■中期経営計画
1. 長期経営構想
エネルギー産業、とりわけシナネンホールディングス<8132>が主力とする石油・ガス産業は、ここまで指摘してきたように厳しい環境にある。そして同社もまた、世界的な脱炭素やSDGsへの意識の高まり、気候変動への対応などから、エネルギーサービス企業として責任ある対応が求められている。当然ながら同社もこうした状況を十分理解しており、2027年の創業100周年に向けた長期経営構想のなかで、「人財」と既存事業という経営基盤を強化しつつ、新規事業を開発し、持続的成長と企業価値向上を目指すとしている。なお、長期経営構想は第一次から第三次の中期経営計画として実行計画に落とし込まれており、第一次中期経営計画(2018年3月期~2020年3月期)で事業の選択と集中、資本の効率化に着手、第二次中期経営計画(2021年3月期~2023年3月期)では、創業100周年や第三次中期経営計画に向けたマイルストーンとして、選択と集中及び資本の効率化によって収益力を強化して事業基盤を整備、第三次中期経営計画(2024年3月期~)でさらなる飛躍・躍進を目指し、2027年の創業100周年を迎えるというシナリオになっている。
第二次中期経営計画は創業100周年へ向けての基礎固め
2. 第二次中期経営計画
繰り返しになるが、2020年4月にスタートした第二次中期経営計画は、第三次中期経営計画でさらに飛躍・躍進するための、そして、創業100周年に持続的な成長を続ける組織となるためのマイルストーンという位置づけである。そこで、スローガンとして「Challenging New Worlds with Big Sky-thinking~大胆な発想で新しい世界への挑戦」を掲げ、「資本効率の改善」、「持続的成長を実現する投資の実行」、「社員の考え方・慣習・行動様式の変革」という3つの定性目標を設定した。
「資本効率の改善」では、既存事業の利益率向上策に加え、低効率資産の活用・売却や事業の選択と集中を強力に推進する。「持続的成長を実現する投資の実行」では、M&Aによる既存事業の収益基盤強化、関東での建物維持管理事業のM&A、国内外での再生可能エネルギー事業の推進、シェアサイクル事業など優先実行する事業の明確化を進める。一方で、既存のエネルギー事業の競争力の維持・強化のため、環境変化に対応した高度な基幹システムの構築やLPWA※などITを駆使した業務の効率化を目指してDXを推進する。「社員の考え方・慣習・行動様式の変革」では、職を楽しむ働き方改革、適材適所の人材配置、自由闊達な社内風土の醸成、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持った多様な社員の育成によって、予測不能な時代にも対応できる企業風土・企業体質への改善を目指している。一方、定量目標も掲げており、持続的に「ROE6.0%以上」を生み出す事業構造の確立を目指している。営業利益などその他の定量目標はないが、その理由は、第二次中期経営計画が、創業100周年を臨む第三次中期経営計画においてさらなるROE向上や成長性を確保するためのマイルストーン(中間達成目標)として位置付けられている、つまり、収益や成長の基盤を構築する先行投資期間になるためである。
※LPWA(Low Power Wide Area):省電力かつ広域対応の通信技術(IoT技術)。エネルギー業界では、LPガスのメーターに応用することでリアルタイムの自動検針が可能となる。このため、検針や配送作業などのコスト削減や新たなサービスの創出などが期待されている。
中期成長をけん引する新規事業を育成
3. 第二次中期経営計画のセグメント別施策
BtoC事業では、M&Aによるシェア拡大や新規商材による顧客深耕によって経営基盤を強化する戦略である。石油・ガス事業では、営業権の買収やガス事業者のM&Aなどにより顧客基盤を拡大・強化、自社営業により直販顧客の獲得も進める。また、物流アライアンスやLPWAなどを活用して業務の効率化も行う。電力事業では、ガス・灯油とのセット販売や登録店・取次店方式・パートナーなどを活用して「ミライフでんき」の拡販を図る。住まいと暮らしその他の新規事業では、水回りリフォーム専門店やアフターFIT商品※の拡充による顧客層の拡大、顧客管理システムを利用した効果的な営業の仕組みづくり、石油からガス、電気、住まいと暮らしまでのワンストップサービスの確立、空き家管理サービスなど不動産関連サービスの拡充などを進める方針である。
※アフターFIT商品:FIT(Feed-in Tariff)とは、太陽光など再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取る固定価格買取制度のこと。アフターFITとは買取期間終了後の課題を指し、現在は買い取りの新制度化や自家消費としての有効利用などが課題解消の候補。いずれにしろ、同社にとっては蓄電池やメンテナンスなど新たな需要が期待される。
BtoB事業は、既存事業の安定的な成長に加え新規事業の開発により高い収益を目指す戦略である。石油事業では、物流機能の強化、グループ会社と連携した拠点の開発・整備に加え、好採算の川下分野の軽油販売や灯油宅配でホームセンターなどと協働して収益力の向上を図る。電力事業では、取次店開拓のほか、法人向け低CO2電力など環境配慮型料金メニューの拡充や、太陽光発電関連のメンテナンス事業で製販一体化した新商材・新販路の開発を進める。新規事業では、風力などの再生可能エネルギー事業への投資、新型マイクロ風車関連事業の開発促進を推進する計画である。
非エネルギー事業では、各事業の環境や特性に応じた成長戦略を展開する考えである。建物維持管理事業では、事業エリアの関東全域への拡大と設備工事・保守事業への展開に加え、集合住宅メンテナンスのワンストップサービスの推進を図っていく。自転車事業では、プライベートブランド開発による顧客開拓と収益力強化に加え、「ダイシャリン」店舗の構造改革を図る。シェアサイクル事業では、ステーションの設置エリアをドミナント化することによる運営の効率化や、自治体・コンビニ・不動産会社などとの連携を推進する。環境・リサイクル事業では、木質チップ工場の安定稼働と効率化による収益安定化、新商材やバイオマス燃料事業の開発を図る。抗菌事業では、抗菌・消臭の総合ソリューション事業への進化を目指す一方、鉛吸着剤など製品開発も進める。システム事業では、機能強化やサービス拡大による顧客獲得とIoTを活用した新規事業開発を推進する。
こうしたなかで、創業100周年へ向けて中期成長をけん引することが期待される注目事業がいくつかある。詳しくは後述するが、BtoB事業の韓国再生可能エネルギー事業、新型マイクロ風車関連事業、シェアサイクル事業、建物維持管理事業などである。特にシェアサイクル事業は、2022年3月期も着実な進展があった。そのほか、東京都港区の旧本社ビルを活用して2020年にスタートしたシェアオフィス「seesaw」では、単なるシェアオフィスというだけでなく、新規事業創出のシーズを発掘するという役割も担っており、スタートアップ企業の支援を積極化する方向性である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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1. 長期経営構想
エネルギー産業、とりわけシナネンホールディングス<8132>が主力とする石油・ガス産業は、ここまで指摘してきたように厳しい環境にある。そして同社もまた、世界的な脱炭素やSDGsへの意識の高まり、気候変動への対応などから、エネルギーサービス企業として責任ある対応が求められている。当然ながら同社もこうした状況を十分理解しており、2027年の創業100周年に向けた長期経営構想のなかで、「人財」と既存事業という経営基盤を強化しつつ、新規事業を開発し、持続的成長と企業価値向上を目指すとしている。なお、長期経営構想は第一次から第三次の中期経営計画として実行計画に落とし込まれており、第一次中期経営計画(2018年3月期~2020年3月期)で事業の選択と集中、資本の効率化に着手、第二次中期経営計画(2021年3月期~2023年3月期)では、創業100周年や第三次中期経営計画に向けたマイルストーンとして、選択と集中及び資本の効率化によって収益力を強化して事業基盤を整備、第三次中期経営計画(2024年3月期~)でさらなる飛躍・躍進を目指し、2027年の創業100周年を迎えるというシナリオになっている。
第二次中期経営計画は創業100周年へ向けての基礎固め
2. 第二次中期経営計画
繰り返しになるが、2020年4月にスタートした第二次中期経営計画は、第三次中期経営計画でさらに飛躍・躍進するための、そして、創業100周年に持続的な成長を続ける組織となるためのマイルストーンという位置づけである。そこで、スローガンとして「Challenging New Worlds with Big Sky-thinking~大胆な発想で新しい世界への挑戦」を掲げ、「資本効率の改善」、「持続的成長を実現する投資の実行」、「社員の考え方・慣習・行動様式の変革」という3つの定性目標を設定した。
