例年通り、2019年の倒産動向を振り返り、2020年の倒産について予測する。
【2019年の倒産件数(上場企業)】
倒産件数:1社〔2018年:1社〕 <前年比1.0倍>
直近10年間の上場企業の倒産件数と日経平均株価の推移は、下記の通りである。
西暦 | 日経平均株価 【大納会終値】 |
上場倒産件数 |
---|---|---|
2010年 | 10,228 | 10 |
2011年 | 8,455 | 4 |
2012年 | 10,395 | 6 |
2013年 | 16,291 | 3 |
2014年 | 17,450 | 0 |
2015年 | 19,033 | 3 |
2016年 | 19,114 | 0 |
2017年 | 22,765 | 2 |
2018年 | 20,015 | 1 |
2019年 | 23,657 | 1 |
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の棒グラフ≫
http://alox.jp/dcms_media/other/200118_kensuu.pdf
≪上場企業の倒産件数と大納会終値の折れ線グラフ≫
http://alox.jp/dcms_media/other/200118_relation.pdf
昨年の上場企業の倒産は、シベール【ジャスダック】のみである。
ただし、倒産のカテゴリーには含まれないが、曙ブレーキ工業【東証1部】、文教堂グループホールディングス【東証1部】、倉元製作所【ジャスダック】が事業再生ADRを申請した。
【2019年の倒産件数(全企業)】
倒産件数:8,383社 〔2018年:8,235社〕 <前年比1.02倍>
負債総額:1兆4,232億円 〔2018年:1兆4,854億円〕 <前年比0.96倍>
倒産の件数は、2008年の15,646社から、毎年減少していた。
しかし、微増ではあるが、2019年は11年ぶりに倒産件数が増加に転じた。
倒産件数が少ないことに変わりはないが、2018年が底(下げ止まり)だったのかもしれない。
≪2010年~2019年倒産件数(全企業と上場企業)の棒グラフ≫
http://alox.jp/dcms_media/other/200118_stockkensuu.pdf
【今年は?】
上場企業、全企業の両方ともに、昨年よりも倒産件数は増加する。
【重大イベントカレンダー】
今年の政治経済にインパクトがあるイベントを列挙した。
このイベントの情報等を踏まえて、倒産件数に影響のある要因を〔ネガティブ〕と〔ポジティブ〕に分けて、記載する。
時期 | イベント |
---|---|
1月11日 | 台湾総統選挙(中国に強硬姿勢の蔡英文氏が圧勝で再選。) |
1月31日 | 英国のEU離脱期限 |
3月14日 | 高輪ゲートウェイ駅の暫定開業 |
3月頃 | 次世代通信規格「5G」商用サービスの開始 |
4月1日 | 同一労働同一賃金スタート |
4月1日 | 屋内を原則禁煙とする改正健康増進法の施行 |
4月頃 | 中国の習国家主席の来日(予定) |
6月30日 | キャッシュレス決済時のポイント還元制度が終了 |
7月1日 | レジ袋の有料化 |
7月5日 | 東京都知事選 |
7月24日 | 東京オリンピック、パラリンピック開幕(9月6日まで) |
9月 | 香港立法会議員選挙 |
9月 | マイナンバーを活用した新ポイント還元制度のスタート(予定) |
11月3日 | 米国大統領選挙 |
〔ネガティブ要因〕
(1)米中の覇権争い
米中は、軍事を伴わない戦争状態にある。
コンサルティング会社ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマー氏曰く、「テクノロジー冷戦」の様相を呈しており、互いの技術システムの破壊を目論んでおり、ウィンウィンではなく、ゼロサムの戦いである。
トランプ大統領の周囲にいる強硬派は、「今が中国をたたきのめす最後のチャンス。」と考えている人が多数いる。
(参照元:ユーラシアグループのジェフリー・ライト氏(日経ビジネス 徹底予測2020 P113)
