例年通り、2021年の倒産動向を振り返り、2022年の倒産について予測する。
【2021年の倒産件数(全企業)】
倒産件数 | 6,030社 | 〔2020年:7,773社〕 | <前年比0.78倍> |
負債総額 | 1兆1507億円 | 〔2020年:1兆2,200億円〕 | <前年比0.94倍> |
今年の倒産件数は、超好景気というべきバブル期の倒産件数(7234件)よりも少なかった。
言わずもがなだが、日本が好景気であるはずもなく、政府による約55兆円の資金繰り支援、雇用調整助成金や時短協力金などの補助金などのコロナ対策が奏功し、倒産件数は57年ぶりの低水準となった。
一方、2021年の「休廃業・解散」企業は4万4,377件(2020年:4万9,698件)と減少した。
しかし、高水準の件数であることに変わりはない。
≪2012年~2021年倒産件数(全企業と上場企業)の棒グラフ≫
http://alox.jp/dcms_media/other/220118_kensuu.pdf
【2021年の倒産件数(上場企業)】
倒産件数 | 0社 | 〔2020年:2社〕 | <前年比 計算不可> |
2021年の上場企業倒産は、0件である。
ただし、倒産のカテゴリーには含まれないが、ヴィア・ホールディングス【東証1部】、ワタベウェディング【東証1部】が事業再生ADRを申請した。
直近10年間の上場企業の倒産件数と日経平均株価の推移は、下記の通りである。
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の棒グラフ≫
http://alox.jp/dcms_media/other/220118_stockkensuu.pdf
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の折れ線グラフ)≫
http://alox.jp/dcms_media/other/220118_relation.pdf
【今年は?】
上場企業、未上場ともに、倒産件数は増加する。
コロナ前の日常(倒産件数)に回帰する。
【重大イベントカレンダー】
今年の政治経済にインパクトがあるイベントを列挙した。
このイベントの情報等を踏まえて、倒産件数に影響のある要因を〔ネガティブ〕と〔ポジティブ〕に分けて、記載する。
〔ネガティブ要因〕
(1)新型コロナ対策の終了
世界中で、“オミクロン株”は流行しているが、1年前ほどの切迫感はない。
今後、“オミクロン株”に代わる変異株の出現リスクも否定はできないが、それ以上に「日常回帰」が優先されている傾向がある。
日本における大半の新型コロナに絡む資金繰り支援は、2022年3月31日に終了する※。
資金繰り支援によって、延命していた企業は、新たな日常で経済活動を行い、キャッシュを稼がなければならない。
当然だが、コロナ関連融資は無担保無利子とはいえ、借入金の返済は必要である。
現状、倒産が少ないため、各金融機関は貸倒引当金(倒産に備えて予め計上している)に余裕がある。
それゆえ、各金融機関は返済条件の変更(いわゆるリスケ)には応じている状況だ。
しかし、その状況も遅かれ早かれ「日常回帰」する。
借りたものは返さなければならない。
借りたものを返せなければ、倒産・廃業するか、第3者の支援(出資、M&A)を受けるか、2社択一である。
今年は、2社択一の選択をしなければならない企業が増えるだろう。
※緊急事態宣言の発令や新たな変異株の出現によっては、資金繰り支援の追加・延長がある可能性はあります。
(2)不安定な米国バイデン政権
米国におけるバイデン大統領の支持率は悪化している。
トランプ政権時よりも新型コロナの感染が拡大し、さらに記録的な物価上昇が起きているからだ。
11月に実施される中間選挙は敗北が確実(大統領就任後の中間選挙はほぼ与党が負ける)な情勢である。
つまり、民主党敗北、共和党の勝利となり、トランプ氏が政界へ復活するシナリオもありえる。
また、対中国やロシアに対して、致し方ない部分もあるが強硬な姿勢で臨み、冷戦のように世界各国を西と東に分断することに寄与している。
まさに今、ウクライナでは、東西冷戦の構造で、戦争が起こり得る危険水域まで達した。
「世界の警察としての米国」という言葉、死語であり、自国第一主義国家が跋扈する時代が到来した。
(3)“戦狼外交”国家の中国
中国の外交官が記者会見で、協調ではなく、攻撃的なスタイルであることを“戦狼外交”と呼ぶ。
国として“戦狼外交”を貫いているため、さまざま軋轢を内外に有する。
リスク要因を3つ、列挙する。
-1-不動産の規制に絡む金融不安
習近平国家主席は、「住宅は住むところであって、投機の対象ではない」とし、3つの不動産融資規制が導入した。
1.資産負債比率70%以下
2.自己資本に対する負債比率100%以下
3.短期負債を上回る現金保有
上記の基準を基に、不動産企業はランク付けされ、銀行の融資が制限される。
この結果、中国恒大集団、花様年控股集団、当代置業などが経営危機に陥っている。
(2020年12月末時点で、中国恒大集団は、総資産:約39兆円に対して、負債:約33兆円、自己資本:約5.8兆円である。たった1社で、日本の国家予算(107兆5964)の3/1規模の負債である。)
