■中長期の成長戦略
前澤給装工業<6485>の事業内容は公共工事に関連した安定した部分もあるが、景気変動の影響を受けやすい住宅需要も多く、見通しが大きく変動しやすいことから、これまで中期経営計画は公表していなかった。しかしながら、東証プライム市場への移行に当たり、2022年5月に2025年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定した。
1. これまでの経営方針
これまでは、「効率的な生産体制の構築」「物流効率化による配送コストの削減」「成長分野への営業強化と開発投資」を中心に中長期の施策を行い、「売上高経常利益率10%以上」を目標として、その確実な実現に向けて諸施策を実施してきた。また、2013年3月に厚生労働省より公表された「新水道ビジョン」※の基本理念と共有し、水道の理想像具現化の一翼を担うべく、時代や環境の変化に的確に対応した企業価値向上のための取り組みも推進している。
※日本の総人口の減少と東日本大震災の経験という、水道をとりまく状況の大きな変化をうけ、2013年3月に厚生労働省が公表したビジョンのこと。50年後、100年後の将来を見据えた水道の理想像が明示されている。
2. 中期経営計画
2022年5月に策定した「中期経営計画2024」では、(1) 事業ポートフォリオ・マネジメントの推進、(2) サステナビリティ経営の実現、(3) 利益還元の強化、の3つの基本方針の下、2025年3月期に売上高305億円、営業利益26億円、営業利益率8.5%、ROE5%以上を目指していく。売上高については、原材料価格高騰を販売価格に反映させながら、成長分野を拡げる方針だ。また、営業利益については、急激に進んだ材料コスト高への対応のため、価格転嫁しながら、効率化を推進することで達成を目指す。
(1) 事業ポートフォリオ・マネジメントの推進
同社では、事業領域の位置付けを明確化し、事業ポートフォリオ・マネジメントを推進している。コア事業で安定的な収益拡大を図りながら、周辺領域を拡大することで新たな成長ドライバーを生み出し、事業ポートフォリオを強化する方針だ。安定的な需要を有する給水装置事業は、主力事業であり絶対的な収益基盤であることから「コア事業」と位置付けている。機能性の高い製品を拡大し、さらなる高収益を目指す。給水装置事業の販売基盤や技術等を活かして進出した住宅・建築設備事業※は「成長ドライバー」と位置付け、次なる柱とすべく成長拡大を進めている。現段階の成長ドライバーとして領域の拡大、グループ間の効率化を促進する。また、これら2事業の成長を補完・促進する商品販売事業を「周辺共通事業」と位置付けている。なお、水道メーター事業は縮小化の方針としている。
※決算短信では「住宅設備事業」セグメントに区分される。
a) 競争優位の追求(強みを活かした差別化)
コア事業の安定的な収益拡大のために、同社の強みを活かした差別化を進め、競争優位を追求していく。具体的には、底堅い需要が見込まれる「老朽管取替に付帯する需要」を確実に取り込み、コア製品のシェア維持・拡大を図る。
環境の変化を見据えた技術開発を遂行し、新たな付加価値の創出を目指すほか、販売ネットワークを活かすことで顧客ニーズに最適に応えていく。また、災害時でも強靭な水道機能を維持するために、耐震化製品の充実や品質管理を徹底する。
b) 周辺領域の拡大(新たな成長ドライバー創出)
M&Aも含め周辺領域を拡大することで、新たな成長ドライバーの創出を目指す方針だ。同社が扱う配管部材は水道にとどまらず、ガス・空調設備など適用範囲が広いこと、住宅・建築設備事業は事業の裾野が広く関連多角化を模索できることなどを考慮すると、事業拡大の選択肢は多いと弊社では見ている。また、前澤リビング・ソリューションズを連結子会社化し、床暖房事業への進出や営業活動の効率化などが実現したことから、M&Aによる事業拡大や新たな成長ドライバーの獲得は再現性が高いと弊社では見ている。
(2) サステナビリティ経営の実現
同社はCSRに対して積極的に取り組んできた。これまで、持続可能な開発目標(SDGs)に対しては、(6) 水・衛生「安全な水とトイレを世界中に」、(11) 都市「住み続けられるまちづくりを」、(12) 生産・消費「つくる責任・つかう責任」、(15) 陸上資源「陸の豊かさも守ろう」の4項目を選定し、活動してきた。
これに対し中期経営計画では、新たにサステナビリティ方針を掲げ、あるべき姿として「社会との共生」「環境との調和」「人財の尊重」「責任ある行動」を設定し、サステナビリティ実現に取り組む。
