―CO2削減につながる燃料としての役割、年間需要は今後10年で3倍に―
脱炭素社会の実現に向けた次世代のエネルギーとして、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しない「アンモニア」への関心が高まっている。経済産業省は今月8日にエネルギー関連企業などが参加する燃料アンモニア導入官民協議会を開き、2030年にアンモニアの国内消費量を年300万トン、50年には年3000万トンとする計画をまとめた。19年の国内消費量は約108万トンで主に肥料向けや工業用に使われているが、政府は石炭火力発電の燃料などに活用することで菅政権が掲げる「50年カーボンニュートラル」達成につなげたい考えだ。今後10年で年間需要の3倍に相当する巨大市場が立ち上がることになり、株式市場ではキープレーヤーとなり得る企業を模索する動きが活発化している。
●脱炭素の切り札として関心
エネルギー分野でアンモニアが注目されている理由のひとつが、クリーンエネルギーである「水素」の輸送媒体として役立つ可能性があるからだ。水素はガソリンなどに比べて輸送や貯蔵にコストがかかり、これが普及のネックとなっている。気体のままでは貯蔵や長距離輸送の効率が悪い水素は、アンモニアや液化水素、有機ハイドライドなどに変換する必要があり、なかでも成分中に水素を多く含むアンモニアは室温かつ10気圧程度の条件で容易に液体となることから貯蔵や運搬がしやすいといった面を持つ。また、アンモニアは肥料向けや工業用に広く利用され、既に輸送インフラが確立されていることも利点となる。
加えて、近年では燃料としての研究開発も進んでおり、火力発電や工業炉、船舶( 燃料電池を含む)などへの直接利用の可能性も高まっている。特に火力発電への直接利用では、アンモニア専焼(アンモニア火力発電)によって発電設備からのCO2排出抑制に大きな効果が期待され、アンモニアと石炭は混焼が容易であることから、まずは石炭火力発電への利用が見込まれている。燃料アンモニア導入官民協議会の資料によれば、仮に国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力発電所で20%混焼を行えばCO2排出削減量は約4000万トン、石炭火力がすべてアンモニア専焼の発電所にリプレースされればCO2排出削減量は約2億トンになると試算されている。この場合、必要となるアンモニア量は20%混焼で1基(100万キロワット)につき年間約50万トン、電力会社すべてで年間約2000万トンとなり、世界全体の貿易量に匹敵する。
19年の世界全体のアンモニア生産量は約2億トンで、そのうち貿易量は約1割(約2000万トン)とほとんどが地産地消されている。国内の市場は小さく(19年で約108万トン)、今後燃料用として需要が高まることを考えれば新たな市場の形成とサプライチェーン(供給網)の構築が必要で、政府が昨年12月下旬に策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では14重点分野のひとつに「燃料アンモニア産業」が位置づけられている。
●事業化に向け取り組み活発化
東京電力ホールディングス <9501> と中部電力 <9502> が出資するJERA(ジェラ)は今月、マレーシアの国営石油・天然ガス会社のペトロナスと脱炭素分野などでの協業に関する覚書を締結した。この覚書は、世界的なLNG需要の増加と脱炭素社会へのニーズを背景に、アジア諸国でのLNGの利用促進やアンモニア・水素燃料のサプライチェーン構築に関して、両社の連携の可能性を協議することを定めたもの。ペトロナスはアジア有数のアンモニア製造事業者でもあり、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアの製造についても検討を進めていることから今後の動向に注目したい。
東北大学は昨年12月、IHI <7013> などと共同で高温旋回空気流を用いて液体アンモニア噴霧を安定燃焼させることに成功。温室効果ガスを排出しないアンモニアを燃料とするガスタービン発電の実用化に向けて大きく前進した。また、IHIはサウジアラムコが進めているブルーアンモニアのサプライチェーン実証試験に協力している。このブルーアンモニアは、天然ガスからアンモニアを製造する際、排出されるCO2を分離回収して、EOR(石油増進回収)やCCU(CO2回収貯留)に利用することからカーボンニュートラルな燃料とされ、石炭との混焼は同社の相生工場(兵庫県)の試験設備で既に実施している。
伊藤忠商事 <8001> は昨年12月、東洋エンジニアリング <6330> や石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、ロシアのイルクーツク石油と、東シベリアで生産したアンモニアを日本に輸送して燃料として活用するバリューチェーン(経済活動を価値の連鎖として捉える考え方)の構築に向けた共同事業化調査を実施すると発表した。このプロジェクトは、商業ベースのブルーアンモニアバリューチェーンの確立を目指すもので、製造輸送体制を実現することにより、大量生産されたブルーアンモニアが日本に安定供給され、火力発電所の燃料などとして使用されることが想定されている。
●中外炉、木村化、澤藤電など注目
このほかでは、プラズマを用いた水素製造装置「プラズマメンブレンリアクター(PMR)」の技術開発を行い、アンモニアを原料にして水素を製造することで、CO2フリーの水素社会の実現に取り組んでいる澤藤電機 <6901> も要マークだ。同社は19年に、木村化工機 <6378> 及び岐阜大学と低濃度アンモニア水から高純度水素を製造し、燃料電池で発電することに成功している。
また、再生エネによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成及び合成したアンモニアを燃料としたガスタービンによる発電に成功している日揮ホールディングス <1963> 、アンモニアのみを燃料として安定燃焼させる技術を開発済みの中外炉工業 <1964> 、使用済みプラスチックを原料の一部に使用したアンモニア「ECOANN(エコアン)」を展開する昭和電工 <4004> 、昨年10月にアンモニアの製造・販売を手掛ける子会社の宇部アンモニア工業を吸収合併して事業強化を図っている宇部興産 <4208> 、アンモニア燃料電池用セラミックスセル及び封止ガラスを手掛けるノリタケカンパニーリミテド <5331> などのビジネス機会も広がりそうだ。
これ以外では、CO2フリーアンモニアのバリューチェーン構築を目指すクリーン燃料アンモニア協会の会員に名を連ねている国際石油開発帝石 <1605> 、安藤・間 <1719> 、味の素 <2802> 、住友化学 <4005> 、日本触媒 <4114> 、三菱ガス化学 <4182> 、三井化学 <4183> 、ENEOSホールディングス <5020> 、千代田化工建設 <6366> [東証2]、三井物産 <8031> 、三菱商事 <8058> 、日本郵船 <9101> 、東京ガス <9531> なども関連銘柄として挙げられる。
株探ニュース
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