前述の3社は資産売却等によってリストラを進めており、影響は限定的だが、懸念されるのは不動産価格の下落に伴い、それを担保として融資している銀行への影響だ。
つまり、官の力によって、不動産バブルを抑制する一方で、銀行の経営まで圧迫させるリスクを引き起こしているのである。
最悪のケースとしては、不動産業向け融資の多い銀行の経営不安が起こり、国民の取り付け騒ぎが発生し、その光景がSNSを通じて世界に広がり、中国発の金融不安が起こることだろう。
-2-台湾、香港の有事
「台湾は中国の一部である」 中国の絶対不可侵の方針である。
この方針に対する意見は、内政干渉として、“戦狼外交”官から、強烈な反撃がある。
この件につき、中国が意識しているのは、米国のみであり、日本を含む他のアジアの国は全く相手にされていない。
秋に開催予定の共産党大会で、台湾だけではなく、香港についても、好戦的な言及がなされる可能性は大いにある。
台湾、香港有事は、現実として有り得る。
-3-イベントを通じた国威発揚
2月4日から中国北京で冬季オリンピック、秋には5年に1度の中国共産党大会が開催される予定だ。
新疆ウイグル自治区、チベット自治区における人権侵害、中国女子テニス選手の行方不明事件などで、西側諸国からボイコットや批判を受けても、中国は全て抑え込む姿勢である。
国威発揚という点で、共産党大会で頂点に達する。
異例の3期目となる可能性が高い習近平国家主席の発言は、内外に波紋を広げるのではないだろうか。
改めて言うまでもないが、中国は、民ではなく、官(共産党一党)による国家であり、「鶴の一声で市場が消滅する可能性」を認識の上で、取引を行わなければなるまい。
(4)ニンジン効果”で地銀再編の加速
2021年12月、愛知銀行と中京銀行が経営統合すると発表された。
また、地方銀行8行と提携しているSBIが、TOBによって新生銀行を連結子会社化した。
今年及び来年も同様の動きが頻発する。
なぜなら、2021年に改正された金融機能強化法で、統合に伴う基幹系システムの統合費用の一部を国が支給(上限30億円)される。
この資金交付制度の申込期限は2026年3月末であり、それまでに多くの地域で、統合の発表がなされるのは確実だ。
(日本銀行が経営統合した銀行に対して、当座預金に上乗せ金利を付ける枠組みもある。)
金融機関の統合によって、お互いの融資先の名寄せが行われる。
その際に、お互いに入手している審査情報を共有するのが通例だが、入手した決算書内容に差異があり、粉飾が発覚することはよくある。
つまり、地銀再編によって、融資先の選別(格付けの見直し)が実施される。
統合後のメインバングの融資姿勢の変化によっては、予想外の倒産が発生するかもしれない。
(5)その他の変動要因
-1-フランス大統領選
4月の大統領選は、現職のマクロン氏が有利と言われているが、ペクレス氏が猛追している状況だ。
「反移民」「反イスラム」を掲げるルペン氏、ゼムール氏が当選した場合、米国のトランプ元大統領ほどではないと思うが、混乱は避けられないだろう。
-2-ドイツのニューリーダー
歴史に残る指導者メルケル首相は退任し、ショルツ首相が誕生した。
前任が偉大すぎるため、現時点では小粒感は否めず、EUにおけるプレゼンスを維持できるか不透明である。
-3-半導体不足とウッドショック
急激な需要増によって品薄なのが半導体と木材である。
供給という点で、ソニーセミコンダクタソリューションズが台湾企業とともに、熊本に半導体工場を設立するが、生産開始は2024年末であり、品薄の解消には時間がかかる。
木材不足によって、日本の住宅メーカーも影響を受けており、納期に間に合わないような事態が発生している。
「注文があっても、納品ができない」という事態が発生しており、企業には、在庫最小化で賞賛されたジャストインタイム方式を見直しし、ある程度の在庫を抱えることと、調達先の拡充が求められる。
-4-人権に対する炎上リスク
ファーストリテイリングは、「中国の新疆ウイグル自治区の綿製品が、強制労働で生産された疑いがある」と批判された。
(ファーストリテイリングは、自社が扱う製品について人権侵害につながる取り引きは確認されていないと主張。)
真偽は不明だが、このようなニュースは一挙に拡散し、不買運動となるリスクを秘めている。
企業は、人権に対する態度を見誤った場合、いくら財務内容に余裕があっても、即死するリスクがあることを認識しなければならない。
-5-大企業のリストラ
東京商工リサーチによれば、「2021年に早期・希望退職募集を開示した上場企業は84社であり、2年連続で80社を超えた。2年連続の80社超は、リーマン・ショック後の2009年(191社)、2010年(85社)以来、11年ぶり。」らしい。
(参照元:東京商工リサーチ 1000人以上の大型募集、20年ぶり高水準
コロナ禍で実施企業の二極化加速【2021年上場企業「早期・希望退職」募集状況】
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220120_01.html)
新型コロナが直撃している鉄道、観光関連は想像しやすいが、将来的な経営環境の悪化を見越して募集に踏み切った「黒字リストラ企業」は、そこに働く社員だけではなく、下請け企業にも影響が波及する。
顕著な例はホンダである。
ホンダは、リストラによって、高齢者の退社を促し、EV化に向けた新しい技術者を増やす算段だ。
ホンダの下請け先も、EV化に適合可能な製品を開発できる企業にリストラ(選別)されることは確実だろう。
〔ポジティブ!?要因〕
(1)市民権を得たSDGs、DX、EV
SDGs、DX、EVは、一時の流行語から市民権を得た言葉として日常会話として利用されるようになった。
・SDGs:Sustainable Development Goals
持続可能な開発目標
・DX:Digital Transformation
進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること
・EV:Electric Vehicle
電気自動車
日本車は、EVに関して言えば、周回遅れであり、ガソリン車(ハイブリッド車を含む)の成功体験が電気自動車へのシフトするのを遅らせたと言えるだろう。
一方、EUは戦略的にEVシフトを進めており、EVの覇権を握るつもりだ。
このまま推移すれば、日本車のシェアが落ちるのは確実であり、「完成車メーカーを頂点にピラミッド構造を成す自動車産業」の苦境は、そのまま日本の苦境に直結するため、官民を挙げた取り組みが必須なのは言うまでもない。
(2)宇宙事業の勃興
スペースX、ブリーオリジン、バージョンギャラクティック、インターステラテクノロジズ(堀江貴文氏)など、多数の企業や著名人が宇宙事業へ参入し、活況を呈している。
ロケット開発の低コスト化が進み、前沢友作氏のように民間人が宇宙旅行に行ける時代となった(現時点では、100億円近い旅費が必要らしい)。
また、2022年中に、中国が宇宙ステーション「天宮」を完成させる予定であり、しばらく宇宙事業はキラキラとしたイメージが続く。
とはいえ現在は先行投資のステータスである。
「利益が出る宇宙事業を手掛ける企業」が誕生するのは、しばらく先だろう。
(3)GAFAMの解体!?
あまりにも大きくなり過ぎたGAFAM(Google【アルファベット】、Amazon、Facebook【メタ】、Apple、Microsoft)に対する批判は止まらず、解体論が叫ばれる時代となった。
確かに、優良サービスを手掛ける企業が、GAFAMに買収されるパターンは多い。
著名な所ではYouTubeがあげられるだろう。
昔は、別会社だったが、今はグーグル内の超優良サービスの一角を占めている。
すでに規制の対象にはなっており、公正な競争を阻害する可能性がある買収はできなくなっている(独占禁止法)。
しばらく、デジタルプラットフォーマーと呼ばれる5社の覇権は続くだろうが、包囲網が整備されつつあり、5社に割って入る企業が出ているかもしれない。
(4)昆虫食
2013年、国連食糧農業機関は「今後、昆虫食が食料・飼料になり得る」とレポートで指摘し、昆虫食が注目を集めた。
それから8年経過し、日本には昆虫食しか売っていない自動販売機が出現している。
また、2020年5月には、無印良品が初の昆虫食として「コオロギせんべい」を発売し、さらに2021年12月には「コオロギチョコ」の発売を開始した。
「高たんぱくで食料危機を救う」と呼ばれる昆虫食から目が離せない。
【総括】
スペースXを率いるイーロン・マスク氏は、2026年までに、火星に人類を送り込む計画だ。
そして、2040年から100年をかけて火星に100万人の人類を送り込み、自給自足して暮らせる植民地を作るという。
映画や小説の世界で、「地球が環境汚染や核戦争によって、住むことができなくなり、人類が宇宙の居住環境な星へ旅立つ」というシナリオはよく目にするが、イーロン・マスク氏の構想は、空想に現実が追い付いたと言える。
ただし、「地球に住めなくなる」という空想は、あくまでもフィクションの世界のみとするためにも、企業には、SDGsを意識した経済活動が不可欠である。
上記及びネガティブ、ポジティブの要因や過去からの推移から、今年は下記の倒産件数を予想する。
<倒産件数>
〔上 場〕 → 3(±1)
〔全企業〕 → 8,000(±300)
※ 参照資料
・東京商工リサーチ 『2021年(令和3年)の全国企業倒産6,030件』
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2021_2nd.html
『休廃業・解散企業は前年から1割減の4.4万件、廃業前決算「黒字」が大幅減【2021年】』
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220118_01.html
・帝国データバンク 『全国企業倒産集計2021年報』
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/21nen.html
・週刊ダイヤモンド 『2021総予測』
・週刊東洋経済 『2022年大予測』
・日経ビジネス 『徹底予測2022』
・週刊エコノミスト 『世界経済総予測2022』
・週刊エコノミスト 『日本経済総予測2022』
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