■成長戦略
1. 新たな中計経営計画の公表
AOI TYO Holdings<3975>は、急激な環境変化への対応を図るため、2019年3月に中期経営方針を策定し、「いかなる時代にも対応できる、力強い企業体であり続けること」を基本方針として、「規模より質」を重視した経営への転換を進めてきた。特に、同社の強みとするブランディングを目的としたクオリティの高い動画・映像制作をさらに「掘り下げる」とともに、周辺ソリューションを強化し、ビジネスの幅を「拡げる」方向性を示している。ただ、今年に入ってからのコロナ禍の影響により、足元業績が大きく下振れるとともに、生活様式の大きな変化が環境変化のスピードをさらに高め、新たな広告主ニーズへの対応が急務となってきた。こうしたことから、中期経営方針を加速させるため2020年8月24日付けで新たに5ヶ年の中期経営計画を公表するに至った。もっとも、今後の方向性に大きな変更はない。中期経営方針の実現に向けてさらに加速させるため、「プロデュース機能のアップデート」をテーマに掲げ、変革の時代に対応すべく、グループの大幅な組織再編を実施するところがポイントとなっている。
2. 前提となる環境認識
テレビCM市場は最大で年2%程度のペースで縮小する一方、デジタルシフトの加速により、オンライン動画広告市場は年20%程度のペースでの成長を見込んでいる。そのようななかで、同社が強みとする高単価のブランド動画は引き続き成長するものの、その成長は限定的であり、大きく伸びるところは低中単価の動画と見ている。一方、広告主の動きについては、年間広告費が1億円から10億円程度の中小企業やベンチャー企業へ目を向けると、マーケティング志向によるコミュニケーションの設計から、企画、制作、運用までをワンストップで提供できる体制が必要とされている。特に、実際のエグゼキューション(ものづくり)を担当できるかを重要視しており、同社のような制作会社との直接取引へのニーズが高まっている。
3. 重点施策
(1) 事業・組織構造の変革
これまでの広告映像制作を中心とした事業構造を、広告会社からの受託を中心に従来からの広告映像制作を担う「コンテンツプロデュース事業」、広告主からの直接取引を中心にコミュニケーションの設計から実行までを担う「コミュニケーションデザイン事業」の2事業体制へ転換する。また、連結子会社を33社から23社へ削減する。
(2) 各事業の取り組み
1) コンテンツプロデュース事業
旧動画広告事業、旧海外事業のうち制作子会社、旧広告関連事業の一部を集約した事業である。業界トップシェアやこれまで培ったノウハウを強みに、高クオリティ・高生産性を追求してテコ入れを図る。さらに、市場の伸びが期待される低中単価のデジタル動画市場へ対象を拡大する。また、ポストプロダクションの多角化(音声編集、CG業務等)やVR/ARなど仮想空間技術を生かしたコンテンツの企画・制作にも注力する方針である。
2) コミュニケーションデザイン事業
旧ソリューション事業、旧広告関連事業、旧海外事業のうち制作子会社以外を集約した事業である。顧客基盤の強化を図るとともに、より高付加価値な統合型マーケティング・コミュニケーションサービスの提供、プロモーションに係る全方位型エグゼキューションへサービスの幅を広げる。
(3) グループ経営の深化・強化とコスト削減
新たに策定した人材マネジメント方針に基づき、新卒採用の強化(選考管理の統一化等)、評価制度・報酬体系の見直し、人材開発環境の構築などにより、グループ一体となった人材輩出に取り組む。また、オフィス集約やリモートワークの推奨、デジタルトランスフォーメーションを通じた生産性の向上などにより、最大削減額20億円のコスト削減を目指す。
4. 重視する経営指標(KPI)と業績目標
同社では、中期経営計画の最終年度(2025年12月期)の目標として、連結売上高680億円、連結営業利益44億円、EBITDA 57億円、ROE 10%以上を掲げている。コロナ禍の影響により、2020年12月期業績は一旦大きく落ち込むものの、2021年12月期以降の持続的な成長を目指している。とりわけコスト削減による収益性の向上に重きを置く前提となっている。また、売上高目標680億円の内訳については、「コンテンツプロデュース事業」を470億円(2020年12月期見込み比90億円増)、「コミュニケーションデザイン事業」を210億円(同90億円増)とそれぞれ伸ばしていく計画である。さらには、従業員のエンゲージメント向上やSDGsへの貢献にも取り組む方針である。
5. 弊社アナリストによる今後の注目点
弊社では、コロナ禍の影響により、足元業績は一旦後退したものの、かねてより構造的な変化は中長期的に見れば大きなチャンスとして捉えており、コロナ禍による変化の加速にいかに対応し、プラスに生かしていけるかが今後の課題であろうと見ている。その意味でも、今回の事業・組織構造の変革は絶好のタイミングであり、成長軌道に回帰するきっかけとして期待したい。また、中期経営計画についても、コスト削減をやりきることにより十分に達成可能な水準である。むしろ注目すべきは、付加価値の向上によりいかに上乗せしていけるかにある。特に、新たな戦略軸、すなわち中小企業及びベンチャー企業向け直接取引によるフルラインサービスの提供をはじめ、最新のデジタル技術を生かしたコンテンツの企画・制作、統合型マーケティング・プラニングの提供など新たな価値提供が、同社の優位性をいかに高め、業績(特に収益性の面)にどのような影響を及ぼしていくのかをフォローしていきたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
<EY>
1. 新たな中計経営計画の公表
