・パーパス経営が流行語になっている。新しい言葉が出てきた時にはとりあえず学びたい。しかし、10年経ってみると当たり前に定着する場合と、次の流行語に移って使われなくなっている場合もある。パーパスはどうなるだろうか。
・わが会社のパーパス(存在意義)とは何か。経営理念やビジョンを社会的存在意義から改めて問うている。これをきれいごとでなく、本当に実践していくには、どうしたらよいか。8月に丸井グループの青井社長の話を視聴する機会があった。
・会社の統合報告書やサステナビリティレポートを読みながら感じたことも含めて、いくつか取り上げてみたい。企業価値は6つのステークホールダーと一緒に作っていく。短期の利害がぶつかるところも、長期的に重ね合わせていくと広がりが出てくる。ステークルダーに今の人たちだけでなく、将来世代を入れているところが大きな特色である。
・2022年3月期から新5か年計画がスタートした。そこではインパクト(インパクト=ステークホールダー価値=企業価値)を最も重視している。これまで財務のKPIを設定してきたが、それだけではわくわくしない。財務のために5年間頑張るのか。明らかに違う。もっとやりがいのある目標を設定して、これをインパクトにしたいと考えた。
・いきがいをみつめて、①したいこと、②できること、③稼げること、④ステークホールダーが求めていること、これらが重なるところをインパクトと定義し、ここを大きくしていく。
・丸井はパーパスという言葉を使っていない。流行にとらわれず、自分たちで考えていく。これまで経営理念をベースに10年間対話を続けてきた。社員とは、1回に6~10人が集まり、1時間ほど話をしてきた。
・こうした対話を始めたら、当初は退職率が上がったという。新しいやり方に合わない人がやめていった。その後、退職率は大きく下がった。最近は丸井の経営理念とその運営に共感する社員が入ってくるようになった。入社3年以内の退職率も大幅に下がっている。世の中平均の3分の1のレベルである。
・ステークホールダーについて、企業サイドにも選ぶ権利があると青井社長は強調する。投資家を選ぶことはできないが、投資家に対して強く意見を表明することはできる。株主であるみさき投資の中神氏に社外取締役に入ってもらい、意見を聞いている。
・企業文化を変えるには、覚悟と時間が必要である。リーマンショックと貸金業法の改正で、2回も赤字になり経営は危機的状況に陥った。従来の経営スタイルの賞味期限が切れていたので、ビジネスモデルを作り変える必要があった。
・社員とのエンゲージメントでは、とりわけ具体的な対話を重視し、共感の和が広がるように努めている。それが共創を生み、信頼を醸成していく。
・人の成長の範囲でしか企業は成長しない、と青井社長は明言する。人財は、1)パフォーマンスと2)バリューの2次元で評価している。360°評価を実施し、育てると自らも評価される。マネジメントスタイルは、上意下達ではなく、支援するマネジメントを実践している。
・やらされ感では人は伸びない。できないことをやれと言っても無理である。そこで、挙手制を全面的に取り入れた。会議でもプロジェクトでも、参加したい人、やりたい人だけにまかせるようにする。最初は手が上がらなかったが、手を上げて動いた人が楽しそうにしている。それを見て、多くの社員が動くようになった。
・新規事業のアニメも6~7人からスタートした。好きな連中が集まって仕事を展開し、10名の募集に200名が応募するようになった。4年で収益事業に育っている。
・働き甲斐より生き甲斐の方が大事である、と青井社長は語る。ワークライフバランスより、“works as life”。「努力は情熱に勝てない」、命令で動くのは楽しくない。幸せ(well-being)は主体性、自主性にある。
・利益よりもESGが大切である。実際、丸井グループの株価にはESGプレミアムがついている。つまり、利益の伸びよりも株価の上昇が高い、と青井社長は認識している。
・流行や借り物のアイデアは定着しない。たどたどしくても自分たちの頭で考え、自分たちの言葉で語ることを重視する。それを表現していく。そのうちに独自のスタイルになってくる。これを実践している。
・新しいことへの挑戦、イノベーションでは、1)本業活性型(アニメ、ポップアップなど)、2)自社だけではできないことは共創投資で協業、3)インキュベーションの会社には、アクセラレータに入ってもらい、社員も入れて育成、ということに力を入れている。
・青井社長は、①経営者が覚悟をすれば、会社は変わる、②社員の生き甲斐を起点にして、ここにこだわる、③時間がかかっても信念を持って信頼していく、と語った。素晴らしい、こんな会社で働きたい。
・会社は変われる。そこには変わり方がある。個性があって、多様でよい。変わりそうな会社を見出して、投資を通じて応援したい。
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