パウエルプットと株式本位制[前編]

~今が壮大な株価上昇の入り口だとしたら~

(1) 事実上の株価本位制を示唆するFRBパウエル議長発言

パウエルプット炸裂、株価は大転換へ

 株価急落のさなかのパウエルスピーチがまたまた、株価の大転換をもたらした。貿易摩擦に柔軟に対応し、予防的な金利引き下げの可能性を示唆した。まさに株式市場の守護神である。すでに下落傾向にあった市場金利は急低下し、イールドカーブは完全に逆転した。米国国債利回りは6月7日時点で、1ヵ月2.31%、3ヵ月2.28%、1年2.02%、2年1.85%、3年1.81%、10年2.08%となっており、1年内に3回程度の利下げが織り込まれたことになる。

 武者リサーチはかねてから「インフレの鎮静化により、FRBの利上げの必要性がない、ということがはっきりしてきた。今のFRBは景気を拡大させ株価を維持するために、必要ならどんな手でも打てる状態である。量的金融緩和を再開することもできるし、利下げもできる。それをやったら直ちにマーケットは息を吹き返すと考える。なぜそれができるかと言うと、物価が抑制されているから。これをFRBによる過剰なマーケット支援であり、モラルハザードだ、バブル促進策だと言って批判する人はいる。けれども、インフレが抑制されている、つまりまだ供給力に余剰がある局面においては、需要の増加をもたらす金融緩和政策は間違っていない。それは、この間の一連の動き、株価下落→その後のFRBのスタンス変化→その後の株価急反発、によって証明されていると思う。」(ストラテジーブレティン 218号1/21/19、219号1/29/19)と主張してきたが、想定通りの展開である。

QEを新金融レジームと認識し始めたFRB

 しかし今回の発言は、それ以上の歴史的意味を持つ、威力の大きなものであろう。最重要のポイントは、量的金融緩和という危機対応の政策を、政策オプションの中心に据えたことである。パウウェル氏は中央銀行が直面している課題は低インフレがさらに進み、金利がELB(利下げ余地がなくなる限界水準=Effective lower bound)に達することであり、その際には量的金融緩和などのいわゆる「非伝統的金融政策」が必要になるとして、もはや非伝統的という言葉はやめるべきだ、と主張した(“Perhaps it is time to retire the term “unconventional” when referring to tools that were used in the crisis”)。
 

 
 次の経済困難期には、利下げの余地が小さく政策的に手詰まりになる、との懸念が弱気派の根拠の一つであった。しかしQE(つまり資産価格支持政策)が駆使できるとなると、展望は大いに開けてくる。もはや正常化という名のバランスシート圧縮の必要もなくなる。

QE登場の必然性=大変質した米国金融

 今や先進国の金融は劇的に変貌している。第一に恒常的な資本余剰が定着している。第二に新産業革命により企業収益が向上する一方、設備価格の低下で企業の自己金融力が飛躍的に高まっている。企業は高利潤、過剰償却、省投資額によりキャッシュは著しく潤沢である。かつての家計貯蓄を企業投資につなげる媒介としての金融の役割(商業銀行モデル)は完全に終わっている。それに代わり新たに登場した金融の主たる任務は、企業利益の還流である。それは以下の2018年の米国の資金フローを見ると、明白であろう。

1) 商業銀行(Private Depository Institutions)は預金が5912億ドル増加し、融資が5665億ドル増加(その過半が家計への融資、住宅ローンとコンシューマーローン)となっている。

2) 企業部門(非金融)は税引き利益1兆906億ドルに対して、配当2419億ドル、自社株買い5135億ドル、合計7554億ドルと利益の69%を株主に還元している。一方、企業の債務資金調達は借り入れ増1878億ドル、社債発行増868億ドル、合計2746億ドルに過ぎない。これは企業による株主還元額の3分の1である。この企業の債務調達額の株主還元額比率は、2016年31.9%(1兆2775億ドル対4076億ドル)、2017年50.4%(1兆0226億ドル対5156億ドル)となっており、企業金融における銀行ローンは完全にわき役になっている。

3) 家計部門は貯蓄1兆434億ドルに対して、運用先は預貯金・MMF増加7022億ドル、債券投資(主に国債)6845億ドル、株・投信増1270億ドル、年金資産増3126億ドルとなっている。他方債務資金調達として借り入れ4882億ドル(住宅ローン2848億ドル、コンシューマークレジット1870億ドル)である。
 

 
中銀の金融調節手段も大変化

 このように銀行ローンが金融の主チャンネルでなくなるとすると、FRBの従前の金融調節手法(銀行に対する中銀の貸付金利を操作することで信用創造を制御する)は機能しなくなる。銀行の先に借り手がいない日本の場合なおさらである。

 金融政策の目標、FRBの使命は、適切な物価と最大限の雇用確保の二つである。いわゆるdual mandate。それは持続可能な範囲で最大限の成長を目指すことと換言できる。ではそれは何によって実現できるのかだが、信用総量(購買力総量)のコントロールによってである。ではいかにして信用総量をコントロールするのか、かつては銀行融資量を金利政策で采配することで行っていた。しかし、今日の信用創造は銀行システムではなく、主に資産価格(特に株価)の上昇によってなされるようになっている。故に、資産価格に影響力を行使する政策、巨額のマネー増刷によるQEが不可欠の政策になっている、と言える。こう考えると、QEとは最適資産価格(端的に言えば持続可能な最高株価)をターゲットとする金融レジームと言えるのではないだろうか。

紙幣発行メカニズムの変遷

 QEはなぜ新金融レジームと言えるのかだが、それは紙幣増刷の全く新しいメカニズムだからである。図表4、5によって米国の歴史を振り返れば、米国経済の盛衰、NYダウ工業株の100年の趨勢が、金融レジーム(=紙幣増刷メカニズム)によって変転してきたことが明白である。図表4は実質NYダウ(NYダウを物価指数で除したもの)は、購買力としての株式価値を示すものだが、過去100年間で3つの大幅な上昇の波があり、今第四番目の上昇の唯中にある。3つの波とは

1) 1910~1920年代(金本位制の下での古典的自由主義体制下での上昇)

2) 1950~1960年代(各国管理通貨制度→国内紙幣増刷体制、の下でのケインズ経済体制下での上昇)

3) 1980~1990年代(世界管理通貨制度→ドル散布体制、の下でのグローバル新自由主義体制下での上昇)

である。そして今

4) 2010年から新たな上昇が始まっている。それはQE(量的金融緩和)という新紙幣発行の仕組み、株式などの市場の許容度に即した通貨発行手段を用いた株式本位制度、とも考え得るものである。それは政府部門による需要創造を推進力とする新グローバル・ケインズ体制とでもいえる仕組みになっていくのではないか。金融緩和と財政政策の二つのエンジンによる需要創造が必須・適切な時代の到来である。日本のアベノミクスやトランプ氏のマクロ政策が求められ、正当化される時代といえる。対して財政節度に拘泥している欧州(EU)が困難化している。
 

 
[後編]に続く
 

配信元: みんかぶマガジン
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