■中長期の成長戦略
3. 業績の方向性
前述のように、エレマテック<2715>は期間固定式の中期経営計画は策定しておらず、毎年、期初において当該年度と2年後の業績予想を公表している。2019年3月期の期初(2018年4月)に同社が公表した中期業績予想は、2021年3月期において、売上高2,500億円、経常利益80億円というものだ。
この中期業績予想の数値自体は直前期の決算内容やその時点での世界経済見通しなどで変動することになり、さほど大きな意味を持たないと弊社では考えている。しかしながら、そのマーケット別内訳を時系列的に分析することで、同社が期待をかけている市場分野や製品領域などが見えてくる。また、そうした作業をすることで同社の将来予測に対する精度も高まってくると期待される。
2018年5月に公表された直近の中期業績予想のマーケット別内訳を、1年前に公表されたそれと比較したものを見ると、1年前の予想と比較して、Digital Electronicsの売上構成比が低下し、代わりに、AutomotiveとBroad Marketの売上構成比が上がっていることがわかる。また、3年前の実績値からの伸び率も、Digital Electronicsのそれは大きく鈍化して横ばい圏にとどまる予想となっているのに対して、Automotiveは80.2%成長を維持したほか、Broad Marketの伸び率は52.2%に大きく伸長した。すなわち、中期的成長におけるけん引役が、Digital ElectronicsからAutomotiveとBroad Marketに完全に入れ替わったということだ。
2019年3月期第2四半期決算の概要の項で述べたように、足元ではDigital Electronicsの縮小が一段と進み、AutomotiveとBroad Marketの伸びが加速している状況だ。同社自身は2019年3月期下期にはDigital Electronics、とりわけスマートフォン関連向け製品の売上が底打ちしてくると考えているが、相対的な成長率比較では、“Automotive、Broad Market>Digital Electronics”という構図は当面変わらないと弊社では考えている。
マーケット別の中期業績予想についての弊社の考え方は2018年6月20日付レポートで詳述したが、その後、2019年3月期第2四半期までの市場の変化を踏まえてアップデートすると以下のようになる。
(1) Digital Electronics
この分野におけるスマートフォン・タブレットの存在感は、市場が成熟したとはいえ台数が膨大なため薄れることはないと考えられる。しかし部材のサプライヤーとしての同社の立ち位置では、顧客の最終製品の売上動向の影響を大きく受けるため、中期的な年平均成長率がマイナスになる可能性もゼロではないことに注意が必要だ(前回レポートではDigital Electronicsの年平均成長率の想定が控え目すぎると述べたが、その点では少し警戒心を強めた形だ)。スマートフォン関連需要を単独で置き換えるような成長商品は現状では出てきていないが、スマートフォン自体にディスプレイにおける液晶から有機ELへの移行や、通信方式における5Gへの移行といった需要拡大ストーリーがまだまだあるため、これらの点を注視していきたいと考えている。
(2) Automotive
Automotiveでは需要構造の変化が起こるかどうかが第1の注目点だ。現在のAutomotiveの売上高の中心は、同社が豊田通商傘下に入る前からの商流のものだが、傘下に入って以降に開拓されたトヨタ自動車<7203>系の自動車メーカーとの取引の本格拡大が今後始まると考えられるためだ。その際には量産パーツ向けの部材供給となって、取扱数量や取引額がこれまでよりもぐんと大きくなることが期待される。
以上の流れをメインシナリオとするならば、それとは異なる成長シナリオも弊社の中では浮上してきている。それは同社が今現在行っている自動車関連向け取引で業容が拡大するパターンだ。メインシナリオのほうが売上高は効率良く拡大できると考えられるが、利益に着目した場合は現状の取引構造のほうが高い利益率を享受できる可能性がある。また、同社のグループ内での立ち位置などを考慮した場合、同社の目指すモジュール化取引の拡大(すなわちファブレスメーカーとしての活動)を実現できるかということもある。
Automotiveの領域は今後、同社の成長エンジンとなるのは疑いないとみているが、そこで同社がどういった事業展開で成長を実現していくのか、大いに注目される。
(3) Broad Market
Broad Marketは様々な向け先(顧客業界)を含んでいるが、その中では産業機器等やアフターマーケットの取引規模が比較的大きく、潜在的な成長率も高いとみられる。また、アフターマーケットの個々の製品は自動車関連向け部材などが数多く含まれており、同社の自動車関連業界向け商材の売上構成比はAutomotiveだけの売上構成比を大きく上回って20%台に達している可能性がある。したがってBroad Marketを見るうえでも自動車業界動向には要注意だ。また、Broad Marketにおいてもスペック・イン活動が重要な業界や顧客が多く、Automotive同様、この分野でもファブレスメーカーとしての活動をどのように展開するのか見守りたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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3. 業績の方向性
