S&P500月例レポート(21年12月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2021年11月
個人的見解:株主が最高値更新を選び続ける中、新型コロナウイルスは屈服を拒み、パウエル議長はインフレ重視に移行(12月には債務と予算が期限を迎え、テーパリングも焦点に)

 市場参加者が最高値を求め続けるから
 新型コロナウイルスは屈服してくれない
 その結果がどうなるか覚えているかい?
 資金の流入が根拠なき熱狂につながったのさ
 それでも年初来で21.59%の上昇に
 能天気な人たちはウイスキーを飲みながら「今年こそ引退するぞ」と歌い続けている

 新型コロナウイルスの新たな変異株の出現は、まるでニューヨークの地下鉄に次から次へと人が乗り込んでますます混み合っていくようなもので、予想されていた展開でした。世界保健機関(WHO)は新たな変異株を「オミクロン」と命名しました。オミクロン株の感染力や健康上の脅威を見極めるのに少なくとも1週間はかかると思われますが、初期データを見る限り、オミクロン株には50近い変異が見られ、そのうちヒトの細胞への結合を可能にするスパイクタンパク質上で30ヵ所の変異が確認されています。オミクロン株が出現する以前から、欧州を中心に感染者数は増加傾向にあり、規制を強める動きが見られていましたが、ここにきて多くの国が、オミクロン株の感染拡大を抑制しようと渡航制限を強化しています。

 市場は強く反応しましたが、重大と言うほどではありませんでした。米国では、変異株について報道された11月26日のブラックフライデー当日にS&P 500指数は2.27%下落しました(祝日の都合で取引時間は短縮されましたが、出来高は多くなりました)。1日の下落率としては今年で3番目の大きさであり(1928年以降では646番目)、同指数は11月18日に付けた終値での最高値から2.34%安の水準に落ち込みました。ちなみに、今年の最高値更新は66回で、1995年の77回に次ぐ過去2番目の記録となっています。変異株の影響は不明でしたが、市場は再びロックダウンが行われることはない(行われるのを見たくない)と楽観視して押し目買いに動き、同指数は翌営業日に1.32%上昇しました。

 さらに、その翌日の30日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はインフレの高まりが「一過性」であるという表現に難色を示し、テーパリング(資産買い入れ枠の縮小)の加速が予想されたことから、S&P 500指数は同日に1.90%下落し、月間の騰落率はマイナス0.83%に転じました。それでも最高値からは2.92%安の水準にとどまり、年初来では21.59%上昇しています(2020年は16.26%上昇)。利上げの予想開始時期は前倒しされ、2022年中に1~2回の利上げという予測にもはや異論の余地はないようです。

 オミクロン株に関する報道以前(21営業日中18日目まで)を見ると、S&P 500指数は11月に7回最高値を更新し、企業の利益と売上高(自社株買いと配当も)は四半期ベースで過去最高を更新するとみられていました。消費者が引き続き支えとなり、供給をめぐる懸念で今のうちに買っておかないと商品がなくなってしまうとの不安から、クリスマスシーズン前のショッピングが増加しました。シーズン突入(ブラックフライデー)時点の初期予測では、大幅に落ち込んだ2020年と比べて店舗に客足が戻り、初日の売上高は89億ドルと、前年比48%増となりましたが、それでも2019年と比べると28%下回っています(利益率は大幅に上昇する見通しです)。

 ちなみに、私の妻と娘は恒例(今年で17回目)のブラックフライデーのショッピングに出かけていきました。今年はSoHoからスタートし、ミッドタウンまで巡ったようです。報告によれば、各店舗はセールを大々的に宣伝していましたが、セール品はほとんどなく、それどころか商品が品薄だったため、私は彼らからのメールでハドソン・ヤードまでジャケットを買いに行く羽目になりました。ハドソン・ヤードは職場から近くはありませんでしたが、向かったショッピングセンターは少しも混雑しておらず、目当てのジャケットは残り2着で、しかも10%しか値引きされていませんでした。週が明けてサイバーマンデーのセールも始まりましたが、米国の買い物客は既にコロナ禍の大半をネットショッピングに費やしています。

