資源・新興国通貨の2022年9月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2022/03/28 15:26

豪ドル

RBA(豪中銀)は3月1日の会合で、政策金利を0.10%に据え置きました。豪州の21年10-12月期CPI(消費者物価指数)は前年比3.5%と、RBAのインフレ目標レンジ(2~3%)を上回り、CPIトリム平均値は同2.6%と、インフレ目標レンジの中間値(2%)を約7年ぶりに上回りました。インフレ圧力は強まりつつあるものの、ロウRBA総裁は利上げに慎重な姿勢を崩していません。

RBAは以前から、利上げの条件である「インフレ率が目標レンジ内に持続的に収まる」要因になるものとして賃金上昇率の加速を挙げており、そして賃金上昇率が加速するためには失業率が4.0%へと低下する必要があるとの見方を示してきました。豪州の2月失業率は4.0%と、08年2月以来14年ぶりの低い水準へと改善。RBAがメドとする水準に到達しました。

市場では、RBAは6月に利上げを開始し、政策金利は22年末には1.75%になるとの見方が有力。RBAが実際に利上げすれば、豪ドルにとってプラス材料です。日銀の利上げはかなり先(少なくとも22年中はなさそう)と考えられることから、豪ドル/円は堅調に推移するとみられます。豪ドル/米ドルについては、米FRBの利上げペースによっては上値が重くなるかもしれません。

豪ドルは、投資家のリスク意識(リスクオン/オフ)の影響を受けやすいという特徴もあります。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合には、豪ドル/円や豪ドル/米ドルに対して下押し圧力が加わる可能性があります。

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豪ドル/NZドルについては、明確な方向感が出にくいとみられます。RBAは6月にも利上げを開始する可能性があり、RBNZ(NZ中銀)は利上げを継続すると考えられるからです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)はいつ利上げを開始するか。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料。
・資源(主に鉄鉱石)価格は上昇するか。資源価格の上昇は豪ドルの上昇要因。
・豪州では5月までに総選挙実施。政権交代の有無。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は21年10月に利上げを開始し、前回22年2月まで3会合連続で利上げを行いました。現在の政策金利は1.00%です。

RBNZは利上げを継続することを示唆しており、2月の金融政策報告の中で政策金利は22年12月に2.2%、23年12月に3.3%、24年12月に3.4%との見通しを示しました。RBNZと日銀との金融政策の方向性の違いを考えると、NZドル/円は堅調に推移しそうです。NZドル/米ドルについては、米FRBの利上げペースによっては伸び悩む可能性があります。

NZドルは豪ドルと同様、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)にも影響を受けやすいという特徴があります。主要国の株価が下落を続けるなどして、リスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合には、NZドル/円やNZドル/米ドルに対して下押し圧力が加わることも考えられます。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフはNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品(NZ最大の輸出品)価格は上昇するか。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は3月2日の会合で0.25%の利上げを行うことを決定。政策金利を0.25%から0.50%へと引き上げました。

マックレムBOC総裁は3月3日の講演で「必要なら、(今後)0.50%の利上げを行うことも排除しない」と述べました。カナダの2月CPI(消費者物価指数)は前年比5.7%と、BOCのインフレ目標(2%を中心に1~3%のレンジ)を大きく上回り、91年8月以来の高い伸びを記録しました。BOCは今後も利上げを継続するとみられ、4月13日の次回会合では0.50%の利上げが行われる可能性があります。BOCの利上げ観測に支えられて、カナダドル/円は上値を試す展開になりそうです。

カナダドル/円は、原油価格の動向にも影響を受けやすいという特徴があります。原油はカナダの主要輸出品のため、原油価格の上昇はカナダドル高材料。原油価格が堅調に推移すれば、カナダドル/円にとってさらなる支援材料になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・資源(特に原油)価格の動向。資源価格の上昇はカナダドルにとってプラス材料。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は21年9月~12月に4カ月連続で利下げを実施した後、政策金利を14.00%に据え置いています。一方で、トルコの2月CPI(消費者物価指数)は前年比54.44%と、02年3月以来約20年ぶりの高い伸びとなりました。その結果、トルコの実質金利(政策金利からCPI上昇率を引いたもの)は大幅なマイナスとなっており、これはトルコリラ安材料と考えられます。

原油など資源の価格上昇やこれまでのトルコリラ安の影響もあり、CPI上昇率は今後加速する可能性があります。エルドアン大統領が低金利を志向するなかでTCMBが利上げを行うのは困難と考えられるため、実質金利のマイナス幅は今後さらに拡大しそうです。

トルコは原油や天然ガスを国外からの輸入に依存しているため、原油などの資源価格の上昇はトルコ景気の下押し要因です。原油高が進めば、トルコリラ安圧力はさらに強まるかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・大幅なマイナスのトルコの実質金利。トルコリラ安材料と考えられる。
・原油など資源価格が一段と上昇すれば、トルコリラ安圧力が強まりそう。
・トルコと米国やEUとの関係は改善するか。
・シリア情勢などトルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は、3月24日の会合で0.25%の利上げを行うことを決定。政策金利を4.00%から4.25%へと引き上げました。利上げは3会合連続です。

3月の会合では、5人の政策メンバーのうち3人が0.25%の利上げを支持し、2人は0.50%の利上げを主張。僅差で0.25%の利上げが決定されました。前回1月の会合時は、4人が0.25%の利上げを支持し、1人は据え置きを主張したため、政策メンバーの今回の投票行動をみれば、SARBはタカ派的な姿勢を強めたと見なすことができそうです。

南アフリカの2月CPI(消費者物価指数)は前年比5.7%と、SARBのインフレ目標レンジ(3~6%)の上限に近い水準に高止まりしています。資源価格上昇の影響により、CPI上昇率は今後加速する可能性があり、SARBは利上げを継続すると考えられます。南アフリカランド/円は底固く推移しそうです。

一方で、南アフリカは電力の問題を抱えています。発電施設の老朽化や維持・補修費の不足によってエスコム(南アフリカの国営電力会社。国内電力の約9割を供給)は、計画停電をたびたび実施しています。今後、計画停電が長期間行われるようなことになれば、南アフリカ景気をめぐる懸念が市場で強まるかもしれません。その場合、南アフリカランド安材料になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・エスコムの計画停電が長期化すれば、南アフリカランド安材料になる可能性も。
・米FRBの利上げペース。
・金など商品価格の動向。商品価格の上昇は南アフリカランドにとってプラス材料。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は、3月24日の会合で0.50%の利上げを行うことを決定。政策金利を6.00%から6.50%へと引き上げました。利上げは7会合連続です。
 
メキシコでは、インフレ圧力が強まっています。メキシコの2月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比7.28%、食品やエネルギーを除いたコア指数は同6.59%と、BOMのインフレ目標(3%。その上下1%が許容レンジ)を大きく上回り、特にコアCPIは01年6月以来の高い伸びでした。

原油など資源の価格上昇の影響もあってインフレ圧力は今後一段と強まるとみられ、BOMは利上げを継続すると考えられます。BOMの利上げ観測に支えられて、メキシコペソ/円は堅調に推移しそうです。

メキシコペソ/円はカナダドル/円と同様に、原油価格の動向にも影響を受けやすいという特徴があります。原油価格が堅調に推移すれば、メキシコペソ/円にとってさらなる支援材料になりそうです。

注目点・イベントなど
・BOM(メキシコ中銀)は利上げを継続するとみられる。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の上昇はメキシコペソ/円の上昇要因。
・米FRBの利上げペース。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想