前述のように、エレマテック<2715>は期間固定式の中期経営計画は策定しておらず、毎年、期初において当該年度と2年後の業績予想を公表している。2019年3月期の期初(2018年4月)に同社が公表した中期業績予想は、2021年3月期において、売上高2,500億円、経常利益80億円というものだ。
この中期業績予想の数値自体は直前期の決算内容やその時点での世界経済見通しなどで変動することになり、さほど大きな意味を持たないと弊社では考えている。しかしながら、そのマーケット別内訳を時系列的に分析することで、同社が期待をかけている市場分野や製品領域などが見えてくる。また、そうした作業をすることで同社の将来予測に対する精度も高まってくると期待される。
2018年5月に公表された直近の中期業績予想のマーケット別内訳を、1年前に公表されたそれと比較したものを見ると、1年前の予想と比較して、Digital Electronicsの売上構成比が低下し、代わりに、AutomotiveとBroad Marketの売上構成比が上がっていることがわかる。また、3年前の実績値からの伸び率も、Digital Electronicsのそれは大きく鈍化して横ばい圏にとどまる予想となっているのに対して、Automotiveは80.2%成長を維持したほか、Broad Marketの伸び率は52.2%に大きく伸長した。すなわち、中期的成長におけるけん引役が、Digital ElectronicsからAutomotiveとBroad Marketに完全に入れ替わったということだ。
2019年3月期第2四半期決算の概要の項で述べたように、足元ではDigital Electronicsの縮小が一段と進み、AutomotiveとBroad Marketの伸びが加速している状況だ。同社自身は2019年3月期下期にはDigital Electronics、とりわけスマートフォン関連向け製品の売上が底打ちしてくると考えているが、相対的な成長率比較では、“Automotive、Broad Market>Digital Electronics”という構図は当面変わらないと弊社では考えている。
マーケット別の中期業績予想についての弊社の考え方は2018年6月20日付レポートで詳述したが、その後、2019年3月期第2四半期までの市場の変化を踏まえてアップデートすると以下のようになる。
(1) Digital Electronics
この分野におけるスマートフォン・タブレットの存在感は、市場が成熟したとはいえ台数が膨大なため薄れることはないと考えられる。しかし部材のサプライヤーとしての同社の立ち位置では、顧客の最終製品の売上動向の影響を大きく受けるため、中期的な年平均成長率がマイナスになる可能性もゼロではないことに注意が必要だ(前回レポートではDigital Electronicsの年平均成長率の想定が控え目すぎると述べたが、その点では少し警戒心を強めた形だ)。スマートフォン関連需要を単独で置き換えるような成長商品は現状では出てきていないが、スマートフォン自体にディスプレイにおける液晶から有機ELへの移行や、通信方式における5Gへの移行といった需要拡大ストーリーがまだまだあるため、これらの点を注視していきたいと考えている。
(2) Automotive
Automotiveでは需要構造の変化が起こるかどうかが第1の注目点だ。現在のAutomotiveの売上高の中心は、同社が豊田通商傘下に入る前からの商流のものだが、傘下に入って以降に開拓されたトヨタ自動車<7203>系の自動車メーカーとの取引の本格拡大が今後始まると考えられるためだ。その際には量産パーツ向けの部材供給となって、取扱数量や取引額がこれまでよりもぐんと大きくなることが期待される。
以上の流れをメインシナリオとするならば、それとは異なる成長シナリオも弊社の中では浮上してきている。それは同社が今現在行っている自動車関連向け取引で業容が拡大するパターンだ。メインシナリオのほうが売上高は効率良く拡大できると考えられるが、利益に着目した場合は現状の取引構造のほうが高い利益率を享受できる可能性がある。また、同社のグループ内での立ち位置などを考慮した場合、同社の目指すモジュール化取引の拡大(すなわちファブレスメーカーとしての活動)を実現できるかということもある。
Automotiveの領域は今後、同社の成長エンジンとなるのは疑いないとみているが、そこで同社がどういった事業展開で成長を実現していくのか、大いに注目される。
(3) Broad Market
Broad Marketは様々な向け先(顧客業界)を含んでいるが、その中では産業機器等やアフターマーケットの取引規模が比較的大きく、潜在的な成長率も高いとみられる。また、アフターマーケットの個々の製品は自動車関連向け部材などが数多く含まれており、同社の自動車関連業界向け商材の売上構成比はAutomotiveだけの売上構成比を大きく上回って20%台に達している可能性がある。したがってBroad Marketを見るうえでも自動車業界動向には要注意だ。また、Broad Marketにおいてもスペック・イン活動が重要な業界や顧客が多く、Automotive同様、この分野でもファブレスメーカーとしての活動をどのように展開するのか見守りたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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