アメリカが台湾に「F16戦闘機」を売却、元統合幕僚長の岩崎氏「大変大きな決断」

配信元:フィスコ
投稿:2019/08/24 09:37

アメリカのトランプ政権は8月20日、台湾にF-16 V戦闘機66機を売却すると発表し、国務省が議会に通知した。第4世代戦闘機であるF-16 Vは段階的な改良が続けられたことで、第4.5世代戦闘機を上回る能力を維持しているとされ、多くの国で主力戦闘機の座を占めている。台湾による購入価格は約80億ドル(約8,500億円)となり、過去最大規模となる。

アメリカは7月にも、台湾にM1A2エイブラムス戦車108両など22億ドル(約2,400億円)相当の武器を売却することを承認している。より従前には2017年12月に国家安全保障戦略に台湾関係法に基づく武器供与を明記し、2018年3月にアメリカと台湾の閣僚や政府高官の相互訪問の活発化を目的とした超党派の台湾旅行法案が成立するなど、アメリカによる台湾への関与が鮮明化している。

今回の台湾に対するアメリカのF-16 V売却について、自衛隊元統合幕僚長の岩崎氏に話を聞いた。

■岩崎氏のコメント
今回のアメリカによるF-16Vの66機売却について、私は中台海峡の軍事対峙を考えると大変大きな決断だと考えている。

もともとトランプ大統領は「『二つの中国』で何が問題なのか」と選挙中に述べており、就任後もこの発言をしていた。最近はスタッフからのアドバイ等からか、「one China policy」 に従いこの言葉を口にしなくなってきており、心の中では『二つの中国』で何が問題なのか」と思っているのではないだろうか。

今回の武器売却は「アメリカの海洋戦略」というよりも、対台湾政策の一環だと思われる。昨年1年間を見ても対台湾政策を大きく変更している。アメリカには台湾関係法(Taiwan Relations Act; TRA)が存在しており、アメリカの台湾に対する政策の基本が示されている。これは事実上の米台軍事同盟と言っても言い過ぎではない。このTRAは1979年4月に制定されたアメリカの国内法であり、この中でアメリカは台湾を諸外国の国家または政府と同様に扱うとしている。また、「アメリカは台湾の安全や社会・経済制度を脅かすいかなる武力行使等にも対抗し得る防衛力を維持し、適切な行動をとらねばならない」という規定もある。昨年以降、トランプ政権はこのTRAの見直しを行っている。これまでアメリカ軍人の高官が公式には台湾訪問が出来なかったが、この見直し以降、軍高官も公式に台湾訪問が可能となっている。

本年のアメリカの「インド太平洋戦略報告書」には、台湾が協力すべき対象「国家(country)」と表記されている。また同報告書では「シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴルの4ヶ国は民主主義国家として信頼でき、能力があるアメリカのパートナー」であり、「アメリカの任務遂行に貢献しており、自由で開かれた国際秩序を名守る為の積極的措置を取ってくれている」ことに加え、「アメリカのインド太平洋戦略のパートナー国家として、韓国、日本、豪、フィリピン、タイとともに協力の拡大強化をする対象国」とされている。これはトランプ大統領の考え方をよく表しているといえるが、この基本的な考え方は以前からアメリカが考えていた事を少し強めに表記しただけともいえる。

アメリカは台湾に対し既に潜水艦建造に関する協力を決定しており、今年になってM1A2戦車の売却、そして今回のF-16Vの契約と続き、これらが実践配備されるとかなりの能力向上となる事は確実である。


岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。


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