■澁澤倉庫<9304>の中期経営計画
3. 中期経営計画の進捗
「経営計画2023」の進捗は非常に順調で、初年度の2022年3月期の進捗率が営業収益で98%、営業利益で100%、経常利益で105%となり、利益については2年前倒しで達成することとなった。コロナ禍などによって、保管や航空貨物が増えたり運賃が上がったりと一時的な追い風も吹いたが、平常ペースに戻る2023年3月期も営業利益で46億円を計画しており、進捗が非常に順調であるという見方は変わらない(短期業績については後述)。特に国内物流ネットワークの拡充、DX推進による機械化・自動化、海外事業の拡大、サステナビリティ推進の取り組みという点で、明確な進捗があった。
(1) 国内物流ネットワークの拡充
2022年3月期に千葉県市川市の拠点5,000坪(飲料)、栃木県さくら市の拠点1,500坪(化学品)がフル稼働するなど、同社は積極的に国内物流ネットワークを拡充している。さらに、スポーツアパレルや小型家電、調理器具など多品種少量の貨物を扱う松戸営業所を2年前に増床したばかりだが、2022年10月を目処に5,200坪から6,400坪へと増床する計画である。輸入雑貨・食品の取扱い拠点である横浜港も、2022年2月に17,300坪から20,300坪、2022年7月には22,900坪へと増床する。次期中期経営計画の範疇になるが、2024年には飲料拠点の千葉地区で、さらなるドミナント化を図るため7,000坪の新拠点を開設する計画となっている。
ところで同社は、物流に限定せずシナジーや業容拡大を補完する企業をM&Aにてグループ化していく意向を持っている。2022年3月に(株)データ・キーピング・サービスの株式を追加取得し、持分法適用関連会社化した。データ・キーピング・サービスは書類などの保管や機密文書の廃棄などを行っており、同社との間で倉庫や車両を融通するなどのシナジーが見込まれている。2022年6月には平和みらい(株)の株式を追加取得した。平和みらいは、静岡県全域を地盤に食品・日用品の共同配送や様々な温度帯に対応した物流サービスを提供している。また、変わったところでは自動車ガラス向け流通生産事業なども行っている。同社は、平和みらいを静岡県でのネットワークにとどまらず、東西日本を結ぶ陸上運送のスイッチング拠点として活用していく意向である。ほかに物流や流通加工による成長の先を見据えた動きとして、通常は顧客が管理し指定する梱包資材に関して、効率化やコスト削減を目的に同社による発注や在庫を提案している。そのほか、日本食ブームの香港や上海に向けて日本酒を輸出するなど、同社の強みやノウハウを生かして商社機能を取り込んでいくことも検討している。
(2) DX推進による機械化・自動化
顧客に付加価値の高い新たなサービスを提供できるプラットフォームを構築すること、作業員不足、労働環境の改善といったサステナビリティの観点から同社はDXを推進し、物流プロセスにおける機械化・自動化を進めてきた。これを加速するため同社は、2022年4月に「イノベーション推進室」を新設し、ロボットやAI、ビッグデータ活用などの先端デジタルテクノロジーと、同社の物流オペレーションのノウハウを有機的に融合することを推進している。Amazon.comやニトリホールディングス<9843>などのように、自社都合に合わせた物流システムは完全自動化を目指すこともできるが、顧客都合に合わせると様々な商材を扱うことになるほか繁閑の差が出てくるなどの問題が生じるため、完全自動化は難しい。同社も長年試行錯誤してきたが、総合物流企業として差別化するには、機械とマンパワーを商材や繁閑などに合わせて融合することが重要だという結論に達したと言う。機械とマンパワーの融合に関しては、モデル営業所を中心に現在も創意工夫と強化を続けており、結果として倉庫の作業効率は上がり、近年の利益水準の向上につながった。さらに同社は、効率向上を数値化(見える化)して顧客にフィードバックしており、それが他社との差別化材料となって次の商売につながるなど、機械化・自動化は好循環を続けていると言える。
同社の機械化・自動化における主な取り組みは、多品種少量貨物取扱いのオペレーション能力向上、日用品・パレット貨物の取扱いの効率化推進、飲料DCへの自動化設備の導入(2024年稼働予定)の3つである。多品種少量貨物の取扱いでは、AGVによる小口貨物の自動搬送や自社小型車両による配送によってオペレーション能力を向上する。アイテムによってピークとなる曜日が変わることに対しては、機械とマンパワーを融合するノウハウを確立しており、他の倉庫に横展開する目処も立ってきたようだ。一時的に大量仕分けが発生するアパレルのシーズン商品入れ替え時の返品作業などに向けて、同社は2021年、プラスオートメーション(株)のソーティングロボットシステム「t-Sort」とマンパワーを融合したハイブリッド型業務フローを構築した。既に松戸営業所に導入しているが、同社のWMSとプラスオートメーションの庫内実行システム「+Hub」を連携することで工数が減り、限られたスペースで効率的な作業ができるようになった。このため、B2B業務のみならずB2C業務への対応が可能となった。日用品・パレット貨物については、AGVや移動ラックを導入することで作業効率や保管効率の向上につながっている。日用品の拠点である群馬や神戸には既に導入済みで、半自動倉庫化の一方マンパワーで繁閑差を埋める体制を構築した。これもほかの倉庫への横展開を進めているところである。飲料DCへの自動化設備の導入については、2024年稼働予定となっている。千葉エリアでの新規施設に、自動ラックシステムや無人フォークリフトを導入する計画である。24時間稼働の半自動化倉庫で、夜間は自動搬送機がフル稼働する予定である。仕組みが構築できれば、大阪や名古屋への横展開も検討するとしている。
(3) 海外事業の拡大
海外事業は、コロナ禍によるロックダウンなどにより運営上厳しい時期もあったが、中国・東南アジアでの事業拡大は同社にとって引き続き大きなテーマとなっている。そこで高いサービス品質と、機械とマンパワーを融合した効率性を訴求し、事業拡大に向けてアクセルを踏む方針となった。中国では、国内物流の機能を強化する計画である。特に華東・華南地区において、内陸を含め庫腹自社車両の拡充を図るとともに、消費財物流に参入する方針である。また、中国事業の重要性が増したこと、経営体制も整ってきたことから、2022年3月期より中国事業を連結することとした。足元は2022年4月~5月がロックダウンにより取扱いが減ったものの、6月に入って回復トレンドとなったようだ。香港では、域内の冷凍・冷蔵の貨物輸配送業務に参入するため物流事業を強化拡大する方針である。ベトナムでは、Vinafcoのネットワークを活用して輸出入フォワーディングと国内物流のシナジーを追求する計画である。なお、2022年6月にフィリピンで現地法人の営業を開始した。輸出入フォワーディングの拡大や日用品・文書保管などフィリピン国内物流への参入などを企図している。
(4) サステナビリティ推進の取り組み
同社は、2021年11月、新たにサステナビリティ推進室を設置し、サステナビリティ推進基本方針を策定した。同社のみならず社会にとっても持続可能な成長につながる6つのマテリアリティ(重要課題)として、a)地球温暖化の防止、b)循環経済への転換、c)安全・安心の実現、d)イノベーションの活用、e)人権の尊重、f)共存共栄の追求を定め、各マテリアリティにKGI(目指す姿)とKPI(目指す数値)を設定し、具体的な成果を追求することとなった。一方、サステナビリティ推進において、他社とのコラボレーションも進めている。データ・キーピング・サービスとは紙のリサイクルや輸配送の効率化、NEXT Logistics Japan(株)※とはドライバー不足やCO2削減などの課題解消に向けて、輸送の効率化などの面でコラボレーションする計画である。また、飲料メーカーとのコラボレーションではペットボトルの回収・リサイクル、サーキュラーエコノミー(循環経済)に対してはリチウムイオン電池の回収・再利用やゼロエミッション倉庫などの仕組みを構築する方針である。2022年6月には、中国EV(電気自動車)大手BYDの日本法人ビーワイディージャパン(株)と業務提携契約を締結した。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けBYD製電動フォークリフトやEV商用バンを導入し、共同で搭載バッテリーを循環利用する枠組みを構築していく考えである。
※NEXT Logistics Japan:物流を取り巻く問題を解消し社会に役立つという構想をもって設立された。同社をはじめ、構想に賛同する多くの物流関連企業が出資している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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3. 中期経営計画の進捗
「経営計画2023」の進捗は非常に順調で、初年度の2022年3月期の進捗率が営業収益で98%、営業利益で100%、経常利益で105%となり、利益については2年前倒しで達成することとなった。コロナ禍などによって、保管や航空貨物が増えたり運賃が上がったりと一時的な追い風も吹いたが、平常ペースに戻る2023年3月期も営業利益で46億円を計画しており、進捗が非常に順調であるという見方は変わらない(短期業績については後述)。特に国内物流ネットワークの拡充、DX推進による機械化・自動化、海外事業の拡大、サステナビリティ推進の取り組みという点で、明確な進捗があった。
(1) 国内物流ネットワークの拡充
2022年3月期に千葉県市川市の拠点5,000坪(飲料)、栃木県さくら市の拠点1,500坪(化学品)がフル稼働するなど、同社は積極的に国内物流ネットワークを拡充している。さらに、スポーツアパレルや小型家電、調理器具など多品種少量の貨物を扱う松戸営業所を2年前に増床したばかりだが、2022年10月を目処に5,200坪から6,400坪へと増床する計画である。輸入雑貨・食品の取扱い拠点である横浜港も、2022年2月に17,300坪から20,300坪、2022年7月には22,900坪へと増床する。次期中期経営計画の範疇になるが、2024年には飲料拠点の千葉地区で、さらなるドミナント化を図るため7,000坪の新拠点を開設する計画となっている。
ところで同社は、物流に限定せずシナジーや業容拡大を補完する企業をM&Aにてグループ化していく意向を持っている。2022年3月に(株)データ・キーピング・サービスの株式を追加取得し、持分法適用関連会社化した。データ・キーピング・サービスは書類などの保管や機密文書の廃棄などを行っており、同社との間で倉庫や車両を融通するなどのシナジーが見込まれている。2022年6月には平和みらい(株)の株式を追加取得した。平和みらいは、静岡県全域を地盤に食品・日用品の共同配送や様々な温度帯に対応した物流サービスを提供している。また、変わったところでは自動車ガラス向け流通生産事業なども行っている。同社は、平和みらいを静岡県でのネットワークにとどまらず、東西日本を結ぶ陸上運送のスイッチング拠点として活用していく意向である。ほかに物流や流通加工による成長の先を見据えた動きとして、通常は顧客が管理し指定する梱包資材に関して、効率化やコスト削減を目的に同社による発注や在庫を提案している。そのほか、日本食ブームの香港や上海に向けて日本酒を輸出するなど、同社の強みやノウハウを生かして商社機能を取り込んでいくことも検討している。
(2) DX推進による機械化・自動化
顧客に付加価値の高い新たなサービスを提供できるプラットフォームを構築すること、作業員不足、労働環境の改善といったサステナビリティの観点から同社はDXを推進し、物流プロセスにおける機械化・自動化を進めてきた。これを加速するため同社は、2022年4月に「イノベーション推進室」を新設し、ロボットやAI、ビッグデータ活用などの先端デジタルテクノロジーと、同社の物流オペレーションのノウハウを有機的に融合することを推進している。Amazon.com
同社の機械化・自動化における主な取り組みは、多品種少量貨物取扱いのオペレーション能力向上、日用品・パレット貨物の取扱いの効率化推進、飲料DCへの自動化設備の導入(2024年稼働予定)の3つである。多品種少量貨物の取扱いでは、AGVによる小口貨物の自動搬送や自社小型車両による配送によってオペレーション能力を向上する。アイテムによってピークとなる曜日が変わることに対しては、機械とマンパワーを融合するノウハウを確立しており、他の倉庫に横展開する目処も立ってきたようだ。