■今後の見通し
(7) DDS材料
DDS材料では、2018年11月に岡山大学中性子医療研究センターと、最先端がん治療法であるBNCTを用いた新たな薬剤開発に関しての共同研究契約を締結したと発表した。BNCTとは、がん細胞に送り込んだ「ホウ素薬剤」に対して低エネルギー中性子線を照射することで、正常細胞にほとんど損傷を与えずがん細胞に大きなダメージを与える放射線治療法を指す。副作用が少なく、治療効果の大きい次世代がん治療法として注目されている。主な適応がん種は頭頸部がん、メラノーマ、悪性脳腫瘍等となる。
BNCTは1960年代から臨床試験が行われてきた治療法だが、現在までに臨床で使用された「ホウ素薬剤」は全世界で2種類(BSHとBPA)にとどまり、そのうち、現在最も治験で使われているBPAについては、がん細胞を殺す粒子放射線効率が低く、1施術当たり大量の点滴投与が必要で、腎障害を引き起すリスクが指摘されている。一方、BSHについては、がん細胞への取り込みが難しいという課題があったが、今回、スリー・ディー・マトリックス<7777>のDDS材料である「A6K」とBSHを組み合わせて開発したBNCT用ホウ素製剤「OKD-001」でこうした課題がクリアされ、がん細胞内にホウ素薬剤を集積させることが可能となった。また、粒子放射線効率が高く、1施術当たりの点滴投与量も少なくて済み、腎障害発生のリスクもなくなることから、将来的にBNCT用ホウ素薬剤の世界標準となる可能性がある技術として注目される。
岡山大学中性子医療研究センターは2017年に、最先端の新規ホウ素薬剤の開発とBNCTにおける世界標準治療法を確立することを目的に設立された研究機関で、今回、同センターと共同研究開発契約を締結した意義は大きい。研究期間は1年間だが、「ODK-001」の臨床開発開始を目的としているため、研究開発の進捗に応じて継続協議を行っていくことになる。同社は2022年の治験開始を目標としており、長期的にDDS材料が主力製品の1つとなる可能性が出てきたと言える。
なお、DDS材料では国立がん研究センターとの共同プロジェクト「RPN2※標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」における医師主導型の第1相臨床試験が2018年3月に期間満了により予定症例数を残して終了したが、継続して臨床試験を行う意義があるとの判断から、現在は四国がんセンターや主要医療施設で残りの症例数の臨床試験を実施する方向で協議を進めている。同臨床試験は「がん幹細胞」に特異的に発現するRPN2遺伝子をターゲットとし、その発現を抑制する核酸(RPN2siRNA)と同社が開発した界面活性剤ペプチド「A6K」をキャリアとするDDSを組み合わせた製剤の安全性評価を行うもので、ファースト・イン・ヒューマンの臨床試験として注目されている。siRNA単独では安定性が低く腫瘍部に届くまでに分解されてしまうことが課題であったが、「A6K」との複合体にすることで安定性が高まり、分解が抑制されることが明らかとなっており、イヌの実験では乳がん腫瘍の縮小効果も確認されている。
※PRN2…がんの転移・浸潤・薬剤耐性を担うターゲット遺伝子。
また、2017年7月にはAMEDによる2017年度「革新的医療技術創出拠点プロジェクト」関連シーズ「橋渡し研究戦略的推進プログラム」に、広島大学医歯薬保険学研究科との共同プロジェクト「がん幹細胞及び抗がん剤耐性がん細胞に作用する革新的抗腫瘍核酸医薬の開発」が採択され、悪性胸膜中皮腫※を対象疾患としたマイクロRNAによる新しい核酸医薬の研究開発が始まっている。同社はマイクロRNAをがん細胞に効率的に送達するためのDDS用材料として「A6K」を提供しており、動物実験では効率的に送達できることが確認されている。今後3年間で前臨床試験を実施しながら有効なデータが得られれば、医師主導治験を進めていく計画となっている。
※肺を覆う胸膜の表面に発生するがん。アスベストが発症原因の多くを占めている。現在の治療法は手術を抗がん剤の併用だが、再発も多く診断5年後の死亡率は90%を超える。年間死亡者数は2015年で1,500名超、今後2035年をピークに2〜3倍の発症が予測されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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(7) DDS材料
DDS材料では、2018年11月に岡山大学中性子医療研究センターと、最先端がん治療法であるBNCTを用いた新たな薬剤開発に関しての共同研究契約を締結したと発表した。BNCTとは、がん細胞に送り込んだ「ホウ素薬剤」に対して低エネルギー中性子線を照射することで、正常細胞にほとんど損傷を与えずがん細胞に大きなダメージを与える放射線治療法を指す。副作用が少なく、治療効果の大きい次世代がん治療法として注目されている。主な適応がん種は頭頸部がん、メラノーマ、悪性脳腫瘍等となる。
BNCTは1960年代から臨床試験が行われてきた治療法だが、現在までに臨床で使用された「ホウ素薬剤」は全世界で2種類(BSHとBPA)にとどまり、そのうち、現在最も治験で使われているBPAについては、がん細胞を殺す粒子放射線効率が低く、1施術当たり大量の点滴投与が必要で、腎障害を引き起すリスクが指摘されている。一方、BSHについては、がん細胞への取り込みが難しいという課題があったが、今回、スリー・ディー・マトリックス<7777>のDDS材料である「A6K」とBSHを組み合わせて開発したBNCT用ホウ素製剤「OKD-001」でこうした課題がクリアされ、がん細胞内にホウ素薬剤を集積させることが可能となった。また、粒子放射線効率が高く、1施術当たりの点滴投与量も少なくて済み、腎障害発生のリスクもなくなることから、将来的にBNCT用ホウ素薬剤の世界標準となる可能性がある技術として注目される。
岡山大学中性子医療研究センターは2017年に、最先端の新規ホウ素薬剤の開発とBNCTにおける世界標準治療法を確立することを目的に設立された研究機関で、今回、同センターと共同研究開発契約を締結した意義は大きい。研究期間は1年間だが、「ODK-001」の臨床開発開始を目的としているため、研究開発の進捗に応じて継続協議を行っていくことになる。同社は2022年の治験開始を目標としており、長期的にDDS材料が主力製品の1つとなる可能性が出てきたと言える。
なお、DDS材料では国立がん研究センターとの共同プロジェクト「RPN2※標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」における医師主導型の第1相臨床試験が2018年3月に期間満了により予定症例数を残して終了したが、継続して臨床試験を行う意義があるとの判断から、現在は四国がんセンターや主要医療施設で残りの症例数の臨床試験を実施する方向で協議を進めている。同臨床試験は「がん幹細胞」に特異的に発現するRPN2遺伝子をターゲットとし、その発現を抑制する核酸(RPN2siRNA)と同社が開発した界面活性剤ペプチド「A6K」をキャリアとするDDSを組み合わせた製剤の安全性評価を行うもので、ファースト・イン・ヒューマンの臨床試験として注目されている。siRNA単独では安定性が低く腫瘍部に届くまでに分解されてしまうことが課題であったが、「A6K」との複合体にすることで安定性が高まり、分解が抑制されることが明らかとなっており、イヌの実験では乳がん腫瘍の縮小効果も確認されている。
※PRN2…がんの転移・浸潤・薬剤耐性を担うターゲット遺伝子。
また、2017年7月にはAMEDによる2017年度「革新的医療技術創出拠点プロジェクト」関連シーズ「橋渡し研究戦略的推進プログラム」に、広島大学医歯薬保険学研究科との共同プロジェクト「がん幹細胞及び抗がん剤耐性がん細胞に作用する革新的抗腫瘍核酸医薬の開発」が採択され、悪性胸膜中皮腫※を対象疾患としたマイクロRNAによる新しい核酸医薬の研究開発が始まっている。同社はマイクロRNAをがん細胞に効率的に送達するためのDDS用材料として「A6K」を提供しており、動物実験では効率的に送達できることが確認されている。今後3年間で前臨床試験を実施しながら有効なデータが得られれば、医師主導治験を進めていく計画となっている。
※肺を覆う胸膜の表面に発生するがん。アスベストが発症原因の多くを占めている。現在の治療法は手術を抗がん剤の併用だが、再発も多く診断5年後の死亡率は90%を超える。年間死亡者数は2015年で1,500名超、今後2035年をピークに2〜3倍の発症が予測されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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