AOI TYO Holdings<3975>は、急激な環境変化への対応を図るため、2019年3月に中期経営方針を策定し、「いかなる時代にも対応できる、力強い企業体であり続けること」を基本方針として、「規模より質」を重視した経営への転換を進めてきた。特に、同社の強みとするブランディングを目的としたクオリティの高い動画・映像制作をさらに「掘り下げる」とともに、周辺ソリューションを強化し、ビジネスの幅を「拡げる」方向性を示している。ただ、今年に入ってからのコロナ禍の影響により、足元業績が大きく下振れるとともに、生活様式の大きな変化が環境変化のスピードをさらに高め、新たな広告主ニーズへの対応が急務となってきた。こうしたことから、中期経営方針を加速させるため2020年8月24日付けで新たに5ヶ年の中期経営計画を公表するに至った。もっとも、今後の方向性に大きな変更はない。中期経営方針の実現に向けてさらに加速させるため、「プロデュース機能のアップデート」をテーマに掲げ、変革の時代に対応すべく、グループの大幅な組織再編を実施するところがポイントとなっている。
2. 前提となる環境認識
テレビCM市場は最大で年2%程度のペースで縮小する一方、デジタルシフトの加速により、オンライン動画広告市場は年20%程度のペースでの成長を見込んでいる。そのようななかで、同社が強みとする高単価のブランド動画は引き続き成長するものの、その成長は限定的であり、大きく伸びるところは低中単価の動画と見ている。一方、広告主の動きについては、年間広告費が1億円から10億円程度の中小企業やベンチャー企業へ目を向けると、マーケティング志向によるコミュニケーションの設計から、企画、制作、運用までをワンストップで提供できる体制が必要とされている。特に、実際のエグゼキューション(ものづくり)を担当できるかを重要視しており、同社のような制作会社との直接取引へのニーズが高まっている。
3. 重点施策
(1) 事業・組織構造の変革
これまでの広告映像制作を中心とした事業構造を、広告会社からの受託を中心に従来からの広告映像制作を担う「コンテンツプロデュース事業」、広告主からの直接取引を中心にコミュニケーションの設計から実行までを担う「コミュニケーションデザイン事業」の2事業体制へ転換する。また、連結子会社を33社から23社へ削減する。
(2) 各事業の取り組み
1) コンテンツプロデュース事業
旧動画広告事業、旧海外事業のうち制作子会社、旧広告関連事業の一部を集約した事業である。業界トップシェアやこれまで培ったノウハウを強みに、高クオリティ・高生産性を追求してテコ入れを図る。さらに、市場の伸びが期待される低中単価のデジタル動画市場へ対象を拡大する。また、ポストプロダクションの多角化(音声編集、CG業務等)やVR/ARなど仮想空間技術を生かしたコンテンツの企画・制作にも注力する方針である。
2) コミュニケーションデザイン事業
旧ソリューション事業、旧広告関連事業、旧海外事業のうち制作子会社以外を集約した事業である。顧客基盤の強化を図るとともに、より高付加価値な統合型マーケティング・コミュニケーションサービスの提供、プロモーションに係る全方位型エグゼキューションへサービスの幅を広げる。
(3) グループ経営の深化・強化とコスト削減
新たに策定した人材マネジメント方針に基づき、新卒採用の強化(選考管理の統一化等)、評価制度・報酬体系の見直し、人材開発環境の構築などにより、グループ一体となった人材輩出に取り組む。また、オフィス集約やリモートワークの推奨、デジタルトランスフォーメーションを通じた生産性の向上などにより、最大削減額20億円のコスト削減を目指す。
4. 重視する経営指標(KPI)と業績目標
同社では、中期経営計画の最終年度(2025年12月期)の目標として、連結売上高680億円、連結営業利益44億円、EBITDA 57億円、ROE 10%以上を掲げている。コロナ禍の影響により、2020年12月期業績は一旦大きく落ち込むものの、2021年12月期以降の持続的な成長を目指している。とりわけコスト削減による収益性の向上に重きを置く前提となっている。また、売上高目標680億円の内訳については、「コンテンツプロデュース事業」を470億円(2020年12月期見込み比90億円増)、「コミュニケーションデザイン事業」を210億円(同90億円増)とそれぞれ伸ばしていく計画である。さらには、従業員のエンゲージメント向上やSDGsへの貢献にも取り組む方針である。
5. 弊社アナリストによる今後の注目点
弊社では、コロナ禍の影響により、足元業績は一旦後退したものの、かねてより構造的な変化は中長期的に見れば大きなチャンスとして捉えており、コロナ禍による変化の加速にいかに対応し、プラスに生かしていけるかが今後の課題であろうと見ている。その意味でも、今回の事業・組織構造の変革は絶好のタイミングであり、成長軌道に回帰するきっかけとして期待したい。また、中期経営計画についても、コスト削減をやりきることにより十分に達成可能な水準である。むしろ注目すべきは、付加価値の向上によりいかに上乗せしていけるかにある。特に、新たな戦略軸、すなわち中小企業及びベンチャー企業向け直接取引によるフルラインサービスの提供をはじめ、最新のデジタル技術を生かしたコンテンツの企画・制作、統合型マーケティング・プラニングの提供など新たな価値提供が、同社の優位性をいかに高め、業績(特に収益性の面)にどのような影響を及ぼしていくのかをフォローしていきたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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