■電子部品の市場環境
1. 電子部品業界の動きと見通し
(1) 電子部品業界の動き
1990年代の電子部品業界は、パソコンの普及やデジタル化の流れのなかで半導体向け需要が拡大したが、2000年代に入ってITバブルが崩壊すると低迷期に入った。その後、LEDの普及とともにいったん環境は改善したが、2008年のリーマンショックで再び低迷し、2011年の東日本大震災、急激な円安、中韓メーカーの低価格での参入などが続き、国内の電子部品業界にとって厳しい時代となった。2015年頃になるとスマートフォン普及という追い風が強まったが、これまでの業界環境の悪化や価格競争によって市場を退出したメーカーが多く、メーカーのハイスペック化に対応する「メイドインジャパン」品質の電子部品を安定かつ大量に供給できるメーカーが少なくなっていた。高い技術力と適応力で荒波を乗り越えてきたエノモト<6928>にとって、「残存者メリット」を享受しやすい環境となったと言える。さらに、装置産業であることに加え、高精密化やハイスペック化により、現在でも年々参入障壁が高くなっているようだ。
足元では、普及と高機能化が一段落したスマートフォン向けの成長スピードが鈍る一方、車載用やウェアラブルでは電子部品の高機能化・高精度化・超小型化や製品1台当たりの電子部品搭載数の増加が加速している。また、コロナ禍や環境問題などをきっかけに広がる新しい生活様式のなかで、環境にやさしく効率的な機器へのニーズも増している。このように急速な広がりを見せる電子部品へのニーズに対し、同社は付加価値の高い製品を安定大量生産できる強みを生かして、既存市場、新市場ともに積極的に開拓している。特に、需要が高止まりしているスマートフォンや機能向上と用途拡大が並行して進むウェアラブルは、次世代モデル向けに難易度の高い要望が舞い込んでいる。一方、日産自動車<7201>の新型車投入の加速やトヨタ自動車<7203>の「EV本気宣言」ばかりでなく、電機メーカーなどが開発に名乗りを上げるなど、EVなど電動車の国内における開発もピッチが上がってきた。これらのキーデバイスが、同社が早くから狙いを定め技術を蓄積してきたパワー半導体である。
(2) パワー半導体とは
パワー半導体は、スマートフォンやパソコンのみならず、エアコンや自動車、産業機器といった幅広い用途で使用されている。CPUやメモリなど小さな電力で演算や記憶を行う集積回路と異なり、単体で電力の制御や変換を行うことができ、大きな電圧・電流の電力も扱えることが特徴で、パワーデバイスまたはディスクリート半導体とも呼ばれている。パワー半導体の機能には、交流から直流に変換するコンバーター、直流から交流に変換するインバーター、直流の電圧を変換するレギュレーターがあり、いずれか1つの機能をもって電力を制御する。このため、モーターの動作やバッテリーの充電、CPU・LSIといった半導体の駆動などに用いられるほか、制御することで各機器の省エネ化にも役立っている。また、パワー半導体は、スマートフォンやパソコンから、冷蔵庫やエアコンなど一般家庭向け機器、EV、データセンター、太陽光発電まで幅広く使われている。特に足元で、自動車の電動化や自動運転、センシング技術などの普及により車載向け需要が急拡大、自動車の進化とともに将来的にも需要拡大が継続すると見られている。パワー半導体は高度な技術が要求されるうえ、アナログ的な部分も残る多品種少量生産の電子部品であるため、国内外を問わず新規参入のハードルが高い分野と言われている。
(3) 市場環境とクリップボンディングリードフレーム
このため、リードフレームを含むパワー半導体構成部材の市場規模は、コロナ禍の影響でボトムを形成した2020年を起点に10年で2倍近くになるとの予測もあり、足元で実際に、世界の半導体メーカーがパワー半導体の設備投資や研究開発を加速している。また、構成部材のうち約47%近くが同社のターゲットとなるリードフレームと推定されているが、なかでも、同社が世に先駆けて本格量産を開始したクリップボンディングリードフレームが業界で注目されている。車載用電子制御装置や産業機器向けのパワー半導体は、省スペース化とともに高電圧化・高電流化が求められているからである。クリップボンディングリードフレームは、クリップとリードフレームでチップを挟み込むため、接触面積が広くなって構造上通電容量が大きくなることから、従来のリードフレームを大きく上回る電気特性と熱特性があるうえ、高い信頼性も得られる。この際、非接触部分ができて電流量が低下することを防ぐため、高い平坦度や清浄度、位置精度が求められる。
このため非常に付加価値の高い製品ということができるが、同社はすでに中国工場で本格量産を開始している。EVなど車載向けパワー半導体が長期的に2ケタ成長を続けると見られるなか、国内でもすでに引き合いが強まっており、同社は2023年3月期中にクリップボンディングリードフレームの生産能力を前倒して増強する計画である。また、パワー半導体はもともとリードフレームの上にチップを乗せワイヤー線でつないで樹脂を被せる構造になっているが、高電圧化・高電流化に対してワイヤー線では限界がある。そのうえ、素材がシリコンより電流を流せる炭化ケイ素や窒素ガリウムに変わると、接触面積が広いクリップボンディングがより有利になると言われている。したがって、同社のクリップボンディングリードフレームへの需要は、今後ますます強まっていくと予想されている。
(4) オプト用リードフレーム、コネクタ用部品の市場環境
オプト用リードフレームは、デジタル化が進む自動車の表示装置など1台当たりの部品搭載率の上昇や、デジタルサイネージや大型ディスプレイの安定した需要により、堅調な成長が見込まれている。コネクタ用部品は、超微細で高品質大量生産されるスマートフォン・ウェアラブル向けの極小部品から、自動車の特殊で大きな部品まで幅広く対応している。スマートフォン向けは高止まり傾向にあるものの、車載向けの部品搭載数の増加やウェアラブル向けの高機能化・ワイヤレス化によって、中期的に引き続き成長していくと予想されている。パワー半導体向けリードフレーム以外でも、同社製品へのニーズは強く、強みを生かすことで市場を上回る成長を狙っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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1. 電子部品業界の動きと見通し
(1) 電子部品業界の動き
1990年代の電子部品業界は、パソコンの普及やデジタル化の流れのなかで半導体向け需要が拡大したが、2000年代に入ってITバブルが崩壊すると低迷期に入った。その後、LEDの普及とともにいったん環境は改善したが、2008年のリーマンショックで再び低迷し、2011年の東日本大震災、急激な円安、中韓メーカーの低価格での参入などが続き、国内の電子部品業界にとって厳しい時代となった。2015年頃になるとスマートフォン普及という追い風が強まったが、これまでの業界環境の悪化や価格競争によって市場を退出したメーカーが多く、メーカーのハイスペック化に対応する「メイドインジャパン」品質の電子部品を安定かつ大量に供給できるメーカーが少なくなっていた。高い技術力と適応力で荒波を乗り越えてきたエノモト<6928>にとって、「残存者メリット」を享受しやすい環境となったと言える。さらに、装置産業であることに加え、高精密化やハイスペック化により、現在でも年々参入障壁が高くなっているようだ。
足元では、普及と高機能化が一段落したスマートフォン向けの成長スピードが鈍る一方、車載用やウェアラブルでは電子部品の高機能化・高精度化・超小型化や製品1台当たりの電子部品搭載数の増加が加速している。また、コロナ禍や環境問題などをきっかけに広がる新しい生活様式のなかで、環境にやさしく効率的な機器へのニーズも増している。このように急速な広がりを見せる電子部品へのニーズに対し、同社は付加価値の高い製品を安定大量生産できる強みを生かして、既存市場、新市場ともに積極的に開拓している。特に、需要が高止まりしているスマートフォンや機能向上と用途拡大が並行して進むウェアラブルは、次世代モデル向けに難易度の高い要望が舞い込んでいる。一方、日産自動車<7201>の新型車投入の加速やトヨタ自動車<7203>の「EV本気宣言」ばかりでなく、電機メーカーなどが開発に名乗りを上げるなど、EVなど電動車の国内における開発もピッチが上がってきた。これらのキーデバイスが、同社が早くから狙いを定め技術を蓄積してきたパワー半導体である。