「資本効率の改善」では、既存事業の利益率向上策に加え、低効率資産の活用・売却や事業の選択と集中を強力に推進する。「持続的成長を実現する投資の実行」では、M&Aによる既存事業の収益基盤強化、関東での建物維持管理事業のM&A、国内外での再生可能エネルギー事業の推進、シェアサイクル事業など優先実行する事業の明確化を進める。一方で、既存のエネルギー事業の競争力の維持・強化のため、環境変化に対応した高度な基幹システムの構築やLPWA※などITを駆使した業務の効率化を目指してDXを推進する。「社員の考え方・慣習・行動様式の変革」では、職を楽しむ働き方改革、適材適所の人材配置、自由闊達な社内風土の醸成、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持った多様な社員の育成によって、予測不能な時代にも対応できる企業風土・企業体質への改善を目指している。一方、定量目標も掲げており、持続的に「ROE6.0%以上」を生み出す事業構造の確立を目指している。営業利益などその他の定量目標はないが、その理由は、第二次中期経営計画が、創業100周年を臨む第三次中期経営計画においてさらなるROE向上や成長性を確保するためのマイルストーン(中間達成目標)として位置付けられている、つまり、収益や成長の基盤を構築する先行投資期間になるためである。
※LPWA(Low Power Wide Area):省電力かつ広域対応の通信技術(IoT技術)。エネルギー業界では、LPガスのメーターに応用することでリアルタイムの自動検針が可能となる。このため、検針や配送作業などのコスト削減や新たなサービスの創出などが期待されている。
中期成長をけん引する新規事業を育成
3. 第二次中期経営計画のセグメント別施策
BtoC事業では、M&Aによるシェア拡大や新規商材による顧客深耕によって経営基盤を強化する戦略である。石油・ガス事業では、営業権の買収やガス事業者のM&Aなどにより顧客基盤を拡大・強化、自社営業により直販顧客の獲得も進める。また、物流アライアンスやLPWAなどを活用して業務の効率化も行う。電力事業では、ガス・灯油とのセット販売や登録店・取次店方式・パートナーなどを活用して「ミライフでんき」の拡販を図る。住まいと暮らしその他の新規事業では、水回りリフォーム専門店やアフターFIT商品※の拡充による顧客層の拡大、顧客管理システムを利用した効果的な営業の仕組みづくり、石油からガス、電気、住まいと暮らしまでのワンストップサービスの確立、空き家管理サービスなど不動産関連サービスの拡充などを進める方針である。
※アフターFIT商品:FIT(Feed-in Tariff)とは、太陽光など再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取る固定価格買取制度のこと。アフターFITとは買取期間終了後の課題を指し、現在は買い取りの新制度化や自家消費としての有効利用などが課題解消の候補。いずれにしろ、同社にとっては蓄電池やメンテナンスなど新たな需要が期待される。
BtoB事業は、既存事業の安定的な成長に加え新規事業の開発により高い収益を目指す戦略である。石油事業では、物流機能の強化、グループ会社と連携した拠点の開発・整備に加え、好採算の川下分野の軽油販売や灯油宅配でホームセンターなどと協働して収益力の向上を図る。電力事業では、取次店開拓のほか、法人向け低CO2電力など環境配慮型料金メニューの拡充や、太陽光発電関連のメンテナンス事業で製販一体化した新商材・新販路の開発を進める。新規事業では、風力などの再生可能エネルギー事業への投資、新型マイクロ風車関連事業の開発促進を推進する計画である。
非エネルギー事業では、各事業の環境や特性に応じた成長戦略を展開する考えである。建物維持管理事業では、事業エリアの関東全域への拡大と設備工事・保守事業への展開に加え、集合住宅メンテナンスのワンストップサービスの推進を図っていく。自転車事業では、プライベートブランド開発による顧客開拓と収益力強化に加え、「ダイシャリン」店舗の構造改革を図る。シェアサイクル事業では、ステーションの設置エリアをドミナント化することによる運営の効率化や、自治体・コンビニ・不動産会社などとの連携を推進する。環境・リサイクル事業では、木質チップ工場の安定稼働と効率化による収益安定化、新商材やバイオマス燃料事業の開発を図る。抗菌事業では、抗菌・消臭の総合ソリューション事業への進化を目指す一方、鉛吸着剤など製品開発も進める。システム事業では、機能強化やサービス拡大による顧客獲得とIoTを活用した新規事業開発を推進する。
こうしたなかで、創業100周年へ向けて中期成長をけん引することが期待される注目事業がいくつかある。詳しくは後述するが、BtoB事業の韓国再生可能エネルギー事業、新型マイクロ風車関連事業、シェアサイクル事業、建物維持管理事業などである。特にシェアサイクル事業は、2022年3月期も着実な進展があった。そのほか、東京都港区の旧本社ビルを活用して2020年にスタートしたシェアオフィス「seesaw」では、単なるシェアオフィスというだけでなく、新規事業創出のシーズを発掘するという役割も担っており、スタートアップ企業の支援を積極化する方向性である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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