資源・新興国通貨の2023年3月までの展望

著者:八代和也
投稿:2022/11/28 15:58

豪ドル

RBA(豪中銀)は11月1日の政策会合で0.25%利上げすることを決定。政策金利を2.60%から2.85%へと引き上げました。0.25%の利上げは2会合連続です(利上げは6会合連続)。

豪州の7-9月期CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比7.3%、トリム平均値は同6.1%と、いずれも4-6月期(6.1%、5.6%)から上昇率が加速。RBAのインフレ目標(2~3%)から一段と上方へ乖離しました。RBAは今後も利上げを続けるとみられるものの、0.25%の利上げペースを維持する可能性が高いとみられます。インフレが7-9月期に加速したにもかかわらず、11月会合での利上げ幅が0.25%だったからです(利上げ幅を10月から拡大しなかった)。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、RBAは次回12月6日の会合で0.25%の利上げを行い、RBAの政策金利は23年7月には3.85%へと上昇するとの見方が有力です。一方で、日銀は金融政策の現状維持を続けるとみられます。RBAと日銀との金融政策の方向性の違いを考えれば、豪ドル/円は堅調に推移しそうです。

豪ドル/米ドルは、米FRBの金融政策にも注目です。FRBの利上げ観測が一段と後退する場合には、豪ドル/米ドルは底堅い展開になりそうです。

豪ドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。豪ドル/円と豪ドル/米ドルのいずれも、米国など主要国の株価動向には注意が必要です。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まれば、豪ドルの下落要因になる可能性があります。

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【豪ドル/NZドル】
RBAは11月1日の政策会合で0.25%の利上げを行いました。一方で、RBNZ(NZ中銀)は11月23日の会合で利上げ幅をこれまでの0.50%から0.75%へと拡大したうえ、会合では1.00%利上げすることも検討。さらにRBNZの政策金利見通しでは、政策金利のピーク水準が8月時点の4.10%から5.50%へと大きく上方修正されました。RBAとRBNZの金融政策スタンスの差を考えれば、豪ドル/NZドルには下押し圧力が加わりやすいとみられます。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の利上げペース。RBAはどこまで政策金利を引き上げるのか。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料。
・資源(主に鉄鉱石)価格は上昇するか。資源価格の上昇は豪ドルの上昇要因。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は11月23日の政策会合で0.75%の利上げを行うことを決定。政策金利を3.50%から4.25%へと引き上げました。利上げは9会合連続で、利上げ幅は10月までの5会合の0.50%から拡大されました。また、会合ではより大幅な1.00%利上げすることも検討されたうえ、RBNZは政策金利のピーク水準の見通しを8月時点の4.10%から5.50%へと上方修正しました。こうしたRBNZのタカ派的な姿勢は、NZドルにとってプラス材料です。

RBNZは今後も利上げを続けると市場は予想しています。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によれば、RBNZの政策金利は23年7月までに5.50%へと上昇するとの見方が有力です。一方で、日銀は金融政策の現状維持を続けるとみられます。RBNZと日銀との金融政策の差を考えれば、NZドル/円は上値を試す可能性があります。

NZドル/米ドルについては、米FRBの金融政策にも注目です。FRBの利上げ観測が一段と後退すれば、NZドル/米ドルのさらなる上昇要因になりそうです

NZドルは豪ドルと同様に、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)にも影響を受けやすいという特徴があります。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合、NZドルの下落要因になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・米FRBの金融政策。どこまで利上げするのか。
・主要国の株価動向には注意が必要。リスクオフはNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品価格の動向。乳製品価格の上昇はNZドルにとってプラス材料。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は、前回10月の政策会合まで6会合連続で利上げを実施しており、現在の政策金利は3.75%です。

BOCは今後さらに政策金利を引き上げる意向を示す一方、「現在の利上げ局面は終了に近づきつつある」との見方も示しています。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によれば、BOCは12月と23年1月にいずれも0.25%の利上げを行い、それをもって利上げを停止するとの見方が有力です。BOCと日銀の金融政策面からみれば、カナダドル/円は堅調な展開が予想されるものの、CPI(消費者物価指数)などカナダの経済指標によってBOCの利上げ停止観測が強まる場合、カナダドル/円は伸び悩む可能性があります。

