S&P500月例レポート(20年5月配信)<2>

<1>の続き

トランプ大統領と政府高官

 ○トランプ大統領はソーシャルディスタンスの行動指針を4月30日まで延長していましたが、4月末に追加の延長はせず、活動再開の指針を表明しました。

 ○一部の州で経済活動が徐々に再開され、公の議論は経済活動の再開に向けた基本方針に関する内容が占めましたが、各地の動きは政治的意味合いを帯びています。

 ○トランプ大統領は新型コロナウイルス感染への初動における誤情報や対応の遅れを理由に、世界保健機関(WHO、2019年予算は48億ドル)への資金拠出(2019年は4億5300万ドル)を一時停止しました。

 ○米財務省は大手航空会社12社中10社に対し、新型コロナウイルスに伴う支援パッケージを提供することで合意しました。現金、補助金、融資を通じて、使途を限定した資金援助が行われます。

 ○トランプ大統領は食肉加工工場に対して稼働継続を命じました。従業員の間で新型コロナウイルスの集団感染が発生したことで、複数の加工工場が閉鎖しています。

 ○トランプ大統領は米国人労働者の保護を目的に、グリーンカードの新規発給手続きを60日間停止すると発表しました。

  ⇒指名争いを継続するか、撤退するか(ここが思案のしどころ)

 ○サンダース上院議員は民主党の候補者指名争いから撤退を表明し(トランプ大統領と戦う本選投票日は2020年11月3日)、バイデン前副大統領の民主党候補者指名が確実になりました。

  ⇒現在、民主党の主な有力者はバイデン氏を支持しています。

  ⇒ニューヨーク州では、新型コロナウイルスを理由に予定していた予備選挙が中止されました。

新型コロナウイルス関連

 ○感染が最初に確認された中国では、制限が緩和され、市場が再開されました。オーストリア、デンマーク、イタリアでも移動制限が徐々に緩和されています。

 ○ライバル関係にあるApple(AAPL)とGoogle(GOOG/L)は、新型コロナウイルスの感染者と接触した可能性があることを通知するアプリ(スマートフォンの位置情報と感染者データベースを活用)を共同開発することを明らかにしました。

 ○英国のジョンソン首相は新型コロナウイルスへの感染が確認され、一時は集中治療室に入っていましたが、退院しました。

 ○トランプ大統領は、3段階で進められる経済活動再開計画を明らかにしました。具体的な日程は示さず、実際の再開日は各州の判断に任されます。活動再開に関しては、複数の州が地域単位で連携を表明しています(テレビ番組「サバイバー」のチーム体制と似た感じですが、追放免除の証は誰も持っていません)。

 ○南部の一部の州(ジョージア州、サウスカロライナ州、テネシー州)で段階的に経済活動が再開され、経済活動再開の動きが始まりました。

 ○デトロイトを拠点とする自動車メーカーのFiat Chrysler(FCAU)、Ford(F)、General Motors(GM)は、5月18日に米国内の一部の工場で生産を再開する意向を表明しました。

 ○航空機メーカーのBoeing(BA)は従業員の10%(1万6000人)の削減計画を明らかにし、デービッド・カルホーン最高経営責任者(CEO)は、航空旅客の回復には2~3年を要するとみられ、「復配には時間がかかる」との見方を示しました。

 ○食品メーカーのTyson Foods(TSN)は(ニューヨークタイムズ紙に掲載した1面広告を通じ)、食品サプライチェーンが崩壊しつつあり、「現在閉鎖されている工場が再開されるまで、食料品店で当社製品は品不足が予想される」と警告しました。

  ⇒これを受け、トランプ大統領は食肉加工工場に対して稼働継続を命じました。

 ○フロリダ州ジャクソンビルの市長はビーチの一部開放を決めたニュースが話題となりました(国内で最初の動きだったため)。

 ○中国で経済活動が再開された背景には、スマートフォンを使って個人の健康状態を監視するシステムがあります。各施設の入退出に際し、スマートフォンで取得した健康コード(赤・黄・緑で表示)の提示が求められます。

 ○4月末現在、世界全体の新型コロナウイルス感染者数は326万人(米国は109万5023人で世界全体の33.6%)、死亡者数23万3362人(同6万3856人で27.4%)となっています。

各国中央銀行の動き

 ○FOMCは一段と積極的な追加の信用プログラムとして総額2兆3000億ドルの信用枠を発表し、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は記者会見で、経済が必要とする限り積極的な信用政策とゼロ金利を継続すると述べました。

 ○3月のFOMC議事録からは、経済が新型コロナウイルスの影響を「切り抜ける」まで金利をゼロ付近に据え置くFRBの意向が示唆されました。

 ○地区連銀経済報告(ベージュブック)は、新型コロナウイルスにより経済が「急激かつ突如として」収縮し、失業者が急増したと指摘しました。

 ○欧州中央銀行(ECB)は信用格付けの引き下げが懸念されることから、4月7日時点の格付けで投資適格(BBB-以上)の債券(および発行体)を担保として受け入れ、この措置を2021年9月まで継続する意向を表明しました。

