売り方はここまでの踏み上げを覚悟しなければならない。
 しかし、このリバウンド相場は、そう長続きはしないだろう。なぜならば、週末に決定されたEU首脳会議の内容は、薄氷の上を歩いているようなものだからだ。
 特に重要なのが、ドイツの憲法裁判所がESM及び新たな財政ルールを承認するかどうかということ。最大の“支援国”であるドイツで承認が得られなければ、今回の救済スキームが白紙に戻ることもあり得るということだ。
 そして、メルケル首相は、首脳会議後もユーロ共同債に関して真っ向から否定している。イタリアなどの南欧諸国の“懇願”によって、渋々ESMによる銀行への直接資本注入は容認したものの、ユーロ共同債に関しては拒否しているのだ。ドイツ国内ではこれを“成果”と受け得止める向きもあり、ドイツが無条件で南欧諸国を支援することはあり得ないということである。ドイツがヘソを曲げれば、すべてがオジャンになることもあり得るのだ。
 また別の見方をすれば、今回はEUが銀行を支援し、その銀行を監督することで合意。そして国債買い取りを容認し、欧州統合が一歩前進した格好となっている。
だが、最終的な“政治統合”には至っておらず、「道半ば」であることは明らかだ。再び危機が高まり、ドイツを巻き込むような“大惨事”が起こらないと、この政治統合は達成できない。したがって、「今回はこの辺で勘弁しておこう」ということであり、再び支配層による欧州統合へ向けてのアプローチは続くことになりそうだ。いったん鎮火した火事は、消防士が署に戻ってから猛威をふるうのである。
黒岩泰
株式アナリスト
配信元: 達人の予想