 現段階において、新型コロナウイルスは市場にとって最大の長期的脅威ではないように見えますが、新たな(または次の)変異株が予想以上に悪性であると判明すれば、影響は深刻なものとなる可能性もあります。現時点での脅威はインフレであり、供給不足、労働コスト、人手不足、そして旺盛な購買意欲を抑えきれない消費者といった要因によって、ますます押し上げられています。

 とはいえ、目先の脅威は12月3日に期限を迎える予算(数週間の猶予が与えられるかもしれないとの見方もあります)と、12月の前半にも上限に達すると見られる連邦債務でしょう。どちらの問題も、人格と能力に秀でた議員の皆さんが解決してくれるはずで、市場関係者の多くはサンタクロースラリーを期待しています。こうした資金の流入や楽観を馬鹿にするつもりなど毛頭なく、根拠なき熱狂よ万歳、そして皆さんが取引と共にあらんことを。

 過去の実績を見ると、11月は61.3%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.00%、下落した月の平均下落率は4.25%、全体の平均騰落率は0.85%の上昇となっています。2021年11月のS&P500指数は0.83%の下落でした。

 12月は73.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.95%、下落した月の平均下落率は 3.08%、全体の平均騰落率は 1.33%の上昇となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、12月14 -15日、2022年1月25日-26日、3月15日-16日、5月3日-4日、6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。

 S&P500指数は11月に0.83%下落して4567.00で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス0.69%)。10月は4605.38で終え、6.91%の上昇(同プラス7.01%)となり、9月は4307.54で終え、4.76%の下落でした(同マイナス4.65%)。過去3カ月では0.98%上昇(同プラス1.32%)、年初来では21.59%上昇(同プラス23.18%)、過去1年間では26.10%上昇(同プラス27.92%)、コロナ危機前の2月19日の終値での高値からは34.87%上昇(同プラス38.80%)して月を終えました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は3.73%下落の3万4483.72ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス3.50%)。なお、10月は3万5819.56ドルで終え、5.84%の上昇(同プラス5.93%)となり、9月は3万3843.93ドルで終え、4.29%の下落でした(同マイナス4.20%)。過去3ヵ月では2.48%下落(同マイナス2.08%)、年初来では12.67%上昇(同プラス14.61%)、過去1年間では16.35%上昇(同プラス18.52%)しました。

主なポイント

 ○S&P 500指数は、10月末の連続最高値更新の流れを維持したまま11月に突入しました。前月末の2営業日(10月28日と29日)に続いて、11月の1週目は全5営業日で終値での最高値を更新するという完璧なスタートを切り、翌週月曜日(8日)も最高値を更新して、最高値更新は8営業日連続となりました。8日連続での高値更新は1928年以降で5回目です。その後、市場では利益確定の動きも見られましたが続伸し、18日には再び最高値を更新して、年初来では66回目となり、1995年の77回に次ぐ過去2番目の記録となりました。この結果、S&P 500指数は過去1年間、終値での最高値を更新した日が毎月あったことになります。感謝祭の祝日後の月末3営業日は1%を超える変動が続き、オミクロン株への反射的な反応で2.27%下落、翌営業日は反発で1.32%上昇、そして最終日にはFRBのパウエル議長が議会証言でインフレの上昇とテーパリングの加速に言及したことで1.57%下落して月末を迎えました。

  ⇒S&P 500指数は11月に0.83%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス0.69%)。10月は6.91%上昇(同プラス7.01%)、9月は4.76%下落(同マイナス4.65%)、過去3ヵ月では0.98%上昇(同プラス1.32%)、年初来では21.59%上昇(同プラス23.18%)、過去1年間では26.10%上昇(同プラス27.92%)しました。

  ⇒同指数は11月に7回、終値での最高値を更新しました(10月は5回、9月は1回、8月は12回、7月は7回、6月は8回、5月は1回、4月は10回、3月、2月、1月は各5回)。年初来の最高値更新は66回となり、2020年11月以降、終値での最高値を更新した日が毎月あったことになります(2020年10月はありませんでしたが、その前の9月と8月は最高値を更新)。

  ⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは34.87%上昇し(同プラス38.80%)、その期間に終値ベースで85回、最高値を更新しました。

  ⇒バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は35.55%上昇(同プラス37.74%)しました(2021年1月20日のバイデン大統領就任後に64回、最高値を更新しています)。

  ⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では104.12%上昇しています(同プラス109.64%)。

  ⇒同指数は、2021年11月18日に付けた終値での最高値である4704.54から2.92%下落して月を終えました。

 ○2021年第3四半期決算は予想が上振れる傾向が続いており、発表を終えた489銘柄中392銘柄(80.2%)で営業利益が予想を上回り、82銘柄で予想を下回り、15銘柄で予想通りとなりました。また、売上高では488銘柄中371銘柄(76.0%)で予想を上回りました。

  ⇒2021年第3四半期は、利益、売上高ともに過去最高を更新する見通しです。

  ⇒2021年第3四半期の利益は過去最高を記録した2021年第2四半期から0.2%の増益が予想されています。

  ⇒2021年通年についても過去最高益を更新する見通しで、前年比で65.2%の増益が見込まれ、2021年予想株価収益率(PER)は22.6倍となっています(2020年の利益は同22.1%減)。

  ⇒2022年の利益は2021年予想からさらに8.7%増と、過去最高益の再度の更新が見込まれ、2022年予想PERは20.8倍となっています。

  ⇒2021年第3四半期中に株式数の減少によって1株当たり利益(EPS)が大幅に押し上げられた発表済みの銘柄の割合は6.8%でした(第2四半期は7.4%、2020年第3四半期は9.6%、2019年第3四半期は22.8%)。

  ⇒2021年第3四半期の営業利益率は13.20%となり、過去最高となった第2四半期の13.54%からは低下しましたが、依然として高水準を維持しています(1993年以降の平均は8.12%)。

 ○2021年第3四半期に実施された自社株買いの97%以上について、内容が発表されました。第3四半期の自社株買いの総額は(2018年第4四半期の 2230億ドルを上回る)2320億ドルに達し、追加の自社株買いの報告が見込まれる中で四半期ベースでの過去最高を更新しました。第2四半期にも自社株買いを実施した同一銘柄の買い戻し額は19%増、2020年第3四半期との同一銘柄で比較すると132%増でした。株価が上昇しているために自社株買いの総額は増加しましたが、同時に企業が実際に買い戻す株式数も減少するため、EPSを向上させる株式数の減少には至っていません、その結果、第3四半期中に株式数の減少によってEPSが4%以上押し上げられた銘柄の割合は僅か7.4%でした(2019年第3四半期は22.8%)。

  ⇒注目すべき点として、バイデン政権は新たな提案の中で、企業の自社株買いに対する1%の課税を盛り込んでいます。

 ○議会では、3.5兆ドルの教育・気候変動・医療関連法案をめぐる妥協点の模索が急がれ、その後には1兆ドルのインフラ法案の採決が待っています。

  ⇒議会は2021年12月3日までの債務上限の一時的な引き上げと、同日を期限とするつなぎ予算を可決しました。これにより土壇場での交渉が再び行われ、ボラティリティが上昇することはほぼ確実です。

