―経済正常化による女性の職場復帰にも期待、口紅やファンデーションなどに需要再び―
新型コロナウイルスワクチンの接種拡大に伴い、経済正常化に向けた期待が膨らむ。株式市場では、海運・空運、鉄鋼など景気敏感株への人気が高まったが、ここから注目されるのが 化粧品業界だ。コロナ禍では、マスクをつけることが新たな日常となり、口元が隠されることで口紅やファンデーションといった化粧品の需要は激減した。しかし、コロナ禍が収束に向かいマスクが外されれば、化粧品の需要は復活する。この動きは、欧米ではいち早く表面化している。
●米国では今春に口紅の売り上げが8割増に
ワクチン接種の進んでいる米国の一部の州などで、条件付きでマスク着用の義務を解除する動きが相次いだことを受け、口紅や関連商品の売り上げが急増した。4月18日までの4週間で、米国では口紅の売り上げが前年同期比で8割増加したという。コロナ禍でマスク着用の義務化や外出が控えられたことで世界の美容業界は大打撃を受けた。これまで口紅やチーク、ファンデーションなどに対する悪影響が大きかっただけに、米国の動きはマスクを外すことで、再び需要が戻ることを証明したともいえる。この観点から、株式市場でも海外に続き国内需要の回復も見込まれる化粧品関連銘柄の活躍が期待されている。
日本製の化粧品は、高機能で安心・安全と海外でも高く評価され、外国人観光客によるインバウンド 需要の高まりなどで、2019年に出荷額は1兆7611億円(経済産業省生産動態統計)と同年までの過去5年間で約2割の成長を遂げた。しかし20年は渡航制限によるインバウンド需要の消失に加え、人々はマスク生活を強いられるなか、好調だった化粧品大手各社の業績は一転、軒並み大幅な減収減益となった。
国内首位の資生堂 <4911> では、主力の化粧品のほか、ヘアサロンの休業でヘアケアなどの需要も低迷し、20年12月期最終損益は116億6000万円の赤字(前の期735億6200万円の黒字)と8期ぶりに最終赤字に転落した。高価格帯の化粧品に強みを持つコーセー <4922> は21年3月期の連結営業利益が前の期比67%減に落ち込んだ。傘下の化粧品メーカー、アルビオンが21年3月期決算で営業損益16億円の赤字(前の期79億円の黒字)と創業以来の営業赤字となったことが影響した。同社はこれまで対面販売にこだわり、インバウンド需要をターゲットに売り上げを伸ばしてきただけに打撃は大きかった。
●資生堂の今12月期業績は上振れ着地の観測も
苦境に陥った世界の化粧品業界にとって光明となったのが、米国の「マスク着用義務の解除」に向けた動きだった。もともと21年には化粧品市場の回復が見込まれていたが、どこまで回復するかは疑心暗鬼的な部分もあった。全世界規模で化粧品の製造販売を手掛ける米エスティ・ローダー
一方、前出の資生堂が5月12日に発表した21年12月期の第1四半期(1-3月)の連結営業利益は、108億8400万円(前年同期比67.6%増)となった。日本を除いた中国や欧米など全ての地域でプラス成長へ転換したほか、スキンビューティーブランドの販売が2ケタ増となったことなども寄与した。会社側は、通期営業利益予想270億円を見込むが、これに対して市場には430億円前後への増額修正を予想する見方もある。経済正常化が進めば、女性の職場復帰による化粧品需要も見込める。足もとの株価は5月中旬以降も上昇基調を維持しており、16日につけた年初来高値8384円奪回からの一段高が期待される。
●コロナ禍の20年も日本製化粧品のアジア輸出は2ケタ増
アジア各国を中心に日本の化粧品に対する人気は高い。販売などで対面接客を重視してきた日本ではSNSを活用した戦略の出遅れで、海外の化粧品メーカーに比べ発信力の弱さが指摘されていたが、それでも20年の化粧品輸出額は大阪税関の発表によれば、前年比16.6%増の5615億円と引き続き拡大している。中国と香港をあわせた輸出額は全体のおよそ7割を占め、カテゴリー別ではアイシャドウや口紅などのポイントメーク商品は減少したが、スキンケア などの基礎化粧品や美白関連商品のニーズが高く全体を牽引しているようだ。欧米に比べアジア圏ではスキンケア商品の割合が大きく、スキンケア製品に強みを持つ日本勢にとってはアジア地域において攻勢を掛けるうえで潜在的な強みとなる。
こうしたなか、しわや美白など機能性スキンケア商品を強みに中国で絶大な人気を誇るポーラ・オルビスホールディングス <4927> が4月28日に発表した21年12月期第1四半期(1-3月)の連結営業利益は、43億700万円(前年同期比2.1倍)と急回復している。国内でECチャネルの強化が奏功し、海外でも中国ECや、韓国免税店で高成長を継続していることが業績に反映された。23年までに、中国に新たな店舗コンセプトを盛り込んだ販売店約30店舗を出店する計画を発表しオフラインの購買体験も充実させるなど中国戦略を加速している。
同じく中国市場を開拓しているアクシージア <4936> [東証M]も存在感を高めている。同社は2月18日に東証マザーズに新規上場した直近IPO銘柄で、化粧品及び健康補助食品の製造・販売を手掛けており、中国向けが売上高の9割近くを占めている。21年7月期の連結業績も急回復する見通しだ。
●ノエビアHDやアイビーなどにも注目
昨年は初めて発令された緊急事態宣言によりサロンや一部美容室が休業を余儀なくされ、これに伴う販売機会喪失の影響を受けた化粧品メーカーは少なくない。ノエビアホールディングス <4928> が発表した21年9月期第2四半期累計(20年10月-21年3月)の連結営業利益は45億2900万円(前年同期比10.6%減)と減益となった。ただ、主力の化粧品事業でメークアップは減収だったものの、全国で展開しているサロン「ノエビア ビューティスタジオ」の営業再開などに伴うスキンケアの増収効果で営業利益は計画に対して約1割上振れて着地した。配当利回りは3.6%と割安感があるほか、信用倍率は0.9倍台と売り長で株式需給面から踏み上げ余地がある。
関西を中心に化粧品の訪問販売を手掛けるアイビー化粧品 <4918> [JQ]の22年3月期単独営業利益は、5億円と前期比約10倍の大幅増益を見込んでいる。前期は需要が低迷したサロン用品「レッドパワー セラム」「ホワイトパワー セラム」などが利益を圧迫したが、今期は販売会社における流通在庫調整が進み回復傾向にある。また、今秋に創業45周年を記念してスキンケア製品の発売を予定しており、これが寄与する見通しだ。株価は17年5月につけた最高値から10分の1以下の水準にあり、業績急拡大への確信度が高まれば上昇基調を強めそうだ。
株探ニュース
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