一時的に大量仕分けが発生するアパレルのシーズン商品入れ替え時の返品作業などに向けて、同社は2021年、プラスオートメーション(株)のソーティングロボットシステム「t-Sort」とマンパワーを融合したハイブリッド型業務フローを構築した。既に松戸営業所に導入しているが、同社のWMSとプラスオートメーションの庫内実行システム「+Hub」を連携することで工数が減り、限られたスペースで効率的な作業ができるようになった。このため、B2B業務のみならずB2C業務への対応が可能となった。日用品・パレット貨物については、AGVや移動ラックを導入することで作業効率や保管効率の向上につながっている。日用品の拠点である群馬や神戸には既に導入済みで、半自動倉庫化の一方マンパワーで繁閑差を埋める体制を構築した。これもほかの倉庫への横展開を進めているところである。飲料DCへの自動化設備の導入については、2024年稼働予定となっている。千葉エリアでの新規施設に、自動ラックシステムや無人フォークリフトを導入する計画である。24時間稼働の半自動化倉庫で、夜間は自動搬送機がフル稼働する予定である。仕組みが構築できれば、大阪や名古屋への横展開も検討するとしている。
(3) 海外事業の拡大
海外事業は、コロナ禍によるロックダウンなどにより運営上厳しい時期もあったが、中国・東南アジアでの事業拡大は同社にとって引き続き大きなテーマとなっている。そこで高いサービス品質と、機械とマンパワーを融合した効率性を訴求し、事業拡大に向けてアクセルを踏む方針となった。中国では、国内物流の機能を強化する計画である。特に華東・華南地区において、内陸を含め庫腹自社車両の拡充を図るとともに、消費財物流に参入する方針である。また、中国事業の重要性が増したこと、経営体制も整ってきたことから、2022年3月期より中国事業を連結することとした。足元は2022年4月~5月がロックダウンにより取扱いが減ったものの、6月に入って回復トレンドとなったようだ。香港では、域内の冷凍・冷蔵の貨物輸配送業務に参入するため物流事業を強化拡大する方針である。ベトナムでは、Vinafcoのネットワークを活用して輸出入フォワーディングと国内物流のシナジーを追求する計画である。なお、2022年6月にフィリピンで現地法人の営業を開始した。輸出入フォワーディングの拡大や日用品・文書保管などフィリピン国内物流への参入などを企図している。
(4) サステナビリティ推進の取り組み
同社は、2021年11月、新たにサステナビリティ推進室を設置し、サステナビリティ推進基本方針を策定した。同社のみならず社会にとっても持続可能な成長につながる6つのマテリアリティ(重要課題)として、a)地球温暖化の防止、b)循環経済への転換、c)安全・安心の実現、d)イノベーションの活用、e)人権の尊重、f)共存共栄の追求を定め、各マテリアリティにKGI(目指す姿)とKPI(目指す数値)を設定し、具体的な成果を追求することとなった。一方、サステナビリティ推進において、他社とのコラボレーションも進めている。データ・キーピング・サービスとは紙のリサイクルや輸配送の効率化、NEXT Logistics Japan(株)※とはドライバー不足やCO2削減などの課題解消に向けて、輸送の効率化などの面でコラボレーションする計画である。また、飲料メーカーとのコラボレーションではペットボトルの回収・リサイクル、サーキュラーエコノミー(循環経済)に対してはリチウムイオン電池の回収・再利用やゼロエミッション倉庫などの仕組みを構築する方針である。2022年6月には、中国EV(電気自動車)大手BYDの日本法人ビーワイディージャパン(株)と業務提携契約を締結した。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けBYD製電動フォークリフトやEV商用バンを導入し、共同で搭載バッテリーを循環利用する枠組みを構築していく考えである。
※NEXT Logistics Japan:物流を取り巻く問題を解消し社会に役立つという構想をもって設立された。同社をはじめ、構想に賛同する多くの物流関連企業が出資している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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