 ○FRBは支援策を拡大し、地方債で総額5000億ドルを買い入れると発表しました(買い入れの対象の条件は人口25万人以上の地方自治体とされ、従来の100万人以上から引き下げられました)。

 ○4月のFOMCでは、新型コロナウイルスに起因する足元の状況を乗り越えるまで積極的な支援策を継続するとして、今後の施策はほとんど発表されませんでした。

企業業績

 ○今回の決算シーズンではほとんどの企業が、将来の見通しが立たないという見解でほぼ一致しました。各社とも新型コロナウイルスの影響の度合いと、この状況がいつまで続くのかについて確信が持てずにいるからです。そのため、今後のガイダンスを具体的に示した企業はほとんどありませんでした。2020年第1四半期の予想は全体で27.4%下方修正され、結果は予想に対してまちまちの状況となりました。

  ⇒時価総額で57.0%に相当する260社が第1四半期の決算発表を終え(通常は最初の1ヵ月で70%近い企業が決算発表を終えます)、このうち177社(68.1%、過去平均では3分の2)で利益が下方修正後の予想を上回りました。最終的に、2020年第1四半期の利益は前期比で25.3%、前年同期比で23.0%減少する見通しです。売上高では256社中165社(64.5%)で予想を上回りましたが、過去最高を記録した2019年第4四半期からは8.8%、2019年第1四半期からは0.6%減少すると予想されます。

  ⇒22.9%の企業で発行済み株式数が前年同期比で4%以上減少し、すなわちEPSが4%以上押し上げられました。企業が自社株買いを縮小(または保留)しているため、今後は前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業数を見ると明らかです。

  ⇒新型コロナウイルスの状況を受け、米証券取引委員会(SEC)は企業の情報開示期限の45日間までの延長を認めています。

  ⇒伝統的に、ボトムアップアプローチのアナリスト(銘柄レベルで分析を行う必要がある)は予想の下方修正のタイミングが遅くなります。これに対して、トップダウンアプローチのアナリスト(エコノミストやストラテジスト)は修正のタイミングが早く、既に予想を大幅に修正しています。また、伝統的に、ボトムアップアプローチのアナリストは回復の動きを早く捉え、それに比べてトップダウンアプローチのアナリストは底を見極めるのが遅くなります。

個別銘柄

 ○動画ストリーミング配信企業のNetflix(NFLX)は2020年第1四半期に有料会員が1580万人増加したと発表しました。市場参加者の予想は850万人増でした。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスはUnited Technologies(UTX)からスピンオフしたエレベーターメーカーのOtis Worldwide(OTIS)と空調設備メーカーのCarrier Global(CARR)をS&P500指数に追加しました。UTXの株主は保有株1株につきOtis株0.5株とCARR株1.0株を受け取りました。UTXはRaytheon(RTN)を買収し、社名をRaytheon Technologies(RTX)に変更しました。RTNはS&P500指数から除外されました。また、小売り店大手Macy’s(M)はS&P500指数から除外され、S&P小型株600指数に追加されました。

注目点

 ○産油国は協調減産を予定していますが、供給過剰が続き(米エネルギー情報局(EIA)の週間石油在庫統計によると、原油在庫は14週連続で増加し、「どこに貯蔵するか」が大きな問題となっています)、需要は引き続き減少しました。

 ○Tyson Fresh Foods(TSN)やSmithfield Foodsなどが操業する食肉加工工場が、従業員が新型コロナウイルス検査で陽性と判明したため、一時的に閉鎖されました。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年債利回りは3月末の0.66%から0.62%に低下して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは3月末の1.32%から1.27%に低下して月末を迎えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは3月末の1ポンド=1.2376ドルから1.2555ドルに上昇し(2019年末は1.3253ドル、2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル)、ユーロは3月末の1ユーロ=1.1018ドルから1.0940ドルに下落しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は3月末の1ドル=107.74円から107.16円に上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は3月末の1ドル=7.0831元から7.0623元に上昇して月を終えました(同6.9633、同6.8785、同6.5030)。

 ○原油先物市場では5月物価格が取引最終日とその前日にマイナスを記録しました。原油価格は3月末の1バレル=20.47ドルから19.83ドルに下落して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、3月末の1ガロン=2.103ドルから1.870ドルに下落して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は3月末の1トロイオンス=1635.00ドルから1692.80ドルに上昇して月を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は3月末の53.54から34.15に下落して月末を迎えました。月中の最高は60.59、最低は30.54でした(同13.78、同16.12、同11.05)。

<3>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム