S&P500月例レポート(20年5月配信)<1>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2020年4月
機雷がなんだ。全速前進!

 「機雷がなんだ。全速前進!」……これは、南北戦争中の1864年の海戦で北軍艦隊が南軍の機雷原に突入する際に、指揮官が発した号令です。話は現代に戻って、米国の一部の州で戦場の鬨(とき)の声の如くこの言葉が叫ばれた一方、慎重な工程表に従って戦略を実行することを選択する州もあります。いずれもサイエンスと事実を行動の根拠として掲げています。つまり、真実は絶対だというわけです(しかし、絶対的な何だというのでしょう?)。自発的な昏睡状態からの経済活動の再開に向けた基本方針は、実際のところ、世界の他の国・地域で検討されている案と大差はありません。再開の指針は国・地域ごとの実情と許容レベル、さらには政治的な判断が考慮されたものとなるでしょう。とはいえ、5月に最も注目されるイベントは経済活動の再開となるはずで、さもなければ、大半の国民の視線が向かう先はNetflixになっていたと思われます。経験からきちんと学び、計画が実態に合わせて見直されていくことになりそうです。

 市場は経済活動の再開は好材料だと受け止めています(4月の騰落率は12.68%に達し、月間の騰落率としては1987年1月の13.19%に次ぐ高い上昇率を記録しましました)。そして、仮に再開が上手くいかなかったとしても、経済への打撃はコントロールされ、他の州は速やかに得られた教訓から学んでいくでしょう。結果の如何にかかわらず、日々眼前で繰り広げられる出来事から目を離すことができないまま、3月のような相場の乱高下が再び繰り返される可能性もあります。市場は再開に向けた工程表がどのように変更されようとも価格水準に織り込んでいかなければならないため、5月相場のポイントは「教訓からしっかりと学ぶ」ということになるかもしれません。

 まず最初に注目すべき材料は、5月8日発表の雇用統計です。大々的に報道されることは必須ですが、それほど材料視されることはないでしょう。過去5週間で2600万人を超える労働者が失業保険給付を申請しているからです。4月の失業率に対する見方は、3030万人の労働者が失業保険給付を申請しているため、10%台半ばから20%超まで依然として割れています。20%を超えるとの見方が大勢ですが、これは市場関係者の大半が注視している毎週集計・公表している失業保険給付申請件数と同様、どの統計に注目するかによる違いだけです。

 個人的に関心があるのが、医療従事者と救急隊に対して紙吹雪の舞うパレードを行う予定だというニューヨーク州の発表です(日程さえ教えてくれれば、私は必ず参加します。彼らは賞賛に値する素晴らしい働きをしているのですから)。安全に配慮して生活し、可能であれば働き続けましょう。そして、常識的な判断を働かせて行動してください(生きること自体が尊いことです)。

 過去の実績を見ると、4月は64.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.19%、下落した月の平均下落率は3.35%、全体の平均騰落率は1.31%の上昇となっています。2020年4月の上昇率は12.68%となり、1987年1月以降で最も高い上昇率を記録しました。また、5月は57.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.15%、下落した月の平均下落率は4.68%、全体の平均騰落率は0.17%の下落となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日となっています。

主なポイント

 ○4月は生き残りをかけた1ヵ月でした。過去6週間の新規失業保険申請件数は3030万7000件に達しました。

 ○株式市場は反発に転じました。経済活動の再開がようやく視野に入ってきたからです。

  ⇒4月のS&P 500指数は12.68%上昇しました(配当込みのトータルリターンは12.82%)。年初来の4ヵ月間では9.85%下落(同マイナス9.29%)、過去1年間では1.13%の下落となりました(同0.86%の上昇)。

  ⇒2016年11月8日の米大統領選以降の同指数の上昇率は36.12%(同プラス45.86%)、年率換算では9.28%(同プラス11.48%)となりました。

  ⇒弱気相場の中での反発局面が続きました。市場は原油の過剰供給(保管場所の不足に起因する)と米国の経済活動の再開という新たな現実を織り込む動きを見せました。S&P 500指数は2020年3月20日に付けた底値から30.17%上昇しましたが、依然として2月19日に更新した終値での最高値を13.99%下回っています。

 ○米国の10年国債利回りは、3月末の0.66%から0.62%に低下して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは3月末の1.32%から1.27%に低下して月を終えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは3月末の1ポンド=1.2376ドルら1.2555ドルに上昇し(2019年末は1.3253ドル、2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル)、ユーロは3月末の1ユーロ=1.1018ドルから1.0940ドルに下落しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は3月末の1ドル=107.74円から107.16円に上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は3月末の1ドル=7.0831元から7.0623元に上昇しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○原油先物市場では5月物価格が取引最終日とその前日にマイナスを記録しました。原油価格は3月末の1バレル=20.47ドルから19.83ドルに下落して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、3月末の1ガロン=2.103ドルから1.870ドルに下落して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は3月末の1トロイオンス=1635.00ドルから1692.80ドルに上昇して月を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は3月末の53.54から34.15に低下して月を終えました。月中の最高は60.59、最低は30.54でした(同13.78、同16.12、同11.05)。

 ○企業業績に関しては、市場の関心が新型コロナウイルスの影響に集まる中、話題が2020年第1四半期の業績に移りました。とはいえ、業績に基づいた売買が行われる状況ではありませんでした。

  ⇒第1四半期の決算を見ると、時価総額で57.0%に相当する260銘柄が業績発表を終えました。第1四半期の利益予想はすでに今年のスタート時点から27.4%引き下げられていたため、260銘柄中の177銘柄(68.1%という割合は過去の平均を上回っています)で利益が予想を上回りました。現時点での予想は、2019年第4四半期から25.3%の減益、前年同期比では23.0%の減益となっています。売上高は256銘柄中の165銘柄(64.5%)が予想を上回りましたが、前期比8.8%の減収が見込まれています。

  ⇒第2四半期の利益予想もすでに(2019年末時点と比較して)41.2%下方修正され、第3四半期は27.4%、第4四半期は18.6%、さらに通年では28.5%引き下げられています。2020年は損金処理が相次ぐ見通しですが、2021年の業績に対する希望はまだ失われていません(とはいえ、現時点では信頼できる数字はほとんど示されていません)。

  ⇒株式数による影響は2020年第1四半期も(比較対象の2019年第1四半期に比べると)続いており、決算発表済みの企業のうち、株式数の減少によってEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄の割合は22.9%となりました。企業が自社株買いを縮小(または保留)しているため、今後は前年同期比での影響は弱まる見通しです。自社株買いの縮小は、四半期ベースで発行済み株式数が減少した企業数を見ると明らかです。

 ○S&P 500指数構成銘柄の2020年第1四半期の配当は四半期ベースで過去最高を記録しましたが、4月は悲惨な状況で、12銘柄が減配を決め、12銘柄は完全に配当支払いを停止しました。年初来では、144銘柄が増配、1銘柄が配当支払いを開始、14銘柄が減配、22銘柄が支払いを停止しました。年間配当額(ネット)は174億ドル減少しました。

 ○ビットコインは3月末の6324ドルから上昇して8763ドルで月を終えました。月中の最高は8872ドル、最低は6202ドルでした(2019年末は7194ドル、2018年末は3747ドル)。

 ○米国の新型コロナウイルス対応のための財政政策:

  ⇒第1弾: 医療機関への財政支援やウイルス感染拡大防止に83億ドルを拠出

  ⇒第2弾: 2週間の疾病休暇および最長10週間の家族医療休暇の給与費用に対する税額控除

  ⇒第3弾: 労働者、中小企業、事業会社、病院や医療関連機関に対する直接支援、ならびに融資保証を提供する2.2兆ドルのプログラム

  ⇒第4弾: (中小企業向け)給与保証プログラム(PPP)に3100億ドルと医療機関に750億ドルの総額4840億ドルを拠出。ただし、州・地方自治体に対する資金支援は行わない。

  ⇒銀行は融資の新規申請の受け付けを開始すると同時に、すでに提出されていた申請(前回の支援プログラムの融資資金が底をついたために処理が完了しなかった申請案件)の処理作業を再開しました。

  ⇒第5弾となる財政支援策の策定作業が進められており、共和・民主両党がそれぞれの原案をまとめました。共和党は給与税減税と事業者向けの債務保証を求め、民主党は失業保険給付の期間延長、米国労働安全衛生法(OSHA)の拡充、特定労働者に対する危険手当てを主張しています。また、両党共にインフラ支出の増額を盛り込む見通しです。

  ⇒議会では5月4日から集中審議が再開されることになっています。

 ○S&P 500指数の1年後の目標値は(相場が上昇したために)この1ヵ月で若干の低下にとどまり、3182(現在値から9.25%上昇、3月末時点の目標値は3237、2月末時点の目標値は3629)、そしてダウ平均の目標値は2万6478ドルとなっています(同8.76%上昇、同2万7101ドル、同3万2624ドル)

<2>へ続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム