[資源・新興国通貨2/10~14の展望] トルコリラは緊張高まるシリア情勢に要注意

著者:八代 和也
投稿:2020/02/07 14:42

豪ドル

ロウRBA(豪中銀)総裁は5日にシドニーで講演。「最近のインフレや雇用のデータは、緩やかとはいえ、それらが正しい方向に向かっていることを示している」との見方を示し、「(RBAの)政策金利はすでに非常に低く、政策には長期かつ様々なラグがある」と指摘。政策金利を当面据え置いて、2019年に実施した3回の利下げ(6月、7月、10月)の効果を当面見極める姿勢を示しました。

ロウ総裁は一方で、「理事会はさらなる金融刺激策のメリットを引き続き議論している」と述べ、「失業率が上昇し、インフレ率が低水準にとどまるなら、追加の金融緩和(=利下げ)を行う根拠が一段と強まる」と語りました。

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ロウ総裁の講演を受けて、市場ではRBAの追加利下げ観測が後退しており、そのことが豪ドルを目先下支えする可能性があります。ただし、市場は依然として年内に追加利下げが行われるとみています。20日に発表される1月の豪雇用統計が弱い結果になれば、利下げ観測は再び高まると考えられます。

NZドル

12日、RBNZ(NZ中銀)が政策金利を発表します。RBNZは2019年11月の前回会合時の声明で、「必要に応じて行動する用意がある」と表明。追加利下げに含みを持たせました。

政策金利は現行の1.00%に据え置かれるとみられ、焦点は“追加利下げの可能性を残すのかどうか”になりそうです。NZの経済指標は堅調であり、そのためRBNZは今回、緩和バイアスを弱めるかもしれません。NZの10-12月期CPI(消費者物価指数)は前年比+1.9%と、7-9月期の+1.8%から上昇率が加速し、RBNZのインフレ目標の中央値である+2%に接近。10-12月期の失業率は4.0%と、7-9月期の4.1%から低下(改善)しました。また、企業信頼感指数はマイナス13.2と、11月のマイナス26.4から改善しました。

市場では“RBNZ(NZ中銀)は政策金利を当面据え置く”との見方があります。RBNZが緩和バイアスを弱めたと市場がみなせば、政策金利の据え置き観測が一段と高まり、NZドルの支援材料となりそうです。

カナダドル

7日、カナダの1月雇用統計が発表されます(本稿執筆時点で結果は未発表)。雇用統計が市場予想よりも良好な結果になれば、BOC(カナダ中銀)の利下げ観測が後退し、カナダドルは堅調に推移しそうです。BOCの政策金利については、OIS(翌日物金利スワップ)によると、市場は6月までに利下げが行われる確率を約6割織り込んでいます(日本時間7日午前9時時点)。

原油価格の動向にも注目です。代表的な指標である米WTI先物は4日に一時1バレル=49.31ドルへと下落。約1年1カ月ぶりの安値を記録しました。WTI先物はその後、新型コロナウイルスをめぐる懸念が後退したことによって反発。WTI先物が今後も反発を続ければ、資源国通貨のカナダドルにとってプラス材料です。

トルコリラ

エルドアン・トルコ大統領は5日、アサド政権に対して2月末までにシリア北西部のイドリブ県から撤退するよう要求。「撤退しない場合には、トルコが撤退させる」と述べ、軍事行動に出ると警告しました。

アサド政権はシリア全土の制圧に向けてイドリブ県(反体制派の最後の大規模な拠点)への攻勢を強めています。一方、トルコは反体制派を支援しており、イドリブ県に部隊を駐留。3日にはアサド政権軍とトルコ軍が直接交戦する事態が発生し、両国の緊張が高まっています。

アサド政権軍は5日、エルドアン大統領による要求を無視してさらに進軍しました。アサド政権とトルコの緊張は一段と高まるおそれがあり、その場合にはトルコリラに対して下押し圧力が加わる可能性があります。トルコリラはシリア情勢に要注意です。

南アフリカランド

南アフリカの1月企業信頼感指数(2/6発表)は92.2と、2019年12月の93.1から低下。2019年10月以来の低水準となりました。南アフリカが抱える問題として景気の低迷があります。企業信頼感指数の低下は、景気の低迷がさらに続くことを示唆しており、南アフリカランドにとってマイナス材料です。

来週(2/10- )は、南アフリカの12月製造業生産(11日)、12月小売売上高(12日)、鉱業生産(13日)が発表され、またラマポーザ大統領による施政方針演説が行われます(13日)。それらが材料になる可能性があります。経済指標などを受けて南アフリカ景気をめぐる懸念が高まれば、ランドは軟調に推移しそうです。

メキシコペソ

メキシコペソは今週(2/3- )、対米ドルで約1年4カ月ぶり、対円(ペソ/円)で約9カ月ぶりの高値を記録しました。新型コロナウイルスをめぐる懸念の後退(リスク回避の後退は、新興国通貨にとってプラス材料)、メキシコの実質金利(政策金利から前年比のCPI上昇率を引いたもの)の高さ、それらがペソの支援材料となりました。

13日、BOM(メキシコ中銀)が政策金利を発表します。その結果にメキシコペソが反応する可能性があります。メキシコの景気低迷やCPI(消費者物価指数)がBOMの目標近辺で推移していること、そして足もとのメキシコペソ高を背景に、BOMは追加利下げに踏み切るとみられ、利下げ幅は過去4回と同様に0.25%になりそうです。その通りになれば、声明で追加利下げが示唆されるのか否か焦点。0.50%以上の利下げ幅を主張したメンバーがいなかったことが判明する(BOMの政策メンバーは5人)、あるいは追加利下げに慎重な姿勢が示されれば、市場では追加利下げ観測が後退しそうです。その場合、BOMが利下げしたとしても、メキシコペソはそれほど下がらないかもしれません。
八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想