・ウクライナ紛争で、エネルギーの多様化、食料自給の向上が改めて課題となっている。これまでの前提が崩れると、西側の民主主義も危うくなる。ポピュリズムの台頭や分断によって、リーダーが合理的な政策をとらなくなると、ロシアを倒すつもりが、自らの弱みをさらすことにもなりかねない。
・インフレを抑制しようと金利を上げていくと、景気は悪くなっていく。それを財政でカバーしようとすれば、財政赤字が拡大する。それに耐えられればよいが、そうでないと通貨安を招き、不均衡が一気に表面化する。英国のポンド安はその表れであり、途上国では債務問題がこれから深刻化してこよう。
・新型コロナパンデミックでは、ワクチンの開発において、技術革新の成果が大きく貢献したが、成果の波及という点では格差を広げた。企業にとってビジネスの利益は必要であり、どの国でも自国優先でワクチンを手に入れようとした。
・社会的課題の解決をビジネスとの両立で展開することを、新しいソーシャルビジネスとしてやるのか、従来の資本主義でやるのか。さまざまな挑戦が始まっている。
・ユヌス氏(2006年ノーベル平和賞)が提唱する「スリー・ゼロ・クラブ」では、①CO2ゼロ、②失業ゼロ、③富の集中ゼロを目指す。これはSDGsに向けて、サステナビリティを確保する仕組みであるESGを、マクロ的にみたものといえよう。E(環境)、S(働き方)、G(稼ぎ方)のあり方を、国を超えて問うている。
・いくら社会的使命があるといっても、稼がなくては長続きしない。しかし、民間企業の活動には限界がある。経済社会の外部性に目をつぶって、自らの利益を優先するというビジネスモデルのあり方に、見直しが求められている。
・自然資本、社会インフラ資本、制度資本などの社会共通資本(コモンズ)を使っている限り、それにただ乗りすることはできない。それらを使うコストを、費用と認識するだけではなく、資本コストとしてそれが生みだす価値(インパクト)も明確にしていく必要がある。
・価値創造の仕組みであるビジネスモデルは、どこかで明確に差異化しなければ、独自の価値は生み出せない。マーケットを見た時、創世期の市場にはまだルールがないことも多い。一方で、成熟市場ではルールが固まっている。どの市場でいかに競争するのか、一定協調はありうるのか。つまり、マーケット作りの勝負ともなっている。
・どの産業、企業においても、①変革期には、我こそは新しいプラットフォームを作りたい、②そこの覇者となって、圧倒的マーケットのリーダーになりたい、と考える。Web2.0において、GAFAは巨大となったが、Web3.0ではどうなるか。規模だけなく差別化したニッチ企業にもチャンスは広がっている。
・「新しい資本主義」では、私企業の私的利益追求だけでなく、社会的公益を何らかの形で、組み込もうとしている。SDGsに代表される社会的価値との両立を図ろうとする。
・EのCO2削減でいえば、その実効性が問われる。グリーンウォッシングは問題外として、実質的貢献を果たしていく。そのためのトランジション戦略が重要である。イノベーションが求められ、制度変更も関わってこよう。
・Sの働き方では、日本の場合、人材の流動性、リスキリングが問われる。その象徴が非正規労働者にある。主婦がパートで働きたい、一定の季節だけ働きたい、能力を活かして自由に働きたい、という理由が生きている時代はよかったが、今や別の構造問題となっている。
・本当は能力があるのに、正規労働に就けない。正規労働にもっと自由度があれば、働き易くなる。正規労働は解雇できないから、しかたなく使うしかない。正規労働に学ぶ機会を与えると、すぐに辞めてしまうので、今のまま使った方がよい。非正規労働は学ぶ機会すら与えられない。こうした問題が表面化している。
・しかし、労働力不足は既に深刻化している。パート・アルバイトから、やる気のある人々を正社員化する動きもある。パート・アルバイトにも学ぶ機会を設けて、スキルアップを生産性向上に活かしている会社もある。つまり、人材の潜在能力をもっと引き出すことができる。
・Gのガバナンスでは、大企業の不祥事が目立つ。ガバナンスがうまくいっている会社では、ガバナンスのインパクトは目立たない。問題を起こした会社では、経営陣のゆるみが顕在化し、社外取締役が機能していなかったこともわかってしまう。
・「攻めのガバナンス」どころか、「守りのガバナンス」が機能していなかった。最近の自動車業界における品質検査不正などもその典型であろう。
・例えば、筆者が不祥事を起こした自動車会社の社外取締役であったら、20年間にも及ぶ不正を見つけられたであろうか。実質的親会社からの天下り社長が社内を把握できず、内部統制の仕組みをチェックして実態に迫ることもできなかった。
・しかし、内部に分かっていた人は大勢いる。長年、不正に加担してきた人も多い。そこから事実を引き出すしかない。難しいと言わずに、何としてもやるべし。それがいざという時の胆力であろう。
・価値創造が従来型の狭い意味での利益追求に汲々としていると、環境汚染を何とも思わず、パート・アルバイトに疑問を持たず、社内の不正に目をつぶってしまうのかもしれない。そんな企業に投資はしたくないし、株主にもなりたくない。
・企業価値の向上は、利益の極大化ではない。適切な付加価値の持続的な増大である。そこには、極大化ではなく、何らかの‘満足度基準’の設定が必要である。
・もっとR&D投資をしてほしい。もっと人財投資をしてほしい。社会的価値のインパクトに貢献してほしい。もちろん、それを成すだけの利益は上げてほしい。ステークホールダーの価値を満足度から見直すことに一段と注目したい。
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