NASAと眼科診断装置開発、「エミクススタト」の展開力は不変
窪田良氏
窪田製薬ホールディングス 会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)
バイオベンチャー、窪田製薬ホールディングス <4596> [東証M]による眼科診断装置事業が市場の注目を集めている。同社は3月に米航空宇宙局(NASA)と同装置の開発受託契約を締結したことを発表した。窪田製薬HDでは、同診断装置のデータを活用することで眼科医療での新たなフロンティアの開拓を考えている。また、同社が開発する低分子化合物「エミクススタト」はスターガルト病(※)などを適応症として研究開発を進めている。窪田良・会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)に今後の事業展開について聞いた。
――今年3月にNASAと眼科診断装置を開発すると発表したことは大きな話題を集めました。
当社が開発を進めている超小型の眼科診断装置に対し、NASAが関心を示しコンタクトを受けました。宇宙飛行士が長期間、無重力状態にいると体の機能に障害が出てくることが知られています。例えば、眼の神経が障害を受け、視覚障害や失明の恐れがある神経眼症候群を患うことがあります。この障害の診断をするための超小型光干渉断層計(OCT)のプロトタイプを当社は1年以内に開発する計画です。米トランプ政権は2024年に月面着陸を予定しています。このため、今後、3年程度をメドに完成させる予定です。火星探査にも携行可能なものを目指します。
――眼科デバイス事業の全般的な状況について教えてください。
加齢黄斑変性など網膜疾患を対象とする在宅・遠隔医療モニタリング機器(PBOS)は、米国では10月に臨床試験が終了しました。今年の終わりから来年初めには承認申請に進みたいと考えています。このOCTデバイスでは、網膜の厚さを測ります。網膜は日々変化するため、加齢黄斑変性症など網膜疾患が悪化しているかどうかを家庭で測定できることは重要なのです。いままで1台何千万円とかかったものを我々の技術で劇的なコスト低下を進めることや、半畳ほどの装置を双眼鏡サイズに小型化すること、専門の医師の操作を必要とせず自分で測定できるようにすることができました。宇宙には専門の眼科医もいませんし、大型の機械を設置するスペースも火星や月に行く宇宙船にはありません。この小型化と専門家がいなくても測定できる点がNASAに高く評価されました。承認申請後、3ヵ月程度で米食品医薬品局(FDA)から認可が下りるかどうか結果が分かると思います。ちなみにNASAと共同で開発することになったOCTデバイスは、将来緑内障の診断にも応用可能な視神経の形状を診るものです。
――窪田製薬は創薬メーカーというイメージが強いのですが。
当社は17年前に画像診断装置を開発するデバイスメーカーとして創業しており、その後、創薬に向かった経緯があります。眼科医は手術もするし、薬も投与します。このため、アラガンやアルコンなど眼科領域の海外の大手製薬メーカーには創薬とデバイスの両方を手掛ける会社は少なくありません。デバイスの製造などに関しては、外部へアウトソーシングします。我々はインテリジェンスを押さえたうえでアイデアを出します。知的財産の創造が我々の一番の価値なのです。PBOSのデバイスは米国では無料で配ることを考えています。当社は、そのデータを基に毎月の診断料をいただく予定です。眼科デバイスを手掛けることで医療のビッグデータを扱いたいと考えています。このデータは医薬品の開発に活用できることにもなるはずです。将来、医療は家で受けることが当たり前となる時代が来ることが予想されます。医療デバイスを使った事業を活用することで、新しいフロンティアが見えてくると考えています。
――加齢黄斑変性の治療薬を目指したエミクススタトは、16年5月に米国で第3相臨床試験の結果が出ましたが、認可は下りませんでした。現在の医薬品事業の状況はどうなっているのでしょうか。
エミクススタトは、遺伝性の若年性黄斑変性であるスターガルト病の治療薬として、昨年11月に米国で臨床第3相試験を開始しました。また、増殖糖尿病網膜症の治療薬としては、昨年1月に臨床第2相試験を完了しました。スターガルト病に向けては、自社で臨床試験を行うことで、今後、3年弱程度で結果を出すことを目標としています。糖尿病網膜症の臨床試験は大規模なものになるため、いまはパートナーを探しているところです。
――エミクススタトの有効性は否定されたわけではないのですね。
エミクススタトは、FDAから加齢黄斑変性を適応症とする認可は下りませんでした。しかし、第3相臨床試験を行った結果、エミクススタトの安全性は証明されました。酵素を十分阻害する有用性も確認できました。これは、非常に価値のある結果でした。薬は、効果があるだけでは認可されないのです。しかし、たとえ効果は小さくても安全性が確認されれば認可される可能性は高まります。エミクススタトは高齢の患者が2年間飲んでも、副作用がなかったという結果が出ています。
また、医薬品を開発するうえで、どの病気に絞るかは非常に大事なのです。例えば、がん治療薬のオプジーボは最初に適応症としたメラノーマ(悪性黒色腫)で効用が認められました。しかし、何回も適応症を変えてようやく薬が効いた、ということも起こり得たのです。第3相試験を何度も繰り返して、ようやく薬になることは少なくありません。エミクススタトは安全性の高いたぐいまれな物質です。今後の展開は期待できます。
――スターガルト病の治療薬は患者数の少ないオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)です。市場規模は限られませんか。
米国ではオーファンドラッグは高い薬価がつくことが多いのです。これは、一人の患者の病気を治せず長期的に介護した場合のコストを考慮すれば、その病気が直せるのなら高額な薬でも割に合うからなのです。いま、大手製薬メーカーがオーファンドラッグの市場に相次いで参入するなどブームが巻き起こっています。スターガルト病の治療薬は世界にまだ無く、当社では市場規模は1000億円を超えるブロックバスターになることも期待できるとみています。
――前期は30億円の最終赤字を計上しました。資金面は十分ですか。
できるだけ早く商業化を進めレベニューを得たいと考えています。このため、パートナーは探しています。ただし、NASAは我々の技術力を信じてくれました。それまで収入がなかった米国の宇宙開発ベンチャー企業であるスペースXの技術を認め支えたのもNASAでした。彼らは長期プロジェクトに対して、消えてなくなることを予測する会社に仕事は頼まないと思います。技術力があれば、おカネはついてくることを彼らは知っています。その信頼に応えられるよう、事業化を進めていきたいと考えています。
(※)スターガルト病
徐々に光受容体が損傷し、視野の欠損、視覚異常、ぼやけなど様々な視力低下が生じる遺伝性疾患。8000~1万人にひとりが罹患するといわれ、米国、欧州、日本に合計15万人弱の患者がいると推定されている。
◇窪田良(くぼた・りょう)
眼科医。窪田製薬ホールディングス会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)。アキュセラ・インク会長兼社長兼CEO。1991年慶応義塾大学医学部卒業。2000年米ワシントン大学医学部シニアフェロー、01年同大学助教授。02年米シアトルでアキュセラ・インクを設立。14年慶応義塾大学医学部客員教授。
◇窪田製薬ホールディングス
https://www.kubotaholdings.co.jp/
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