FOMC決定の歴史的意義

(1) 徹頭徹尾市場フレンドリー、QE定着(出口なし)

利上げ停止、QT停止が視野に

 FRBは1月30日政策金利を据え置き、さらに追加利上げの休止を強く示唆した。また資産縮小に関連した声明文を別枠で公表して「経済活動や市場動向に応じて、バランスシートの正常化の詳細を修正する用意がある」と明示した。前回12月の記者会見でパウエル議長は「資産縮小は順調で見直す予定はない」と話していたが、方針転換に踏み切った。ロイターや日経新聞などは、FRBのバランスシート縮小は予想より早い段階に終了される可能性がある、と論じている。

FRBをフリーハンドにする好都合の真実

 武者リサーチは前回のブレティン(1月21日付218号)で「インフレの鎮静化により、FRBの利上げの必要性がない、ということがはっきりしてきた。今のFRBは景気を拡大させ株価を維持するために、必要ならどんな手でも打てる状態である。量的金融緩和を再開することもできるし、利下げもできる。それをやったら直ちにマーケットは息を吹き返すと思います。なぜそれができるかと言うと、物価が抑制されているから。これをFRBによる過剰なマーケット支援であり、モラルハザードだ、バブル促進策だと言って批判する人はいる。けれども、インフレが抑制されている、つまりまだ供給力に余剰がある局面においては、需要の増加をもたらす金融緩和政策は間違っていない。それは、この間の一連の動き、株価下落⇒その後のFRBのスタンス変化⇒その後の株価急反発、によって証明されていると思う。」と主張してきたが、想定通りの展開である。

(2) QEはモラルハザードではなく新金融レジームである

悪魔の囁きか、新レジームの定着か

 議論の分岐点は、QE(量的金融緩和政策)が、錬金術で副作用が大きく持続性がないとの評価が適切かどうかであろう。そうだとすればFRBは金融政策運営を市場フレンドリーにシフトし正常化を遅らせたことで、一段と悪魔のささやきに乗ったということになる。武者リサーチはかねてから、断定はできないが、QEは新金融レジームである可能性が高く、出口も正常化の必要もない、と主張してきた。1月30日のFOMC決定と声明は、ますます出口・正常化から遠ざかるFRBのスタンスが鮮明である。
 

 
紙幣発行メカニズムの変遷

 QEはなぜ新金融レジームと言えるのかだが、それは紙幣増刷の全く新しいメカニズムだからである。図表1、2によって米国の歴史を振り返れば、米国経済の盛衰、NYダウ工業株の100年の趨勢が、金融レジーム=紙幣増刷メカニズム)によって変転してきたことが明白である。図表1は実質NYダウ(NYダウを物価指数で除したもの)であり、購買力としての株式価値を示している。過去100年間で3つの大幅な上昇の波があり、今第四番目の上昇の唯中にある。3つの波とは

① 1910~1920年代(金本位制の下での古典的自由主義体制下での上昇)
② 1950~1960年代(各国管理通貨制度⇒国内紙幣増刷体制、の下でのケインズ経済体制下での上昇)
③ 1980~1990年代(世界管理通貨制度⇒ドル散布体制、の下でのグローバル新自由主義体制下での上昇)である。
そして今
④ 2010から新たな上昇が始まっている。それはQE(量的金融緩和)という新紙幣発行の仕組み、株式などの市場の許容度に即した通貨発行手段を用いた、市場本位制度とも考え得るものである。それは政府部門による需要創造を推進力とする新グローバル・ケインズ体制とでもいえる仕組みになっていくのではないか。金融緩和と財政政策の二つのエンジンによる需要創造が必須・適切な時代の到来である。日本のアベノミクスやトランプ氏のマクロ政策が求められ、正当化される時代といえる。対して財政節度に拘泥している欧州(EU)が困難化している。
 

 
 また図表2によって名目のNYダウの推移を振り返ると、各20年毎に、②は100ドルから1000ドルへ、③は1000ドルから10,000ドルへと上昇してきたが、今10,000ドルから100,000ドルへの長期上昇の20年に入っている可能性が考えられる。そして株価10倍の繁栄の20年は、金価格の上昇が引き起こす金融レジームの進化、定着と軌を一にしている。歴史的な金価格の上昇は1934年、1980年、2011年に起きているが、ともに新金融レジームの定着とともに沈静化した。金価格の急騰は旧金融レジームの断末魔と考えられる。

(3) QE登場の必然性、なぜ信用総量の増大が必要なのか

 金融政策の目標、FRBの使命は、適切な物価と最大限の雇用確保の二つである。いわゆるdual mandate。それは持続可能な範囲で最大限の成長を目指すことと換言できる。ではそれは何によって実現できるのかだが、信用総量(購買力総量)のコントロールによってである。ではいかにして信用総量をコントロールするのか、かつては銀行融資量を金利政策で采配することで行っていた。しかし今は信用創造は銀行システムではなく、主に資産価格(特に株価)の上昇によってなされるようになっている。故に、資産価格に影響力を行使する政策、巨額のマネー増刷によるQEが不可欠の政策になっている。人為的に株価を上げる政策は確かに錬金術である。が、持続性がないバブルとは全く言えない。

