財政政策の寄与、セクター間所得再配分チャンネルとしてのインフレの必要性
デジタル革命がもたらしてきた格差拡大
デジタル革命が進行し、デジタルデバイドと称される格差が拡大してきた。高い技能を持つ労働者は生産性を高めるので高賃金を享受できるが、技術のない非熟練労働者は生産性が上がらず賃金上昇も遅れる。
加えて、GAFAM(アルファベットA
しかし、GAFAMは投資と雇用を増やす代わりに、儲けをもっぱら配当や自社株買いで株主に還元する。すると株価が上がり、さらに富める人々を豊かにし格差を拡大させる。このようにしてデジタル革命は人を不幸にするのでは、という懸念が語られてきた。
コロナ禍で現れた低スキル分野での賃金上昇と格差縮小
ところが、いまコロナ禍の下で、それとは異なる格差縮小という現象が起きている。これまで等閑視されていた低スキル労働の賃金が、急伸しているのだ。管理職より現場労働者が、正規雇用よりパートタイマーが、男性より女性が、高スキル労働者より低スキル労働者が、中堅労働者より若年労働者が、2021年以降は賃金上昇率を強めているのである。
セクター別の実質賃金の推移を見ると、全体で見れば、製造業もサービス業もまだ賃金上昇傾向に入っていない。しかし、細分類のセクターを見ると、運輸・倉庫や娯楽・エンタメ部門だけ急速に賃金が上昇している。それらのセクターの中でも非管理労働者、管理職以外の人、つまりトラックの運転手、あるいはレストランのウエイター・ウエイトレスなどの給料が大幅に跳ね上がっている。
他方で生産性の伸びが最も高く、これまで高賃金で高スキル労働の代表であった情報産業の実質賃金は、コロナ禍勃発以降大きく下落している。デジタル革命、リモートワークで生産性が上がっているオフィスワークでは求人数があまり増えず、労働需給が緩慢で、賃金上昇が物価に追いついていないのである。長らく期待されてきた賃金格差縮小が、コロナ禍の特殊事情において実現しているのである。
低スキル労働の賃金上昇を財政が支える
労働者の選択肢が大きくなり、給料や労働条件によって職を選びはじめている、と言えるのではないか。過酷で評価されることが少なく、賃金も低い分野には、労働者は寄り付かなくなっているのである。(1)比較的低スキル労働が多いと思われる中小企業において特に求人未充足率が過去最高で、求人難は空前のレベルに達している、(2) 米国の離職者数はコロナ前の水準どころか、史上最高の水準まで高まっている――などがその証拠である。
この賃金格差縮小を陰で支えているものは、巨額の財政出動と金融緩和である。コロナ禍の下での超積極的財政・金融政策で需要が創造され、生産性が上昇しない過酷で低賃金労働分野において需要が高まり、労働需給をひっ迫させたのである。
もし財政・金融政策による需要の支えがなければ、生産性の伸びが低く雇用バッファーが乏しい、運輸やレジャーなどの低スキル分野で雇用削減が起き、格差はさらに拡大していたであろう。
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