驚愕の日本企業収益性向上、その秘密と持続性<前編>

著者:武者 陵司
投稿:2018/09/27 21:58

~日本が打ち立てた企業内国際分業モデルの威力~

[1]驚愕の収益性向上を無視する市場

歴史的利益率の上昇をどう見るか

 法人企業統計2018年4~6月分が発表され(9月3日)、海外メディアはその利益率上昇に驚愕した。売上高経常利益率は全産業(除く金融保険)で7.7%、製造業で10.5%と過去最高を記録した。図表1に見るように、経常利益率は高度成長期からリーマン・ショック前後まで、2~4%の推移していたことを考えると、アベノミクス登場以降の5年間で2倍以上に上昇したことは、画期的かつそのトレンドがさらに加速している、ことをうかがわせる。

海外投資家やエコノミストは持続性に懐疑的

FT(9/13)、WSJ(9/10)はそれぞれビジネスセクションの一面で、この事実を報じたが、その解釈は混乱したものであった。空前の利益率上昇にもかかわらず、好対照に日本株式が低迷している、ということは、企業収益の持続性に懸念がある、というものが共通の説明であった。あえて整理すれば、①利益率の向上が十分な売り上げ増加を伴っていないこと、②リストラとコスト削減、企業のコーポレートガバナンス向上による生産性向上努力が利益率向上の主因でそれらは一過性であること、などが根拠とされていた。懐疑論は日本国内も共通である。日本国内メディアはそもそも長期的視野に基づく関心は低く、歴史的利益率上昇の事実はほとんど報道されなかった。大半のエコノミストと市場参加者は、依然として日本経済と市場に警戒感を持つよう、推奨している。
 

 
利益率向上の根本要因(=ビジネスモデルの大転換)が無視されている

 武者リサーチはそのような懐疑論は、誤りであると考える。グローバル投資家と多くのエコノミストは、利益率急伸をもたらしている根本原因を見落としているのではないか。根本要因とは日本企業のビジネスモデルの大転換、それに伴う海外企業収益の甚大な寄与ということである。そうであれば、日本企業の収益性向上は健全であり持続性がある。

外国人主体の空売りは持続しない

 2月以降外国人による日本株売りが著増し、年初来累計の日本株ネット売却は4兆円と2015年8~9月のチャイナショック時並みとなった。外国人主体に東証空売り比率は45~48%と空前の水準まで上昇、日経平均株価23000円の頭を押さえてきた。外国人の日本株ショートの背景に二つの誤解がある、と考えられる。第一の誤解は米中貿易戦争で日本は被害者だという見解であるが、それが誤りであることは前回レポート(ストラテジーブレティン207号参照)で説明した。第二の誤解は日本企業の収益力軽視である。利益率向上の根本要因が日本企業のビジネスモデルの大転換とそれに伴う海外部門収益の寄与であるとすれば、さらなる収益向上が期待できる。

日本株が中国株と連動する理由はない

 図表4は相場研究家の市岡繁男氏によるものだが、外国人の日本株投資と上海株式とは近年、強い連動性があることがわかる。2015年後半も2018年前半も、外国人の日本株売りは、中国株価下落と同時に進行してきた。日本は米中貿易戦争のむしろ受益者であるが、被害者とみたてたグローバル投機家が、中国売りの代替として日本株をショートしている様相なのである。2015年のチャイナショック時には中国株の下落と連動して日本株がほぼ同じ3割下落と上海指数並みの世界でも突出した下落を見せたが、その時と同様に中国株売り=日本株売り年が再現されることを夢見ているのだろう。だが、その目論見は全く根拠に乏しい、というものが武者リサーチの見解である。

日経平均優位が続く

当面の株価上昇が日経平均主導であり、TOPIXは未だ高値切り下げトレンドの下にあるとして、警戒論を唱える投資家もいる。しかしTOPIXと日経平均の格差は、革命・下剋上・主役交代進行の現れと考えるべきではないか。日本においても米国同様、新産業革命の勝ち組と負け組との格差が進行している。TOPIXの規模別株価指数をみると、大型株価が劣後する一方、小型株指数の著しい好パフォーマンスが鮮明である。またTOPIXは負け組の代表格である、銀行や資源・エネルギー、電力など公益関連の比重が高く、新産業革命の担い手と期待される情報通信、電機、化学、医薬品、小売りなどの比重が低い。新産業革命の進行にともない、成長企業の比重が比較的高い日経平均の相対優位がさらに強まっていくだろう。
 
 

[2]日本企業の歴史的収益性向上の要因分析、固定費負担減から採算向上へ

顕著な採算(=限界利益率)の向上が主因

 日本の企業収益は、歴史的増加局面にある。前述の法人企業統計の経常利益率のみならず、日銀短観企業においても、東証上場企業においても観測できる(図表7)。それと連動して、ROEが着実に上昇している。東証上場企業合計のROEは2017年度9.1%と過去最高を記録した(図表8)。

 この収益性上昇の本質をどのように理解するべきかだが、武者リサーチは急速な採算(=限界利益率)の向上が原因であり、それは日本企業のビジネスモデルの大転換と、海外利益の寄与によってもたらされたと考える。法人企業統計の大企業(金融保険を除く全産業で資本金10億円以上)の収益推移を分析すると、リーマン・ショック以降の顕著な利益率向上は(図表10に見るように)、限界利益率の上昇がけん引していることがわかる。他方リストラ・コスト削減による利益寄与は固定費が2013年度で下げ止まっているので、近年の利益率向上の主な要因とは言えない。固定費水準が大幅に低下したところに、2013年度以降の限界利益率の急伸で、損益分岐点が劇的に低下した。大企業の損益分岐点売上高比率は1960年代以降80%程度で推移していたが、2017年度は60%と急低下した(図表11)。

価格支配力の高まりと海外部門の高収益化

 ではここ数年の限界利益率の顕著な上昇はなにによってもたらされたのか。2大要因が指摘できる。第一は日本企業の価格支配力が飛躍的に高まっていること。第二はグローバリゼーション、海外部門の利益寄与の高まりである。価格支配力の高まりについては、かねてから説明している通り、日本企業が価格競争から脱却し(敗退し)、技術品質優位に特化するオンリーワン戦略にシフトしたことが大きい。日本企業が手掛ける製品・サービスの希少性が高まったからといえる。しかしそれに加えて大きく寄与しているのは、海外部門の利益寄与である。法人企業統計製造業の経常利益率は2013年度の5.5%から2017年度は7.0%へと1.5ポイント上昇したが、営業利益率は4.1%から5.1%へと1ポイントしか上昇していない。つまり利益率改善の1/3は営業外収益の改善なのであり、その太宗が海外子会社からの配当と考えられるのである。ちなみに法人企業統計は親会社単独決算ベースで集計されているため、海外部門の利益寄与は海外子会社による親会社への配当支払いとして認識される。
 

 

 
<後編>へ続く
 

配信元: みんかぶ株式コラム