ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(2)【中国問題グローバル研究所】

配信元:フィスコ
投稿:2024/06/19 10:28
*10:28JST ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「ニュージーランドの支援でCPTPP加盟を目指す中国(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。


台湾のCPTPP加盟申請がもたらす課題とチャンス
台湾がCPTPPへの加盟を積極的に追求しているのは、ITと半導体産業を始めとする対外貿易力の高さの表れである。これらの産業は台湾に、国際貿易における競争上の優位性をもたらしている。台湾経済部のデータによれば、台湾の半導体輸出額は2022年に1,500億ドルに達し、世界市場の15%を占めている。この市場シェアの大きさは、世界の半導体サプライチェーンで台湾が重要な役割を果たしていることを物語っている。

台湾のCPTPP加盟は、シンガポール、ベトナム、マレーシアなど一部の国の半導体産業を圧迫する可能性がある一方で、半導体サプライチェーンにおける地政学的緊張の緩和にもつながりうる。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の報告書によると、台湾の半導体生産能力は世界シェアの21%を占めており、CPTPPへの加盟は地域における半導体供給の安定化につながるだろう。世界の技術インフラの完全性と信頼性を維持する上で、半導体供給の安定化は極めて重要である。

台湾の消費市場、特に農林水産業や畜産業などのセクターは、外国産農産物の流入に反対している。過去には、米国産の七面鳥肉を輸入したところ、農家から大規模な抗議が起こり、台湾の食品市場の不安定さを浮き彫りにする結果となった。台湾農業委員会(Council of Agriculture、COA)のデータによると、2021年の米国産七面鳥肉の輸入量は1万2,000トンに達し、地元の家禽生産者からの強い反発を招いた。こうした抗議活動は、台湾に外国との競争に対する大きな抵抗感があることを示している。

CPTPPへの加盟にあたって台湾が直面する最も大きな課題のひとつが、内政における政治的な反対である。台湾の政治状況は大きく分断されており、国民党(KMT)や台湾民衆党(TPP)などの野党勢力が議会の過半数を占めている。野党勢力はしばしば与党・民進党(DPP)の政策に反対し、議会が行き詰まることが多い。民進党の貿易保護政策は、外国との競争から地元産業を守ることを目的としているが、議会で大きな抵抗にあっている。これにより、民進党はCPTPPの基準を満たす上で義務付けられている改革について議会で承認を得ることが難しくなっている。

民進党がCPTPP加盟を推進することで、より大きな社会運動に火がつく可能性もある。歴史上、貿易自由化の取り組みは、特に外国との競争激化による悪影響を恐れるセクターからの抗議を広く招いてきた。例えば、米国産七面鳥肉の輸入をめぐる論争は、貿易政策がいかに反対運動の火種になりうるかを示している。こうした抗議運動がより広範な社会運動へとエスカレートし、政府にとってさらなる圧力になりかねない。

台湾の政治的不安定さも重要な要因のひとつだ。台湾世論研究センター(台湾議題研究中心)のデータによると、60%近くの人がCPTPPへの加盟を支持しており、加盟に強い支持があることを示している。しかし、根深い政治的分断と強力な利益団体による大規模な反対の可能性が、大きなハードルとなっている。民進党は、国際貿易自由化を求める声と政治的現実とのバランスを取りながら、こうした複雑な力学を慎重に操ることを求められている。

台湾内部の政治的課題に加え、台湾は外部からの政治的圧力とも戦わなくてはならない。中国は「一つの中国」政策に基づいて、台湾の国際協定への参加に反対しており、これが状況を一層複雑にしている。それゆえ台湾政府は、内部の政治的課題に対処するだけでなく、外部の地政学的リスクを軽減する方向で外交戦略を練る必要がある。

全体として、台湾のCPTPP加盟に立ちはだかる政治的障壁は多面的であり、議会の行き詰まり、潜在的な社会不安、複雑な外交的配慮といった要素が絡み合っている。これらの課題をうまく克服するには、戦略的な政治工作、広範な合意形成、台湾内外の利害関係者との効果的なコミュニケーションが必要となるだろう。


米国のCPTPP不参加がもたらす影響
CPTPP加盟諸国は一貫して、米国の再加盟を強く望んでいる。米国が再加盟すれば、大きな市場ポテンシャルと経済的利益をもたらし、CPTPPの経済的影響力は大いに高まるだろう。米国国際貿易委員会の報告書によれば、米国がCPTPPに再加盟した場合、同協定の対象となる経済規模は現在の13.5兆ドルから約25兆ドルに増加し、協定の影響力と影響範囲は大幅に強化されることになる。