「社会との共生」では、安全・安心に暮らせる快適な社会の実現を目指し、ライフラインの一翼を担う企業として、在庫水準の適正化に取り組む。「環境との調和」では、事業を通じた環境負荷の低減を目指し、太陽光発電など再生可能エネルギーの活用を前提としたカーボン・ニュートラルへの取り組みを推進するほか、リサイクル材を積極的に活用していく。「人財の尊重」では、健康経営(労働安全衛生)を推進し、安心で働きがいのある職場の実現に取り組むことで、従業員のエンゲージメント(理解度・共感度・行動意欲)の向上を図る。また、デジタル化による業務効率化を推進し、ワークライフバランスを実現できる職場環境を整備する。「責任ある行動」では、ステークホルダーから信頼されるガバナンス体制の確立のため、コーポレートガバナンス・コードに沿った取締役会の実効性向上に取り組み、経営の透明性を高めていく。また、コンプライアンス遵守の徹底を通じ、継続的な経営の健全化にも努める。
SDGs活動の一例を挙げると、仙台市が保有する水源涵養林の保全育成を行う官民連携の取り組みである「青下の杜プロジェクト」に参画し、森林保全を目的とした植樹活動を定期的に行っている。また、障がい者の就労機会を提供する新たな取り組みとして、2019年12月に千葉県八千代市内に自社農園「まえざわファーム八千代」を開園し、収穫した農作物をこども食堂などへの寄付に使用している。このほか、JICA研修生への国際協力活動支援も行っている。開発途上国の水道事業の発展に寄与すべく、給水装置分野の知識習得や技術向上を目的に、同社製品を用いた給水装置の技術講習を定期的に行っている。
(3) 利益還元の強化
同社はさらなる企業価値向上を目指し、利益還元の強化を図っていく。事業成長と業績向上を通じて、株主に対する利益還元と、多様なステークホルダーへの貢献を両立していく方針だ。具体的には、各期の財政状況や将来の事業展開等を総合的に勘案し、事業成長や地球環境の保全を図るための投資などにも考慮し、利益還元を行うことを基本方針とした。また、配当については、連結配当性向50%を目安とし、あわせて安定性・継続性に配慮しつつ、業績動向等に鑑みて機動的に自己株式取得等を実施する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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前澤給装工業<6485>の事業内容は公共工事に関連した安定した部分もあるが、景気変動の影響を受けやすい住宅需要も多く、見通しが大きく変動しやすいことから、これまで中期経営計画は公表していなかった。しかしながら、東証プライム市場への移行に当たり、2022年5月に2025年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定した。
1. これまでの経営方針
これまでは、「効率的な生産体制の構築」「物流効率化による配送コストの削減」「成長分野への営業強化と開発投資」を中心に中長期の施策を行い、「売上高経常利益率10%以上」を目標として、その確実な実現に向けて諸施策を実施してきた。また、2013年3月に厚生労働省より公表された「新水道ビジョン」※の基本理念と共有し、水道の理想像具現化の一翼を担うべく、時代や環境の変化に的確に対応した企業価値向上のための取り組みも推進している。
※日本の総人口の減少と東日本大震災の経験という、水道をとりまく状況の大きな変化をうけ、2013年3月に厚生労働省が公表したビジョンのこと。50年後、100年後の将来を見据えた水道の理想像が明示されている。
2. 中期経営計画
2022年5月に策定した「中期経営計画2024」では、(1) 事業ポートフォリオ・マネジメントの推進、(2) サステナビリティ経営の実現、(3) 利益還元の強化、の3つの基本方針の下、2025年3月期に売上高305億円、営業利益26億円、営業利益率8.5%、ROE5%以上を目指していく。売上高については、原材料価格高騰を販売価格に反映させながら、成長分野を拡げる方針だ。また、営業利益については、急激に進んだ材料コスト高への対応のため、価格転嫁しながら、効率化を推進することで達成を目指す。
(1) 事業ポートフォリオ・マネジメントの推進
同社では、事業領域の位置付けを明確化し、事業ポートフォリオ・マネジメントを推進している。コア事業で安定的な収益拡大を図りながら、周辺領域を拡大することで新たな成長ドライバーを生み出し、事業ポートフォリオを強化する方針だ。安定的な需要を有する給水装置事業は、主力事業であり絶対的な収益基盤であることから「コア事業」と位置付けている。機能性の高い製品を拡大し、さらなる高収益を目指す。給水装置事業の販売基盤や技術等を活かして進出した住宅・建築設備事業※は「成長ドライバー」と位置付け、次なる柱とすべく成長拡大を進めている。現段階の成長ドライバーとして領域の拡大、グループ間の効率化を促進する。また、これら2事業の成長を補完・促進する商品販売事業を「周辺共通事業」と位置付けている。なお、水道メーター事業は縮小化の方針としている。
※決算短信では「住宅設備事業」セグメントに区分される。
a) 競争優位の追求(強みを活かした差別化)
コア事業の安定的な収益拡大のために、同社の強みを活かした差別化を進め、競争優位を追求していく。具体的には、底堅い需要が見込まれる「老朽管取替に付帯する需要」を確実に取り込み、コア製品のシェア維持・拡大を図る。
環境の変化を見据えた技術開発を遂行し、新たな付加価値の創出を目指すほか、販売ネットワークを活かすことで顧客ニーズに最適に応えていく。また、災害時でも強靭な水道機能を維持するために、耐震化製品の充実や品質管理を徹底する。
b) 周辺領域の拡大(新たな成長ドライバー創出)
M&Aも含め周辺領域を拡大することで、新たな成長ドライバーの創出を目指す方針だ。同社が扱う配管部材は水道にとどまらず、ガス・空調設備など適用範囲が広いこと、住宅・建築設備事業は事業の裾野が広く関連多角化を模索できることなどを考慮すると、事業拡大の選択肢は多いと弊社では見ている。また、前澤リビング・ソリューションズを連結子会社化し、床暖房事業への進出や営業活動の効率化などが実現したことから、M&Aによる事業拡大や新たな成長ドライバーの獲得は再現性が高いと弊社では見ている。
(2) サステナビリティ経営の実現
同社はCSRに対して積極的に取り組んできた。これまで、持続可能な開発目標(SDGs)に対しては、(6) 水・衛生「安全な水とトイレを世界中に」、(11) 都市「住み続けられるまちづくりを」、(12) 生産・消費「つくる責任・つかう責任」、(15) 陸上資源「陸の豊かさも守ろう」の4項目を選定し、活動してきた。
これに対し中期経営計画では、新たにサステナビリティ方針を掲げ、あるべき姿として「社会との共生」「環境との調和」「人財の尊重」「責任ある行動」を設定し、サステナビリティ実現に取り組む。
「社会との共生」では、安全・安心に暮らせる快適な社会の実現を目指し、ライフラインの一翼を担う企業として、在庫水準の適正化に取り組む。「環境との調和」では、事業を通じた環境負荷の低減を目指し、太陽光発電など再生可能エネルギーの活用を前提としたカーボン・ニュートラルへの取り組みを推進するほか、リサイクル材を積極的に活用していく。「人財の尊重」では、健康経営(労働安全衛生)を推進し、安心で働きがいのある職場の実現に取り組むことで、従業員のエンゲージメント(理解度・共感度・行動意欲)の向上を図る。また、デジタル化による業務効率化を推進し、ワークライフバランスを実現できる職場環境を整備する。「責任ある行動」では、ステークホルダーから信頼されるガバナンス体制の確立のため、コーポレートガバナンス・コードに沿った取締役会の実効性向上に取り組み、経営の透明性を高めていく。また、コンプライアンス遵守の徹底を通じ、継続的な経営の健全化にも努める。
SDGs活動の一例を挙げると、仙台市が保有する水源涵養林の保全育成を行う官民連携の取り組みである「青下の杜プロジェクト」に参画し、森林保全を目的とした植樹活動を定期的に行っている。また、障がい者の就労機会を提供する新たな取り組みとして、2019年12月に千葉県八千代市内に自社農園「まえざわファーム八千代」を開園し、収穫した農作物をこども食堂などへの寄付に使用している。このほか、JICA研修生への国際協力活動支援も行っている。開発途上国の水道事業の発展に寄与すべく、給水装置分野の知識習得や技術向上を目的に、同社製品を用いた給水装置の技術講習を定期的に行っている。
(3) 利益還元の強化
同社はさらなる企業価値向上を目指し、利益還元の強化を図っていく。事業成長と業績向上を通じて、株主に対する利益還元と、多様なステークホルダーへの貢献を両立していく方針だ。具体的には、各期の財政状況や将来の事業展開等を総合的に勘案し、事業成長や地球環境の保全を図るための投資などにも考慮し、利益還元を行うことを基本方針とした。また、配当については、連結配当性向50%を目安とし、あわせて安定性・継続性に配慮しつつ、業績動向等に鑑みて機動的に自己株式取得等を実施する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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