必至のポートフォリオ大改造<前編>

著者:武者 陵司
投稿:2022/10/13 13:30

―日本株爆騰開始前夜の可能性―

 今の日本株を語るとき、チャーチルの名言ほどぴったりはまるものはないだろう。

・凧は追い風ではなく、逆風に向かう時最も高く上がる。
 Kites rise highest against the wind ― not with it.

・悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見いだす。楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見いだす。
 A pessimist sees the difficulty in every opportunity; an optimist sees the opportunity in every difficulty.

・私は楽観主義者だ。それ以外のことは、あまり役に立たない。
 I am an optimist. It does not seem too much use being anything else.

(1) 思い知らされる債券投資リスク

 惨憺たる9月が終わった。8月末のジャクソンホールでのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のスピーチ以降、市場で広がっていた早期利下げ期待が急速に後退した。特に、9月21日の連邦公開市場委員会(FOMC)によるターミナルレートの大幅な引き上げが決定打となった。FFレート年末予想値(参加メンバーの予想中央値)が2022年末4.4%、2023年末4.6%と、6月時点での予想(2022年末3.8%、2023年末3.8%)から、それぞれ1%もの大幅引き上げとなり、底値買いを狙って買いを入れた短期筋のはしごを外した。

 米国長期金利の急騰に突き動かされ、四半期末と重なって世界株式は底割れの惨事となった。楽観論総崩れの様相である。

金利急騰の直撃を受けた英国年金のレバレッジ型債券投資

 象徴的なのは、英国金融市場の混乱であった。折悪しく、FOMCのドットチャート発表、米国長期金利の急上昇とほぼ同時(23日)に、トラス新首相とクワーテング新財務相による450億ポンドの減税を含むミニ予算が発表された。これが財政赤字不安を掻き立てたことで、イギリスでは長期金利が急上昇し、スターリングポンドの急落、株価急落を伴ってトリプル安が起きた。

 この英国長期金利の急騰を引き起こしたのは、年金筋の国債売りである。英国の確定給付型年金では、リスクの高い株式を大きく減らし債券の比率を高める一方、レバレッジを使ってリターンを高める戦略(Liability-Driven Investment Strategy)がとられてきた。そこに債券価格の急落が襲い、担保価値の急減、追い証の発生と売りが売りを呼ぶ連鎖を引き起こした。

 イングランド銀行は緊急避難策を発動し、国債の緊急買い入れ(事実上のQE:量的緩和の復活)を実施しパニックは収まったが、金利リスクの大きさを思い知らされる事態となった。

日本でも懸念される機関投資家の外債投資損失

 米国長期金利の急騰による損失は、日本の機関投資家においても発生していると推察される。米国長期国債価格は過去1年間で2割下落した。この損失は、過去1年間の2割以上の円安による為替益によってまるまるカバーされた。しかし、為替ヘッジをしていた投資家は、米国国債の暴落の直撃を受けることになった。

 ここにきての円急落、為替ヘッジコストの急上昇により、日本の銀行、生損保など機関投資家はヘッジ比率を引き下げていると推察されるものの、4割程度はヘッジされているのではないか。とすれば、各社において相当の運用損失が発生している可能性がある。

 第一生命の一般勘定における2022年度の資産運用方針をみると、公社債48%、ヘッジ付き外債17%、貸付金7%、株式など15%、オープン外債5%、不動産その他8%となっており、外国債券の3分の2で為替ヘッジがされている。ヘッジ外債は安全資産であるという思い込みが大きな見込み違いを引き起こした可能性がある。

 日本最大の外債プレーヤーはゆうちょ銀行で、郵便貯金で集めた資金を内外市場で運用している。235兆円(22年6月末)の運用資産のうち141兆円が有価証券運用に振り向けられ、そのうち76兆円が外国証券(大半は債券)である。この外債投資が為替ヘッジ付きでなされているとすれば、そのダメージは無視できないだろう。

真打ちは予想される日本国債の大幅下落……YCC解除は時間の問題

 このように欧米の金利急騰が波乱を引き起こしているが、金利リスクとなればまず懸念されるのが、今はYCC(イールドカーブ・コントロール)で抑えられている日本の長期金利の帰趨である。日銀による政策変更はまだ見通せないが、どこかの時点でサプライズが起きる可能性は十分にある。市場はそれを予期して日本国債を売り始めるかもしれない。日本の長期金利急騰、債券暴落は2~3年の中期予想ではメインシナリオになっていくかもしれない。

(2) 最後に残った有望リスク資産、日本株式

焦眉の本邦機関投資家ポートフォリオ大改造、日本株にウェートを

 このように世界的金利上昇と債券のボラティリティの高まりを所与のものとすれば、外国債券にウェートを置いてきた日本の銀行、生保、年金などの機関投資家のポートフォリオは大改築が必要になってくるのではないだろうか。

 日本の銀行・機関投資家の資金運用はかつては国債投資主体であったが、2013-14年の日銀異次元の緩和、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用改革以降、外国証券をリターン追及のためのリスク資産の中枢に据えてきた。GPIFのポートフォリオ推移をみると、アベノミクスの一環として始められたGPIF改革により、外国債券、外国株式、日本債券、日本株式の各々を4分1とする構成にシフトしたことがわかる。

 改革直前の2012年度から2021年度までの10年間では、総資産年平均6.6%の高リターンが実現し、収益累計は105兆円と、運用資産(197兆円)の過半を占めるという良好な成果がもたらされた。資産クラスごとの収益率をみると、日本債券1.0%、外国債券5.6%、日本株式10.8%、外国株式15.4%となっており、2013-14年の改革が功を奏したことがわかる。

 日銀の異次元の量的・質的金融緩和(QQE)は、これらGPIF、ゆうちょ銀行をはじめとする日本の金融機関・機関投資家が保有していた国債を肩代わりし、それらのポートフォリオリバランスを可能にしたという点で、大きな役割を果たした。

 しかし、これからも、外国債券、外国株式、日本債券、日本株式が各々4分の1の構成のままでよいとは限らない。そこには深い戦略的洞察が必要である。そもそも大幅な円安と為替変動、外国株式の急落により外貨主体のリスクテイクの問題がにわかに強まっている。

外貨資産投資、日本債券投資はにわかにリスクが高まった

 以下の3点はほぼ確かだろう。

(A)外貨資産は、安定収益を狙うには為替変動があまりにも大きい。また、為替ヘッジコストが恒常的に高くなり手が出せなくなっている。

(B)日本国内債券の金利リスクは、YCCの出口が意識されるにつれ、否が応でも高くなる。

(C)バリュエーションと収益モメンタムから見た国内株式の優位性が突出する。

 銀行・機関投資家の間で、資金運用対象の中心に日本株式を据えざるを得ない時代が来つつあるのではないだろうか。銀行の場合は資本規制、生保の場合はソルベンシーマージン規制があり、リスクウェートの高い株式投資はしにくい状況もあるが、それでも戦略的対応の余地はあるだろう。なお、自国国債をリスクウェートゼロとするバーゼル資本規制は現実にそぐわず、修正されるべきではないだろうか。

<後編>へ続く
 

配信元: みんかぶ株式コラム