(2)中国の投資=債務拡大成長の終焉へ、習政権は非常事態対処体制に着手か
異形の投資主導の成長構造、巨大な生産力集積
中国経済の高成長はひとえに巨大な投資によって支えられてきた。固定資本形成のGDP比率は、43%と突出して高い。この投資はかつては製造業企業設備、インフラが中心であったが、今では不動産投資が中心となっている。この高投資の結果、中国の建設関連産業が極端に肥大化した。
中国の人口の世界シェアは20%、GDP世界シェアは17%であるのに対して、工業生産力は3割を超える。特に投資関連では、世界のセメント生産に占める中国シェアは6割。それをほとんど国内で消費している。米国の過去100年間(1901-2000年)のセメント消費は45億トンであるが、中国は3年間(2011-2013年)でその5割増しの66億トンを消費したことは広く知られている。また、中国の粗鋼生産は2000年に1.28億トンで世界生産(8.5億トン)に対するシェアは15%に過ぎなかったが、2020年には9.3億トンとなり世界生産(17.9億トン)に対するシェアは57%に達した。2000年以降18年間の世界増産(9.4億トン)の85%は中国によって担われたのである。
この不動産投資は債務の増加と不動産住宅価格の高騰によって支えられてきたが、それが恒大集団の経営危機により、大きな転換期に来たといえる。リーマン・ショック以降11年間の家計債務の増加額をみると、中国が9.0兆ドルと他国(米国2.8 兆ドル、韓国1.22兆ドル、日本0.04兆ドル)に比し突出している。
その結果、住宅バブルが前述のように異常な高騰となったのである、米中の主要資産の市場時価(2019年)を比較すると(ゴールドマンサックス推計)、中国の住宅不動産は52兆ドル(対GDP比3.6倍)と米国26兆ドル(対GDP比1.2倍)の2倍に上っている。この年収を著しく上回る住宅価格の高騰と債務増加に限界が来たのである。
習近平政権のcontingency plan (非常事態プラン)発動か
ただし、重要な点は、習近平政権がこのいびつな成長パターンが持続可能ではないと認識し、その処理に着手したとみられることである。
恒大集団の経営危機を招いた不動産融資規制は政権のイニシアティブである。となると、1).GDPの3割を占めるとされる巨大な不動産・建設投資関連産業の規模収縮、雇用減少、2).3割を土地売却収入に頼っていた地方財政の困難化、3).資産価格上昇が止まることによる消費マインドの悪化、4).それらによる顕著な経済成長の減速、などは不可避であり、政権はそれを覚悟しているということになる。
しかも、それらはバブル崩壊を回避できるという前提での話、万が一にも不動産バブルが崩壊したとすれば、家計と銀行資産の著しい減価による信用収縮が起き、その帰趨は恐ろしいことにもなりかねない。
習政権の権力集中、社会主義回帰は来るべき危機への対処策か
そこで想定される困難を乗り切るには、強力な社会統制、権力の一元化が不可欠になる。習近平政権が打ち出した反動的とも思える専制主義の強化、資本主義の否定路線は、来るべき経済困難に対する体制固めの意味があるのかもしれない。
(2021年9月27日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン290号」を転載)
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