*14:35JST いい生活 Research Memo(5):2024年3月期は増収減益、サブスクリプション売上は好調を維持(1)
■業績動向
1. 2024年3月期の業績概要
いい生活<3796>の2024年3月期の業績は、売上高が前期比4.1%増の2,808百万円、EBITDAが同3.5%減の658百万円、営業利益が同24.9%減の176百万円、経常利益が同11.6%減の208百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同7.6%減の146百万円となった。
2024年3月期の売上高は順調な成長を示した。特に、エンタープライズ企業への新規導入や既存顧客へのアップセル・クロスセルの効果により、SaaSの月額利用料収入が前期比7.6%増の2,435百万円と堅調に推移した。平均顧客単価も引き続き上昇傾向にあり、サブスクリプション売上は好調を維持した。一方、ソリューション売上は前期と比べて減収となった。これは、不動産賃貸管理業を中核とする大規模エンタープライズ企業向けのプロジェクトに注力した結果、案件の大型化や要件の複雑化、期間の長期化が生じたためである。いくつかのプロジェクトでは部分的に納品・売上計上が行われたが、当初予定よりも後ろ倒しされており、一部の案件は次年度以降に持ち越された。営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益ともに、費用先行型の投資が響き減益となった。特に、人件費やIaaS関連費用の増加がコスト構造に影響を与えた。しかし、EBITDAは安定的に創出されており、基盤の強さを示している。2025年3月期以降は、現在進行中の大型案件の検収・計上が進むことで収益性の向上が期待される。費用管理を引き続き徹底しつつ、SaaSの成長戦略を推進することで、持続的な成長を目指す方針だ。
売上原価は、前期比10.0%増の1,206百万円となった。これは主に、IaaS(Infrastructure as a Service)の米ドル建て取引における円安の影響により、その利用料が増加したことが要因である。加えて、新卒採用を中心とした人的資本投資の拡大や、導入支援プロジェクトの大型化に伴う協力会社への外注費の増加も売上原価の増加に寄与した。これらの投資は、SaaSの運用および顧客支援体制の強化を目的としており、将来的な成長を見据えた戦略的なコスト増加と位置づけられる。
(1) 利用法人数・店舗数
店舗数は2023年3月期第1四半期の4,406店舗から次第に増加し、最新の2024年3月期第4四半期には4,572店舗に到達している。一方で、法人数は1,455法人から1,505法人へとわずかな増加にとどまっているものの、比較的安定した推移を見せている。同社のSaaS製品が利用者数の多いエンタープライズ企業をターゲットに新規導入が進んでいることから、法人数の伸びは緩やかであっても、多店舗を展開する顧客の獲得により、このような動きになることが考えられる。SaaSの月額料金は不動産会社は扱う物件数によって変動するため、同じ1社でも大規模顧客の方が利用単価が高く、同社は顧客数を重視はしているものの、より規模の大きい顧客の獲得に注力している。
(2) KPI
同社は、利用法人数に加え、1顧客当たりの平均月額単価である「ARPU」と特定の期間(月単位)における顧客の売上ベースの解約率である「MRR解約率」をKPIとしている。「ARPU」は、通信業界で事業における健全性や収益性を評価するために使用され、顧客から収益を最大化するための戦略を立てるための指標としても活用し、「MRR解約率」は、どれだけの顧客を売上ベースで失っているか、事業の持続可能性や収益予測を図るために用いる。
(a) ARPU
四半期ごとの売上高は2022年3月期第3四半期の622百万円から順調に増加し、最新の2024年3月期第4四半期には756百万円に到達している。一方、ARPUも2022年3月期第3四半期の118千円から持続的に向上し、2024年3月期第4四半期には140千円を記録している。このデータは、同社が効率的に収益を上げつつ、ユーザーからの収益単価も同時に向上させていることを示しており、ビジネスモデルが順調であることを反映している。特に、売上とARPUの両軸での成長は同社の持続的な発展と市場での競争力を示している。
(b) MRR解約率
MRR解約率は2022年3月期第3四半期に0.44%を記録した後、下落に転じ、同第4四半期には-0.68%となった。その後、2024年3月期第1四半期には0.65%と再び高まるも、同第4四半期には-0.36%を記録している。解約によるMRRの減少を、既存顧客からのアップセルによる増加が上回る「ネガティブチャーン」が確認できる点が重要である。これは、同社が顧客満足度を高く保ち、顧客維持率が良好であることを示しており、安定したビジネス基盤を有していることを示している。
(3) 人員構成
2024年4月末時点での同社の人員構成は、全体で229人となっており、特にエンジニアと導入・運用支援サービス部門の拡充に注力している。エンジニア部門は2023年3月末比で19人の増加を見せ、合計88人に達しており、これにより技術力の向上と製品開発の加速が期待される。導入・運用支援サービス部門は同9人増の27人、セールス&マーケティング部門は同4名増の70名となり、顧客サポートとサービスの質の向上が図られている。同社は、今後も年間10~15名の採用計画を進めており、特に新卒者の採用と将来的な業務委託分野の内製化については社内のリソースを見ながら注力する考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
<SI>
1. 2024年3月期の業績概要
いい生活<3796>の2024年3月期の業績は、売上高が前期比4.1%増の2,808百万円、EBITDAが同3.5%減の658百万円、営業利益が同24.9%減の176百万円、経常利益が同11.6%減の208百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同7.6%減の146百万円となった。
2024年3月期の売上高は順調な成長を示した。特に、エンタープライズ企業への新規導入や既存顧客へのアップセル・クロスセルの効果により、SaaSの月額利用料収入が前期比7.6%増の2,435百万円と堅調に推移した。平均顧客単価も引き続き上昇傾向にあり、サブスクリプション売上は好調を維持した。一方、ソリューション売上は前期と比べて減収となった。これは、不動産賃貸管理業を中核とする大規模エンタープライズ企業向けのプロジェクトに注力した結果、案件の大型化や要件の複雑化、期間の長期化が生じたためである。いくつかのプロジェクトでは部分的に納品・売上計上が行われたが、当初予定よりも後ろ倒しされており、一部の案件は次年度以降に持ち越された。営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益ともに、費用先行型の投資が響き減益となった。特に、人件費やIaaS関連費用の増加がコスト構造に影響を与えた。しかし、EBITDAは安定的に創出されており、基盤の強さを示している。2025年3月期以降は、現在進行中の大型案件の検収・計上が進むことで収益性の向上が期待される。費用管理を引き続き徹底しつつ、SaaSの成長戦略を推進することで、持続的な成長を目指す方針だ。
売上原価は、前期比10.0%増の1,206百万円となった。これは主に、IaaS(Infrastructure as a Service)の米ドル建て取引における円安の影響により、その利用料が増加したことが要因である。加えて、新卒採用を中心とした人的資本投資の拡大や、導入支援プロジェクトの大型化に伴う協力会社への外注費の増加も売上原価の増加に寄与した。これらの投資は、SaaSの運用および顧客支援体制の強化を目的としており、将来的な成長を見据えた戦略的なコスト増加と位置づけられる。
(1) 利用法人数・店舗数
店舗数は2023年3月期第1四半期の4,406店舗から次第に増加し、最新の2024年3月期第4四半期には4,572店舗に到達している。一方で、法人数は1,455法人から1,505法人へとわずかな増加にとどまっているものの、比較的安定した推移を見せている。同社のSaaS製品が利用者数の多いエンタープライズ企業をターゲットに新規導入が進んでいることから、法人数の伸びは緩やかであっても、多店舗を展開する顧客の獲得により、このような動きになることが考えられる。SaaSの月額料金は不動産会社は扱う物件数によって変動するため、同じ1社でも大規模顧客の方が利用単価が高く、同社は顧客数を重視はしているものの、より規模の大きい顧客の獲得に注力している。
(2) KPI
同社は、利用法人数に加え、1顧客当たりの平均月額単価である「ARPU」と特定の期間(月単位)における顧客の売上ベースの解約率である「MRR解約率」をKPIとしている。「ARPU」は、通信業界で事業における健全性や収益性を評価するために使用され、顧客から収益を最大化するための戦略を立てるための指標としても活用し、「MRR解約率」は、どれだけの顧客を売上ベースで失っているか、事業の持続可能性や収益予測を図るために用いる。
(a) ARPU
四半期ごとの売上高は2022年3月期第3四半期の622百万円から順調に増加し、最新の2024年3月期第4四半期には756百万円に到達している。一方、ARPUも2022年3月期第3四半期の118千円から持続的に向上し、2024年3月期第4四半期には140千円を記録している。このデータは、同社が効率的に収益を上げつつ、ユーザーからの収益単価も同時に向上させていることを示しており、ビジネスモデルが順調であることを反映している。特に、売上とARPUの両軸での成長は同社の持続的な発展と市場での競争力を示している。
(b) MRR解約率
MRR解約率は2022年3月期第3四半期に0.44%を記録した後、下落に転じ、同第4四半期には-0.68%となった。その後、2024年3月期第1四半期には0.65%と再び高まるも、同第4四半期には-0.36%を記録している。解約によるMRRの減少を、既存顧客からのアップセルによる増加が上回る「ネガティブチャーン」が確認できる点が重要である。これは、同社が顧客満足度を高く保ち、顧客維持率が良好であることを示しており、安定したビジネス基盤を有していることを示している。
(3) 人員構成
2024年4月末時点での同社の人員構成は、全体で229人となっており、特にエンジニアと導入・運用支援サービス部門の拡充に注力している。エンジニア部門は2023年3月末比で19人の増加を見せ、合計88人に達しており、これにより技術力の向上と製品開発の加速が期待される。導入・運用支援サービス部門は同9人増の27人、セールス&マーケティング部門は同4名増の70名となり、顧客サポートとサービスの質の向上が図られている。同社は、今後も年間10~15名の採用計画を進めており、特に新卒者の採用と将来的な業務委託分野の内製化については社内のリソースを見ながら注力する考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
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