 それではなぜ錬金術としての信用創造が必要なのか、それには技術と社会的分業の発展の歴史を見なければならない。詳述はできないが、技術が発展し生産性が高まれば、人と生産物、つまり労働と資本の余剰感が強まる。それは供給力が高まるとも言い換えることができる。であれば、相対的に需要が足りなくなる、よって需要を増加させる政策、つまり信用創造政策が不可欠だということになる。

 金融レジームとは昆虫の殻に例えることができよう。技術と生産性向上に伴う経済実態の拡大に、古い殻である旧金融レジームが対応できなくなり、新しいレジームが登場する。金本位制に縛られた通貨増発制約が、1929年からの世界大恐慌を引き起こし、管理通貨制度への変態が余儀なくされた。1980年前後の米国不況は、ドル金交換停止によって可能となった世界通貨ドルの増刷(レーガノミクス)で回復し、それが新ブレトンウッズ体制(全世界管理通貨時代)への移行を導いた。

 2008年のリーマンショックの評価は未だ定まっていない(どころか)、金融市場における過度のリスクテイクとバブル形成が原因との見解が流布しているが、それは一面的である。原因はマネー不足による資産価格の過度の暴落により、総購買力が著しく落ち込んだことにつきる。それはマネーの著しい増発と資産価格(株価・債券・不動産)の大幅な値上がり(=購買力の回復・成長)によって解決したことから逆算して考えれば、明白である。この資産価格の値上がりが不健全だ、それを引き起こしたQEがモラルハザードだとの解釈は、前日銀総裁白川氏、前インド中銀総裁ラグジャム・ラジャン氏などアカデミズムと政策当局者、市場関係者によって広く主張されている。とすれば今の景気拡大そのものが不健全で一時的ということになる。白川氏は「金融緩和による需要創造は、将来需要の先食いだから一過性の効果しかなく、不健全」と主張しているが、的外れも甚だしい。需要が適正かどうかは白川氏が決めるのではなく供給力が決めるのであり、その尺度が物価上昇(インフレ)である。インフレになっていないということは、供給力に余剰があるということだから、さらなる需要追加が必要である。

(4) QEとは市場本位制? 株価本位制?

 本意ではないが論点をはっきりさせるために、論壇における論者の見解を検証したい。毎度のごとく株価急落場面で東洋経済やエコノミスト誌が、株式バブル論の全面展開をしている。主な常連コメンテイターの議論は「バブルでしか成長できない世界経済」(水野和夫 氏 エコノミスト1.22.19)「トランプ・バブルの終わりの始まり、世界経済後退への耐性なき日本」(寺島実郎 氏 エコノミスト1.22.19)「バブル頼み景気回復、完全雇用のからくり」(河野龍太郎 氏 東洋経済2.2.19)などであるが、論旨は単純明快である。QEが資産価格の上昇というバブルを生み、そのバブル醸成でしか世界経済・米国経済は成長できない(完全雇用に到達できない)。それは不健全で持続性がない、というものである。
 

 
 確かにQEが株価など資産価格引き上げに決定的に寄与した。また資産価格が上昇しなかったら成長も雇用増加もなかったであろう。図表4、5は市岡繁男氏による、日米株価とベースマネーとの相関性であるが、日米ともにQEが爾後の株価上昇を支えたのは明瞭である。だだ、この株価かバブルであり持続性がないという仮説は飛躍的すぎる。図表6、7は日米株価と企業利益との関連であるがQE実施以降に株価が割高化した、つまりPERが大きく上昇したということは起きていない。つまり株価は企業利益の増加に連動して上昇してきたのでバブルとは言えない。むしろ長期的に大きく低下してきた金利との相関から言えば、依然割安とすら言える状況である。図表6をみれば、1970年代以降ほぼ10年国債利回りと連動してきた米国の株式益回り(PERの逆数)がQE実施以降も大きく上方乖離したままであることが明白である。つまり株式バリュエーションは金利に比し割安といえるわけである。
 

 
 債券利回りに比べての株価の割安さは、日本はより顕著である。付言すれば日本の株価が日銀のQEとETF買いによって支えられているのは事実だが、だから日本株はバブルだというのは、企業業績の好調さから考えれば、的外れの議論というほかはない。日本の株式市場の価格発見機能が壊れているのであり、日銀は苦心してそれを立て直そうとしているのである。

 それはともかく因果関連としては、QE⇒企業利益上昇⇒株価上昇となってきたわけで、これが不健全というのであれば、QEによる企業利益増加のメカニズムが正しくはない、持続性がないということになる。あたかも1950年代における不換紙幣発行による成長が不健全である、1980年代におけるドル散布による成長が不健全である、といった議論に等しく、何が正解かは、当時はだれもわからなかったものである。後から振り返ると、それは一定期間持続性があり機能した、しかし副作用が大きくなりそのレジームは永続しなかった、ということであろう。

 我々は未だQEレジームが破たんし、次のレジームが模索される時代には至っていない。中央銀行が資産価格をコントロールすることで総信用を制御するQEレジームは依然十分に機能していると言えるだろう。

 以上が金融政策と金利に関して、楽観論を保持するべきだという、論拠である。

(2019年1月31日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン219号」を転載)

配信元: みんかぶマガジン
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