S&P500月例レポート(21年11月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET:2021年10月
個人的見解:10月は祝宴相場。しかし11月は選挙、FOMC、議会審議が待ち受ける
「上昇と下落が幾度となく繰り返され、そして、こっぴどく打ちのめされても、その度に私は立ち上がり、[市場に]挑んでいくという一つのことが分かった」ような株式市場でした。これが投資というものであり、私は投資を楽しんでいます。10月は市場のボラティリティの高さと暴落が起きたことでよく知られています(1987年10月19日:20.47%の下落、 1929年10月28日:12.34%の下落、1929年10月29日:10.16%の下落)。S&P500指数が9月に4.76%下落(月間の騰落率がマイナスとなったのは、2021年1月のマイナス1.11%以来です。また、下落率は2020年3月のマイナス12.51%に次ぐ大きさとなりました)するとはほとんど予想されていなかったため、10月を迎えるにあたり警戒感が高まっていました。
10月の株式市場はボラティリティの高い幕開けとなりました(月初3日間は、前日比の変動率が1%を超えました)が、その後は落ち着きを取り戻し、小幅に値を上げながら9月の損失分を取り戻し、さらに上昇基調が続いた結果、最高値を5回更新しました(年初来では59回。年間の高値更新回数は1928年以降では3番目に並びました)。最終取引日にも終値で最高値を更新し、初の4600超えを記録して4605.38で月を終えました。
市場の流れを変えた要因としては、個人投資家からの安定的な資金流入と一部の機関投資家による安値拾いのほかに、企業業績が(再び)予想を上回ったこと(80.8%の企業で業績が事前予想を上回りました)、売上高が過去最高を記録したこと(76.6%の企業の売上高が事前予想を上回りました)、営業利益率が13.33%に達したこと(1993年第1四半期以降の平均は8.12%)が挙げられます――“マネーの動きを追え”ということです。そのほかの「ブースター(相場の押し上げ要因)」としては、良好な経済指標(予想には届かなかった場合でも)、新型コロナウイルスの感染拡大の鈍化(新たな変異株のデルタプラスが出現したようですが)、ワクチン接種の進展(ペースが鈍化しているとはいえ接種は進んでいます。「集団免疫」という用語は聞かれなくなりました)、金利が(変動はあるものの)低位で推移していること(米国10年国債利回りは1.46%~1.69%のレンジで推移)が指摘できます。
また、「マネーの動きを追い」かけ、それに対して課税しようと試みている議会は、期限切れが迫る中で債務上限の引き上げとつなぎ予算の成立という「見事な」仕事ぶりを見せました(12月3日まで連邦政府の債務上限の引き上げとつなぎ予算による政府歳出が認められました)。さらに、1兆ドル規模のインフラ法案の採決を3.5兆ドルの教育・環境・医療関連法案を可決するまでは見送り、後者については規模を1.85兆ドルに圧縮して、これら2つの「関連性のない」法案の採決を11月2日の州知事選挙日以降に先送りにするという偉業を成し遂げました。
結局のところ(と言ってもまだ終わっていませんが)、市場の楽観的ムードが勝利してS&P500指数は10月に6.91%上昇し、年初来では22.61%の上昇となりました。また、月末の取引を最高値で締めくくりました。いつかは市場は調整を余儀なくされます。しかし、利益を求めて市場に参加しないのであれば、マネーを追っていない(そして失業している)のも同然です。
11月の株式市場では、トップダウン的な外的要因からボラティリティは高まると予想されます(これに対して、企業業績はボトムアップ的な相場の変動要因です)。州知事選挙(2022年の中間選挙の前哨戦とみる向きもあります)に続いて、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され(ここでテーパリングのスケジュールに具体的な数値が盛り込まれると思われます)、議会(と民主・共和の両党内)において引き続き財源が確保されていない資金についてどのように支出するかが議論されることになります。
一方で運用担当者は、(月末にかけて)コストのかかるオプションを活用して一部ポジションを手仕舞うことを検討し始めます(S&P500指数は年初来で22.61%上昇、配当込みのトータルリターンはプラス24.04%)。そうしておけば12月の相場の動きとは関係なく、良い運用成果を達成した年(そして十分なボーナス)を確定させることも可能となるからです。
過去の実績を見ると、10月は57.0%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.13%、下落した月の平均下落率は4.67%、全体の平均騰落率は0.39%の上昇となっています。2021年10月のS&P500指数は6.91%の上昇でした。
11月は61.3%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.00%、下落した月の平均下落率は4.25%、全体の平均騰落率は0.85%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、11月2日-3日、12月14-15日、2022年1月25日-26日、3月15日-16日、5月3日-4日、6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。
S&P500指数は10月に6.91%上昇して4605.38で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス7.01%)。9月は4307.54で終え、4.76%の下落(同マイナス4.65%)となり、8月は4522.68で終え、2.90%の上昇でした(同プラス3.04%)。過去3カ月では4.78%上昇(同プラス5.13%)、年初来では22.61%上昇(同プラス24.04%)、過去1年間では40.84%上昇(同プラス42.91%)、コロナ危機前の2月19日の終値での高値からは36.01%上昇(同プラス39.77%)して月を終えました。
ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は5.84%上昇の3万5819.56ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス5.93%)。なお、9月は3万3843.93ドルで終え、4.29%の下落(同マイナス4.20%)、過去3ヵ月では2.53%上昇(同プラス3.00%)、年初来では17.03%上昇(同プラス18.77%)、過去1年間では35.16%上昇(同プラス37.73%)しました。
主なポイント
○S&P500指数は10月初めにボラティリティの高い動きを見せ、月初の3日間は前日比での変動率が1%を超えました。取引初日は1.15%上昇しましたが、翌営業日には1.30%下落し、その翌日には1.05%上昇しました。その後は上昇基調を辿り、前日比での変動が1%を超えた(上昇)のは1回だけでした。3週目に入ると、ゆっくりと積み上がった(ネット)上昇によって9月の下落分を回復し、最高値を5回更新しました(年初来では59回)。この結果、S&P500指数は過去1年の間、終値での最高値を更新した日が毎月あったことになります。
⇒S&P 500指数は10月に6.91%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス7.01%)。9月は4.76%下落(同マイナス4.65%)、8月は2.90%上昇(同3.04%上昇)、過去3カ月では4.78%上昇(同プラス5.13%)、年初来では22.61%上昇(同プラス24.04%)、過去1年間では40.84%上昇(同プラス42.91%)しました。
⇒同指数は10月に5回最高値を更新しました(9月は1回、8月は12回、7月は7回、6月は8回、5月は1回、4月は10回、3月、2月、1月は5回)。年初来の最高値更新は59回となり、2020年11月以降、終値での最高値を更新した日が毎月あったことになります(2020年10月はありませんでしたが、その前の9月と8月は最高値を更新)。
⇒同指数は10月に6.91%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス7.01%)。9月は4.76%下落(同マイナス4.65%。リターンがマイナスとなるのは2021年1月の1.11%下落[同マイナス1.01%]以来)、8月は2.90%上昇(同3.04%上昇)しました。過去3ヵ月では4.78%上昇(同プラス5.13%)、年初来では22.61%上昇(同プラス24.04%)、過去1年間では40.84%上昇(同プラス42.91%)しました。
⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは36.01%上昇し(同プラス39.77%)、その期間に終値ベースで78回、最高値を更新しました。
⇒バイデン大統領が勝利した2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は36.69%上昇(同プラス38.70%)しました(2021年1月20日のバイデン大統領就任後に57回、最高値を更新しています)。
⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では105.84%上昇しています(同プラス111.10%)。
⇒同指数は終値で史上初めて4600を上回り、過去最高値となる4605.38で10月の取引を終えました。
○2021年第3四半期決算も予想が上振れる傾向が続いており、発表を終えた276銘柄中223銘柄(80.8%)で営業利益が予想を上回り、42銘柄で予想を下回り、11銘柄で予想通りとなりました。また、売上高では273銘柄中209銘柄(76.6%)が予想を上回りました。
⇒2021年第3四半期は、過去最高益を記録した第2四半期から1.1%の減益が予想されていますが、S&P500指数の歴史において四半期ベースで利益は2番目に高い水準となる見通しです。
⇒2021年通年については過去最高益を更新する見通しで、前年比で65.0%の増益が見込まれ、2021年予想株価収益率(PER)は22.8倍となっています(2020年利益は同22.1%減)。
⇒2022年の利益は2021年予想からさらに8.7%増と、過去最高益の再度の更新が見込まれ、2022年予想PERは21.0倍となっています。
⇒2021年第3四半期中に株式数の減少によってEPSが大幅に押し上げられた発表済みの銘柄の割合は7.8%でした(第2四半期は5.4%、2020年第3四半期は9.6%、2019年第3四半期は22.8%)。
⇒2021年第3四半期の営業利益率は13.33%となり、過去最高となった第2四半期の13.54%からは低下しましたが、依然として高水準を維持しています(1993年以降の平均は8.12%)。
○2021年第3四半期に実施された自社株買いの37%について、内容が発表されました。第2四半期にも自社株買いを実施した同一銘柄の買い戻し額は23%増、2020年第3四半期との同一銘柄で比較すると107%増でした。最終的に、第3四半期の自社株買いの総額は2000億ドルの大台を回復すると予想され、過去最高となった2018年第4四半期の2230億ドルを上回る可能性もあります。しかし、自社株買いの総額は記録的水準にありますが、株価が上昇しているため、企業が実際に買い戻す株式数は減少しており、第3四半期中に株式数の減少によってEPSが4%以上押し上げられた銘柄の割合は10%未満でした(2019年第3四半期は23%)。
⇒注目すべき点として、バイデン政権は新たな提案の中で、企業の自社株買いに対する1%の課税を盛り込んでいます。
○議会では、3.5兆ドルの教育・気候変動・医療関連法案をめぐる妥協点の模索が急がれ、その後には1兆ドルのインフラ法案の採決が待っています。
⇒議会は2021年12月3日までの債務上限の一時的な引き上げと、同日を期限とするつなぎ予算を可決しました。これにより土壇場での交渉が再び行われ、ボラティリティが上昇することはほぼ確実です。
⇒バイデン大統領は、社会保障関連歳出法案(教育・気候変動・医療関連法案)について当初の3.5兆ドルから半減させた1.85兆ドル規模の修正案を発表し、主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席するため欧州へ出発しました(就任後の主要な外国訪問は2回目)。大統領はスコットランドのグラスゴーで開かれる国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にも出席する予定ですが、米国では気候変動関連法案がまとまっておらず、(バイデン大統領が大枠を示した)修正案をめぐって議会で交渉が続けられています。
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