(2) パワー半導体とは
パワー半導体は、スマートフォンやパソコンのみならず、エアコンや自動車、産業機器といった幅広い用途で使用されている。CPUやメモリなど小さな電力で演算や記憶を行う集積回路と異なり、単体で電力の制御や変換を行うことができ、大きな電圧・電流の電力も扱えることが特徴で、パワーデバイスまたはディスクリート半導体とも呼ばれている。パワー半導体の機能には、交流から直流に変換するコンバーター、直流から交流に変換するインバーター、直流の電圧を変換するレギュレーターがあり、いずれか1つの機能をもって電力を制御する。このため、モーターの動作やバッテリーの充電、CPU・LSIといった半導体の駆動などに用いられるほか、制御することで各機器の省エネ化にも役立っている。また、パワー半導体は、スマートフォンやパソコンから、冷蔵庫やエアコンなど一般家庭向け機器、EV、データセンター、太陽光発電まで幅広く使われている。特に足元で、自動車の電動化や自動運転、センシング技術などの普及により車載向け需要が急拡大、自動車の進化とともに将来的にも需要拡大が継続すると見られている。パワー半導体は高度な技術が要求されるうえ、アナログ的な部分も残る多品種少量生産の電子部品であるため、国内外を問わず新規参入のハードルが高い分野と言われている。
(3) 市場環境とクリップボンディングリードフレーム
このため、リードフレームを含むパワー半導体構成部材の市場規模は、コロナ禍の影響でボトムを形成した2020年を起点に10年で2倍近くになるとの予測もあり、足元で実際に、世界の半導体メーカーがパワー半導体の設備投資や研究開発を加速している。また、構成部材のうち約47%近くが同社のターゲットとなるリードフレームと推定されているが、なかでも、同社が世に先駆けて本格量産を開始したクリップボンディングリードフレームが業界で注目されている。車載用電子制御装置や産業機器向けのパワー半導体は、省スペース化とともに高電圧化・高電流化が求められているからである。クリップボンディングリードフレームは、クリップとリードフレームでチップを挟み込むため、接触面積が広くなって構造上通電容量が大きくなることから、従来のリードフレームを大きく上回る電気特性と熱特性があるうえ、高い信頼性も得られる。この際、非接触部分ができて電流量が低下することを防ぐため、高い平坦度や清浄度、位置精度が求められる。
このため非常に付加価値の高い製品ということができるが、同社はすでに中国工場で本格量産を開始している。EVなど車載向けパワー半導体が長期的に2ケタ成長を続けると見られるなか、国内でもすでに引き合いが強まっており、同社は2023年3月期中にクリップボンディングリードフレームの生産能力を前倒して増強する計画である。また、パワー半導体はもともとリードフレームの上にチップを乗せワイヤー線でつないで樹脂を被せる構造になっているが、高電圧化・高電流化に対してワイヤー線では限界がある。そのうえ、素材がシリコンより電流を流せる炭化ケイ素や窒素ガリウムに変わると、接触面積が広いクリップボンディングがより有利になると言われている。したがって、同社のクリップボンディングリードフレームへの需要は、今後ますます強まっていくと予想されている。
(4) オプト用リードフレーム、コネクタ用部品の市場環境
オプト用リードフレームは、デジタル化が進む自動車の表示装置など1台当たりの部品搭載率の上昇や、デジタルサイネージや大型ディスプレイの安定した需要により、堅調な成長が見込まれている。コネクタ用部品は、超微細で高品質大量生産されるスマートフォン・ウェアラブル向けの極小部品から、自動車の特殊で大きな部品まで幅広く対応している。スマートフォン向けは高止まり傾向にあるものの、車載向けの部品搭載数の増加やウェアラブル向けの高機能化・ワイヤレス化によって、中期的に引き続き成長していくと予想されている。パワー半導体向けリードフレーム以外でも、同社製品へのニーズは強く、強みを生かすことで市場を上回る成長を狙っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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