米国は徹底して、“中国共産党と一体”と思われるファーウェイを排除し、それを同盟国やヨーロッパの各国へ求め、中国の孤立化を狙っている。
米国は、対中国への関税引き上げ等、あらゆる交渉カードを用いて、徹底した戦いを続けるつもりだ。
米ソの冷戦では、米国の「戦略防衛構想(SDI)」によって、ソ連を財政破綻させ、米国の勝利に終わった。
同様の戦略として、米国では「宇宙軍」が創設され、世界No1の軍事力をキープする戦略に出た。
ただ、中国はソ連と違い、技術力も経済力もあるため、財政破綻の可能性は低い。
日本では、政府によって、情報漏えいの懸念があるファーウェイの情報通信機器を調達をしないよう、民間企業・団体に要請されている。
いずれにしても、米中の戦争は長期化し、その一挙手一投足に、日本のみならず、世界各国が右往左往するのは間違いない。
(2)中小企業金融円滑化法の『明確な終了』
金融庁は、2019年3月期をもって、中小企業金融円滑化法の施行以来、金融機関に求めていた「貸付条件の変更実施状況」の報告を休止した。
2009年12月にスタートした同法は、2013年3月31に期限到来で終了したが、上記の報告義務の存在により、実質的に継続していた。
しかし、2019年3月31日に「正式」に終了した。
直近の報告では、2018年4月~2019年3月の間で、金融機関は借入返済に窮した企業から約74万件もの貸付条件変更依頼があり、その内、約72万件について条件緩和で応じている。
今後、金融機関は同様の依頼があっても、金融庁へ報告する必要はない。
金融機関にとっては、「条件緩和に応じなければならない理由が1つなくなった」のは間違いない。
同じ企業が3回依頼していると仮定すると、約20万社もの企業が借入の返済に困っている企業、つまり倒産予備軍と推定できる。
日本銀行のマイナス金利、キャッシュレスの浸透、フィンテック企業の新規参入等により、金融機関の収益は悪化傾向にあり、SBIホールディングスが「地銀連合構想」を打ち出して地銀4行と提携した。
また、昨年相次いだ粉飾倒産により、銀行の審査は保守的にシフトしつつあり、融資先の選別が実行されている。
銀行が「融資を控える、回収する、債権を売却する」という手段を取る可能性は、昨年の比ではない。
(3)地球温暖化に伴う気候変動
地球温暖化の深刻さを訴えた元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏の訴えた『不都合な真実』は、昨今の異常気象を見る限り、深刻さを増している。
トランプ大統領は、支持基盤への配慮から「地球温暖化は嘘っぱちだ」と公言するが、「未来がないのに学校に行っても意味がない」とストライキしたスウェーデン人の環境保護活動家のグレタ・トゥーンベリ氏への支持は広まっている。
日本も温暖化の影響からか、今年の冬は超暖冬となっており、冬のレジャーは総崩れだ。
一方、夏は体温を超える気温となり、ゲリラ豪雨や何年に1度というようなメガ台風が相次いで上陸している。
気候変動を踏まえた経済活動が必須であり、「今年は天候によって利益が悪化した」というセリフは、経営者失格である。
(4)オリンピック開催年
オリンピックに伴う新国立競技場に代表される建設関係の特需は、終了した。
開催年における恩恵は、「4Kテレビが多少売れること」や「インバウンドによる効果」は見込めるが、規模は小さい。
一方、オリンピックの期間中は、東京における経済活動は縮小する。
東京近郊へ通常通りに物流を行える保証はない。
そのため、多くの企業は、オリンピック前もしくは後に、各種の経済活動を集中させる。
つまり、オリンピック中から経済活動が停止し、宴後は最後の灯火として一瞬経済は回復するかもしれないが、その後に急激な落下が起こる可能性が高い。
夏季オリンピックの開催都市(直近7カ国)で、開催翌年に前年よりも実質GDP成長率が良化したのは、アトランタの米国のみである。
スペイン(バルセロナ)、オーストラリア(シドニー)、ギリシャ(アテネ)、中国(北京)、英国(ロンドン)、前年よりも景気が悪化した。
※ブラジル(リオデジャネイロ)は、前年と同じだった。