しかし、米国の政治情勢はこうした再加盟の可能性に大きな課題を突きつけている。大統領就任後に環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したトランプ前大統領は、来る11月の大統領選で有力な候補者となっており、その政策志向を見る限り、米国がCPTPPに再加盟する可能性は低い。このシナリオでは、CPTPPは加盟国間の経済統合と成長を牽引しうる強力な経済大国を欠いたままとなる。この決定を覆すことについて現政権の関心は低く、CPTPPは当初想定されていた主要プレイヤーの一角を欠いたままで運営されることになる。

米国不在のなか、CPTPP加盟国は協定の影響力と経済的利益を高めるための代替策を見つけなくてはならない。例えば、オーストラリアと日本は地域貿易と投資を促進すべく二国間協力を強化し、CPTPP全体の経済活力を高めている。これらの国々は、米国不在の影響を緩和するために貿易パートナーシップを多様化し、地域内の経済的結びつきを強化することに注力している。こうした戦略には、新たな二国間協定の締結、既存のCPTPP加盟国間における貿易障壁削減、域内の新興市場に対する投資促進などがある。

さらに、多くのCPTPP加盟国と中国が参加する「地域的な包括的経済連携(RCEP)」のような構想は、アジア太平洋における経済統合を補完する枠組みとして機能する。米国不在のすき間を埋め、地域貿易の継続的な繁栄を確保する上で、こうしたイニシアチブは力になるだろう。これらのプラットフォームを活用することで、CPTPP加盟国は経済統合と安定に向けた勢いを維持しようとしている。

米国のCPTPP不参加によって課題が生じてはいるものの、これは同時に、加盟国がこの地域の経済状況を形成する上でより積極的な役割を果たす機会でもある。加盟国が革新と協力を進めることによって、世界の貿易協定に新たな基準が打ち立てられることも考えられる。こうした環境が、加盟国のさらなる自立と新たな市場やパートナーシップの模索を促し、より多様で強靭な地域経済を育むだろう。

これらの戦略に注力することで、CPTPP 加盟国は米国の直接的な関与がなくとも、地域経済の成長と統合を促進する強固かつダイナミックな貿易協定の構築に向けて取り組めるようになるだろう。


まとめ
CPTPPへの加盟は中台双方にとって重要な戦略的目標だが、この目標を達成するには複雑な課題を乗り越える必要がある。国際的経済協力における長期的な目標を達成するため、両国は国外からの政治的圧力、国内の政治力学、経済的回復力のバランスを取ることを余儀なくされている。地政学的緊張と国内政治における障害は、慎重な対処を要する大きなハードルとなるだろう。

各国はこのプロセスを通じて、地域経済の繁栄と安定をともに促進すべく柔軟性と協力的姿勢を示さなくてはならない。CPTPPの拡大と発展は、今後も引き続き課題と機会の両方をもたらすだろう。加盟の意向を示す国が増えるにつれ、CPTPPは新規加盟国が地域の経済協力と発展に真に貢献できるよう、基準と要件を継続的に引き上げていく必要に迫られるだろう。

台湾がCPTPPへの加盟を成功させるには、多大な努力と巧みな戦略的位置取りが必要になる。加盟への道を切り開くため、台湾は外圧と内部の政治的分断との両方への対処を迫られる。これら課題を克服することで、台湾は国際的な影響力と経済力を強化するための重要なプラットフォームを得られるだろう。特にITと半導体産業における台湾の競争優位性は、台湾をCPTPPの貴重なメンバーに押し上げ、協定全体の成功に貢献するチャンスをもたらしてくれるだろう。

一方中国は、CPTPPの高い基準を満たし、公正な競争や市場アクセスに関する既存加盟国の懸念に対処しなくてはならないなど、独自の課題に直面している。中国が現加盟国から受け入れられるには、経済政策と慣行をCPTPPの原則にもっと近づける必要がある。

こうした状況では、国際協力と多国間貿易メカニズムの効果的な運用がますます重要になるだろう。世界貿易の繁栄と安定を促進するため、各国が協力していくことが必要だ。放置すればCPTPPの拡大と成功の妨げにもなりうる政治的・経済的障壁を克服するためにも、こうした協力姿勢は極めて重要である。

結論として、中国と台湾のCPTPP加盟への道のりには多くの課題があるが、その潜在的利益ゆえに追求する価値のある目標である。戦略的改革、協力の強化、高度な基準の順守を通じて、中台ともCPTPP加盟から大きな経済的・地政学的メリットを得られるだろう。


写真: The logo of Trans-Pacific Partnership (TPP) trade deal

(※1)https://grici.or.jp/


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配信元: フィスコ