米ドル/カナダドルについては、米FRBの金融政策にも注目です。FRBの利上げ観測が後退すれば、米ドルが全般的に軟調に推移して米ドル/カナダドルは上値が重い展開になりそうです。

原油価格や主要国の株価動向には注意が必要です。世界的な景気減速への懸念が強まれば、原油価格(米WTI原油先物が代表的な指標)には下押し圧力が加わりやすいと考えられ、また主要国の株価が下落を続ければ、リスクオフ(リスク回避)の動きが強まるかもしれません。その場合、カナダドルの下落要因になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・米FRBの金融政策。どこまで利上げするのか。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はカナダドルにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、カナダドルは軟調に推移か。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は11月24日の政策会合で1.50%の「利下げ」を行うことを決定。政策金利を10.50%から9.00%へと引き下げました。利下げは4会合連続です。

トルコではインフレが加速しており、トルコの10月のCPI(消費者物価指数)は前年比85.51%と、上昇率は24年ぶりの高さでした。こうした状況にもかかわらずTCMBが利下げを行ったのは、年内に政策金利を1桁にするよう求めていたエルドアン大統領の意向を反映したと考えられます。

11月の利下げによってトルコの実質金利(政策金利からCPI上昇率を引いたもの)のマイナス幅は一段と拡大しました。このことはトルコリラ安要因です。

TCMBは11月会合時の声明で、「8月に開始した利下げは終了した」と表明。利下げのいったん停止を示唆しました。ただ、トルコでは23年6月に大統領選が行われる予定です。景気の浮揚に向けてエルドアン大統領は23年にもさらなる利下げを求める可能性があり、その場合にはTCMBは利下げするかもしれません。トルコリラ/円は米ドル/円の動向にも影響を受けやすいものの、6.087円(21年12月につけた過去最安値)に接近する可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)がさらに利下げする場合、トルコリラには下押し圧力が加わりそう。
・金融政策をめぐるエルドアン大統領の言動には要注意。
・トルコと米国やEUとの関係は改善するか。
・シリア情勢などトルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は11月24日の政策会合で0.75%利上げすることを決定。政策金利を6.25%から7.00%へと引き上げました。利上げは7会合連続です。

南アフリカの10月CPI(消費者物価指数)は前年比7.6%と、上昇率は9月の7.5%から加速し、SARBのインフレ目標(3~6%)を6カ月連続で上回りました。インフレの抑制に向けてSARBは今後さらに政策金利を引き上げる可能性があり、南アフリカランド/円は底堅く推移しそうです。

南アフリカでは発電設備の老朽化などによって慢性的な電力不足に陥っており、計画停電が度々実施されています。計画停電が長期間行われるような状況になれば、南アフリカ景気をめぐる懸念が強まって南アフリカランドの下落要因になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・南アフリカで計画停電が長期間行われる場合、南アフリカランドの下落要因になる可能性も。
・金など商品価格の動向。商品価格の上昇は南アフリカランドにとってプラス材料。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は11月10日の政策会合で0.75%の利上げを行うことを決定。政策金利を9.25%から10.00%へと引き上げました。利上げは12会合連続です。

BOMが利上げを続けているにもかかわらず、メキシコのインフレ圧力は依然として強い状況です。メキシコの11月前半のCPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比8.14%、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は同8.66%と、BOMのインフレ目標(3%。2~4%が許容レンジ)を大きく上回りました。

インフレの抑制に向けてBOMは利上げを当面続けるとみられます。BOMと日銀の金融政策の方向性の違いを考えれば、メキシコペソ/円は堅調に推移しそうです。

原油価格や主要国の株価動向には注意が必要です。カナダドルと同様、原油価格が下落を続ける、あるいはリスクオフの動きが強まる場合にはメキシコペソ/円は上値が重くなりそうです。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)と日銀の金融政策の違いをみればメキシコペソ/円は堅調に推移か。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はメキシコペソにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフは円にとってプラス材料。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想