スタートアップの成功に向けて

著者:鈴木 行生
投稿:2023/12/26 17:06

・2つのスタートアップ企業の社外取締役に就いている。役割は、立ち上げ期の苦労の中でも、会社がきちんと活動して、社会的に認知されるように、取締役会を監督していくことである。

・起業家には、それなりの志がある。自らの能力を活かして、仲間を集めて、事業を立ち上げていく。それをサステナブルにできるか。一定の顧客をつかんで、事業を黒字に持っていかなくては、いずれ資金が尽きてしまう。

・将来有望な事業であれば、投資家や融資を頼める金融機関を募ってファイナンスを継続することもできるが、初期の段階ではなかなか容易でない。

・岸田政権の「新しい資本主義」実現会議は、「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。スタートアップ企業への投資額を大幅に拡大して、スタートアップを生み育てるエコシステムを創り、第二の創業ブームを実現させようという意気込みだ。

・うまくいくのか。20代から50代まで、事業を起こしたい人は大勢いる。独立して、会社を経営したいという人は多い。会社を作って事業を始めることは、形式的にはやさしいが、それを続けて大きくするには相当な困難を伴う。でも、日本に中堅中小企業が200万社以上あるのだから、これからも起業家になるチャンスが大いにあろう。

・政府はスタートアップへの投資額を、5年で10倍にして、起業を加速しようとしている。①人材・ネットワークの構築、②オープンイノベーションの推進、③資金供給の強化、④出口戦略の多様化を図っていく。

・まずは起業数を増加させ、その中からユニコーン(大型ベンチャー企業)を排出させようとしている。創業から事業拡大を進め、海外展開を含めた成長によって、経済全体への波及を目指す。

・1)起業家教育、2)若手の人材支援、3)スタート時のファイナンス、4)ディープテックのR&D支援、5)IPOやM&Aの促進、などに一段と力を入れていく。

・ディープテックやライフサイエンス領域で、アーリーステージのスタートアップを、2000億円規模のグロースファンドで支援する。社会実装に向けR&Dに1000億円、創薬ベンチャーの実用化開発に3000億円の支援も用意している。

・また、グローバル展開が図れるように、1000人規模の起業家育成に向けて海外派遣を実施する。創業時の信用保証に、経営者保証が不要となるような新たな信用保証制度もスタートさせた。エンジェル税制の拡充やインパクトスタートアップの支援も盛り込んでいる。

・これで日本をスタートアップ大国にもっていけるか。ソフトバンクグループ<9984>ニデック<6594>キーエンス<6861>ファーストリテイリング<9983>エムスリー<2413>のような会社が続々と出てくるか。それには、やはり「信長の野望」のようなスピリットが欲しい。地方から全国に、国内からグローバルに育ってほしい。

・日本取締役協会は、2023年4月に「わが国のベンチャー・エコシステムの高度化に向けた提言」を出した。世界のベンチャーキャピタルがすぐに投資したくなるようなエコシステムを、日本に創る必要がある。

・従来のようなやり方では世界に通用するベンチャー企業が育ってこないという指摘を踏まえている。日本のスタートアップの育て方にはいくつかの根本的な誤解があるという。

・リスクをとって起業し、企業を育てるのは創業者であり、すべての経営を創業者に任せ、リスクを取らせようとする。本来、リスクテイキングは、投資家、銀行家が担うべきなのに、ひたすらリスク回避的なアプローチで支援をしているのではないか。

・これでは企業は育たない。日本のベンチャー企業を支えるエコシステムが、グローバルスタンダードからずれているので、海外のベンチャーファンドが入ってきにくい。日本の仕組みが、ここでもガラパゴス化しているという。

・グローバルマーケットで勝負できるスタートアップを「G型スタートアップ」と称して、G型スタートアップのためのコーポレートガバナンス(CG)のあり方やステークホルダーの規律について提言している。

・G型スタートアップのためのCGを、経営高度化のための仕組みとして、しっかり位置づける必要がある。シード期からシリーズA(アーリー期)、シリーズB(ミドル期)に、グローバルベンチャーキャピタルを招くには、彼らに合った仕組みを整えて事業を展開する必要がある。

・創業者がベストの経営者とは限らない。ベストCEOを選定する仕組みが必須で、その経営陣に対する実効性の高い監督が求められる。グローバルベンチャーキャピタルが株主に入ってきても、高い経営能力が発揮できる仕組みを早めに作っておく。

・シリーズA、シリーズBの局面で、誰がファイナンスに応じてくれるか。PFI(Product Market Fit)の観点からみて、収入がコストを上回るような状況が見込めるか。

・PFIのための投資(シリーズA)や、顧客やマーケットを広げるための開発投資やマーケティング投資(シリーズB)が十分対応できるか。既存の投資家によるフォローオン投資(追加的投資)や新規投資家の開拓が勝負の分かれ道となる。

・IPOやM&Aで、創業者のインセンティブが緩んで、マインドセットが変節するようでは困る。企業の発展ステージによって、経営者や組織に求められる資質はどんどん高度化する。これを担う人材の適所適任がCGの本来的やるべきことである。

・提言では、わが国ベンチャーキャピタルの企業価値評価の仕組みが、グローバルスタンダードであるIPEVガイドライン(International Private Equity and Venture Capital Guideline)による公正価値評価に十分合致していないという。

・簡便的な方法によっているため、ベンチャーファンドに投資しているリミテッドパートナーが、パフォーマンスをグローバルに評価できない。もっと比較可能にする必要がある。

・まずは黒字化、次に一定の報酬が得られるように、起業家は必死である。このプロセスで不正がまかり通ってしまうこともある。次が、取り敢えずIPOを目指して、スモールIPOに成功する。

・ところが、ビジネスモデルの進化が止まってしまうと、ここで成長も一段落してしまい、次のステップに進めない。創業者は数10億円の時価に満足して別のことに目が向いてしまう。そういう経営者も多い。

・志には必ず社会的価値の実現が根っこにあり、それが自らのパーパス(存在意義)である。経済的価値にとらわれ過ぎて、短期の金儲けに走ってしまうと後が続かない。

・少しゆとりが出たところで、志がゆるまないように、ガバナンスを効かせながら次の高みを目指してほしい。成功者は今のレベルに甘んずることなく、自らの成長だけでなく、バリューチェーン全体の価値創造にも力を注いでほしい。そして、次の社会的価値創り、すなわち社会的課題の解決に領域を広げてほしい。

・これからも、「日本の将来を担うリスクをマネージできる投資家と企業家を育成すること」(私のパーパス)に邁進したい。日本のスタートアップが続々と力をつけてくることに注目したい。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム

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