オリンピック後、少子高齢化で人口減少中の日本の景気が良化することは、考えにくい。
(5)休廃業・解散の減少
少子高齢化で外国人労働者比率の低い日本においては必然ではあるが、後継者不足により、廃業や解散をする企業が高止まりしている。
東京商工リサーチによれば、2016年以降、年間4万社が休廃業・解散しているという。
ただし、2018年の46,724件から、2019年は43,348件に減少した。
一方で、冒頭で記載した通り、倒産件数は微増している。
一概には言えないが、休廃業・解散する企業は、ある意味で“優良企業”である。
廃業するには公官庁へ手続きや届け出、取引先への説明、従業員の解雇等が必要であり、時間とコストがかかる。
つまり、会社や経営者の体力がなければ、休廃業・解散を選択できない。
倒産も手続きを踏むことには変わりはないが、基本的に「債権者に迷惑をかけるもの」である。
「休廃業・解散が減少し、倒産が増えている」ということは、「迷惑をかけることを承知で倒産せざるを得ない企業が増えている」と言えなくもない。
(6)キャッシュレス決済と消費税の増税
キャッシュレス決済と消費税の増税により、小売業やサービス業の体力が奪われている。
多くの小売業やサービス業は現金商売であり、過小資本でも成り立っていた。
しかし、政府主導のキャッシュレス決済の推進により、手持ち現金が少なくなり、今まで通りの仕入れや営業活動を行うためには、銀行から運転資金を借りなければならなくなっている。
また、当然、キャッシュレス決済や消費税の増税に伴い、システム投資コストが嵩んでいる。
もちろん、一部分、政府の支援はあるが、投資が必要なことに変わりはない。
つまり、2019年10月以降の小売業やサービス業の決算書には、今まで存在しなかった(存在しても小さな数値だった)売掛金、未収入金という
勘定科目が存在することになる。
1月27日、山形県の創業320年の老舗百貨店「大沼」が破産した。
経営上の問題もあるが、「消費税の増税とキャッシュレス決済」の影響をモロに受けたようだ。
(7)中国の潜在リスク
中国に関係するリスクを列挙する。
1.香港における抗議デモ
政府が進める「逃亡犯条例」の改正案をキッカケに激しい抗議が続いている。
同法により、「一国二制度」が事実上終了すると懸念されている。
(「一国二制度」は、2047年に終了し、香港は中国に吸収される予定。)
2.地方政府の隠れ債務
2018年末で地方政府の隠れ債務は650兆円との推計がある。
一部、政府系企業の債務不履行も起きており、何かキッカケがあれば、連鎖的な金融リスクに陥る可能性がある。
3.新型コロナウイルス肺炎
2002年のSARS、そして現在進行中の新型コロナウイルス肺炎など、中国発祥のウィルスは多く、しかもその影響は甚大である。
今現在進行形であり、収束が見えない。
経済へのインパクトは大きく、マーケットも敏感に反応しており、株価は下げ基調である。
(8)黒字リストラ
トヨタ自動車の豊田章男社長は、「100年に一度の大変革の時代」に自動車業界は入ったと述べている。
CASE※と称される大きな変革が起きており、自動車業界のピラミッド構造が崩壊する可能性がある。
※ Connected【コネクティッド】、Autonomous/Automated【自動化】、Shared【シェアリング】、Electric【電動化】の略。
未来は、テスラなどの電気自動車が主流になる可能性が高く、トヨタ自動車をはじめとした自動車メーカーも抜本的な構造改革を求められている。
昨年は、経営悪化によるリストラではなく、将来を見据えて構造改革をする企業が多かった。
いわゆる黒字リストラであり、構造改革をするために、早期・希望退職を募るケースが目立った。
日本の稼ぎ頭である自動車メーカーも、黒字リストラを行うかもしれない。
ゲームチェンジのインパクトがあるCASEにより、あのトヨタ自動車でさえ、アクセル全開で、新規事業の立ち上げ・提携・既存事業の見直しなど、矢継ぎ早に政策を実行している。
〔ポジティブ!?要因〕
(1)(1)マイナンバーのポイント制度
2020年6月30日に、キャッシュレスポイント還元が終了する。
秋以降、マイナンバーを活用した新ポイント還元制度の実施が検討されている。
実施されるか否かは不明だが、キャッシュレスを促進したい政財界のタッグによって、実施の方向性が高い。
PayPayとLINE Payのサービス統合など、最近のニュースにおいて、PAY関連の合併や提携関係の話が多いのは、上記の制度を意識している。
本制度が実施の折には、業界として活況を呈するだろう。
(2)出口戦略の見えない日銀
日本銀行は、今期も国債とETFを購入する方針である。
つまり、莫大な費用をかけて、政府の財政をバックアップしつつ、日本の株価を維持するつもりだ。
黒田総裁就任後、国債は344兆円も増加しており、2013年比で3倍以上に膨張している。
ちなみに、日本銀行の2019年の決算では、総資産550兆円の内、約85%(469兆円)が国債である。
世間では、ソフトバンクグループをハイリスク投資会社というが、国債の一点投資というべき日本銀行の決算書の方がリスクがあるのは明白であり、日本国債が下落した場合の責任は誰がとるのだろうか?と思わずにはいられない。
(3)働き方改革
テレワークやサテライトオフィスの活用により、通勤ならぬ痛勤から開放される人が増えている。
これは非常に良い動きであり、企業によってはオフィス面積を縮小して、テレワークを推進している。
そう遠くない未来に、今のような会社形態は少なくなり、会社というよりもプロジェクトごとにチームが結成されるような形態が増えるだろう。
「会社に属していれば仕事がある」という時代は、いずれ終了する。
(4)「所有する時代」から「サービスとして利用する時代」
若ければ若いほど、所有することに意味を感じていない。
非常に分かりやすい例は、車だ。
一昔前までは、車の保有はステータスだったが、現在は維持費等の面から所有をデメリットと考える人が増えた。
一方で、MaaS(Mobility as a Service、マース)のような既成概念を覆えすサービスが広がりつつある。
同様のことは、以前から各業界でおきており、ソフトウェア業界では初期費用0円で年間利用料のみのサービス形態としてサブスクリプションが定着している。
(5)5G普及に伴うDX(デジタル・トランスフォーメション)
2020年春には、日本でも5Gの本格的なサービスがスタートする。
高速大容量の通信網が整備されることによって、法人のみならばず、個人にもIoT(Internet of Things)の恩恵が届くことになる。
高速道路で物流が発展したのと同様に、高速通信によって各種新サービスが芽吹くのは間違いない。
現状では、遠隔医療、自動運転、VR系のエンターテイメント、臨場感の高いスポーツ観戦、「センサーで管理されたスマートシティ」などが進展しそうだ。
【総括】
米国のトランプ大統領が誕生後、国際協調やグローバルという言葉は、死語になった。
保護主義、自国主義が跋扈しており、大きな括りで言えば、
米国グループ、中国グループ、EUROグループの3つに分かれた。
11月には、米国では大統領選がある。
トランプ大統領の続投の可能性が高く、このギスギスした世界は継続する。
上記及びネガティブ、ポジティブの要因や過去からの推移から、
今年は下記の倒産件数を予想する。
<倒産件数>
〔上 場〕 → 4(±2)
〔全企業〕 → 8,800(±300)
※ 参照資料
・東京商工リサーチ 『2019年(令和1年)の全国企業倒産8,383件』
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2019_2nd.html
・帝国データバンク 『全国企業倒産集計2019年報』
https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/19nen.html
・週刊東洋経済 『2019年大予測』
・日経ビジネス 『徹底予測2019』
・週刊ダイヤモンド 『2019総予測』
・週刊エコノミスト 『世界経済総予測2019』
・週刊エコノミスト 『日本経済総予測2019』
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