■業績動向
1. 電子部品の市場環境
この30年程度を俯瞰すると、半導体関連メーカー向けに電子部品を製造供給しているため半導体の市況に左右されるのはある程度仕方ないが、エノモト<6928>の業績は起伏が多かった。1990年代はパソコンの普及やデジタル化の流れのなかで半導体向け需要が拡大したが、2000年代に入るとITバブルの崩壊により業績が低迷、LEDの普及とともに改善した業績だが、2008年のリーマンショックを契機に再び低迷することとなった。その後も2011年の東日本大震災、急激な円安、中韓メーカーの低価格での参入などにより、電子部品業界の環境は目まぐるしく変化し業績も変動した。しかし同社は、こうした荒波を高い技術力と適応力で乗り越えてきた。
そして、2010年代半ばになるとスマートフォン普及という追い風が強まったが、これまでの業界環境の悪化や価格競争によって市場を退出したメーカーが多かったこと、スマートフォンのハイスペック化に対応する「メイドインジャパン」品質の電子部品を安定かつ大量に供給できるメーカーが少なくなっていたことから、同社にとって「残存者メリット」を享受しやすい環境となっていた。さらに、装置産業であることに加え、高精密化やハイスペック化により、現在でも年々参入障壁が高くなっている。足元では、車載用やウェアラブル端末など、電子部品の高精度化・超小型化や製品1台当たりの電子部品搭載数の増加が加速している。コロナ禍をきっかけに広がる新しい生活様式の中で情報通信端末などが世界的に需要を拡大している。このように急速に広がりを見せるリードフレームやコネクタのニーズに対し、同社は安定大量生産できる強みを生かして、既存市場、新市場ともに積極的に開拓していく方針である。
なかでも約2,000億円※市場規模があると言われるリードフレーム市場は、電力制御などに使われるパワー半導体などディスクリートの伸長により成長が継続している。特に車載向けパワー半導体は、日本でSEV、欧州や北米、中国ではPHV、EV向けに製品が拡大していく見通しで、2030年までの10年間の出荷数量は平均14.9%の成長が見込まれている。そうしたなかで半導体用リードフレームで、グローバルシェア約5%で世界9位というポジションにある同社だが、特に難易度が高くニーズが強まると予測されている、ワイヤレスボンディング方式の対応製品の製造技術にも強みを持っている。なお、オプトエレクトロニクスと合わせると7兆円前後※になると推定されるディスクリートの市場は、パワー半導体などが車載のみならず5G基地局やデータセンター向けなどでも大きく成長していくと考えられている。また、オプトエレクトロニクス市場も、車載向けの回復や1台当たりの部品搭載率の上昇、デジタルサイネージや大型ディスプレイの回復などにより成長継続が見込まれている。約7兆円※と言われるコネクタ市場は、車載向けの部品搭載数の増加やスマートフォンの高機能化、ウェアラブル端末などのワイヤレス化が成長をけん引し、中期的に年平均6.1%※の成長が期待されている。こうした成長市場において、同社は強みを活生かすことで市場を上回る成長を狙っている。
※出所:同社決算説明資料より。
コロナ禍のなか、好業績を達成
2. 2022年3月期第2四半期の業績動向
2022年3月期第2四半期の業績は、売上高13,714百万円(前年同期比31.1%増)、営業利益1,151百万円(同156.9%増)、経常利益1,166百万円(同153.7%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益848百万円(同155.4%増)となった。国内経済は、新型コロナウイルス感染症の再拡大の影響から景気の回復は鈍化し、度重なる緊急事態宣言の発出・延長などにより個人消費も低調な推移となった。半導体の需要は、スマートフォンの5Gシフト、コロナ禍の巣ごもり需要によるパソコンなど情報端末のニーズ拡大、2021年3月期下期以降の自動車市場の急回復により、世界的に急増した。一方、半導体の供給は、こうした世界的な需要回復に加え、微細化が進む半導体の製造をファウンドリ(半導体の受託生産企業)に委託する動きの中で、米国による中国ファウンドリ大手への禁輸措置により委託先が台湾など一部ファウンドリに集中してひっ迫することとなった。特に足元、自動車向け需要の急回復をきっかけに半導体不足は一気に進むこととなり、そのため先行き供給不安から在庫の確保に走る企業・業種が増えたことで、半導体不足に輪をかけることとなった。
同社は、第1四半期は前年コロナ禍の反動増、第2四半期は感染症再拡大によるサプライチェーンへの影響を強く受けたが、スマートフォン向けが好調を持続、車載向けも前下期からの回復傾向が強まったため大幅な増収となった。利益面では、製造工程の自動化・効率化による製造コストの低減を進めたが、それ以上に工場稼働率の回復が売上総利益率の向上に寄与した。前年は中国とフィリピンがロックダウンで一時的に稼働停止もあったが、今期はそこから回復しただけでなく、3拠点とも顧客先が需要回復で好調となったため、通常より稼働率が向上した。販管費は、増売効果に加え、前年にコロナ禍で混乱して増加した物流費が落ち着きを取り戻したため、販管費比率も大きく改善した。なお、スマートフォン向けの好調持続、車載向けなどパワー半導体の好調、半導体供給不足を懸念した一部前倒し需要によって、第2四半期の売上・利益は計画以上の進捗になったようだ。
製品群別の状況は、IC・トランジスタ用リードフレームでパワー半導体が自動車向けに拡大した。パワー半導体はかつて伸びが小さく地味な存在だったが、リードフレームやパッケージの進化により電子制御や省エネ、電力供給などへと用途が拡大したことで需要が広がってきた。オプト用リードフレームは、交通インフラなどディスプレイや自動車向けLEDを中心に需要が回復してきた。コネクタ用部品は、主力のスマートフォン向けで、通常なら新モデル向けに第1四半期から第3四半期に向けて徐々に増加し第4四半期にはピークアウトするという流れが、第1四半期から強い需要が続いている点でこれまでと異なる状況となった。
用途別売上高では、車載向けが、半導体不足や顧客先の新型コロナウイルスの感染拡大により一部調整はあったが、自動車の生産回復に伴ってパワー半導体用リードフレームやエアバッグ用コネクタなどが回復した。スマートフォンは前述したとおり出荷の立ち上がりが通年より早くなった。なお、前期に盛り上がったウェアラブル端末向けは、第1四半期から第2四半期にかけて在庫調整でやや低迷したが、足元で機能を向上した新モデル向けの採用も出てきたことから、需要拡大のトレンドは変わらないようだ。民生・産機・その他は、汎用的用途のパワー半導体用リードフレームや交通インフラなどディスプレイ向けLED用リードフレームなどが増加した。この結果、売上高構成比は車載30.3%、スマートフォン+ウェアラブル33.0%、民生・産機・その他36.7%と、各分野3分の1ずつというバランスの取れた構成となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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1. 電子部品の市場環境
この30年程度を俯瞰すると、半導体関連メーカー向けに電子部品を製造供給しているため半導体の市況に左右されるのはある程度仕方ないが、エノモト<6928>の業績は起伏が多かった。1990年代はパソコンの普及やデジタル化の流れのなかで半導体向け需要が拡大したが、2000年代に入るとITバブルの崩壊により業績が低迷、LEDの普及とともに改善した業績だが、2008年のリーマンショックを契機に再び低迷することとなった。その後も2011年の東日本大震災、急激な円安、中韓メーカーの低価格での参入などにより、電子部品業界の環境は目まぐるしく変化し業績も変動した。しかし同社は、こうした荒波を高い技術力と適応力で乗り越えてきた。
そして、2010年代半ばになるとスマートフォン普及という追い風が強まったが、これまでの業界環境の悪化や価格競争によって市場を退出したメーカーが多かったこと、スマートフォンのハイスペック化に対応する「メイドインジャパン」品質の電子部品を安定かつ大量に供給できるメーカーが少なくなっていたことから、同社にとって「残存者メリット」を享受しやすい環境となっていた。さらに、装置産業であることに加え、高精密化やハイスペック化により、現在でも年々参入障壁が高くなっている。足元では、車載用やウェアラブル端末など、電子部品の高精度化・超小型化や製品1台当たりの電子部品搭載数の増加が加速している。コロナ禍をきっかけに広がる新しい生活様式の中で情報通信端末などが世界的に需要を拡大している。このように急速に広がりを見せるリードフレームやコネクタのニーズに対し、同社は安定大量生産できる強みを生かして、既存市場、新市場ともに積極的に開拓していく方針である。
なかでも約2,000億円※市場規模があると言われるリードフレーム市場は、電力制御などに使われるパワー半導体などディスクリートの伸長により成長が継続している。特に車載向けパワー半導体は、日本でSEV、欧州や北米、中国ではPHV、EV向けに製品が拡大していく見通しで、2030年までの10年間の出荷数量は平均14.9%の成長が見込まれている。そうしたなかで半導体用リードフレームで、グローバルシェア約5%で世界9位というポジションにある同社だが、特に難易度が高くニーズが強まると予測されている、ワイヤレスボンディング方式の対応製品の製造技術にも強みを持っている。なお、オプトエレクトロニクスと合わせると7兆円前後※になると推定されるディスクリートの市場は、パワー半導体などが車載のみならず5G基地局やデータセンター向けなどでも大きく成長していくと考えられている。また、オプトエレクトロニクス市場も、車載向けの回復や1台当たりの部品搭載率の上昇、デジタルサイネージや大型ディスプレイの回復などにより成長継続が見込まれている。約7兆円※と言われるコネクタ市場は、車載向けの部品搭載数の増加やスマートフォンの高機能化、ウェアラブル端末などのワイヤレス化が成長をけん引し、中期的に年平均6.1%※の成長が期待されている。こうした成長市場において、同社は強みを活生かすことで市場を上回る成長を狙っている。
※出所:同社決算説明資料より。
コロナ禍のなか、好業績を達成
2. 2022年3月期第2四半期の業績動向
2022年3月期第2四半期の業績は、売上高13,714百万円(前年同期比31.1%増)、営業利益1,151百万円(同156.9%増)、経常利益1,166百万円(同153.7%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益848百万円(同155.4%増)となった。国内経済は、新型コロナウイルス感染症の再拡大の影響から景気の回復は鈍化し、度重なる緊急事態宣言の発出・延長などにより個人消費も低調な推移となった。半導体の需要は、スマートフォンの5Gシフト、コロナ禍の巣ごもり需要によるパソコンなど情報端末のニーズ拡大、2021年3月期下期以降の自動車市場の急回復により、世界的に急増した。一方、半導体の供給は、こうした世界的な需要回復に加え、微細化が進む半導体の製造をファウンドリ(半導体の受託生産企業)に委託する動きの中で、米国による中国ファウンドリ大手への禁輸措置により委託先が台湾など一部ファウンドリに集中してひっ迫することとなった。特に足元、自動車向け需要の急回復をきっかけに半導体不足は一気に進むこととなり、そのため先行き供給不安から在庫の確保に走る企業・業種が増えたことで、半導体不足に輪をかけることとなった。
同社は、第1四半期は前年コロナ禍の反動増、第2四半期は感染症再拡大によるサプライチェーンへの影響を強く受けたが、スマートフォン向けが好調を持続、車載向けも前下期からの回復傾向が強まったため大幅な増収となった。利益面では、製造工程の自動化・効率化による製造コストの低減を進めたが、それ以上に工場稼働率の回復が売上総利益率の向上に寄与した。前年は中国とフィリピンがロックダウンで一時的に稼働停止もあったが、今期はそこから回復しただけでなく、3拠点とも顧客先が需要回復で好調となったため、通常より稼働率が向上した。販管費は、増売効果に加え、前年にコロナ禍で混乱して増加した物流費が落ち着きを取り戻したため、販管費比率も大きく改善した。なお、スマートフォン向けの好調持続、車載向けなどパワー半導体の好調、半導体供給不足を懸念した一部前倒し需要によって、第2四半期の売上・利益は計画以上の進捗になったようだ。
製品群別の状況は、IC・トランジスタ用リードフレームでパワー半導体が自動車向けに拡大した。パワー半導体はかつて伸びが小さく地味な存在だったが、リードフレームやパッケージの進化により電子制御や省エネ、電力供給などへと用途が拡大したことで需要が広がってきた。オプト用リードフレームは、交通インフラなどディスプレイや自動車向けLEDを中心に需要が回復してきた。コネクタ用部品は、主力のスマートフォン向けで、通常なら新モデル向けに第1四半期から第3四半期に向けて徐々に増加し第4四半期にはピークアウトするという流れが、第1四半期から強い需要が続いている点でこれまでと異なる状況となった。
用途別売上高では、車載向けが、半導体不足や顧客先の新型コロナウイルスの感染拡大により一部調整はあったが、自動車の生産回復に伴ってパワー半導体用リードフレームやエアバッグ用コネクタなどが回復した。スマートフォンは前述したとおり出荷の立ち上がりが通年より早くなった。なお、前期に盛り上がったウェアラブル端末向けは、第1四半期から第2四半期にかけて在庫調整でやや低迷したが、足元で機能を向上した新モデル向けの採用も出てきたことから、需要拡大のトレンドは変わらないようだ。民生・産機・その他は、汎用的用途のパワー半導体用リードフレームや交通インフラなどディスプレイ向けLED用リードフレームなどが増加した。この結果、売上高構成比は車載30.3%、スマートフォン+ウェアラブル33.0%、民生・産機・その他36.7%と、各分野3分の1ずつというバランスの取れた構成となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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