―業績悪化で優待制度を見直す企業が相次ぐなか、株主還元を維持する可能性が高い銘柄に注目―
新型コロナウイルスの感染拡大という強烈な逆風が吹き荒れた2020年。世界規模の景気悪化を受けて上場企業の業績は大きく落ち込み、株主還元を見直す企業が相次いだ。なかでも株主優待は、これまで増加の一途をたどっていた実施企業が減少に転じている。今後もこの流れが続くことが懸念されるが、ここで注目したいのが株主還元を維持できる可能性が高い銘柄だ。今回は足もとの業績などを踏まえ株主優待や配当の減額リスクが低いとみられる企業に照準を合わせ、12月を株主優待の権利確定月とする企業の中から、株主優待と配当金を合算した利回りが高水準で、収益面の良好さを兼ねそろえた銘柄を探った。
●株主優待の導入企業はマイナスに
「株探」集計によると、今年に入って株主優待制度を新設または再開すると発表した企業は39社だった(12月11日現在)。これに対して優待制度の廃止または休止を発表した企業は51社に上り、新設・再開組を上回る結果となった。自社の株式を長期保有してくれる個人投資家を増やすため、株主優待制度を導入する企業は増加傾向が続いていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で状況は一変した。外食チェーンをはじめコロナ禍で大きな打撃を受けた企業や業績低迷が長引く企業では、コスト削減のために株主優待制度を廃止または縮小するものが目立つ。株主優待や配当の権利取りを狙う際は、以前にも増して業績動向への留意が必要な状況となっている。
●業績や還元姿勢から減額リスクの少ない銘柄を抽出
以下では、12月の株主優待銘柄のうち、足もとの業績動向や財務状況、株主還元姿勢からみて、株主優待と配当を縮小するリスクが少ないとみられ、かつ株主優待と配当を合算した利回り(トータル利回り)が高水準な銘柄をピックアップした。なお、株主優待や配当を手に入れるには権利付き最終日に株式を保有している必要がある。権利付き最終日は権利確定日の「2営業日前」で、月末締めの場合、12月28日に株式を保有することが必須条件となる。
※併記した「トータル利回り」「最低投資金額」は12月14日現在の優待品、配当、株価から算出。トータル利回りは今期予想ベース。
【アルペン】 トータル利回り:3.29% 最低投資金額:24万3400円
スポーツ用品店大手であるアルペン <3028> の株主優待基準日は12月末と6月末で、100株以上保有する株主に対し、自社店舗や施設で利用できる優待券を保有株数に応じて2000~7500円相当をそれぞれ贈呈する。配当の実施も中間期と期末の年2回とし、21年6月期は9期連続となる年間40円配を計画している。足もとの業績は絶好調で、7-9月期(第1四半期)はキャンプ用品やゴルフ用品の販売が伸びたほか、売価コントロールや経費見直しが奏功し、経常利益は前年同期比5.4倍の51億3100万円と四半期ベースの過去最高を達成した。通期の同利益予想は7年ぶりの利益水準を見込むが、一段の業績拡大も期待できそうだ。
【Nフィールド】 トータル利回り:3.04% 最低投資金額:8万2300円
精神疾患に特化した訪問看護サービスを手掛けるN・フィールド <6077> の株主優待品はクオカードで、毎年12月末に100株以上を保有する株主に対し、一律2000円分を贈呈する。配当の権利月も12月の期末一括としており、権利付き最終日の12月28日に100株保有しているとクオカード2000円分と配当金500円がまとめてもらえる。株主優待と配当獲得に必要な最低金額が10万円以内と手軽に購入できることも注目ポイントだ。20年12月期は訪問看護ステーションの増設効果などを背景に、経常利益は6億円(前期比24.7%増)と3期ぶりの最高益更新を見込む。第3四半期(1-9月)時点の同利益は通期計画に対して進捗率が8割を超えており、業績上振れが期待される。
【シノケン】 トータル利回り:4.57% 最低投資金額:11万1600円
「アパート経営のシノケン」で知られる賃貸住宅販売のシノケングループ <8909> [JQ]は、11月25日に株主優待制度の拡充を発表。従来は毎年12月末時点の500株以上保有株主に対し、保有株数と保有期間に応じてクオカードを1000~5000円分贈呈していたが、新制度では対象株主を100株以上に広げ、1000~1万円分のクオカードを贈呈する。20年12月末まで3回にわたって実施する創業30周年記念優待の内容を継続する形だ。一方、配当の基準日は6月末と12月末の2回で、今期の期末配当は経営目標達成記念配当を含めて18円50銭を実施する予定としている。年間ベースでは41円(前期は38円)と10期連続の増配を見込むなど、株主還元に積極姿勢をみせる。
【ヒューリック】 トータル利回り:4.00% 最低投資金額:33万7200円
東京23区を中心に不動産賃貸事業を展開するヒューリック <3003> も株主への利益還元に意欲的で、20年12月期の年間配当は35円(前期比3円50銭増)と8期連続の増配を計画する。また、毎年12月末時点で300株以上を保有する株主を対象に、グルメカタログの中から保有期間が3年未満で1点(3000円相当)、3年以上保有で2点(6000円相当)を贈呈する株主優待は、プチ贅沢を楽しめるグルメギフトとして人気を集めている。今期業績は主力のオフィス賃貸が安定的に推移するなか、最終利益ベースで9期連続の最高益更新を目指す。
【キリンHD】 トータル利回り:3.18% 最低投資金額:23万6200円
キリンホールディングス <2503> の株主優待は、毎年12月末時点で100株以上1000株未満を保有する株主に1000円相当、1000株以上保有株主には3000円相当の株主優待品を贈呈するというもの。優待品は選択制を採用しており、一番搾り詰め合わせ、清涼飲料の詰め合わせ、キリンシティ食事券、サッカー日本代表応援グッズなどから選ぶことができる。また、配当は1949年の上場以来、一度も減配をしたことがなく安心感が強い。20年12月期は年間65円(前期比1円増)の計画だ。昨年11月から今年4月にかけて1000億円規模の自社株買いを実施しており、株主還元に前向きな姿勢をみせている。
【大塚HD】 トータル利回り:2.90% 最低投資金額:44万7900円
大塚ホールディングス <4578> の株主優待品は、3000円相当の自社グループ製品詰め合わせで、毎年12月末時点で100株以上を保有していることが獲得の条件となる。昨年は「ポカリスエット」「カロリーメイト」「オロナミンC」「ソイジョイ」「ボンカレー」といった健康飲料や栄養食品など14品だった。一方、配当の基準日は6月中間期と12月期末の年2回で50円ずつ支給する。キリンHDと同じく上場以来減配なしの安定配当を続けており、減配リスクは少ないとみて良さそうだ。業績面はコロナ禍のマイナス影響はあるものの、医薬品部門のグローバル4製品を成長ドライバーに順調に推移しており、20年12月期は営業利益2030億円(前期比15%増)と14年3月期に記録した過去最高益を塗り替える計画だ。
株探ニュース
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