  ⇒バイデン大統領は、社会保障関連歳出法案(教育・気候変動・医療関連法案)について当初の3.5兆ドルから半減させた1.85兆ドル規模の修正案を発表し、主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席するため欧州へ出発しました(就任後の主要な外国訪問としては2回目)。大統領はスコットランドのグラスゴーで開かれる国連気候変動枠組条約第2 回締約国会議(COP26)にも出席しました。米国では気候変動関連法案がまとまっておらず、(バイデン大統領が大枠を示した)修正案をめぐって議会で交渉が続けられました。

  ⇒州知事選挙(2021年11月2日)を終え、議会は社会保障関連歳出法案とインフラ投資法案の同時採決を見送り、1兆ドルのインフラ法案を可決し、バイデン大統領が署名を行いました。

  ⇒下院では気候変動・教育・子育て支援を盛り込んだ1.75兆ドルの大型歳出法案(当初は3.5兆ドル規模だったが、その後1.75兆ドルに減額された)が民主党の路線に沿った形で可決され(賛成220、反対213。野党共和党は全員が反対に回った)、上院に送られることになりました(上院は議席数が民主党50、共和党50の同数となっており、議長のハリス副大統領の1票で法案の可否が決まる)。同法案に対する市場関係者の見方は分かれていますが、最終的には規模を縮小して可決されると見る向きが増えているようです。しかしながら、2022年まで成立がずれ込む可能性もあります。

バイデン大統領と政府高官

 ○中間選挙については(2022年11月の選挙では下院は全議席、上院は3分の1の議席が改選対象となる)、2021年の選挙における共和党勢力の巻き返しや予想外のバージニア州知事選挙の結果(共和党候補の勝利)を受け、2022年の選挙戦はこれまでとは異なる展開を見せると思われ、争点も変わる可能性があります。

 ○バイデン大統領は欧州訪問(G20サミット、国連気候変動会議)を終え、(選挙結果を受けて)様相が一変したワシントンに戻ってきました。

 ○議会では新たに提案された(当初の3.5兆ドルから縮小された)1.8兆ドルの教育・気候変動・医療関連法案の審議が続いています。選挙結果を受けて、民主党内では党内対立が強まりました。また、法案通過には選挙戦での敗北が必要だとする声も一部で聞かれました。

  ⇒11月後半に、議会は1兆ドルのインフラ投資法案を可決し、バイデン大統領が署名しました。

  ⇒下院では気候変動・教育・子育て支援を盛り込んだ1.75兆ドルの大型歳出法案(当初は3.5兆ドル規模だったが、その後1.75兆ドルに減額された)が民主党の路線に沿った形で可決され(賛成220、反対213。野党共和党は全員が反対に回った)、上院に送られることになりました(上院は議席数が民主党50、共和党50の同数となっており、議長のハリス副大統領の1票で法案の可否が決まる)。

 ○米国(労働安全衛生局)は、2022年1月4日までに従業員100名以上の民間企業に対して、従業員に新型コロナワクチンの接種もしくは週1回の定期的な感染検査を義務付けることを指示しました(全米労働者の3分の2が今回の措置の対象となる)。

  ⇒連邦控訴裁判所はこの従業員に対する義務化措置の一時的な停止を命令しました。

 ○米国は31ヵ国を対象に、ワクチン接種を済ませたかコロナ検査で陰性証明を受けた海外からの旅行者に対して(2020年2月から導入されていた)渡航制限を解除しました。

  ⇒11月下旬になって、オミクロン株に対応するために、新たな制限措置が導入されました。

 ○バイデン大統領は中国の習近平国家主席とオンライン形式での首脳会談を行いました。両首脳は、3時間を超える会談を両国間の緊張を緩和する機会だと指摘しました。

 ○米国とその他の国(中国、日本、英国)は原油価格とインフレの抑制を目指し、戦略石油備蓄を放出すると発表しました。米国は(6億500万バレルの総備蓄量から)5000万バレルを放出することを決定しました。

 ○バイデン政権は新たな変異株であるオミクロン株に対応するために、8ヵ国からの入国を制限する措置を導入しました。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム