■感染症ワクチン市場について
塩野義製薬との提携による開発候補品に関してはまだ明らかにされていないが、UMNファーマ<4585>が従来開発を進めてきた自社開発パイプラインとしては、組換え季節性インフルエンザワクチン(UMN-101)、組換え新型インフルエンザワクチン(UMN-102)、組換えロタウイルスワクチン(UMN-103)、組換えノロウイルスワクチン(UMN-104)の4品目がある。また、これら以外の新規開発候補品の導入についても検討を進めている。可能性のある感染症としてはRSウイルス感染症、デング熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)などが挙げられる。なお、塩野義製薬が2019年2月に長崎大学とマラリアのワクチン開発等に関する共同研究を進めていくことを発表しているが、同社は関係していない。
(1)インフルエンザワクチン
最終的な開発パイプラインは提携第2フェーズのスキーム発表時点で明らかにされる予定だが、弊社では季節性インフルエンザワクチンの開発を進めていく可能性が高いと見ている。市場規模が大きくニーズも見込めるためだ。国内の市場規模は年間700~800億円、世界では5,000~6,000億円の規模で推移していると見られる。
国内では毎年、どの型のインフルエンザが流行するかを想定し、それに合致したワクチン製造用のウイルス株を1種類だけ国立感染症研究所で開催される選定会議を経て厚生労働省が決定し、製薬企業4社※が同一のワクチンを製造する仕組みとなっている。ワクチンの製造方法は鶏卵にインフルエンザウイルスを注入して精製する鶏卵培養法となるが、鶏卵を用いると馴化(アダプテーション)によってウイルスの遺伝子が突然変異を起こし、ワクチンとしての有効性が低下する可能性があるほか製造期間も半年以上と長い。また、ワクチン株によっては生産性が低いものもあり、需要期にワクチンの供給が間に合わなくなるといった課題も抱えている。実際、ここ数年は予防ワクチンの供給量が不足するといった事態が続いており、医療現場からは安定供給を望む声が強まっている。
※KMバイオロジクス(株)(旧、(一財)化学及血清療法研究所)、(一財)阪大微生物研究会(販売は田辺三菱製薬<4508>)、第一三共バイオテック(株)(旧、北里第一三共ワクチン(株))、デンカ生研(株)の4社。
こうしたなかで、同社の開発するロジカルワクチンはウイルスの遺伝子変異に対して、組換え遺伝子技術によって対応することが可能なほか、ワクチンの製造期間も1~2ヶ月と短い。また、アジュバントを活用することで高い有効性や生産性が期待できるほか、新たな製剤デリバリー技術を用いることで既存品との差別化も可能となる。このため、前回申請時の取り下げ理由であった「リスク・ベネフィットの観点から、本剤の臨床的意義が極めて乏しく審査の継続ができない」といった課題もクリアできると弊社では見ている。
塩野義製薬ではインフルエンザ治療薬として「ゾフルーザ®」を開発し、販売を大きく伸ばしているが、予防ワクチンが重要であることに変わりない。インフルエンザの流行によって、高齢者の患者数が増加すれば入院治療費なども含めて医療財政的にも負担が大きくなるためだ。塩野義製薬では感染症領域において「予防薬×治療薬」によるトータルソリューションを提供していくことを事業戦略にしていると見られ、同社の開発力にかかる期待は大きい。
また、新型インフルエンザワクチンに関する開発の優先順位は低いと見られる。新型インフルエンザに関してはパンデミック対応の国策プロジェクトとして、「新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金」交付事業※においてKMバイオロジクスと武田薬品工業<4502>、第一三共バイオテックの3社が選定され、供給体制も既に整備されているためだ。
※新型インフルエンザ発生後に、半年以内に全国民分のパンデミックワクチンを製造・供給する体制を整備することを目的としたプロジェクト。KMバイオロジクスで5,700万人分、武田薬品工業で3,300万人分、第一三共バイオテックで2,300万人分の体制となっている。なお、第一三共バイオテックについては当初の目標量を達成できなかったため、交付金の一部を返上しているが供給体制は維持していく。
なお、季節性インフルエンザワクチンの開発では、田辺三菱製薬のカナダの子会社であるMedicago Inc.が植物の葉を用いたVLP※によるワクチンの臨床第3相試験を2019年に終了する予定となっている。製造期間が5~6週間と短く、大量生産に向いているとされている。
※VLP(Virus Like Particle)とは、ウイルスの外殻のみを持ち、内部にはウイルスゲノムを持たない中空のウイルス様粒子のこと。ウイルスゲノムを持たないため宿主内で増殖できないが、外殻に対する抗体産生を誘導する。VLPは、組換えタンパクの単一分子と比べはるかに大きく、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に病原体の如く貪食されやすいため、アジュバントなしで強力な免疫を誘導する抗原として期待されている。
(2)ロタウイルスワクチン
ロタウイルスは0〜6歳ころの乳幼児が感染しやすく、急性胃腸炎を引き起こす原因として知られている。ロタウイルスワクチンに関しては現在、生ワクチンが普及しており、市場規模は世界で1,000億円規模となっているが、副作用(腸重積症)が出るケースも報告されており、バイオ医薬品として副作用の少ない安全なウイルスワクチンを開発する意義は大きい。ロタウイルスの型はA群~G群まであるが、最も一般的なA群のワクチンの研究開発を次世代ロジカルワクチンコンセプトに基づき進めている。
(3)ノロウイルス
ノロウイルスも急性胃腸炎の原因の一つとして知られている。季節性は無く体力のない高齢者や乳幼児が感染すると重症化しやすい。感染力が非常に強く、飛沫感染あるいは食物を通じて感染(食中毒)するため、病院や老人ホーム、保育所など閉じられた空間内で集団発生するケースが多い。全世界では毎年約20万人がノロウイルス感染症の重症化で死亡していると言われている。
ノロウイルスは遺伝子配列の違いにより多数の型に分類されるが、数年単位で流行する型が変遷する。予防ワクチンの開発は複数の企業が進めているが、まだ上市されたものは無い。同社はフィンランドのタンペレ大学ワクチン研究センターのティモ・ヴェシカリ教授及びヴェスナ・ブラゼヴィッチ博士より、全世界における独占的事業化権の許諾を受け、複数の遺伝子型のノロウイルスに対して有効性を発揮するよう設計され、複数抗原のVLPを含んだワクチンの開発を進めている。予防ワクチンのターゲット市場は飲食店や病院・介護施設、ホテルや給食事業者等の従業員となる。一回の接種による有効性や効果の持続時間などを試験で確認していく必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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塩野義製薬との提携による開発候補品に関してはまだ明らかにされていないが、UMNファーマ<4585>が従来開発を進めてきた自社開発パイプラインとしては、組換え季節性インフルエンザワクチン(UMN-101)、組換え新型インフルエンザワクチン(UMN-102)、組換えロタウイルスワクチン(UMN-103)、組換えノロウイルスワクチン(UMN-104)の4品目がある。また、これら以外の新規開発候補品の導入についても検討を進めている。可能性のある感染症としてはRSウイルス感染症、デング熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)などが挙げられる。なお、塩野義製薬が2019年2月に長崎大学とマラリアのワクチン開発等に関する共同研究を進めていくことを発表しているが、同社は関係していない。
(1)インフルエンザワクチン
最終的な開発パイプラインは提携第2フェーズのスキーム発表時点で明らかにされる予定だが、弊社では季節性インフルエンザワクチンの開発を進めていく可能性が高いと見ている。市場規模が大きくニーズも見込めるためだ。国内の市場規模は年間700~800億円、世界では5,000~6,000億円の規模で推移していると見られる。
国内では毎年、どの型のインフルエンザが流行するかを想定し、それに合致したワクチン製造用のウイルス株を1種類だけ国立感染症研究所で開催される選定会議を経て厚生労働省が決定し、製薬企業4社※が同一のワクチンを製造する仕組みとなっている。ワクチンの製造方法は鶏卵にインフルエンザウイルスを注入して精製する鶏卵培養法となるが、鶏卵を用いると馴化(アダプテーション)によってウイルスの遺伝子が突然変異を起こし、ワクチンとしての有効性が低下する可能性があるほか製造期間も半年以上と長い。また、ワクチン株によっては生産性が低いものもあり、需要期にワクチンの供給が間に合わなくなるといった課題も抱えている。実際、ここ数年は予防ワクチンの供給量が不足するといった事態が続いており、医療現場からは安定供給を望む声が強まっている。
※KMバイオロジクス(株)(旧、(一財)化学及血清療法研究所)、(一財)阪大微生物研究会(販売は田辺三菱製薬<4508>)、第一三共バイオテック(株)(旧、北里第一三共ワクチン(株))、デンカ生研(株)の4社。
こうしたなかで、同社の開発するロジカルワクチンはウイルスの遺伝子変異に対して、組換え遺伝子技術によって対応することが可能なほか、ワクチンの製造期間も1~2ヶ月と短い。また、アジュバントを活用することで高い有効性や生産性が期待できるほか、新たな製剤デリバリー技術を用いることで既存品との差別化も可能となる。このため、前回申請時の取り下げ理由であった「リスク・ベネフィットの観点から、本剤の臨床的意義が極めて乏しく審査の継続ができない」といった課題もクリアできると弊社では見ている。
塩野義製薬ではインフルエンザ治療薬として「ゾフルーザ®」を開発し、販売を大きく伸ばしているが、予防ワクチンが重要であることに変わりない。インフルエンザの流行によって、高齢者の患者数が増加すれば入院治療費なども含めて医療財政的にも負担が大きくなるためだ。塩野義製薬では感染症領域において「予防薬×治療薬」によるトータルソリューションを提供していくことを事業戦略にしていると見られ、同社の開発力にかかる期待は大きい。
また、新型インフルエンザワクチンに関する開発の優先順位は低いと見られる。新型インフルエンザに関してはパンデミック対応の国策プロジェクトとして、「新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金」交付事業※においてKMバイオロジクスと武田薬品工業<4502>、第一三共バイオテックの3社が選定され、供給体制も既に整備されているためだ。
※新型インフルエンザ発生後に、半年以内に全国民分のパンデミックワクチンを製造・供給する体制を整備することを目的としたプロジェクト。KMバイオロジクスで5,700万人分、武田薬品工業で3,300万人分、第一三共バイオテックで2,300万人分の体制となっている。なお、第一三共バイオテックについては当初の目標量を達成できなかったため、交付金の一部を返上しているが供給体制は維持していく。
なお、季節性インフルエンザワクチンの開発では、田辺三菱製薬のカナダの子会社であるMedicago Inc.が植物の葉を用いたVLP※によるワクチンの臨床第3相試験を2019年に終了する予定となっている。製造期間が5~6週間と短く、大量生産に向いているとされている。
※VLP(Virus Like Particle)とは、ウイルスの外殻のみを持ち、内部にはウイルスゲノムを持たない中空のウイルス様粒子のこと。ウイルスゲノムを持たないため宿主内で増殖できないが、外殻に対する抗体産生を誘導する。VLPは、組換えタンパクの単一分子と比べはるかに大きく、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に病原体の如く貪食されやすいため、アジュバントなしで強力な免疫を誘導する抗原として期待されている。
(2)ロタウイルスワクチン
ロタウイルスは0〜6歳ころの乳幼児が感染しやすく、急性胃腸炎を引き起こす原因として知られている。ロタウイルスワクチンに関しては現在、生ワクチンが普及しており、市場規模は世界で1,000億円規模となっているが、副作用(腸重積症)が出るケースも報告されており、バイオ医薬品として副作用の少ない安全なウイルスワクチンを開発する意義は大きい。ロタウイルスの型はA群~G群まであるが、最も一般的なA群のワクチンの研究開発を次世代ロジカルワクチンコンセプトに基づき進めている。
(3)ノロウイルス
ノロウイルスも急性胃腸炎の原因の一つとして知られている。季節性は無く体力のない高齢者や乳幼児が感染すると重症化しやすい。感染力が非常に強く、飛沫感染あるいは食物を通じて感染(食中毒)するため、病院や老人ホーム、保育所など閉じられた空間内で集団発生するケースが多い。全世界では毎年約20万人がノロウイルス感染症の重症化で死亡していると言われている。
ノロウイルスは遺伝子配列の違いにより多数の型に分類されるが、数年単位で流行する型が変遷する。予防ワクチンの開発は複数の企業が進めているが、まだ上市されたものは無い。同社はフィンランドのタンペレ大学ワクチン研究センターのティモ・ヴェシカリ教授及びヴェスナ・ブラゼヴィッチ博士より、全世界における独占的事業化権の許諾を受け、複数の遺伝子型のノロウイルスに対して有効性を発揮するよう設計され、複数抗原のVLPを含んだワクチンの開発を進めている。予防ワクチンのターゲット市場は飲食店や病院・介護施設、ホテルや給食事業者等の従業員となる。一回の接種による有効性や効果の持続時間などを試験で確認していく必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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