S&P500月例レポート(22年4月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P 500 MARKET:2022年3月
個人的見解: 活気が回復

 「3月の熱狂(3月に行われる全米大学バスケットボール・トーナメントに全米が盛り上がることから)」に市場も沸き立ち、S&P500指数は1ヵ月で3.58%上昇、3月8日に付けた直近の安値から8.62%上昇という見事なダンクシュートを決めました。年初来では依然として4.95%下落(2022年の最初の営業日の終値からは5.55%下落)していますが、今や既定路線とみられる利上げと上昇し続ける物価が背景となる中、ゲームはまだ続いています。消費者からは大声援(消費)が止むことなく、そのうちに彼らの声(支払い能力を上回るほどの消費意欲)が枯れ、これ以上シュートを決められなくなるのではないかとの懸念も浮上しています。

 私たちにとって経済的な最大の関心事は市場の動向ですが、ニュースの中心はやはりウクライナ紛争であり、死者数、数百万人に上る避難民、国内で破壊されたインフラといった被害報告が途切れることなく続いています。月末になって、即時停戦ではないにせよ、停戦に向けた交渉がまとまるかもしれないとの明るい兆しも見られましたが、もはや世界はすっかり変わってしまいました。将来の計画、イベント、さまざまな反応も今まで通りにはいかないと思われ、少なくとも個人的には決して良い変化にはならないと考えています。

 市場のファンダメンタルズに目を向けると、企業の利益、売上高、配当、自社株買いは2021年第4四半期に過去最高を記録し、キャッシュフローと保有現金は過去最高には届きませんでしたが、好調を維持しました。3月は11セクター全てが上昇し、全体で315銘柄が上昇、そのうち81銘柄は10%以上の上昇でした。市場は利上げやインフレを受け流し、ウクライナ情勢による影響も限定的でした(収束後の復興に関与する可能性のある企業に若干の注目が集まっています)。株価が反発したとはいえ、第1四半期では依然として4.95%の下落となっています(2021年は26.89%上昇、2020年は16.28%上昇、2019年は28.88%上昇、2018年は6.24%下落)。エネルギーセクターは引き続き好調で第1四半期に37.66%上昇し、それ以外に第1四半期に上昇したのは公益事業(3.96%上昇)だけでした。値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差も、第1四半期では値下がり銘柄数の方が多く、値上がり銘柄数は192銘柄(10%以上上昇は94銘柄)、値下がり銘柄数は312銘柄(10%以上下落は181銘柄)となりました。

 4月は、過去の実績では各営業日が52%の確率で上昇していますが、エイプリルフール当日に限定すると67%の確率で上昇しており、今年は株式保有者にとってのそうしたエイプリルフールが続くことを願うばかりです。4月にはS&P500指数構成企業の3分の2以上が第1四半期決算と2022年の最新ガイダンス(およびインフレとサプライチェーン問題の影響)の発表を月末までに予定しているため、企業業績に注目が集まる「はず」です。予定が分からないのはウクライナ情勢と政治で、物価上昇に対する消費者の反応が重要な問題です。

 過去の実績を見ると、3月は60.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.34%、下落した月の平均下落率は3.85%、全体の平均騰落率は0.51%の下落となっています。2022年3月のS&P500指数は、3.58%の上昇となりました。

 4月は64.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.34%、下落した月の平均下落率は3.82%、全体の平均騰落率は1.48%の上昇となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2022年5月3日-4日、6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。

 S&P500指数は3月に3.58%上昇して4530.41で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス3.71%)。2月は4373.94で終え、3.14%の下落(同マイナス2.99%)、1月は4515.55で終え、5.26%の下落(同マイナス5.17%)でした。年初来第1四半期では4.95%の下落(同マイナス4.60%)、過去1年間では14.03%上昇(同プラス15.65%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは33.79%上昇(同プラス38.35%)して月を終えました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は2.32%上昇の3万4678.35ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス2.49%)。2月は3万3892.60ドルで終え、3.53%の下落(同マイナス3.29%)、1月は3万5131.86ドルで終え、3.32%の下落(同マイナス3.24%)、12月は3万6338.30ドルで終え、5.38%の上昇でした(同プラス5.53%)。年初来第1四半期では4.57%の下落(同マイナス4.10%)、過去1年間では5.24%上昇(同プラス7.30%)しました。

主なポイント

 ○1月と2月に下落した市場は3月に反発しました。

  ⇒3月の市場は、ロシア・ウクライナ問題、年内に7回の利上げの可能性(毎回0.25%とは限りません)、インフレの高進(ただし2023年上半期に終息する可能性も視野に)といった新しい世界を受け入れ、方向転換しました。S&P500指数は、1月に5.26%下落、2月は3.14%下落と年明けから下落が続いていましたが、3月は3.58%上昇しました。

  ⇒ボラティリティは低下し、懸念材料は新型コロナウイルスからインフレへ、さらにインフレからウクライナ侵攻へ、そして月末には再びインフレへと移りました。S&P500指数の3月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の平均値は2月の1.87%から1.70%に低下しました(1月は2.06%、2021年は0.97%)。

  ⇒S&P500指数は3月に3.58%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス3.71%)。2月は3.14%下落(同マイナス2.99%)、1月は5.26%下落(同マイナス5.17%)でした。年初来3ヵ月では4.95%下落(同マイナス4.60%)となりました。

  ⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは33.79%上昇し(同プラス38.35%)、その期間に終値ベースで90回、最高値を更新しました。

  ⇒バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は34.47%上昇(同プラス37.30%)しました(2021年1月20日のバイデン大統領就任後に69回、最高値を更新しています)。

  ⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では102.49%上昇しています(同プラス108.96%)。

  ⇒同指数は、2022年1月3日に付けた終値での最高値である4796.56から5.55%下落して月を終えました。

 ○2021年第4四半期の利益と売上高は予想を上回った(2021年第1、第2、第3四半期もすべて予想を上回る)だけでなく、四半期ベースでの過去最高を更新しました。最終的に、378銘柄(75.6%)で営業利益が予想を上回り、102銘柄で予想を下回り、20銘柄で予想通りとなりました。また、売上高では389銘柄(78.0%)で予想を上回りました。2021年第4四半期の1株当たり利益(EPS)は、前四半期比で9.0%増益、前年同期比では48.5%増益となりました(暫定値)。2021年通年では前年比70.1%増益となり、2021年実績株価収益率(PER)は21.8倍となっています(2020年のEPSは前年比22.1%減)。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債利回りは2月末の1.85%から(2.55%に上昇した後)2.34%で月末を迎えました(2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは2月末の2.19%から2.45%に上昇して取引を終えました(同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは2月末の1ポンド=1.3420ドルから1.3137ドルに下落し(同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、円は2月末の1ドル=114.92円から121.70円に下落し(同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は2月末の1ドル=6.3093元から6.3400元に下落しました(同6.3599元、同6.5330元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○原油価格は、2月末は1バレル=95.66ドルでしたが、3月は130.50ドルまで上昇した後(その後98.44ドルに下落)101.20ドルで月を終えました(同75.40ドル、同48.42ドル、同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、2月末の1ガロン=3.701ドルから(4.414ドルに上昇した後)4.334ドルで月末を迎えました(同3.375ドル、同2.330ドル、同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は2月末の1トロイオンス=1910.40ドルから上昇して1942.00ドルで月の取引を終えました(同1829.80ドル、同1901.60ドル、同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は2月末の30.15から20.56に下落して月を終えました。月中の最高は37.52、最低は18.67でした(同17.22、同22.75、同13.78、同16.12、同11.05)。

  ⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。

  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

バイデン大統領と政府高官

 ○バイデン大統領は議会で一般教書演説を行い、ロシアによる軍事侵攻に対抗する姿勢やコスト上昇を軽減するための計画について強調したほか、新型コロナウイルスに関する最新状況や財政支出計画について語りました。

 ○バイデン大統領は、暗号通貨にまつわる課題やリスクについて調査することを指示する大統領令に署名しました。

 ○バイデン大統領は、5.8兆ドル規模となる2023会計年度(2023年9月まで)予算教書を発表しました。国防支出は前年度比9.8%増、前年度に大幅増となった医療支出と教育支出については、それぞれ伸び率が同27%増と同20%増に低下しました。これらの財源となる歳入に関しては、法人税率の現行の21%から28%への引き上げ、キャピタルゲインに対する優遇税率の廃止、資産が1億ドルを上回る世帯(推定2万世帯)を対象に実現利益と未実現利益の双方に最低20%の課税など、総額2.5兆ドルの増税案が提案されました。最後の項目に関しては、未実現利益というのが重要なポイントです。予算案では計算上、2022年の消費者物価指数(CPI)を前年比4.7%上昇、2023年を同2.3%上昇、GDP成長率は2022年に2.8%、2023年は2.2%と想定しています。

ウクライナ情勢と市場

 ○ウクライナを巡る状況は悪化し、犠牲者の数は増加しています。市場は、ロシアへの制裁や低迷が予想される欧州経済と関係があると思われる特定の問題に反応し、ドイツをはじめとする一部の国でのリセッション入りを懸念する見方もあります。

  ⇒バイデン大統領はテレビの全国番組に(短時間)出演し、ロシアからの原油およびガスの輸入を禁止すると発表しました。2021年に米国が輸入した原油および石油製品のうち、8%がロシア産でした。またEUは、2022年のロシアからのガス輸入量を3分の2減らす計画を発表しました。2021年のガス輸入のうち、45%がロシア産でした。

  ⇒バイデン大統領はEUおよびG7各国と協調し、ロシアからの一部製品の輸入を禁止するとともに、ロシアに対する「最恵国待遇」の撤回を議会に要請しました。

  ⇒バイデン大統領は中国の習近平国家主席との電話会談でウクライナ問題について協議し、米国が中国によるロシア「支援」を懸念していることを伝えました。

 ○ウクライナから民間人を避難させる「人道回廊」を実現するための停戦交渉は繰り返し失敗に終わり、事態の収束に向けた協議が続けられています

  ⇒戦闘は拡大し、複数の都市がロシア軍によって侵攻・占領されたり、包囲されたりしています。

  ⇒ロシア軍の攻撃を受け、ザポリージャ原子力発電所で火災が発生しました。設置されている原子炉6基のうち稼働中は1基のみで、6基とも被害はありませんでしたが、その後、同発電所はロシア軍によって掌握されました。

 ○ロシアでは通貨ルーブルの下落が続き、1ドル=124ルーブルまで売られ(2022年1月末は同77ルーブル、3月末は同82ルーブル)、株式市場は取引停止となりました。また、ロシア中央銀行は主要政策金利を9.5%から20.0%に引き上げました。

  ⇒米国とその同盟国はロシアの一部銀行を「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除することを決定しました。米国はロシアに対して経済制裁を打ち出しています。

  ⇒S&Pグローバル・レーティングスは先々月(2022年2月28日)、ロシアの格付けをBBB-からBB+(「ジャンク級」とみなされる)に引き下げ、またウクライナについてもBからB-に引き下げました。先月に入ってから(2022年3月3日)、再度ロシアの格付けをCCC-まで引き下げ、ネガティブウォッチに指定しました。

  ⇒S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、ロシアで上場する(もしくはロシア籍の)全株式を同社の指数から除外し、ロシアを新興国からスタンドアローンに再分類しました。

  ⇒米国(と他の30ヵ国)は6000万バレルの石油備蓄放出を発表し、米国は3000万バレルを放出することを決定しました(米国の石油備蓄量は約5億8200万バレルで、石油需要は推計で日量2000万バレル。世界全体の需要は推計で日量9100万バレル)。

   →ロシア産原油の需要は、受け渡しや地政学リスクに対する買い手側の懸念を背景に劇的に減少しました。

  ⇒グローバル企業(アップル、ボーイング、エクソン・モービル、フォード、アルファベット など)は一時的措置としてロシアでの販売やサービスの提供の停止、もしくはロシア事業の縮小に踏み切りました。

  ⇒ロシア軍による空爆が続いています。地上戦での損害や死傷者数が増え続けていることが背景にあります。ウクライナ軍は地上で反撃を続けており、複数の地域をロシア軍から奪還しました(また、ロシアの軍艦を破壊しました)。多くのロシア部隊は依然として(自主的に、もしくは進軍が厳しいとの判断から)都市の周辺地域に留まっています。

  ⇒米国はEUに対する液化天然ガスの供給を拡大すると発表しました。EUのロシアに対するエネルギー依存を減らすことが目的です。

  ⇒ロシアとウクライナの間での停戦協議は続いています。ウクライナが「中立化」を提案するなど一定の進展が見られたことを米国の金融市場は好感しました。

石油

 ○1バレル=130.50ドルを付けた原油価格は、停戦協議に反応して98.33バレルまで低下し、2月末の95.66ドルから101.20ドルに上昇して月を終えました。2021年末は75.33ドル、2020年末は48.35ドル、2019年末は61.14ドル、2018年末は45.15ドル、2017年末は60.46ドルでした。

 ○米国のガソリン価格は安定した後に、若干下落しました。ガソリン価格(EIAによる全等級)は月末の2週間前に1ガロン=4.414ドルを付けましたが、4.334ドルで月末を迎えました。2021年末は3.375ドル、2020年末は2.330ドル、2019年末は2.658ドル、2018年末は2.358ドル、2017年末は2.589ドル。

 ○米国のジョージア州とメリーランド州は、他の州に先駆けて一定期間ガソリン税(1ガロン当たりで前者は0.291ドル、後者は0.361ドル)を免除することを決めました(前者は2022年5月31日まで、後者は30日間)。

 ○バイデン大統領は6ヵ月間にわたり戦略石油備蓄から日量100万ドルを放出すると発表しました。米国の石油需要は日量約2100万バレルで、2021年12月時点の備蓄量は5億9400万バレルです。

新型コロナウイルス関連

 ○感染者数の減少傾向が続き、インフレやウクライナ情勢にヘッドラインを譲っていた新型コロナウイルスですが、全般的に感染者数が再度増加する傾向が確認されています。

  ⇒欧州では新たにオミクロン株の派生型「BA.2」の感染が広がり、感染者数が増加しています。米国では感染者全体の4分の1が「BA.2」に感染していました。中国では感染者数が増加したために2つの都市をロックダウンしました。

  ⇒米食品医薬品局(FDA)は、50歳以上の成人を対象にファイザー製とモデルナ製のワクチンを使用する2回目のブースター接種を承認しました。

 ○中国は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、長春と深センでロックダウンに踏み切りました。感染者数自体は少ないものの、中国の(予防的な)「ゼロコロナ」政策によって多くの工場が操業停止となっています。大手ではアップル製品の受託生産を行っているFoxconnが工場の稼働を停止しました。

  ⇒3月下旬に中国は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むために、(2段階での)上海でのロックダウン措置を発動しました。

  ⇒上海ディズニーは新型コロナの感染増加を理由に、営業する施設を一時閉鎖しました。中国は(2021年1月以来)1年ぶりに新型コロナによる死者を公表しました。同国の新型コロナ死者数は1万0534人となっています(出所:ジョンズ・ホプキンス)。

  ⇒米国の1週間当たりの新規感染者数は100万人に増加し、陽性率は6.4%となりました。

 ○新型コロナウイルス関連データ:

  ⇒世界全体のワクチン接種回数は112億回となりました(2022年2月末時点では107億回)。

   米国は現時点で:

   →ワクチン接種回数が5億5900万回(同5億5200万回)となりました(ブースター接種を含みます)。

   →人口の76.1%(同75.6%)が少なくとも1回は接種したことになり、人口の64.8%(同64.2%)が2回の接種を終えました。人口の28.9%(27.9%)がブースター接種を受けました。

   →新規感染者数の7日間平均は3月末時点で2万7621人となり、2月末時点の6万6441人から減少しました。1日当たり新規感染者数は2022年1月11日に141万7493人に達しました(2021年11月末時点で8万3120人)。また、死者数の7日間平均は702人(2月末時点は1872人)に減少しました。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム