サブスク型モデルへのCX~PCデポのケース

著者:鈴木 行生
投稿:2021/10/25 12:04

・モノやサービスを1回売り切りではなく、継続的に利用してもらうサブスクリプション型のビジネスモデルへ転換するには、どうしたらよいか。多くの企業がやりたいと思っている。しかし、意外に難しい。

・B to B、B to Cの双方において、サブスク型(定額サービス利用)の顧客(会員)を増やすことは、事業のサステナビリティを高める上で極めて有効である。

・例えば、調剤薬局用のレセコン(レセプトコンピュータ:処方箋処理システム)を、5年間の保守付きで、システムを一括販売する。あるいは、それをリースにして、分割払いにする。これを完全な月額課金型に切り替えることは、簡単にできそうだが、そうはいかない。

・月額課金にすると、初期売上が立たない。数年間は売上が大幅に落ち込む。まして、販売代理店を使っていたら、サプライチェーン全体に影響が及ぶ。数年間の赤字に耐えていければよいが、なかなか決断できるものではない。

・一方、スマホはサブスク型の典型である。スマホのハードの代金を、一括で支払うか分割で支払うか。通信料などの使用料は月額で支払うが、それを定額にするか、利用額見合いにするか。有料アプリをどのように使うか。これらをまとめて月額のサービス利用にすれば、安心で便利に使える。本当だろうか。

・サブスク型の利便性は、①初期負担が重くない、②毎月の利用額が定額で分かり易い、③費用がはっきりしているのでサービスが使い易い、という点にあろう。

・サブスクを提供する企業にとっては、1)顧客の呼び込みがしやすい、2)顧客を長く保持(リテンション)することができる、3)長期的な収入の積み上げで、収益が安定的に拡大できる、というメリットがあろう。

・サブスク型へのシフトを進めているPCデポのケースをみてみよう。PCデポはパソコンショップからスタートしたが、PCをモノとして販売するところから、PCを使う場面の相談に乗って、うまく使いこなせるようにアドバイスするサービス業に転身してきた。

・それが軌道に乗ってきたので、今年より本格的なサブスク型モデルに切り替えることを目指し、KPI(重要経営指標)を一変させた。10年かけて会員型ビジネスにシフトしてきたが、ビジネスモデルを本格的なデジタルライフプランナー型に移行する。

・顧客をファミリー(一家)として捉え、そこに同社のデジタル担当を置いてもらって、顧客のデジタルライフをサポートしていく。一家に、デジタルに詳しい人がいないことは多い。そこにデジタル担当をおいて、デジタル格差(デジタルデバイド)が生まれないように、ひいては、デジタルの多様な楽しみが享受できるようにしていく。

・企業の目標を、カスタマーのLTV(ライフタイムバリュー)におき、カスタマーの長期にわたる価値を高めていく。LTV=サブスクリプション増(月額会員の増加)× 継続期間増、によって測る。

・例えば、家族4人でデバイス4台までとすると、月額のサービス料は5500円である。デジタル担当と一緒に、これからのデジタルライフプランを立てていく。まずは家にあるPCやスマホ、タブレット、プリンター、Wi-Fiなどが、しっかり使われているのか。いろいろなデバイスが混在して、契約も含めて無駄になっていないか。

・祖父母の世代の楽しみ、父母の世代のデジタルライフ、子供たちのデジタル活用など、何でも相談に乗ってくれる。すぐに何かを買う必要はない。新製品が出たからといって、買い替えを督促する必要もない。計画を立てて、逐次、商品やサービスを充実させていけばよい。これを計画的需要と呼んでいる。

・今年3月末で45万人(ARPU3500円:会員当たり月次売上高)のうち、デジタル担当がついているプレミアム会員(ニューカスタマーサクセス会員:NCS会員)は約10万人(ARPU8053円)であった。この10万人を、1年を目途に14万人に増やしていく。将来、この会員を20万人、30万人に増やしていくことになろう。

・ここで大事なことは、デジタル担当が本当に役に立って、カスタマーからの信頼が得られることである。NCS会員(デジタル担当付きのサブスク会員)が着実に増え、その継続率(サブスク会員の月次継続率:CRR)を高く保つことである。

・現在、会社全体の売上の約5割がサブスク型であるが、これを3~5年で80%まで高める方針である。デジタル担当は、1件のカスタマーに3~5人でチームを組み、コンサルやサポートに当たっていく。この時使われる「デジタルライフプランナー」という言葉は、当社が商標登録をとっている。

・新卒の採用、パート・アルバイトからの正社員化、HISからの出向受け入れなどによって、チーム(ワークス)の増強を図っている。小型店舗、移動店舗(車両店舗)なども、これから出てこよう。

・このようなサブスク型のデジタルリテールサービス企業は、世界にも例をみない。①PCの保守修理から始めて、②技術者を育て、③少額課金でサービスの継続を図り、④10年先行して会員型ビジネスを独自に作り上げてきた。

・モノやサービスの売り切りタイプの企業には、同じようなことがなかなかできない。1)サブスク型は売上が一時的に減少するので、数年これを耐える体力がないとできない。2)技術サービスを伴うので、社員の訓練がかなり必要である。3)デジタル担当をしっかり育てるノウハウが必要である。これらの点で、PCデポは優位性を発揮しよう。

・会員型ビジネスであるから、顧客は一定の質を要求する。ここを担保して伸ばしていくことが、カギであろう。結果としての財務成果は、売上高経常利益率10%以上、ROE15%以上がいずれ実現できよう。PCデポのCX(企業変革)に大いに注目したい。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム